8匹目 ポメラニアンもお金はほしい。
セレネからしばらくもう一度あのもふもふを!ともふくり回されていたが、
とりあえず疲れたからとお茶を飲み(オレはミルク)
そうすると人心地付いて落ち着いたようで
「私が目を離したスキにすみませんでした…」
と謝罪を受けた。
まあ…買い物してる間に犬が攫われたという話はまれに聞くが
オレも油断して店前で待っていたし、まさか幼児の単独犯にここまで何も出来ないとは思わなかった。
「飼い主として失格です……次からはあのお店にも犬が入れるように交渉します」
めげない奴だ。飼い主じゃないぞ。
オレも攫われてからのことを話した。
イノシシの魔物に襲われいきなり自分が巨大化したこと。
力も強くなっておりイノシシを一撃で倒してしまったこと。
あれもこの不思議モフ毛の能力だったのだろうか?
「いいもふもふでした。どっしりしていて抱きつきがいのある身体にタップリのもふもふ。
またなってくれてもいいですよいつでも歓迎です今でもいい」
いつでも歓迎とか言われてもどうやってなったのかも分からないし、ここでなったら多分床に穴が開く。
「なにかキッカケみたいなのはなかったんです?」
きっかけ…きっかけ??
そういえば胸のあたりのモフ毛が光り始めてああなったんだったか?
胸モフに秘密があるのかともふもふすると違和感に気づいた。
無い。
熊の魔石がない。
ぽふぽふもふもふして胸毛にしまった物を全部出す。
財布、なんとなく入れたどんぐり3個、拾って試しに入れていた小石…
…無い。
どこかに落としたのか、誰かにスられたのか。
いや魔石だけ落とすタイミングなんてなかったし、犬のモフ毛から高価なものだけスるスリもいないだろう。
「…おっきい毛玉さん、少しくまっぽかったですね」
大きくなった身体。
オレから見たときは気づかなかったがオレが倒した熊もあれくらいじゃなかったか?
犬のときより立ち上がりやすかった後ろ足に攻撃に向いた前足。
熊もあんな手のひらをしていなかったか?
そしてイノシシを一撃で吹っ飛ばす程の力。
「わふわ…?(まさかあの魔石で熊に…?)」
「ぱっと見て見た目はそのままおっきくなったって感じだったけど…」
これは…色々試してみねばならないかもしれない。
…しかしためそうにも魔石はないし今は入手もむずかしい。
「ありますよ」
…なんですと?
「ほら」
そういうとお出かけかばんからごそごそと何かを取り出す。
さっきのイノシシの魔石だ。
「こういうのは拾ったもんがちなのです。
それに毛玉さんが倒したんだし」
まあそうだけども。
セレネが自分の前にコトリ、とソレを置く。
熊の魔石ほどは大きくない。
「ここいらに出るイノシシの魔石にしては大きいサイズですね…生前も大きかったんですかね?」
セレネに渡された魔石を見つめる。
「試してみます?」
セレネは心なしかワクワクしているような声と目だ。
「…わわん、わふ(いや、まだ使わない)」
コレは別の使い方をする。
「別の使い方?」
少し残念そうにしていたセレネが首をかしげる。
オレたちの本来の魔石の目的。
売買である。
日が傾く前にオレたちは再び店通りにいた。
今度こそギルドへ向かうために。
「ギルドでほんとにこれ売っちゃうんです?」
「わっふふ(売っちゃうんです)」
セレネは残念そうに聞いてくる。
顔にイノシシくらいの大きさのもふもふをモフりたいという長文が書いてあるのが見える。
「わう、わうわうやふ。わっふ。
(いいか、まずコレを売ってある程度の金にする。そんでそれを報酬にして戦闘要員を雇うんだよ)」
計画としてはこうだ。
このままこの街でセレネといても順調にセレネのペットになっていくだけで、身どころか心まで犬になりかねない。
そうならない為には、いつ解けるかもわからないこの呪いを解くための手がかりを探しに行きたい。
そして小規模とはいえこの街の周囲で強い魔物の出現と、ゲートがあったという噂の確認はできた。
それに合わせ魔王(仮)の出現も伝えにオレがギルド長から依頼を受けたところに一度は帰らねばならない。
報告だけならここの支部でも出来るだろうが、オレもオレの現状などは知り合いに一応伝えにいきたいのだ。
拠点にしていたところならある程度の金もあるし。
ということは旅に出なければならない。
しかしオレ一匹でもセレネが付いていったとしても道中は危険だ。
馬車を使おうにもこの魔石一つでは王都には少し足りない。
なにより犬は乗車拒否を食らう可能性がある。
そこでこのギルドでの依頼である。
ギルドは国からの魔物討伐の依頼から果ては民家の草むしりまで様々な依頼を頼めるのである。
(受けてもらえるかは別だが)
このイノシシ魔石でそこそこの金にする。それを報酬にして道中の護衛を頼む。
護衛に着いてきてもらって道中安全に行く。
倒した魔物の魔石は歩合制としていくつか渡すがオレももらう。
色々自分の可能性をためす。
うぃんうぃん。
「わっふ(って寸法よ)」
「なるほどー」
問題があるとすれば多分用意できるだろう前金でこの内容だと、受けてくれる奴は大体切羽詰まった奴ぐらいしか来ないってことだけだ。
そんなことを話しながらルズベリー支部のギルドへ入っていく。
中にはこの時間でも様々な人がいた。
冒険者、傭兵、魔術師や依頼に来た町人、ギルドの職員。
今日の成果やパーティの勧誘の話をする声でガヤガヤとしており活気のある街に相応しい賑やかさだ。
まずはギルドの購買部に行く。
ここは冒険者たちが道中で集めた素材や旅に必須のポーションなどの売買ができる。
セレネも薬もここに置いてあるらしい。
ここで魔石の質を鑑定し換金できるのだ。
チャリンチャリンと金の音。
無事イノシシは5000Gになったのだ。
イノシシでここまでなら熊は1万は超えてたんじゃねぇかな…
消えた熊石に思いをはせるが消えたものは仕方ない。
3000Gを依頼料に、残りは旅費にするのだ。
そのままの足で依頼受付の窓口へ向かう。
受付へ行きセレネがすみません声をかけると
お姉さんが微笑みながらご依頼ですか?と返してきた。
いかつい奴が集まりやすいこの空間で受付のお姉さん達は
依頼に来る人が怯えないように気を使ってくれているのだ。
「旅の護衛の依頼をしたいのですが…」
「護衛のご依頼ですね?少々お待ち下さい」
用紙を取り出し「必要事項を埋めてから空いているところにご記入願いします」とお姉さん。
依頼内容は
ルズベリーから王都までの移動。
前金は1000G、完了で2000G の合計3000G。
道中の魔物討伐の数によっては歩合制で魔石の譲渡。
継続依頼の可能性あり。
面接あり。
依頼人は
「…依頼人は毛玉さんの名前でいいんですかね?」
「…わっふ…(まぁ…頼むのはオレだしな…)」
「依頼人はリオス…なんでしたっけ」
「やふうわっふ(リオス・ハイペリオンな。お前リオスって覚えてるじゃないかやっぱ)」
「できましたよ」
オレのツッコミを流してサラサラと書き込んでいくセレネはそのまま流れるように提出していく。
「確認させていただきますね。
ご依頼は旅の護衛で…はい、はい…
ご依頼人はリオス・ハイペリオン様とのことですが」
チラとセレネを見る。
男の名前なのに少女が書き込んでいるからだろう。
「私は代理で来た者です…代理はだめでしょうか?」
「ご本人様か、ご本人様の代理である証明のある書面などがあればいいのですが、そういったものは?」
「えーと…」
セレネは抱っこしているオレを見る。
そうです、オレがご本犬様です。
受付のお姉さんにコレがご本人です、で納得はしてもらえないだろうな…
あまり依頼人側に回ることがなかったから失念していた。
オレが悩んでいると
「じゃあ依頼人はセレネに変更できますか?」
と頭上で聞こえた。
思わず見上げると
「私も王都に行ってみたいと思っていたし丁度いいです」
とオレの頭をモフりとなでた。
いいのか?と視線をおくると
「どの道毛玉さんの翻訳は私がしないと通じないし」
そう言われれば。
「それに最後まで面倒見るのが飼い主の責任ですからね」
そこは違う。
オレ、ニンゲン。
こいつほんとにオレの最後まで面倒見る気じゃないだろうな…
受付のお姉さんは了承してくれてセレネのフルネーム
(エルフ語でなんかめっちゃ長い名前だったので最終的に人間語用に簡略化されたもの)
と書き直させてもらい
エルフの少女、小型の犬の同行者という内容も書き足して
登録は完了したのだった。
あ、そうだ。あと念の為にここらの異変の話を王都に伝えてもらわないと…
現地のギルドからもある程度の情報は言っているだろうがオレも一応頼まれてここに来ているのだ。
大体のギルドの支部は通話の魔道具が置いてあるから口頭での通達はできるはず。
それもわふわふとセレネに頼む。
「すみません、あと王都のギルドへの言伝を頼まれているのですが…」
「王都へのですか…?」
「はい、ここ数日のこの近辺での強い魔物の出現とゲートの噂を王都のギルドマスターに伝えたい、と
リオス・ハイペリオンから言伝を受けています」
「すみません、失礼ですがそのリオスという方は
勇者リオス・ハイペリオンその人でしょうか?」
「えーと…多分はい」
多分じゃない多分じゃない!!!なんだお前信用してなかったのか!?!?
そう思いながらセレネを見上げる。
いや、違う、この顔は…勇者ってなんだろうあたりの顔だ!!!!!
こいつ勇者が王から賜る称号ってこともいまいちわかんないままオレの話フンフン聞いてたのか!!!
…まあ薬草ともふもふ以外に今の所あんま興味なさそうだったしな…
興味ないやつからしたらそんなもんなんだな、勇者って…
そんな感じで煤けていると受付のお姉さんは困ったように
「そちらもご本人様からの代理である証明がないと不確定な情報は…」
駄目かぁーー。
まあそうかも知れないと思って王都へいくんだしな。
フキュフキュ鼻を鳴らして無理ならいいとセレネに伝えてもらった。
不審そうなお姉さんの視線を受けながら礼を言いギルドを出て宿屋へ向かう。
依頼がすぐ決まるということはほとんどないので明日受ける奴がいたか確認に行くのだ。
「わわう…わふわん、ややう(結局まだまだ迷惑かけることになったな…)」
「私は飼い主なので」
「やうん(飼い主じゃないです)」
一瞬しおらしくなった気持ちは漂ってくる夕飯の香りと共に散っていき
今日の晩ごはんに思いを馳せながら帰路についたのだった。
ゲームでいうモンスター倒してお金が落ちてるシステムは魔石で代用しています=^・ω・^=