4話
「あの〜すいません〜」
受付の人を呼ぶ
「はーい、今行きます!」
登録をした時の同じ受付の女性が応対に来た
「お待たせしました。ご要件をどうぞ。」
「先程報告したコボルト討伐の際に、レッドライガー?と呼ばれる魔物と遭遇したのですが…」
とバックに入れていた鉤爪を渡す
「!?」
受付の女性は驚愕の表情で告げる
「町のすぐ近くの森でですか!?」
「はい。ダイヤウルフが森の奥から逃げてきて、それを追ってくるように現れました。」
「それで…そのレッドライガーはどうしたのですか?」
「討伐しました。それがその証拠です。」
「!?」
そのやり取りによってギルド中の視線がこちらに集まる
「レッドライガーって言ったらあの…」
「あぁ、最近パーティーを2つほど壊滅させちまったやつだよ」
「それをあの二人が?」
「そんなわけないだろ!?。」
「あいつらついこの間冒険者登録したばっかだぞ。」
ざわめく空気の中、会話を続ける
「あの、確かその依頼は他に2人パーティーを組んでいましたよね?」
「はい、遭遇する寸前に先に逃がしたんですが、危なかったら直ぐに応援を呼ぶつもりでいたらしく、後方の木陰から様子を伺ってました。で、その後一緒に帰ってきました。ただあの二人はもう家に帰ってるでしょうね。」
「その真偽はともかく、レッドライガーがあそこに居たのは本当なのですね?」
「はい、今から森に行けば焼け焦げた死体があると思いますよ。」
「……ギルマスに相談してきます。」
そう言って奥の部屋へ駆け出していった
「どうするリア?」
「さて、変に目立っちゃったね。でも仕方ないか。」
そこへ1人の男が近寄り話しかけてきた
体格も大きく190cmはあるだろうが、それよりも着込んだ鎧やその肉体によりさらに大きく見える圧迫感がある
それに背中に背負った大剣が重戦士であることをより一層印象づけている
「ようお前ら、レッドライガーを倒したんだって?」
「誰が倒したとかそんなことよりも何故そこにそんな奴がいたことの方が問題じゃないか?」
「確かになぁ、しかしそれじゃけじめがつかねぇよなぁ!お前ら!」
「オォー!!!!」
大歓声が上がる
「お前らによぉ、1つ提案がある。お前、俺と勝負しねぇか?」
「…」
これは調子に乗った新人を焼き入れるためなのか、それとも
「お前が勝ったらレッドライガー倒したことを認めようじゃねぇか。だがぁ、俺が勝ったらここから出ていって貰おうか。ほら吹きは冒険者として最低のやつだからなぁ!それでいいなぁ!お前らぁ!」
再び大歓声が上がる
「…ありがとな。あんた見かけによらず優しいな。」
小声で男に告げる、男はニヤリと笑う
「分かった、その勝負受けよう!それでいいんだろ!お前らァ!」
「言うじゃねえか小僧!」
「それでこそ男だ!」
ギルド内はもう熱狂状態だ。
ラグとリア、そして男は外へと出る、そして野次馬がゾロゾロとついてくる
「おい、いいのか?相手はもうそろそろAランク入りと言われてるあのデュークだろ?」
「だからいいんじゃねえか。新人がどこまで頑張れるか見ものだぜ。」
ギルドの目の前で対峙する2人 その距離は10mといったところか
観客は賑わっており、どちらが勝つかの賭け事を始める者までいる。当然倍率が高いのはラグの方だ
「なんだが大事になっちゃったね。」
他人事のようにしれっと観客に紛れながら声をかけるリア
持っているラグとデュークの2人の名前が書かれたチケットが大量にある。どうやらこの賭けの元締めは妹のようだ
賢いやり方だ、こういった乱闘は第三者による介入によって有耶無耶になる可能性が高い。そうなった場合は親の総取り。結果が着いたとしてもどちらになっても得をする立場だ。
「…」
しかし身内がターゲットになってるのに何をやってるんだこの妹は…と呆れた表情で見ている
「そろそろ準備はいいかい?兄ちゃん?」
既に右手に相棒である大剣を持っているデュークは話しかける
「ああ、いつでも、ちなみに俺は魔物より人間を相手する方が得意だから覚悟しろよ?」
対してまだ剣を収めたままのラグは挑発する
「はははははは!言うじゃねえか兄ちゃん!冒険者のくせに人間の方が専門ときたか!騎士にでもなった方がいいんじゃないのか!?」
「あいにくと、貴族ってやつはあんまり好きじゃないんだ。駆け引きと上辺だけの友情ってのを演じなきゃいけないだろ?建前論で生きる人種だあいつらは。」
「そうか?兄ちゃんはそういうのが上手に見えるがなぁ?じゃなきゃこんな見世物に自分から入ろうとはしねぇだろ?」
「これでも内心冷や汗だらだらでやってるんだぜ?次はどうするか考えながら穏便に済む道を探してるんだ。」
「ははは、なら尚更俺に勝たなきゃなぁ?」
早くしろ等の罵詈雑言が聞こえてくる中気にせず会話する2人
「じゃあ、そろそろ始めるか?負けても文句言うなよあんた?」
「それは俺のセリフだ小僧。」
精神攻撃は基本である 二人の間にピリピリとした空気が流れる
いつ始まってもおかしくない殺伐とした雰囲気にも動じず喧騒とした観客は止まらない
先に動いたのはラグだ。レッドライガーと戦闘した時のように一瞬消えたように見え、瞬きをするほどの時間で既にデュークの懐に潜り込んでいる。そのままボディーブローを繰り出す
「むっ」
それを間髪入れずに1歩退いて回避するデューク、そしてそのまま左の拳を叩きつけようとするが、これも躱される。
2人は対峙した場所に戻り仕切り直す
「まさかシフトを避けてくるとは思わなかったよ」
「あれはシフトと言うのか?音も気配もなく一瞬で移動してくるとは間合いもへったくれもないな!」
「ああ、自分で名付けただけだけどな。避けるあんたもすげえよ」
「ただの勘だ。」
「勘ってのは案外捨て置けないもんだけどな。」
「確かになぁ、それがわかる程度には小僧も修羅場を越してきているということか。」
「そりゃさっきのシフトだって複数の高等技術を総動員して初めて出来る技だしな。それを初見で避けられるのはなかなかいないぜ。」
音を消して移動する歩行術、瞬時に距離を詰める縮地法
残像を残して消えたように見せかける瞬発力
目の前にいながらも気配を完全に消す隠密能力
これらが1つでも欠けると成立しないまさに武の極みである
「お、おい今の見えたか!?」
「気がつけばもう攻撃に移っていたぞ!」
「錯覚だ!」
どうやら観衆にもほとんど今の攻防は見えなかったようである
見えたとしてもデュークの左フックぐらいだろうか
「さて、兄ちゃんが強えってことが分かったからには本気で行かせてもらうぜ。」
「ああ、じゃないとショーにならないしな」
「だな、それにそろそろ兄ちゃんの剣も見てみたいしなぁああ!」
不意にその大剣を振りかざし、その巨体を活かした破壊力抜群の凶器となってラグに叩きつけられる
ラグは即座に抜刀し、その刀身で受け止める その際身体能力を魔法によって上げ、刀にも魔力を流し込んで強化して折れるのを防ぐ。
凄まじい勢いで金属同士がぶつかり合う耳を劈く音
ラグの足元は衝撃で敷き詰められた石畳がヒビが入り軽く陥没している
「くっ」
力を振り絞ってその大剣を弾く、しかしまだ攻撃は続く
渾身の力を込められた一撃を何度も何度も振り下ろされる
刀をぶつけるのではなく、大剣に当ててその軌道だけをずらしてその猛攻を凌ぐ
ガンガンと耳障りな音から包丁を研ぐような刃物が擦れるような音へと次第に変わっていく
基本的に片手で刀を持つラグが両手で持たなければならない程デュークの斬撃の威力は凄まじい
1度距離を置く、デュークは肩で息をしている
それに対して軽い深呼吸だけでペースを取り戻すラグ
これは技量の差だろうかそれとも戦ってきた環境の違いか
「そろそろ…終わりに…するか?」
「負けを認めてくれてもいいんだぜ?」
「ふっ、兄ちゃんも全然切り込んで来ないじゃねぇか。」
「そっちだって一撃も当たってないぜ?」
「言うじゃねえか小僧!」
賑わっていた観客も意に反して接戦しており、どちらが勝つのか固唾を飲んで見守っており静かになっている
ジリジリと近づいていく2人
時刻はもう夕暮れになりつつある
「これで終わりしようやぁ小僧!」
「望むところだあぁぁぁぁぁ!!」
2人は同時に動き出しその双剣がぶつかるその瞬間
「そこまでだ!2人とも剣を収めろ!」
強烈な怒号によってお互いの動きはピタリと止まる
声の方向を見ると1人の女が立っていた
一目見て「美しい」という感想が出るリアに対して
大人の魅力と言うべきだろうか、蠱惑的な肉体をしている
身体のラインがくっきりと服の上からでもわかるほど出るところが出て引っ込むところは引っ込むグラマラスボディだ
「ギルマス!」
「下がりなさいデューク」
「分かりました。」
それに応じて2人は剣を収め離れる
「この勝負は私が預かります。いいですね?」
「はい」
「分かりました。」
ギルマスと呼ばれた女はラグに対して話しかけてきた
「あなたは私についてきなさい。話があります。」
「話というのは?」
「レッドライガーのことです。詳しいことは奥で話します。パーティーの1人であった彼女も連れてきなさい。」
「…分かりました。」
断る理由はなさそうだ
賭け金によってウハウハでいい笑顔をしているリアに事情を話してギルドマスターの部屋へと向かう
せっかちな正確なのだろうか、部屋に入り自分達を部屋に座らせた途端に話は始まった
「早速ですが私には時間がありません。率直に言います。」