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丘の上、祖父母の家、細菌実験

 私たちホモサピは、で始まる怪文書。君たちはそんなものを望んではいないのだろう。しかしともかく私はここにいて、多くの人たちと同じように日没直後の白濁した空を眺めている。丘の上の広い草地。眼下には広い川が流れ、川向うにはビル街。右方向の河口あたりには工業地帯が見える。家族連れが多くいて、シートに座って楽しそうに話したり子供と一緒に遊んだりしている。

 紙袋のようなものが空に点在していて、しばらく眺めているとそれが明滅を繰り返していることがわかる。白濁した空にぼんやりとやわらかく。やがて紙袋のようなものはカモメだと気づく。明滅は旅客機の翼のナビゲーションライトのようにはっきりと見えるようになった。急にカモメは落下を始め、丘の上に降り注いでくる。私はなにか事故が起きたのかと思い不安になるが、家族連れたちは落下するカモメの幻想的な光景にみとれているばかりだ。

 という、クレヨンしんちゃんの劇場アニメにある一場面なのである。

 丘の背後の少しばかり林に囲まれているあたりに私の祖父母の家がある。子供の頃、夏休みになると毎年来たものである。私はここで、大学時代のサークル仲間や、職場の同期らと一緒に夏合宿をしている。

 合宿のテーマは細菌の形質転換実験である。しかしながら培養器の設定を呼び出そうとしても上手く行かず、さきほどから難儀している。結局呼び出すのを諦めて手動で設定することでなんとか摂氏三九度にすることができた。私はプロジェクターに図をデジタル表示している先生に現在使用している薬品は安全であることを伝えた。そして細菌を塗った培地を培養器に入れ、一晩待つことにする。

 仲間とともに和室に布団を並べて寝た。夏である。日の出は早い。三人とも早朝に目が覚めてしまった。もう一眠りしようかと思案していたところ、

「どうせ眠れないだろうね」

 と、ひとりが行った。それもそうかと私は思う。私は布団から起き上がり、隣の部屋で寝ている両親を起こさないようにそろりと歩いて培養器の様子を見に行った。培養器が置いてあるのは祖父母の家の台所である。テーブルがあり、そのまわりに椅子が数脚ある。開け放たれた窓からは裏の竹林が見え、夏の朝の風が入ってきて心地よい。

 培養器を開けて中を見ると、培地には細菌のコロニーが生えていて、それらには大きいものと小さいものがあった。小さいコロニーはおそらく形質転換が上手くいって目的遺伝子が導入されており、紫外線を当てると光るはずである。

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