ご褒美と匂いの交換
ある日の昼休み。俺は天空寺さんに誘われて屋上で昼食を食べていた。
天空寺さんと一緒に食事するのは今回が初めてだった。
俺は家から持参したお弁当を食べている、中身は白ごはんに冷食の唐揚げとポテトサラダだ。
一方天空寺さんのお弁当はピラフにエビフライ、きんぴらごぼうだ。
「天空寺さんはお弁当自分で作ったりしてる? 」
「ええ。当たり前よ。毎朝早起きして作ってるわ 」
天空寺さんはドヤ顔で言った。毎日早起きして作っている天空寺さんは凄いと思う。
「そういう如月くんは? 」
「俺は一度も作ったことないなー 」
二人で談笑しながらお弁当を食べているとあっという間にお弁当は空になった。
食べ終えた俺は教室に戻ろうと立ち上がろうとした時だった。
「如月くん。待ちなさい 」
天空寺さんは俺を呼び止める。一体何の用なのだろうか。
「こ、これ....作ってきたから食べてみて 」
天空寺さんはお弁当と一緒に持ってきていた青い小袋を開けて中からクッキーが入った袋を俺に渡す。
異性から何かを貰うのはこれが初めてだった。
少し早いバレンタインを貰った気分だ。
「これってクッキーだよな 」
「ええ。チョコチップ入りよ 」
俺はクッキーを一枚手に取り口へ運んだ。サクサクとした食感が口の中で心地よい音色を奏でてくれる。このサクサク感が堪らない。袋に入っている分は余裕で食べられそうだ。
「どう? クッキーの味は 」
「美味い。とっても美味いぞ。これ全部食べていいか? 」
「ええ。もちろん 」
天空寺さんは目を細めて満面の笑みを見せる。何か怪しいような気もするが美味しいクッキーの前にそんなことは特に気にならなかった。
黙々とクッキーを早食いし満足すると天空寺さんに礼を述べて今度こそ俺は教室に戻ろうとした。
「待ちなさい。如月くん 」
俺は再び天空寺さんに呼び止められる。今度は一体何の用なのだろうか。少し嫌な予感がしていたが的中した。
「何? 」
「クッキー美味しかった? 」
「ああ。最高 」
「そう。じゃあ今度は如月くんの番よ 」
「え? 何が? 」
「匂い。嗅がせて? 」
天空寺さんとのいつもの時間が始まろうとしていた。いつもは放課後なのだが今回は昼休みということでかなり早い。
「い、今? 」
「ええ。屋上で嗅ぐ如月くんの匂い....考えるだけでよだれが出るわ〜 外の空気と如月くんの匂いが混ざって新しい扉が開きそうよっ 」
天空寺さんは目を歪ませてニヤニヤしている。表情を見るとどこか違う世界に行っているように思える。早く現実世界に戻ってきて欲しい。
「まぁクッキー貰ったし。仕方ないな 」
「やったわ。これも私の狙い通りよ 」
天空寺さんはいつものように胸に飛び込んで来ることはなく今回は俺の背中に抱きついて鼻を首元に当てる。
「すーーーっ....くんっ....くんっ 」
「く、くすぐったい 」
「はぁ〜いい匂い 」
天空寺さんは俺の肩を両手で掴み各方向から俺の首元を嗅いでいく。俺の手は汗でびっしょりになり死ぬほど恥ずかしい。
(頼む....早く終わってくれよ....)
心の中でこの時間が早く終わるように念仏のように唱えていた。恥ずかしさの限界に達した頃、天空寺さんは俺から離れた。
「はい。今日のノルマ終了〜。また明日もお願いね如月くん 」
明日と言うと明日は土曜日だ。学校は休みなのだがどういうことなんだろうか。
「明日は土曜日だけど? 」
「ん? そうね。だから私の家に来なさい。私の家なら人の目も気にならないわよ 」
「マジかよ 」
俺は出会ってまだ数日しか経っていない美少女天空寺さんの家に誘われた。生まれて初めての女子の部屋に行けるということに心が踊ると同時にいつも以上に匂いを嗅がられると思うと恥ずかしくなる。例え家に誰も居なくても長々と匂いを嗅がれるのは恥ずかしい。
「でも、女子の家に行っていいものかなー 」
「大丈夫よ。如月くんの匂いノルマ達成する為なら家ぐらい平気よ 」
「う、うん 」
「ちなみに私の家知らないと思うから駅で待ち合わせね。時間は朝の九時よ 」
待ち合わせの時間まで十九時間三十分。半日分以上の時間があるが既に緊張していて身体中が夏のように熱くなっていた。
天空寺さんの匂いフェチに遭遇して始まった仲もまだ一週間も経っていないが俺と天空寺さんは仲を深めているような気がしていた。




