This is the first block of hell.
2度目の夜。
ハニーとフィリップの押し問答の様子。
「そもそも、魔物である儂が修道女の真似事なんぞ出来ると思うのかえ⁉︎」
「大丈夫だって。君演技上手そうだし!」
「そうでなくだな...ホラ、あるじゃろ神聖な場所とか聖水とか。」
「教会の結界は全部解いてあるから何処でも入れるよ。礼拝堂だって僕がしっかり祀ってなければただの広い部屋だし、聖水は僕が祝福しないとただの水。」
「儂はこんな劇物と暮らすのか...?」
ーー
「君は空を飛べる?」
「飛べない。」
「瞬間移動とか変身とかは?」
「出来ない。」
「じゃあ、手から衝撃波を...!」
「出さない。」
「だったら何が出来るのさ?」
「儂は受肉しておるから魔力と人間の食事両方エネルギーに出来るのと、永く生きるの以外は人間とほとんど変わらん。じゃが、悪魔じゃから人間の法も権利も適用されん。死ぬと肉体ごと魔界に還るから死体も残らずクリーンじゃぞ。便利じゃろ?」
ーー
「......決めたよ!君の名前!」
「やっとか。ペットの呼び名ひとつに随分かかったのう。」
「だからペットだなんて思って無いってば!...君の名前はね、ハニーだよ!」
「ハァ⁉︎ペットより酷いではないか。頭がイカれておるのかえ?」
「至って正常だけど⁉︎ハニーが嫌なら......シュガー?モラセス...シロップ...サッカリン...あ、アスパルテーム!」
「もう良いから貴様は二度と名付けをするでないぞ。」
ーー
「ああハニー、君の瞳はまるで溶けた蜂蜜。プラチナブロンドの髪は絹糸の様にきつく心を締め付ける...」
「2/100点」
「セリフ横着しないで!じゃあ100点満点の回答を聞かせて貰おうじゃないか!」
「うえっ?...うーむ、若造...貴様の目はあの...殻が硬い緑の豆みたいで旨そうじゃぞ。髪は...金髪だから...あっ!タンポポみたいでカワイイぞい。」
「2/100点(怒)」
ーー
「そう言えば、ハニーって100歳なんだっけ?」
「おぼえとらんが実際それ以上生きておるぞ。それがどうした?」
「いや......平均年齢が上がったな、って。」
ーー
「村の周りの結界は貴様が張ったのか?」
「うん。広くて大変だったよ〜。召喚は苦手だけど、結界は得意なんだ。だからいつの間にか君が入って来ててちょっとびっくりしちゃった。」
「あー。受肉して貯蔵魔力を減らしてあると抜けても気付かれにくくなるからのう。...じゃが儂来る時は普通に歩いて入れたぞ?」
「え、待ってよどこから入ったの?」
「峡谷の吊り橋じゃが。酷い土砂崩れでのう、儂が渡った後流されていきおったわ。お陰で村から出られなくなってしもうたのじゃ。」
「それを早く言ってよ!結界壊れちゃってるんだよそれ!」
ーー
「好きな食べ物は?」
「うん。」
「好きな色は?」
「うん。」
「好きな花は?」
「うん。」
「誕生日いつ?」
「うん。」
「僕のこと好き?」
「いいや。」
「ちゃんと聞こえてたんじゃないか...」
「うん。」
ーー
「ハニー、本当に夕飯要らないの?」
「しつこいのう、要らんと言うておろうが。」
「でも、今日は朝も昼も食べて無いじゃないか。もしかしてまだ体調が良くなってないんじゃ...」
「ええい鬱陶しい!これを見よっ!」
「わあっ!そんなに勢いよく服を捲って!まだ夕方なのに大胆だなぁ...!」
「馬鹿を抜かすで無い!儂の腹に模様が入っておるじゃろう。これが淫紋じゃ。」
「へえ」
「中心の模様で残りの魔力量が可視化されておるから、ここが空にならん限り儂は死な...むぐぐっ⁉︎⁉︎」
「...ぷは。」
「な、ななな何をするッ⁉︎いきなりキッ...キスなぞしおってっ!」
「模様がちょっと減ってたから、足そうと思って。」
「アホー!!!」
ーー
「ううっ...顔面を思いっきり殴られた...。」
「自業自得じゃ!」
「昨日も思ったんだけど、君、キスくらいで大袈裟じゃない⁉︎本当に淫魔⁉︎」
「やかましいわ。......男と女の駆け引きと言うのは、しばしば兵と城に喩えられる物よ。一度も城を攻め落とした事の無い兵は頼り無く、攻め落とされた事の無い城は信用に足る。つまり、能あるサキュバスほど房中術を披露する機会も無い。故に必要としないのじゃ。攻め込まれる前に倒すからのう。安易に床に誘うなど無能な淫魔のやる事よ。」
「じゃあ、君はもしかして...その、能あるサキュバスだったりするの...?」
「無論。エリートサキュバスじゃ!100年守り抜いた鉄壁の城、真紅のアイアンメイデンとは儂の事よ。」
「......あー、えっと...うん。わかった。責任はしっかり取るからね。」
「??」
ーー
「ともかく、今日から僕がハニーのご飯になるから。...浮気、しないでね?」
「いらんし、せんわ。そもそも出来んわ。」
「え...!それって...相思相愛ってコト...⁉︎」
「戯け。あんな皺くちゃの老人共、一遍でも吸精すれば死ぬ!と言う事じゃ。全く何で儂がこんな辺鄙な村に...」
大鍋いっぱいかき混ぜた、愛と執着の坩堝たるこの浮世。
どっぷり浸かって見渡さば、ここは地獄の一丁目。