依頼の裏
「行ったか」
「今日は来るなんて聞いていませんが」
「ははは、そう言うな。これでもお忍びだ」
「なんで3人しかいないバルのマスターがこんな所に?」
バルは冒険者を管理する組織。その運営には3人のマスターが関わっている。それぞれが尋常ではない力を有している。その顔や名前は非公開の国家機密であり、探ったものは人知れず消えている。
バルのマスターとはそういう存在だ。
「随分とおかしな奴がいるという噂を聞いてな。それで直接測ってやろうと思ったのさ」
「どうでしたかマスター。ドローロさんの評価は」
「……ありゃ怖いな」
「怖い? というと」
「あれ自体にはそこまでの力はない。このまま平穏でいればなだらかな一生を終えるだろう。だが、あいつには引力を感じた。引き寄せる力をだ。いつのまにか私設軍隊ができてるタイプだな」
「まさかそんな」
「そう思うだろう? だが、こうも感じている筈だ。あいつのことを本当に理解できるのは自分だけだってな。ああいうのは厄介だぞ、いつの間にか絡め取られて離れられなくなる」
「……なるほど」
「考えるってことは心当たりがあるんだろう。まあ無理もない、俺が胸ぐら掴んだ段階で殺意まで抱いた奴がいたくらいだ。人数はそうだな、見えるやつで2人。見えないやつで1人か」
「それで、ドローロさんに何か処分をするのですか」
「ん? 危険だから抹殺とかか?」
「……」
「そう睨むな。そんなことしたらこの街が滅ぶだろうが」
「やはり知られていますか」
「まあな。これでもマスターだ。この街は今、あいつがいつもと変わらずに依頼をこなすことが前提で成り立っている。安定した素材供給と安定した討伐成果。それをあてにして経済が周り、その安全性を信頼して商人が来る。一定の周期で働き、休む。その繰り返しを数年かけて行うことでこんな成果が出るとは驚きだよ」
「ええ。ドローロさんは稀有な方です」
「1つの街に1人いれば、もっと良い世界になるだろうに。あいつは1人しかいやしない」
「バル長からは絶対に離すなと言われています」
「賢明だな。あいつには一生平穏に同じように暮らしてもらおう。それが一番だ」




