日常の一幕
「ふわぁ……」
授業の終わった夕方の校舎、夕日が差し込んで黄昏に染まる教室はどこかもの悲しく郷愁を誘う。
黒板の正面。最前列中央にて、男子生徒が目を覚ました。
「眠い」
起きたばかりである。
中肉中背、やる気のない目に、量産型の髪型、どこで見ても記憶に残らないだろう生徒だ。
とはいえ、特徴がないということではない。
彼を知る友人は言う。
「え? あいつがどんな奴かって? 怠け者で情熱がなくていつも眠そうだよな。でもあいつのあだ名知ってるよな? 睡眠学習装置を略してスイガクだ。嫌になるよ全く、なんであんな感じでトップクラスの成績なんだか」
もうひとりの友人は言う。
「昼寝の事かい。ああ、ドローロってのはあだ名でね。昼間でも寝てるような感じだろ? だから勘違いされやすいが、あいつは優秀だよ。必要最低限とはいえきっちり依頼をこなして帰りやがるんだ。傷一つなくね」
彼、スイガクまたはドローロと呼ばれる生徒。
彼に意欲はない。
彼に動機はない。
彼に使命はない。
彼に重荷はない。
ただ、与えられたものをあるがままに受け取るだけである。
それが、睡眠中限定の異世界旅行だとしても。
「寝た気しないなぁ」
「よぉ、スイガク。宿題は終わったか」
「いやあ、あれは手を動かさないと終わんないから」
「だよな? じゃあ一緒にやっか」
「うん。モックで良い?」
「良いねえ。知ってるか? 今日から月見バーガーやってるらしいぜ」
「本当に? じゃあさっさと行こう」
「おうよ」
夕日が落ちる前に彼らはハンバーガーチェーン店へと向かった。




