【2話】下ネタってあり? 後編
サキは頭がいい。
第一印象はいつも本読んでるし大人しい子なのかな…って感じだったけど、話してみると結構知的でツッコミもできて、表現力が多彩でおもしろい。私にはないものを持ってるんだって感じた。
だからさっきの反応、顔を赤くしつつ、いつものように冷静になろうと頑張っているのを見た時、ちょっと楽しくなった。これがギャップ萌えってやつかな。萌えてるかはわかんないけど、ちょっと興奮した。エッチな意味合いではなく。
そして今の反応もすこぶる良い。あのサキが照れながら、一枚一枚ページをめくる様は、それはもうエッチなことを知らなかった女の子がはじめてエッチなことを知って顔を赤らめているのを傍から見るみたいな感じ。こんな比喩表現がポッと出てくるのは、私もサキとの会話のおかげで語彙力が増したからに違いない。私すごい。
そんな感じで同人誌を読むサキを数分観察したところで、サキがこちらに顔を向けた。頬は少し紅潮している。
「ねえ」
「ん?」
「これ、全部?」
サキの手元にある薄い本は実は一冊ではない。姉の棚から厳選してサキが目覚めそうな分野から5選、一冊ずつある。本のサイズがちょうど同じだったため、初めに読み始めたサキは重なっているのに気づかなかった。これはたまたまで私も今気づいた。計画通り。
「うん、そう。とりあえず全部読んで見なよ」
「う、うん」
明らかに動揺している。楽しい。
ちなみに本のラインナップは、①純愛もの(幼馴染)、②純愛もの(男の先輩)、③おねショタ、④BL(学校一のイケメンと冴えない男子の純愛)、⑤BL(Sな上司と後輩)となっている。ポイントはこの順番。①、②でエロ本の典型を知り、③で変化球。④、⑤で決める。
③のおねショタ本は女性が発展途上・未発達の小学生の男の子を性的に導いてあげるという内容で、恐らくその辺の知識がないサキとってはエロ本=男性向けという認識があるはずで、この内容は絶対に驚く。「圧倒的女性優位の上、男=きれい」という世界観には。未成年に手を出す時点で、倫理的にはアウトだけれども。
そして仮にここで刺さらなくても次がある。「BLを嫌いな女はいない」という言葉がある。BLはまさしく読者層の99%以上が女性で、この世界観にハマらない女性はいないという。この④、⑤で確実にサキちゃんは堕ちる!と本をすべて選び今までの説明をすべて口から語ってくれた私の姉がこう言っていた。私に初潮を経験させた姉が言うのだから、間違いない。
ちなみに私が姉から最初に借りて読んだ同人誌はかなりハードなSMで、結構引いてしまったけど、それが顔に出てたのかその次はノーマルなものを勧められ、気づいたらBLも勧められてハマってしまった。それからは下ネタに対する抵抗はほぼない。お姉ちゃんには『やっぱりユウには資質があったんだよ』と褒められ、ものすごく頭を撫でられた。なぜ褒められたかはよく分からなかったけど、褒められて悪い気はしなかった。
「終わったよ」
本を閉じたサキがこちらを見ている。
「どうだった?」
「あのね…その…」
「うん」
体が熱い。緊張している。(姉の考えた)戦略は間違っていないはずだけど、サキが必ずしもそれにハマるとは限らない。拒絶されるかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。その場合、私はサキにこの同人誌達を読ませたことを後悔するかもしれない。そんな不安が少しはあった。それ以上に自分の持ってないものを持つ”サキ”という同級生がどんな反応をするかという興味の方が大きかったから、姉に教えられた通りにここまでやって来たのだけども。しかしそれは杞憂に終わった。
「…良かった」
「ほんと!?」
「うん、知らなかったよ。こんなに浅くて深い世界があったなんて」
「良かった…」
ひとまず安堵。
「私も最初はどきどきするものだな…くらいにしか思わなかったよ。1冊目までは。
でもさ、2冊目(タイトル「先輩のち〇ぽ」)の『一人の女も満足させられない男が観客を満足させられるプレイができると思いますか!』とか、『我が金玉袋に一片のミルクなし‥』ってセリフ!言ってることはすごくくだらないのに、妙に語呂が良くてすごくいいこといってるっぽいのはすごいと思ったよ。後輩の少女とのプライベートセッ〇スを通じて自信を取り戻した少年が、後輩とともに学生最後のセ〇クススポーツの大会を勝ち抜いていく話は爽快で、とてもいい終わり方だった!
あと3冊目(タイトル「リスタート」)の、『子供は大人に甘えるのが仕事よ』とか『お姉ちゃんのミルクのんで(赤ちゃんの頃の)初心に帰りなさい!』とか『男の子なら自分で勃ち上がらなきゃだめ、自分のおち〇ぽに自信を持つの!』ってセリフ!やってることただの犯罪なのに、言ってることが妙に元気づけられておもしろいなって思ったよ。本当はお互いに仕事や学校で自信を無くしていたけど、ふとした出会いと性行為が互いに自信をつけるきっかけになって、成長していくって話は読んでいてすごく良かった!成長した二人がまた出会ってセッ〇スしたらどんなやりとりをするのかなって想像が膨らんだよ。
4冊目(タイトル「主人公。」)は、性格的に冷めている少年が学校一のイケメンにアタックされて、恋愛は非生産的だと考える自分とは正反対の彼の気持ち・恋愛観や夢を叶えるために努力するその熱意に魅せられて徐々に変わっていくのは話でとても面白かったよ。『世界という枠に自分を当てはめるんじゃない、自分という枠に世界を当てはめるんだ。そして僕の世界(ルビ:ち〇ぽ)を君の世界(ルビ:ア〇ル)に当てはめるんだ』ってセリフが出てきたときは、じーんときたね。
最後の5冊目(タイトル「文系と理系。」)。ちょっぴりSな先輩国語教師が後輩数学教師に『国語科目は、ある程度は教養として必要だけどそれ以上は必要ない科目』とバカにされ、それを証明するため、実技と併せて後輩を教育する話も会話の中身がちょっとリアルで面白かった。まさに男と男のぶつかり合い、肉弾戦って感じで手に汗握る討論と実技だったよ。最終的には『汚さは 愛の前では 芸術さ』とか『涙より 潮吹く方が 気持ちいい』っていう川柳をぶち込みつつぶち込んできて、「これが国語の素晴らしさだ!」とか言ってフィニッシュ、熱く語り合った二人は互いの科目を認めあって仲直りしてENDっていう終わり方。素晴らしかったね。」
「……。はっ」
なおここまでの長文をこの子は超早口で喋った。途中から唖然としてあまり聞いてなかったが、ときどきオススメの本を勧めてくる口調と少し似ていたので(こんなに早口なのは聞いたことがないけど)、多分気に入ってくれたのだとは思う。
「よくわからなかったけど、気に入ってくれたみたいで良かった」
「う、うん」
「それにしても案外サキって”むっつり”だったんだね」
「え?私が?」
「…」
サキの顔がみるみる赤くなっている。先ほどまでの”少し”の紅潮を超えた、更なる赤みへと。
「ちy、そういうのじゃなくて!」
「うん?」
「あくまで文学として、エロという要素は可能性を秘めているって話で、私は別に違くて!」
「よくわからないけど、それがむっつりじゃない?あんなに熱く語れるなんてさ。普通出来ないよ」
「…」
今度はサキが黙る番。あこまで興奮してまくしたてるように熱弁してくれたのは、文学が好きだからこその新しいナニかにたがが外れてしまったのかもしれない。私としてもこの”サキ”の新しい一面に心が躍って仕方がない。
「ふふふっ」
「ち、ちがう…」
あからさまに弱っている。やっぱりかわいいなぁ、さすがサキ。
「ところでさ」
「うん」
「女子高生が下ネタいうのってありだと思う?」
「まあ、いいんじゃない。節度があれば。」
「むっつりサキちゃんが言うなら間違いないね」
「チガクて…」
焦心した様子でサキは答える。二人の共通した趣味はなかったけど、これからは下ネタで盛り上がれるねと言ったら複雑な顔をされた。サキはやっぱりかわいいね。
読んでいただきありがとうございます。補足事項です。
BLは読者のほとんどが女性ではあると思いますが、これにハマらない女性はいないとユウの姉の発言はあくまで彼女の個人的見解であり、実際の事実とは多分異なります。
「男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの」というとある方の名言がありますが、それが全てのBL愛好家の方々の意見でないように、BLは必ずしも全ての女性が好きなものではありません。そこはご理解ください…。