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女の戦い・下

「はっ!」


 薄暗い道の中、響くのはシャリアの掛け声と破砕音。ここは《サイラスのダンジョン》である。


 普段はその特性からサイラスしか訪れないこのダンジョン。ダンジョンの難易度的にはそう高いものではない。……怒らせた時は例外だが。


 となると《サイラスのダンジョン》にとっても恋敵であるシャリアに対する難易度はどうなるか。それは、当然ーーーー。


「い、いい性格してるじゃないの……クソダンジョンっ」


 サイラスに対し怒った時とはまた別のベクトルに難易度が上がっていた。ざっくり云うと罠マシマシである。女の喧嘩は恐ろしいのだ。


 だが、それで止まるシャリアではない。彼女は生粋の《モンク》である。拳一つであらゆる物を打ち砕く。罠程度では彼女を止めることは出来ない。


 通路を進むシャリアの前から巨大な岩が迫る。だが、シャリアは逃げることもなく腰を落とし拳に力を込める。


「がっ!!」


 一閃。シャリアの拳は岩石を打ち砕く。巨大な岩などシャリアにとって何の障害にもならないのだ。


「ふん、大した事ないわね」


 確かに厄介なダンジョンではある。だが、案外大した事ないのか? 意外にも難なく進める事にそんな感想をシャリアは覚えた。そうして、シャリアはどんどん歩を進める。そして最深部に辿り着く。


「ここね……」


 最深部の部屋。そこにいるボスを倒せばクリアである。シャリアは部屋に足を踏み入れる。そこにいたのは……。


「ゴーレム……?」


 部屋の中央に鎮座していたのは石の巨人ーーゴーレムだ。だが、姿が通常とは違っていた。ズングリした姿ではなくかなり細身である。こんなゴーレムをシャリアは見たことがなかった。


 だが、ゴーレムの動きを見て気がつく。ゴーレムがとった体勢は《モンク》の構え。


「なるほどね。良い度胸じゃないの」


 シャリアも構えを取る。幾らかは消耗していたが、まだまだ戦える。モンスター如きの拳に負ける筈が無い。


「いくわよっ」


 先手必勝。シャリアは踏み込み間合いを詰める。そして攻撃ーーこれはフェイントだ。騙されて空いた箇所に拳をーー。


「っ?!」


 とっさに危険を感じ身を引く。するとゴーレムの拳が空を切った。あのまま、行ったらカウンターを食らっていた。


(何だ今の動きは?)


 読まれていた? 再び間合いを詰める。今度は逆にカウンター狙う。ゴーレムの攻撃を誘うが……。


(っ……こいつ、私の動きを見切っている。何で…………あっ。そ、そういうことね)


 《サイラスのダンジョン》は最深部に辿り着く迄間にシャリアの闘いを学んでいたのだ。仕留めるのではなく、動きを見る事を優先していたのだ。


「くっ……」


 気づいた頃にはもう遅い。動きを読まれてしまいシャリアの拳は空を切り、ガードされる。読まれながらもどうにか戦うが防戦一方である。


 長引く戦い。シャリアの体力はどんどん削られていく。そしてーーついに。


「はぁっ……はぁっ……」


 シャリアの体力は限界を迎えていた。何しろゴーレムに体力の概念はない。攻撃が決まらなければ先に落ちるのはシャリアである。


 シャリアはもう立っているのがやっとであった。視界が歪み意識が朦朧とする。


 決着の時であった。ふらつくシャリアにゴーレムが拳を振り上げる。迫る拳。負けるーーそうシャリアの脳裏に浮かんだ。


 ーーねえ、サイラス。私が一人前の冒険者になったら言いたい事があるわ。


 瞬間、頭に浮かんだのは昔の記憶。……そうだ。一人前の冒険者になってサイラスに想いを告げるんだ。ーーなら、こんなとこで倒れてられないわよね。


「……あなたも好きかもしれないけどね…………けどわたしは負けられないのよっ!!」


 刹那、シャリアの目に光が灯った。シャリアはゴーレムの拳に向かって踏み込む。巨大な石腕がシャリアの頬を掠める。捨て身のカウンター。突然の事に、ゴーレムは躱す事も出来ずーーシャリアの拳がゴーレムの顔面を捉えた。


 シャリアの決死の攻撃は顔面を砕きその中の核を貫いた。核を失ったゴーレムは音を立て崩れ落ちた。


「はぁっ、はぁっ……やった……サイラス」


 ボスが倒され帰還の魔法陣が部屋の奥に出現する。そこに辿り着けばクリアであるが……。


(ちょっと無理……かも……)


 シャリアはその場に崩れ落ちる。もう移動する力は残っていなかった。つまり……これではクリアにならない。だが、次の瞬間。


「……っ?!」


 シャリアの足元に魔法陣が浮かび、体力が全快した。突然の事にシャリアは驚く。この魔法陣は……ダンジョンのトラップの一種だ。


「クソダンジョン……」


 このまま放置していたらダンジョンの勝ちであった筈だ。不思議な出来事にシャリアは何か熱いものが胸に浮かぶのを感じた。



ーーーー

ーーーー



「あ、だ、大丈夫だったか」


「ええ」


 「……どうしたんだ?」


 何故か和やかな顔をしているシャリアを見てサイラスは怪訝に思う。あの後、シャリアを追おうと試みたが何故か入れなかったのだ。一体何が起きているのか。サイラスにはさっぱり分からなかった。


「殴り合わなきゃ分からない事もあるのよ」


「?」





 その後、シャリアは邪魔される回数が少し減ったのであった。

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