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大好きだよお兄ちゃん 2

「あー…寝みぃ」


大きな欠伸を噛み殺しつつ通学路を歩く。


「お兄ちゃん寝不足?ダメだよちゃんと寝なきゃ」


元凶が何か言ってる。


花奏はどうやらほとんどの人には見えないようでこうして毎日飽きもせず俺の学校にもついて来る。俺に霊感なんかなかったはずなんだけどな。


足枷を付けられたかのように重い足取りの俺と違い、軽快な花奏。ツインテを愉快に揺らしながら鼻歌まで歌っている。


「お前はご機嫌だな」

「だって大好きなお兄ちゃんとこうして歩いてるんだよ?実質デートじゃん」

「幸せそうで何よりだ」


今俺はマイク付きイヤホンで通話をしているように装っている。じゃないと独り言をただずっと呟いてるヤバい奴と思われかねないからだ。しかしながらもうクラスの奴にはそう思われてる。


かと言って花奏を無視しようものならその日ずっと不機嫌で、俺の髪を引っ張ったり寝ている時に掛け布団を剥いだりと可愛い悪質な悪戯を仕掛けてくる。


「や…やあ眞宮君おはよう。今日も妹さんと一緒?」


クラスメイトの黒田が引き気味に挨拶してきた。どうやらみんなの中ではシスコンだった俺は愛する妹を亡くし幻覚を見ているように思われているようで妙に優しい。


気味悪いならわざわざ挨拶してくれなくていいのに。


「ああ、おはよう。そうだな、今日も元気だよ」

「むーあの人なんかお兄ちゃんに失礼じゃない?祟ろうかなー」

「祟るな」


気軽に人を祟ろうとする妹の頭に癖でチョップを入れようとするものの、俺の手はもちろん当たらない。


「た…たたたた祟り!?ごめん眞宮君!俺日直だったわ!また学校で!!」


黒田は飛ぶかのように走り去ってしまった。あーあまた俺の悪い噂が流れるなこりゃ。


「行っちゃったねあの人」

「ああ、お前のおかげで俺はまたぼっち耐性が強化されたよ」


いやもう慣れたからいいけどね?


逆に一緒に飯食ったりしても気を遣われて申し訳ないし。


「お兄ちゃんには私が付いてるもんね」

「ああ、お前が憑いてる」


何故だか自慢げな花奏の頭を撫でてやる。今は体を触らせてくれるようだ。こいつは悪戯がバレたりした時は俺の接触を拒むくせに、こういう時はいいときた。本当にずるい奴だ。


体をくねくねうねらせて艶っぽい表情を浮かべ喜びを表現してる。これ周りの人に見えてたら案件だよな。


「お兄ちゃん…外でこんな…激しいよぉ…」

「いや、撫でてるだけだから」


犬の頭を撫でる感覚の俺に対しこいつは前戯をされてるような反応。


いやマジで周りに見えなくてよかった。完全アウトだわ。


「……公衆の面前で何をしてるの」


はいアウトだわ。


俺と花奏のやり取りを見られ、心底ドン引きしたトーンでそう言われる。


俺が花奏の頭から手を離すと頬を膨らませ明らかに不満そうに俺を睨む。


いや花奏さん、見られながら続行するメンタルは持ち合わせてないよ。


「今日も悪霊を引き連れてるんだね眞宮君」


陽山ようやま未来莉みくり。前髪ぱっつんの艶のある綺麗な長い黒髪。日本人形を連想させるような風貌。やたら強調する胸は制服を膨らませエロスを感じさせつつも眠たげな眼の横の涙ボクロが幼さも際立たせる。誰もが認める美少女である。


実家が神社でたまに巫女の手伝いもやっている。そのおかげか花奏が見える数少ない理解者でもある。


そして今俺をゴミを見るような目で見ている。好感度は確実に下がった。


「よ、よお陽山」

「おはよう変態」

「ぐはっ!?」


吐血を吐く勢いでショックを受ける。


彼女の罵倒は止まらない。


「周りに見えない妹と野外であんなことやこんなこと…なんていうかキモイ」

「や…やめてくれ」


お前は数少ない理解者なんだ。関係が途切れちゃ辛い。


「ちょっとお兄ちゃんのこと悪く言ったら私許さないよ!」


すると花奏は両腕をブンブン振り回し駄々をこねるように俺を庇ってくれる。


本当お前ってやつは…。お兄ちゃん泣けちゃう。


「悪霊がなんか言ってる」

「おいお前それ女の子がする顔じゃねえぞ!」


両目を細め口は三日月のように嘲笑い、とてもじゃないが学校の奴らには見せられない顔だ。学校一と謳われる美少女がそんな顔をしてることなんか見た日にはショック死する男が出ること間違いない。


「悪霊って…私別にお兄ちゃんとイチャつければ良いだけだし!もうお兄ちゃんに近づかないでよこの乳デカ性悪女!」

「は!?ちんちくりんのまま死んだからって僻むなっての。見苦しいなブラコン変態女!」


うっわ怖い。花奏はともかく、陽山は見えない人と罵りあってるまじでヤバい奴と思われているようで周りから怪訝な眼差しが向けられる。


「な…なあ二人ともその辺にして学校行こうぜ?な?」


俺はその場の空気に耐えかねず撤退を提案する。


しかしそんなの陽山にとっては何処吹く風である。なんならこいつはモテすぎるのが悩みでそれを避けるために俺らと絡んでるまであるからな。


「いや先に悪く言ってきたのあなたの妹だし、謝ったら許してあげるけど?」

「お兄ちゃんのこと悪く言うからじゃん!いっつも何かと絡んできてさ!」

「それは私にも目的があるからで、べ…別にこのシスコンが好きってわけじゃないから!」


はい安易なツンデレありがとうございます。


こいつの場合は照れ隠しなどではなくガチの否定だ。第一逆の立場になって考えた時俺なら俺みたいな奴を好きになるわけが無い。


それに以前こいつにこんな勘違いするようなことをされ恥をかいてるからこの程度ではときめかない。


「ふーん、どうだか」

「は?なんかウザイんだけど」


花奏の挑発が火に油を注いだようで目が笑ってない笑顔を浮かべる。


「花奏ほら行くぞ!」


キリがないと思った俺は一かバチかで花奏の腕を引いた。触れた俺は安堵したとともに走り陽山から逃げる。


「キャー愛の逃避行!!」


馬鹿なことを言ってるが放っておこう。


「おい!コラ!逃げんな!覚えとけよ!!」


…放っておこう。

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