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3話

「なぁ、そこの2人。」


不意に声をかけられた

振り返ると自分達と同じような(身体的に)年頃の男女がそこにはいた。


「君たち、冒険者になったんだろ。俺らもさっきなった所なんだよ。」


「へぇ。奇遇だな。」


「俺の名前はティニーこっちがベル。俺らはさ、パーティーのメンバーを探してるんだよ。で、君たちが登録してるのを見かけたわけさ。」


「俺達を誘おうとしたと?」


「そうだよ。君たちは受付である程度は実力があるって言ってただろう?でも俺らはほとんど経験がなくてさ。実戦経験をぶっつけ本番でやるのは危険すぎるがベテランに頼むのも難しい所だからちょうどいいと思ったんだよ。」


というのは建前で単にパーティーを組んで欲しいだけだろう


自分達は初見では新人の若者といった見た目をしているが、ラグに関して言えばよく見れば使い込まれたローブやブーツを着用しているため、見るものが見れば場数を踏んでいることが分かるだろう。しかし新人には分かるはずもない


「ふむ。」


「どうするの?」


ラグとリアは少し会話をする

ちらりと向こうの2人を見ると、ベルと紹介された女はおどおどしている。あまり人付き合いが無いのだろうか。

真新しい装備と風格から見える印象として、恐らく実際に魔物と戦ったことも無いのだろう。


「良いんじゃない?向こうもいきなり無謀な挑戦をして死んだりして欲しくないし。」


「そうだな。俺達以外のメンバーとも一緒に行動するのもたまにはいいだろう。いい経験になる。」


再び対峙し、結論を伝える


「そちらのパーティーに参加することを決めた。しばらくの間だがよろしく頼む。」


2人は顔を合わせて頷いた


「……分かった。ありがとう。」


「よ…よろしくお願いします。」


「よろしく。」


「よろしくね。」


2人と握手を交わす


「それで何をするかは決まっているのか?」


「ああ、近くの森でコボルトが多く出没しているから討伐してくれという依頼を受けている。」


コボルトとは、一言で例えると、二足歩行をし、人間のよつな骨格を持ち、犬の頭をした魔物だ 狼男ともいわれるウェアウルフへとごく稀に進化する個体もいると考えられている


「ということは昨日行ったところだな、了解。準備をするから少ししたらここに集合で。」


「分かった。」


町で解毒薬やポーションといった消耗品、地図を買い揃えてから

集合場所へ移動する

地図はどれだけ正確かは分からないのて自分達でも描いて照らし合わせるのが賢明である



「じゃあ出発するか」


ラグの一声をきっかけに一同は森へ向けて歩き始めた


「ところでそちら側の能力を聞いとかないとな。俺は近接戦闘が得意で身体能力や感覚辺りの強化と探知系の魔法を使える。リアは各種属性の魔法と探知系、あと治癒の魔法だな。」


召喚魔法については隠しておいた。どれほどの貴重な術かが分からないためだ。変に目立っても困る


「すげぇな。俺とそう歳が変わらないのにそれだけ使えるのか…俺も近接戦闘タイプで筋力の強化が出来る。」


「わ、私は雷属性と治癒の魔法を少し…」


お互いの能力が把握出来たところで担当分けをする。

普通なら目視や聞き耳を立てて周囲を警戒するのだろうが、

今回は索敵の魔法を使える人物が2人いるため交代しながら辺りの状態を把握しつつ森を進んでいく。


「北北西 距離150に何かが3体いる。」


リアが標的の方角と距離、数を確認する


「あ〜あれはコボルトだな。」


視覚を強化したラグが木の上から対象を判別する。

それを他の2人に伝え、距離を詰める。

死角から忍び寄り、ラグとティニーが2体を片付け、ベルが1体を担当する。もしトドメをさしきれない場合に備えてリアがカバーに回る。馬鹿正直に正々堂々と戦うのではなく不意打ちによって戦闘に移行させないのが被害を出来るだけ少なくする手段の一つである。


討伐指定数には達していたが、余裕があったため翌日もコボルト討伐には繰り出した


「こんなに順調に進むとは思わなかったんだが。」


ティニーが独り言のように呟く

持っている袋の中には犬歯が入っている、これは討伐証明の為に必要なものでありこれがないと討伐したと認めてもらえない

Bランク以上のギルドから信頼された冒険者ならば報告だけでも認めてもらえる可能性もあるが


「なら、斥候を交代してみるか?これも経験だ。」


「分かった。」


今度はティニーとベルが索敵にあたる

2人は探知系の能力を持たないので双眼鏡を用いて周囲を探っていく

森での歩き方や索敵の仕方を教え、暇があれば冒険する上で必要な知識も授けた


「あの…」


しばらくするとベルがこちらに話しかけてきた。


「どうしたの?」


同性のリアが応える


「ふ、2人はどういう関係なんですか?」


「どういう?」


「こ、恋人だったりするのでしょうか?」


頬を赤く染めながらベルは言う


ラグとリアは目を合わせて笑う


「私達は双子だよ。」


「双子…?」


「全然似てないでしょ?ただ、出生の記録が曖昧で父親と母親の特徴が別れたのかは知らないけど、双子だってことは判明してるの。」


「んでどちらが先に生まれたかが分からないから俺は兄、リアは姉を主張しているわけだ。」


「だから傍から見たら恋人に見えるかもしれないし、たまに弟と妹で呼び合う奇妙な仲に見えちゃうかもね。」


「そ、そうなんですか…」


ベルは戸惑いつつ納得したようだ。



「ん?あれは…ベル、あっちを確認しろ。」


「わ、分かりました…」


素早く動く影を発見したティニーは注意を促す


「あ、あれはダイヤウルフです!ただ…」


「どうしたベル?」


「ダイヤウルフはもっと北の方に生息している魔物です。どうしてこんな所に…!?」


ラグとリアも木の上から確認する。

昨日遭遇した狼のような魔物と同じものであることが分かる。

しかし違うのは5匹と少し数が増えていることである。


「こっちに来るぞ!」


ラグとティニーが前衛に立ち迎え撃とうとする。

しかしキャインという甲高い声と共に自分立ちを相手にせず走り去っていく


「何かから逃げている…?」


「ダイヤウルフはどれぐらいの強さなの?」


ラグが考察し、リアが疑問を口に出す


「だ…ダイヤウルフはCランクの冒険者であれば楽に倒せる程の魔物ですが、群れて行動するためパーティー単位での討伐が基本とされています。」


自分達はその2段階下のEランクであり、普通であれば相手にすべきでない魔物である


「そのダイヤウルフが全力で逃げる程の相手がこの先にいるってことだが…」


その時、ズシン、ズシンと地響きと共に何かが近づくような気配がする


「逃げるぞ!俺たちがかなう相手じゃない!」


ティニーが叫びつつベルの腕を掴んで後ろへ走り出す。


「どうする?リア」


「ほっといてもいいやつじゃないよね。多分」


「何してる!逃げるぞ!」


後方の木陰から叫ぶティニー

この世界で生き残るための最も有効な手段は、自身より強いものに近づかない楯突かないである


「先に行っててくれ!俺達はこいつを討伐する。特に救援も要らない。」


「大丈夫、私たちはこんなやつに負けるほどヤワな人生を歩んでない。」


森の奥から現れたのは地面から頭頂部までで5m、頭から尻尾までで10mはあるであろう巨体を持つライオンのような魔物が現れた。

先日折れていた木はもしかしたらこの魔物がやったものかもしれない


強者の余裕というやつだろうか、相手はまだ攻撃する体勢には入っていない


「おいあれは…」


「あれは…レッドライガーです…」


ベルとティニーが相手を刺激しないように小声で話す


「確か…どれだけ負傷して血にまみれても、絶命するその瞬間までは攻撃を辞めない獰猛な性格からその名がついたと言われています…」


「いくらあいつらでも相手が悪いだろ…」


「…安定して討伐するにはBランク以上の冒険者が5人は必要とされています…」


「マジかよ…おい、やばいと思ったら直ぐに応援を呼びに行くぞ。」


「わ、分かりました。」


レッドライガーは目の前の2人に対して咆哮を放つ

後方にいるのにも関わらず怯んでしまうのだ。

正面に対峙したまま1歩も退かないのは実力か、もしくは蛮勇か


見上げるような巨体でありながら、俊敏に間合いを詰めその頑強な鉤爪がラグに振り下ろされる

それに応じて抜刀を行うラグ、抜き始めてから防御に入るまでコンマ1秒もかかってはいない


ギャイン!という鈍い音が響き渡る

そのまま相手の腕ごと振り払う

レッドライガーは一歩後ろに後ずさりさせられた

そこで対象の警戒レベルを上げたのだろうか、自分達に向けられる眼光は一段と強くなり先程までの余裕はなくなった


「今の見えたか?」


「み、見えませんでした…」


「なんて速さで剣を抜くんだあいつは…それにあの一撃をいとも簡単にいなしたぞ。」


2人は完全に見入ってしまっている

周りには他に何もいないため大丈夫なだけであるが戦場でこのようなことをして周囲の警戒を怠るのはよろしくない


今度はラグが攻撃に移る 一瞬消えたかと思わせるようなアプローチからの正確無比な斬撃で浅いのもあれど確実に傷を負わせていく

その後ろからリアが氷の槍、炎、石の弾丸と複数の魔法を発現させて追撃を行うことによって相手に隙を与えない


「あ、あれを出来る人は少ないでしょう…」


「それほど凄いことなのか?」


「ま、魔法というものは詠唱することによって安定化しています。それを無詠唱で即時発動させるというのは魔力の出力調整と魔法自体の術式や熟練が完璧になされていないと出来ません。」


「俺らの想像もしない生き方をしてきた、もしくは修行をしてきたってことになるのか…」


そうではなく、単に生きてきた年数が5桁程違うだけで才能自体は平凡な2人である

ラグが言うには能力は経験に裏打ちされたものである

もちろん生まれつき使えない魔術というものは存在する

しかし、武術といった戦闘面や冒険に必要な技や知識は今までどのようにな経験をしてきたかだと考えている。足が速い人はどのように身体を動かせば速く走れるかを知っており、すぐに物事を理解する人は理解しえるだけの理解力や想像力が培われているということ


そして天才はその過程の時点で他が体験していないような出来事にその時点で直面したことがあるだけである。秀才は質の良い学習をしている。凡才は量をこなせども追いつけないのは努力の正しい方向性を指し示せないだけである。


ラグとリアは天才ではないが、凡人でも数十万年経てば怠けぬ限りはそれなりには強くなるだろう



レッドライガーが痛みを堪えつつ手数を減らす為に後方にいるリアに対して接近しようとする。しかしラグがそれを阻止する為に迎え撃つ


自身と同じほどの大きさの牙を武器に電光石火の勢いで噛みつこうとする。もう少しで届きそうかという所で地面から石壁が生える、リアの魔法だ。


激突しつつも猛攻は止まらない 体当たりで壁を粉砕する。

しかしそこにリアはいてもラグの姿はない


「上だ。」


崩される寸前の壁を使って素早く空中へ駆け上がったラグはレッドライガーの目にその刃を突きたてる


満身創痍となりそこらかしこから血が垂れ流している

それでも尚こちらを睨みつける瞳から殺気は途絶えることは無い


「根性ありすぎだろこいつ」


「そろそろ終わらせた方が良さそうだね」


「いくぞ」


「うん!」


更にスピードが上がった猛攻撃を仕掛けるレッドライガー

その全てを捌ききってからの一閃

その左腕を持っていく


大きく怯んだ隙にリアの練りに練った魔力による灼熱魔法によって全身は焼き尽くされる だがしかしまだ止まらない

最後の1滴まで振り絞った気力によってラグの眼前まで到達する


しかしそれが最後だった 力尽きて地に倒れ伏す


「身体を馴染ませる準備運動のつもりだったけど結構熱くなっちゃったな。」


「ね、思ったよりしぶといんだもん。」


切り取られ、灼熱地獄から逃れた左腕から鉤爪を取り外しバックに詰める



「コンビネーションも完璧か…」


「わ、私もあんなふうになりたいです」


「ベル?」


「だってあの戦いぶりはまるで勇者様のようですよ。」


「『勇者』に憧れてるのか?」


「そ、そこまででは無いですけどもっと強くなりたいです」


「まぁ俺も、いつまでも負けてはいられないな」


「はい!」



4人は合流し、帰路につく


「なんでまだ帰ってないんだよ。」


「置いていけるわけないだろ?危なかったら直ぐに応援を呼ぶつもりだったんだよ。」


「ま、それぐらいの相手だったし仕方ないか。あいつなんて名前なんだ?」


「レッドライガーだよ。死ぬ寸前まで攻撃を辞めないのが由来だそうだ。」


「なるほどねぇ。」


「ただ、何故あいつがあそこにいたのか、それだけは謎だな。」


「はい、ダイアウルフにしてもそうですが、もっと北の方にいるべき魔物です。」


「ふむ?」


「最近魔物が活性化してるって聞いたのと何かあるのかな?」


ラグとリアは疑問符を上げる


「そんなことよりすげえなお前ら、あれを倒しちまうなんてよ!」


「すごくカッコよかったです!」


素直に賞賛されて照れる2人


「まぁ、腕に自身がなかったらあんなことはしないな。」


「だね。」


「短い間だったけど貴重な体験が出来たよ、サンキュな。」


「色々教えてくれてありがとうございました。わ、私もリアさんみたいに凄い魔法使いになってみせます!」


「おい、抜け駆けするなよ!俺ももっと強くなって見せるぜ!」


「あぁ頑張れよ、」


コボルト討伐の依頼の完了報告を終え、2人と解散する




「あの〜すいません〜」


ラグとリアは別個でダイヤウルフに遭遇したことやレッドライガーを討伐したことを報告しようとするのだが、これが波乱を産むのであった…


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