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5話

ギルドマスターの部屋に入り、座れという合図を受けてソファに座る

ギルマスという立場にも関わらず質素な部屋で、客用のソファ以外は必要最低限の備品という徹底的な事務的人間だということが見て取れる


少しの間が空いてから会話が始まる


「報告のあった森に部下を行かせました。損傷が酷かったらしいですがレッドライガーであることに間違いはないという結論に至りました。」


「報告したのはついさっきだってのに仕事が早いな。」


「当然です。人々が危険に晒される可能性があるのなら行動は早ければ早いほどいい。」


一切表情を変えることなく淡々と答える


「それで、俺たちを呼んだのは何故だ?」


「それに関しては2つの理由があります。1つはレッドライガーを”発見”していただいたことに対してのお礼を申し上げます。」


「ふむ。」


「討伐したと判断した訳ではありません。ただ、それほどの実力がある事は証明されているだけです。先程の決闘は見事でした。」


「褒めてるけどそれ見てたのに止めなかったってことなんだな。」


「ええ、それが2つ目の理由に繋がりますので。」


「それが本題というわけか。」


「はい。」



ドアがノックされ、ギルマスがどうぞと言うと職員が紅茶を2人分を2人の前に置く。ギルマスにはコーヒーが渡される。


「質素な部屋の割に嗜好品だけは1級品だな。」


「あら、そういうのには無頓着な方だと思っていたのだけど?」


「こう見えても色々と濃い人生を歩んできてるんだよ。興味が無くても必要とされるなら相手の心中すら掌握しないとな。」


「私はそういうの苦手だから基本的に交渉や話し合いはラグに任せているのです。」


ぶっきらぼうに割り込んでくるリア。


「好き嫌いしてては大きくなれませんよ?どこがとは言いませんが。」


「へぇ?年を取ったら垂れてくるのはさぞかし不便ですね。私はそういうことはありませんけど。何がとは言いませんが」


リアも決して小さくはないのだがコンプレックスなのだろうか珍しくムキになっている。ポーカーフェイスを保っているがいつも一緒にいるラグにはわかる


「そちらの方もお強いのですか?」


「ああ、リアは俺と同じぐらいには戦えるな。だが武術に偏ってる俺に対して魔術に重点を置いてるから比べるのは難しいな。」


「レッドライガーを焼いたのはあなた?」


「そうだけど?」


「頼もしいことです。」


ギルマスはコーヒーを1口飲んで一息つく


「話が逸れてしまいましたが本題に移ります。」


「時間が無いとか言いながら逸らしたのはあんただろ?」


「あれは社交辞令というものです。」


「そんな社交辞令あってたまるか。」


「それで2つ目の理由についてですが、」


「無視かよ。」


恐らくこの女は人をからかうのが好きなタイプだな。隠れSというやつとラグは判断した。付き合うだけ無駄だと。


「2人は最近魔物たちが増えているという噂を聞いたことがあるでしょうか?」


町の住民の間ですら出回っている噂だ。聞いていないわけが無い


「一応は。」


「その魔物の増加に便乗して盗賊たちが暗躍しているのです。」


「火事場泥棒ってやつか。」


「2人にはその盗賊を捕らえて欲しいのです。しかし出来るだけで構いません、多少手荒になっても大丈夫です。」


つまりは"生死問わず"というわけだ。そもそもこういった時代では死罪になってもおかしくないのだ、どのような刑になるのかは不明だが相当なものになるだろう。


「受けてくださるのなら、先程の乱闘騒ぎは見なかったことにしましょう。」


「ガッツリ見てたけどな。」


「言葉のあやです。細かい話については3日後に説明します。何か質問はありますか?」


「その盗賊団の規模はどれくらいなんだ?」


「そこまでは大きくありません。恐らく20人ほどでしょうか。」


この規模だとどこかに隠れ家がある可能性がある。見張りがいる上、裏口も存在するだろう。全員捕獲というのは非常に難しい。


「自警団や警察というのは機能してないのか?」


やたらと逃げ足が早いのか、それとも表に出せない捕まえられない理由があるのか


「現在、軍は隣国からの侵略を警戒しているため、町へ戦力を分ける余裕が無いのです。」


そうでもなかった。忙しいらしい

まぁ本当かどうかは分からないが、だからといって追求してもこちらの利益になるような情報は得られないだろう。


「そこへ活きのいい若者が入ってきたから理由つけて押し付けてみたと。ま、別にいいけどさ。こういうのは慣れてるし。」


「盗賊もおそうじおそうじ♪」


「あら、そういえばあなた達は【掃除屋】を名乗ってましたね。ちょうどいい機会じゃないですか。名を売るチャンスかも知れませんよ。名が知られれば直接依頼が来ることも増えるでしょう。」


正当化されても困るんだがな…だが、気軽に頼む相手が今いないから俺達に頼み込んできたんだろう。ギルド内ならまだしも、外へ出て決闘行ったのだから外野がとやかく言う問題ではないのだ


「…とりあえず受けるっていうのは決まってるから続きは次回にしようぜ。俺達はこう見えて疲れてるんだ。」


「そうですね。もうじき夜になりますものね。では話はこれぐらいにしときましょう。お疲れさまでした。」




席を立ち2人は部屋を後にする。

近くの店で食事を摂ったあとに町外れへと向かう


そこには使われていない古い廃屋があり、昨日所有者に譲ってもらったので今は2人のものである。あちらとしても早く処分したかったらしい。

2人で住むには家としては少し大きいのだが、中は色々とごちゃごちゃしているため現在の段階では軽く掃除しただけのリビングしか活動出来る空間は無い。

幸運にも雨漏りがしそうな場所はなく隙間風も吹かないため外装だけはしっかりしているようだ。


とはいっても見た目は植物がツタをはっており塗装も一部剥げており非常に不格好である。戸締りがきちんと出来るぐらいしか褒めるべき点がない


装備品を机の上に置き、綿が飛び出した箇所すらあるボロボロのソファに隣同士で座る2人


「いずれ掃除しないとねぇ。」


「ほとんど家にいないしいいんじゃね?」


「でも井戸ぐらいは使えるようにしとかないと。」


「あ〜それは流石にしないとな。」


「明日休みにしてその辺やる?」


「そうだなぁ。」


安定した生活環境でない場所で暮らしたことが今までによくあった2人にとって「住めればそれでいい」精神が根付いており、真面目に掃除をする習慣がない。そのためこのような郊外で住んでいるのだ。


「ふふっ」


「なんだよ。」


「いやぁ、最初からこうして2人でいるのが滅多にないから嬉しくてさ。」


「あね。」


2人とも睡魔に襲われ思考回路がゆるくなってきている。


「ラグ〜最後まで一緒だよ?」


「あぁ一緒だリア。」


2人は肩を寄せ合って、手を繋ぎながら瞼を閉じた。



次の日は午前中、家の中はリビングを徹底的に掃除して、客を呼んでも不快に思わない程度にはホコリやゴミを処分した。

壁や家具の劣化が激しい以外は問題点はないだろう。


外は井戸の掃除と水の浄化を行った。主に飲料水として使うのと風呂の水に使うためだ。

町の風呂場を使ってもいいのだが、衛生面的によろしくないだろう。使い続けるのは控えた方がいい。市民プールとどっこいどっこいだろう。


午後は町のことを知るついでに日持ちする食料や、生活用品、服などを買うために町に買い出しに行った。2往復ほどしただろうか。


そこで礼拝堂を見かけた。小さな町では図書館のような便利な物はなく、こういった宗教関連の場所に書物が蓄えられていることが多いので2人は中へ入った。


神を象徴したような絵が飾られてあったり、祈りを捧げる人が訪れたりしているのを除けば、子供がシスターに教育を受けているところを見るに孤児院を兼ねているのだろう。


しばらくするとシスターがこちらに気づいて歓迎するかのようにお辞儀をし、近寄ってきた。


「ようこそおいで下さいました。なにか御用ですか?」


「いや、近くを通ってたら見かけたから入ってみただけだ。」


そう言いながら銀貨を数枚渡す。こうした寄付によって生活が支えられているのでこれはチップのようなものだ。


2人は世界を転々としてるので神に会ったことはいくらかある。

そのため神の存在を信じるかと言われると

いる世界もあればいない世界もあるだろう。という感想しか出てこない。しかし「いたとしても何もしない神であるのならそれはいないも同然」という考え方である。


「これは…ありがとうございます。この者たちに神、オリアスの加護あらんことを。」


であるのならばやらない善よりもやる偽善の精神だ。


「良ければ歴史の書物とかがあれば読みたいんですけど…」


情報に優る貨幣なし。いつの時代も情報を握るものが上に立つものだ。


「でしたらそちらの階段を降りると図書室があります。」


「ありがとうございます。」


2人は地下へ降りていく。火の灯りを頼りに図書室に入り本を読んでいく。伝承から国の歴史、魔物の生態等ある程度のものは置いてあった。


中でも興味深いのが


「ラグ〜これ見てみて〜」


「どうした?」


近づいて読んで見る。要約するとこうだ。


「数百年に1度、魔王が現れる。それを勇者が倒して世界に平和が訪れるっていうよくある物語だな。」


「でも予兆に魔物の活性化や国家間のいざこざがあるのはよく似てるよ。」


「ふむ。頭に残しておいた方が良さそうだ。」


なにか重要な要素だと直感が伝える


「魔王いたりするのかな?」


「経験上魔王=悪いやつという安直な位置付けは良くないんだよなぁ。秩序を守ることを優先するのだっていたりするし。」


「ま、この世界では悪にあたるかもしれないけどね。」


「この物語ではそうなってるな。もしかするとそうかもしれない。」


大抵の興味の湧く本は読み漁ったので礼拝堂をから家へ戻る。

帰り道に子供達に手を振ると振り返してくれた。

その中でも1人自分達のことをよく見ていた子供がいた。



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