帰宅
豪勢な木製の門をくぐると、そこには屋敷と言って問題ない規模の家がある。
スイガクはいつものように広い玄関に足を踏み入れた。
「ただいまー」
「おう。手洗ってうがいしな」
「はーい」
帰宅の声に帰ってきたのは野太い返事。
スイガクを現在養っている家主の声であった。
「あー、帰ってきたんだねー!! ねえねえここできないんだけどやってくれない?」
ついで飛んできた声は従姉妹の声。ゲーム好きだか特異ではない彼女はいつもスイガクに声をかける。
人がやってるのを見るのも好きなのである。
「はいはい。後でねハナさん」
ハナさんというのは愛称である。本名は桜花であるが、なぜかその名を好んでいないのだった。
「ちぇー、弟君冷たいんだー」
「少しだけだから」
「待ってるからねー?」
手を洗い、うがいをする。その際に使っているものは高級品であり、この家の経済状況を伺わせる。
とはいえ、スイガクの懐が潤っているかと言われればそうではなく。最低限の小遣いとバイト代でやりくりしているのだった。
「ここ、ここの敵が強いの」
「……これ難しいことで有名なゲームじゃない」
「そーなの。全然勝てないの」
「これは骨が、折れ、いや……動きにパターンがあるから。これをこうして……」
「ええ!? すごーい!! 何でいっつもすぐに倒せちゃうの」
「こればっかりは自分にも分からないんだよね」
「えー、もしかして天才?」
「それはないよ。何かで1番になることもないし」
「それはなろうとしてないからじゃない?」
「なんのことだか」
「あーとぼけたなー? まあ良いや。弟君は弟君だし」
ゲーム機の電源を落とした時、ちょうど茶の間から声がかかった。
「飯だぞ、早く来い」
「はーいパパ」
「オヤジと呼べ、ハナ」
「えー、可愛くないよ〜」
「可愛さはいらねえんだよまったく……」
「あー!! 今日のお魚美味しそ〜!!」
「分かるか? 今日は良いのが入ってたみたいでな。こりゃもう塩降って焼いただけで美味いぞ」
「パパ最高!! 流石は料理の腕でママを落としただけあるぅ!!」
「それを言うな……ちょっと気にしてんだから」
「あははは!!! じゃあ、冷めないうちに食べちゃおう」
騒がしい夕食時。
スイガクはこんな時間が好きだった。
食事が終わり、風呂に入る、そして。
布団に入る時間がやってきた。




