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【8話】友達の姉にエッチなことを教えてもらうのってあり? 中編

「なるほどねぇ」


ユウの家に来てから、1時間は経っただろうか。あれから私がひたすらに話をして、それに所々そこはどうなのかとか、そこのところ詳しくとか、ニヤニヤ顔で突っ込まれつつ、最後まで話し終わった。


時計を見ると、11時30分。そろそろお昼かなーと思っていた頃合いだったので、時間感覚は大体合っていた。ただその時間感覚は話している間ずっと同じというわけではなかった。楽しい時間は早く過ぎ去り、苦しい時間は遅く過ぎ去る。それを体現したかのような素晴らしい経験だった(白目)。


センシティブな箇所の話題を説明させられるのはやはり恥ずかしかったし、エッチな言葉が出るたびそれを繰り返し言わせるといったスミさんの遊び(強要)はまさに地獄だった。もう二度としたくないし、一日も早く忘れたい。


ただ後半は少し慣れてきたこともあり、また、ユウには理解してもらえなかった文学的な観点の話もスミさんは真剣に聞いてくれた。その時は話すのが本当に楽しくて、とても有意義な時間だったと思う。まあ…前半の地獄さえなければ、「楽しい時間」という5文字で済ますことが出来たんだけど。研究には犠牲がつきもの。その犠牲になったモルモットが今回は私自身だったというだけのこと。


閑話休題。


「まず、ユウに渡した同人誌について、一つ言わなくちゃいけないね。あ、その前にユウはその5冊選んだのが私だってことは言ったの?」


急に話を振られたユウは、ぐーすかぐーすかと寝息を立てている。私が説明を始めた時点で寝転んだまま漫画を読み始めていたが、今は仰向けで、お腹を出したまま大の字になっている。


「あー、寝てたのか。まあ話し込んでて私もユウのこと忘れてたもんねぇ。サキちゃんはそれ聞いてる?」


「いや、聞いてないです。お姉ちゃんに貰ったみたいなことは言ってたと思いますけど、それ以上は特に何も言ってなかったと…」


「サキちゃんはあれをユウが貰ったものをそのまま持ってきたと思ったの?」


「まあ、そうですね」


「そっかぁ…」


スミさんは背もたれに預けっぱなしだった体を少し起こして、頭をポリポリと書いている。


「実はあれね。選んだの全部私なんだ。サキちゃんに読ませたいって話も事前に聞いててね。それでできるだけ初心者でもイケそうで、普通に良さげなのを選んだの。」


「そうだったんですね」


「ところでサキちゃんは、同人誌ってどんなものかってのは知ってる?」


前傾姿勢から椅子を座り直したスミさんがそう聞いてくる。


「えーと…個人で作ったエッチな本?」


「うーん、まあまあ合ってるかな。正確には「何人かで資金を出して作成する同人雑誌」って意味なんだけどね、要するに小規模で作品つくって製本してって感じで出来るのが同人誌なの。だから、同人誌って言っても色々ジャンルがあって、例えば普通の純文学だったり健全な4コマ漫画だったりね。だからエッチな本しかないわけじゃないんだ。」


「そうなんですね…」


「まあでも、コミケだったり同人誌コーナーのある店なんかに行くとやっぱり成人向けは多いし、成人向けはある程度需要があって市場が大きいからね。一般に同人誌っていったら、エロ漫画って認識の人は多いと思うよ」


「あー…なるほど」


そもそも世間一般として、同人誌を知らない層の方が多いと思うけど…とは言わないでおく。実際私もそうだったけど。


「同人誌をエロって要素から区分すると大きく3つに分けられるんだけど、サキちゃんは分かる?」


「いえ、知らないです」


「普通のエロ、微エロ 非エロの3つね。字は、微が微妙の微で、非が是非の非ね。エロ要素の多さの話なんだけど、微エロが少しだけエロ要素があって、非エロがエロ要素を含まない。まあ性行為を含まない漫画ってこと。まあ、そのエロの基準も、特定の部位が隠れてれば大丈夫みたいなガバガバな基準が多いんだけどね」


「ああ…」


少年漫画で肌がはだけた描写がどうこうの話を何かで見た気がする。ネットニュースだったかな。「下手したらエロ漫画よりエロい」と誰かがコメントしていたのをふと思い出した。


「それでね。サキちゃんがユウから見せてもらった5冊はどれだと思う?」


「えっと…」


思いっきり性行為してたし、普通のエロだと思うけど…。


「まあ、そうだね。正解。ただもう少し正確に言うと、”微エロより”のエロなんだよ、あの5冊は。どちらかというと、”エロ漫画”というより、”エロ要素があるお話”って感じで、ストーリーを比重を置いてるんだよね。私自身、人に成人向け同人誌を勧めることなんて、ユウを除いたらしたことなかったし、サキちゃんがそういう世界を全く知らないってのは知ってたから、最初は非エロ寄りというか、読み終わったらいい話だなぁってなるのを選んだわけ。」


「ああ…」


「だからサキちゃんの自分で出した、「文学的なエロ本は少数派で、大半がおかずとして消費されるだけの資源」って解釈は正しいと思うよ。私の経験からしてもそうだし、私の持ってる本もそういうの多いしね。」


そう言ったスミさんが、押入れの方に一瞬目をやった気がした。


「でもさ、そういう”いい”話をよく書くって作風の人は一定数いるし、そういう作品を作者に期待して支持するファンの人もいる。だからエロを文学に取り入れて、芸術として活かそうとする人たちは十分いるんだ。ただその作者が、自分の書いているものはエロ要素のある文学だ、って思っているかどうかは分からないし、何ならエロ漫画を描くのが好きなだけで、たまたまそういう作品が出来上がったって人もいるだろうし。」


確かにそうかもしれない。スミさんが私にあの5冊を選んだくれたように、私があれらを文学として認識できたように。たとえ少数派でもそれを好きな人はきっと十分にいる。悲観的になりすぎていたのかも。別に世の中の大多数がどうであれ、それを好きな人がいる限りサブカルチャーは生き続ける。


「そんなサキちゃんにおすすめしたいのが、こちらです!」


勢い良く立ち上がったスミさんが、ガラガラーッと勢いよく押入れの引き戸を開く。開かれた押入れは、物で溢れ、物に敷き詰められている。ピンクやら青やらの彩色が部屋の一角に集まり、開かれた扉から、内在する物量の空気が質素な部屋に流れていく。中は一見ごちゃごちゃとしているように見えたが、よく見れば箱が丁寧に積み上げられていたり棚で収納されていたりと、整理はされている感じだった。


「あ~ちょっと待ってね。昨日何か用意しておこうと思って押入れ開いたんだけど、色々見てたらあれな気分になっちゃってね。その後すっきりしたら、「まあ明日ここで一緒に見ていけばいっか…」ってなってね。そんなわけだから。ちょっと待っててー」


「はい…わかりました…」


あれな気分ってエッチな気分ってことだよね…?と思いつつ、気恥ずかしくなって顔をそむけてしまう。無意識に頭に熱が登っていたことにも気づき、顔が赤くなっているかもと思ったが、幸い今誰も私のことを見ていない。必死に押入れの山を解体しているスミさんの様子を見たり、死んだように眠るユウのかわいい寝顔を、横目で見たりその頬をぷにぷにとつついてみたりしながら、待つ時間を過ごすことにした。それにしてもユウは全く起きる気配がない。もう少し、強く押してみようか。

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