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帰り道

「そろそろ良い時間かな」

「ん? もうそんな時間か」

「うん。ちょっと早いかもだけど」

「あー、そういや遅れると夕飯抜きだったか」

「そうなんだよね」


 スイガクが席を立つ。


「じゃあ、また明日」

「おう、またな」

「アカさんも、またね」

「ええ」


 遠くなるスイガクの背を見ながら2人は身体を震わせた。


「また……か。良い言葉だな」

「本当に。それだけで明日も生きていけますね」


 そんなことを言われているとはつゆ知らず、スイガクは黙々と歩いてく。


「今日の献立はなんだったかな」


 ぼんやりしていても、スイガクは男子高校生。ハンバーガーとポテト程度で腹が満たされることはない。夕飯に思いを馳せながら歩く。


 そうすると当然、目の前にある現実は少しばかりおろそかになる。


 するとどうなるか。


「うわっ」

「きゃっ」


 人とぶつかるのである。


 ぶつかった人物は女性であったが、スイガクのほうが弾き飛ばされた。スイガクよりも華奢で小柄であるはずの身体は大樹のごとく揺らがなかったのだ。


 どう見てもスイガクのほうが体重も筋力もあるように見えるのに、である。


「アアッ!? 大丈夫デスカ!?」

「だだだ、大丈夫、でし……」


 どう見ても大丈夫ではない。


 焦点は合わず、ふらついている。しかも鼻血まで出ているときた。


「キュ、キューキューシャ!? えとえと、999番デス!?」

「お構い、なく、家が、近い、ので」

「じゃ、じゃあ、そこまで送りマス!!」

「いや、本当に、大丈夫、なので」

「そんな事、できまセン!! 家はどちらデス!?」

「え、あっちです、けど」

「分かりマシタ!! では失礼!!」

「あ、ちょ!?」


 まるで、人形でも持ち上げるようにスイガクはお姫様だっこされた。


「は?」

「お連れしマス!!」

「うわわわわわわ!!!?」


 女性は人を抱きかかえているとは思えない速度で走り出す。


 流石にスイガクでも受け入れがたい状況ではあったが、家の位置を教えなければどこまでも連れて行かれるという確信があったためすぐさま混乱を棚上げにした。


「あそこの門です!!」

「そこデスね!!」


 数分の出来事ではあったが、スイガクの顔は明らかにやつれていた。


「ありがとう、ございました」

「イエイエ、ご自愛クダサイ。では!!」


 女性はぺこりと一礼して去っていった。


「まあ、夕飯には間に合った」


 スイガクが今住んでいる場所。それは親戚の家。


 この辺り一帯を古くから仕切っている家で頭文字がヤの自営業である。



 


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