電車内で逆ラッキースメル
天空寺さんと学校を出て歩き始めた。天空寺さんと絡み始めたのはつい昨日の話なのでお互いのことをあまり知らない。
俺が聞けば天空寺さんは色々教えてくれた。妹が二人いること、シュークリームが大好きということ、色々な小説を読むのが趣味ということ。匂いフェチしか知らない天空寺さんの内面が徐々に分かってきた。
高校からしばらく離れた駅まで来ると駅のホームで電車を待つ。俺たちが帰る時間は帰宅ラッシュだ。学生や社外人で駅は一杯になる。
やがて電車が来ると俺たちは電車内に入るが人が既に一杯でおしくらまんじゅうのようになるのは確定だった。
「くっ狭いなー 」
「そうね 」
対面になって立てって居た俺と天空寺さんは電車が走り出すと共に振動に影響を受け身体が何度も触れていた。
変なことを考えないように俺は他事を一生懸命に考えていた。
今日の晩ご飯や次発売されるゲームのことなど全く関係ないことを思い浮かべて変な煩悩を捨てることに努めた。
電車が走り出して一番最初の駅に着いた。ここで人から解放されると思っていたが降りた人数は僅かで乗り込んでくる人の方が多かった。
俺と天空寺さんは更におしくらまんじゅうになった。
天空寺さんの胸と太ももが俺の身体と綺麗に密着する。そして天空寺さんの腕は俺の腰回りを囲うように掴んでおり側から見れば抱き合っているように見えるだろう。
それだけではなく顎当たりには天空寺さんの甘い吐息もかかる。
「くっ....どうにかしないと....」
流石の天空寺さんもこの状況は嫌がってるいるだろうと思い顔を覗く。
すると、天空寺さんは目が三日月のように歪み口からは不気味な笑顔を見せていた。
「天空寺さん? 」
「これは仕方ないわよね....偶然の事故ってことでいいわよね? 嗅いでも仕方ないわよね? 」
天空寺さんはニヤニヤしていた。俺の匂いフェチである天空寺さんにとってこの状況は最高だということを忘れていた。
「すーーーっ....くんっ....くんっくんっくんっ....はぁ〜最高〜 」
天空寺さんはこの状況を利用して俺の匂いを堪能する。俺は黙って硬直していた。頭の中では早く満員電車から解放されることを祈り続けていた。
「如月くんの匂い....私大好きよ....もっと嗅がせてぇ 」
電車内の熱気も合わさりヒートアップしてきた身体中は汗ばみベタベタしていた。天空寺さんは俺の制服のボタンを上から外していく。
「身体の匂いも嗅がせて? 」
疑問形の言葉を俺に投げかけるが俺が答える前に行動に移す。疑問形の存在意義がない。
「はぁ....はぁ....首回りの匂い....良いぃ..如月くんの匂い最高よぉ 」
俺は思考を停止した。その間も天空寺さんには何度も匂いを嗅がれ電車から降りた時には俺は死んだようになっていた。
「んー最高よっ!! 匂いノルマ大達成よ 」
「そ、それは良かったね 」
天空寺さんにとってこれはラッキースメルといっても過言ではない。
「ええ。明日も満員電車乗りたいわね 」
「俺は乗らない。天空寺さんとは....」
「そんなこと言わないの。私の匂いノルマを満たしてくれるのは如月くんしか居ないのよ? 」
俺たちが高校卒業したらどうなるんだろうかとふと考えた。それまでに俺の匂いからの依存を断ち切らさないと天空寺さんにとっても良くないと思う。
「匂いフェチ直さないとな 」
「何で? 」
「それはだな....」
「私は直す気なんか無いわよ 」
「直さないのはまずいと思うけど? 」
「そうかしら? 」
天空寺さんはきょとんとした顔で俺を見る。深く追求したい所だが今日の電車で体力を使い切った俺はその力がなかった。また後日に回すことにした。
「そうだ....さっきの電車..偶然とは言え、私ばかり良い思いしたわよね....」
「そこは仕方ないけど 」
「仕方なくないわ。そうよっ等価交換しないと 」
「え? 」
「等価交換に....私の....おっぱい揉む? 」
「な、なんでそうなった!! 」
「だって私、如月くんのシャツのボタン勝手に外して匂っちゃったからよ 」
天空寺さんはどこかおかしいと言うか変わっているということがよく分かった。揉んでみたいけど謎の罪悪感に包まれた俺は揉まずに逃げるように帰った。