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1匹目  呪われてポメラニアン

一年前の王都。

王の謁見の間で青年リオス・ハイペリオンは王と対面していた。


「リオス・ハイペリオン。そなたを勇者に任命する」


厳かに王の声が命じた。

このときからリオスは勇者となったのだ。



青年は子供の頃から『勇者』というものに憧れていた。

小さな頃から親や祖父母に寝物語で聞かされていた様々な英雄譚。

中でも魔界と人間の世界を別つことに成功したという

1000年も昔にいたという伝説の勇者の物語。

人間の世界にはびこる魔物を生み出し、人間を苦しめた魔族を

たった一人で第1魔王から第3魔王までバッタバッタとなぎ倒し屠ったという。

そして魔界とこの人間界をつなぐゲートを破壊し世界に平和をもたらしたのだ。


…魔王に第1とか第3とかあんのか?

と子供心に思ったがそこはワクワクして聞いていた少年だったリオスに

祖父が付け足して語ったものだろう。


なんにせよこの世界に広く伝わるおとぎ話の勇者伝説。

それにリオスは本気で憧れたのだ。

(祖父の語りがうまかったのかもしれない)

そして彼は己も勇者のような人へとなるため鍛錬を積んだのだ。

人を守れるだけの剣の技。

同じだけの魔術の知識。

リオスには憧れるだけではなく素質があったのだ。

見る見る技能を習得していった彼は冒険者となった。

今は争いも少なく平和な時代、困りごとと言えば魔物の獣害や人間同士の諍いである。

困った人を少しでも助けたい、その思いで依頼(こまりごと)が舞い込むギルドへ登録し

そしてメキメキと頭角を表していった。

彼には才能があったのだ。

荷物を運べず弱る老婆の手助けや迷子の保護、大型魔物の討伐。

中でも彼の武勲は一年前の村々を襲うドラゴンの単独討伐だろう。

ドラゴンを単独討伐した、そのことで彼は勇者の称号を王から賜ったのだ。

こうして彼は冒険者の間では知ぬ者のいない存在となった。

しかし青年にとってはどこか満足しないものがあった。

自分が目指した勇者はきっとこんなものではなかったんだろう。

もっと何かをしたい。勇者に相応しい行いを。

しかし今は至って平和な時代なのである。

わざわざ人の世を脅かす不幸を勇者は望まないものだ。

このままでいいのだ。今の世で自分ができることをしていこう。



そんな折に、異界と繋がるゲートが現れたというのだ。


千年間どこにも現れなかったゲートが東の街ルズベリーにいきなり現れたのだという。

そこから魔物が現れるようになり放って置けないとなったのだ。


彼は王都のギルドでギルド長から命を受けた


「早速、ルズベリーへ行き魔物の討伐を頼みたい。

 そしてゲートの調査も頼む。 

 どこにつながっているものかもわからんが…もしかしたら魔界かもしれない。

 行けるだろうか」


行けるかだろうかではない。行くのだ。

言われるが早いか青年は東にある街ルズベリーへ向かった。


そして王都から約1日かけてルズベリーも目前といったところで

悲劇に見舞われたのだ。



魔王が自分の眼前に現れたのだ。

ただの街道で。

なぜ魔王かとわかったかというと


「余が魔王である」


と本人が名乗ったのだ。

というかコウモリのような翼!なんかゴツい角と爬虫類めいたしっぽ!なんかゴテゴテしい服!!なんか浮いてる!!!

と、見た目もいかにも魔族!!!といった風貌であり

そしてなにより

圧が違ったのである。

青年は今まで多くの魔物と戦ってきた。

中には死ぬかもしれないと思うような相手もいた。

しかしこの魔王を名乗る男から感じる気配は今まで感じたそれではなかったのだ。

体にかかる重力が増したような気さえする。

あたりを平和に飛んでいた小鳥や野うさぎも逃げていった。

コレが本物の魔王でなくてもあからさまになんかヤバい奴ということはわかる。


「貴様は今の世の『勇者』か」


宙に浮きこちらを見下ろしてくる男からは以前みた人間の王よりも厳かな貫禄のある雰囲気がビシビシ伝わってきた。


「勇者と言うからには貴様もいずれは我が城に来るのだろうな…」


「…何を言っているか分からないが、

 魔王だと言うなら人間界に何しにきた!」


震えそうになる声を奮い立たせ剣を構える青年。

少しでもスキを探そうと睨みつけた。

その様子を見ると魔王は片方の眉をあげて見やり


「いや、余を倒したところで何も終わらん…」


そうつぶやくとスッと片手を上げ…


「しばらくは大人しく待っていてもらおう」


そう言い手から光が放たれる。

避けようとしたが遅かった。

まともにその光を浴びた青年はそれが止む頃には…



もふもふのポメラニアンになっていた!!!!!!!



「…あ、すまん。お前を見ていたらなんか…昔飼っていた犬を思い出してな…」


魔王はそうつぶやくとすぐに威厳を取り戻して


「とにかく、その姿では何も出来まい。そのまま大人しくしていてもらおう」


そう言うが否や魔王は来たときと同じように姿を消したのだ…



それから青年は大変だった。本当に大変だった。

平和が戻った街道の近くの小川でまずは自分の姿を確認した。

なにせ光が止んだら視界が極端に低く地面スレスレ、二足歩行はできず尻餅をつき

どうにかよちよち四足歩行で移動したのだ。

そして澄んだ水に映る姿はポメラニアン。

実家の隣の家のおばちゃんが飼っていた。キャンキャン吠えて体当りしてくる毛玉だった。

自分の髪の色によく似た毛色の毛玉が犬が驚いたときみたいな顔で(事実犬が驚いているのだが)水鏡に写っているのだ。

前足を上げればそれも前足を上げる。顔を水面に突っ込めば水面の犬はもちろん見えなくなった。

普通に苦しかったので顔を上げ、顔の毛をぺっしょぺしょにさせた犬の顔をみて

青年は確信した。


これオレだわ。


すぐに青年は自分のやれることを確認した。

四足歩行になったので、もちろん剣は使えない。

じゃあ魔術はと使うが炎の魔術はかつては大型の魔物など一撃で消し炭に出来たのに

今はマッチの灯火がいいところ。

体の強化のスキルも使えない。

自分に出ているであろうバッドステータスの確認をしようにもそれを確認するスキルも使えない。


本当にただの毛玉じゃないかオレ…


なんやかんやでどうやら自分は呪われたと言うことがわかった。

毛玉の呪い。


(いやほんとはどんな呪いで大人しくさせるつもりだったのかはわからんが

なんでこんな姿に…)


水鏡に映る姿は切れ目でそれなりに見れるような見た目だった人間の頃の自分ではなく

愛くるしいポメラニアン。


せめてシェパードとかハスキーとかああいう犬が良かった。ウルフドッグでもいい。

せめてせめて体格のいいのが良かった。


そう嘆きつつも青年は自分は勇者なのだと、そう己を鼓舞する。

こんなところでは立ち止まれない。これが呪いならば解呪できるはず。

そうして毛玉は街に向かった。

解呪の薬を売っているかもしれない。


そう思い門番に迷い犬かな?と思われながら街の門をくぐり

魔法道具の売っている店へ入り込んだ。


店番をしていた店主の老婆は目を丸くして

「あらあらどこから来た犬ね?」

と珍しげに見ていた。

一生懸命解呪の薬はないのか?と話しかけるが出てくる声は


「やんやん!あん!」


というなんとも迫力のない鳴き声だった。


「迷子かい?毛並みもいいしどこかから逃げてきたのかい?」


もちろん老婆には何一つ伝わらなかった。

このままでは衛兵に迷子犬として届けられてしまう。

そこで青年は一生懸命背伸びをして商品棚を見上げ

よたよたしながら目当ての品を探した。

もちろん老婆にはモフモフの犬がちんちんしてよたよたしてるようにしか見えず

商品を食べるんじゃないよ?と様子を見ている。


どうにか背伸びをすると解呪の薬が売られているのを見つけることが出来た。

どうやら在庫は一つだけらしい。


「やうやう!ややん!ハッハッ!」テシテシ!


懸命にこれこれ!これがほしいんだよ!!と前足で棚を叩きアピールする毛玉。

犬嫌いではなかったらしい老婆はなんだい?とみやる。


「ああ、もしかして飼い主からのお使いかい?お金はあるのかい?」


言われて毛玉になった青年ははたと気がつく。


オレの荷物どこだ。


思わずその場でグルグルとまわり自分を見やる。

姿を変えられた現場には荷物や武器の類はどこにも落ちてなかった。

となると自分とともに姿を変えられたのだろうか。

まさか無一文なのか。

と前足で体中を確認する。

すると、ぽふん、ともふもふしい体から普段から使っている財布が出てきたのだ。

どういう原理で出てきたのかはわからないが無一文ではなかった。

そのことに胸モフをなでおろしこれこれ!と老婆に財布を渡す。


「どれどれ…?ああ、丁度この薬分のお金があるねぇ」


え?丁度?オレ結構もってたんだけど…そんなにその薬高いの?


青年は今まで呪われたことがなかったので呪術系の知識とその相場に明るくなかった…


「ちゃんとご主人にとどけるんだよ、わんちゃん」


頭をモフりと撫でられるとすっかり軽くなった財布と解呪の薬の入った袋を渡されたのだった。



人気のないところで青年はその薬をのんだ。

味はさておいて幸い錠剤だったため犬の体でも残すことなく飲み込めた。

そして光りに包まれたと思うともとの人間の体に戻っていたのだった。

ほっ…と今度こそ胸モフのない胸板をなでおろしたとき、

森の方角から獣の、魔物の咆哮をきいたのだった。


ポメラニアンになりました

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