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女の戦い・上

 ある所に1人の冒険者がいた。名をシャリア。丁度今年で20歳を迎える女冒険者である。


 若いながらも中々の腕を持ち、将来が楽しみな冒険者だ。また、器量もよし。少々跳ねっ返り気はあるが、それもまたよし。


 そんな、彼女にはただ1つ。悩みがあった。それは――――――好きな人がダンジョンに愛されている事である。



■ ■ ■ ■




「サイラス!」


 昼下がりの酒場に若い声が響く。威勢良く酒場に入って来た彼女はシャリア。恋に恋する若手の冒険者だ。


「よう、シャリア」


 そう返すのはアルド。顎髭がチャームポイントな冒険者である。


「アルド……サイラスは?」


「サイラスなら女とダンジョンに向かったぜ」


 と言うのは、勿論嘘である。何せシャリアはサイラスに好意を抱いていた。詰まる所それを分かってからかったのだ。……が。


「な ん だ っ て?」


「ぬわっ?!」


 途端アルドの天地が逆転した。眼に映るのは逆さまの視界。気付けばアルドはシャリアに逆さ吊りにされていた。それも腕一本で。


 シャリアは怪力の持ち主であった。小柄な見かけからは想像もできない程に。熊ぐらいならば素手でのしてしまう程に。


「じ、じじ冗談だ!」


 サイラス絡みでシャリアをからかうのは日常茶飯事たが、今日は虫の居所が悪かった。アルドは逆さのまま謝罪をするが……。


「許してく……ヒィ?!」


「…………」


 赤毛を振り乱し、真紅の瞳に宿るのは怒り。今、アルドを逆さ吊りにしているのは女ではない。鬼であった。


「ん、シャリアか?」


「さ、サイラス!」


「おわっ?!」


 酒場の扉が開きサイラスが現れる。なんて事はない。サイラスは手洗いに行っていただけなのだ。瞬間、恐るべき力によりアルドの天地が元に戻る。一瞬の出来事だ。


「あれ、今なんかアルド逆さまに……」


「な、何でもないわよ。……ね」


「そ、そうだぜ。あはは……」


 冷や汗混じりにアルドは返す。余計な事を言ったら何をされるか……想像するだけで恐ろしい。


「そ、それよりサイラス。今日は約束通り一緒にダンジョンに……」


「探索か。良いぞ。シャリアとは久しぶりで俺も楽しみだ」


「そ、そう……」


 僅かにシャリア顔を赤面させる。割とあからさまにだな、アルドは思う。だが、等のサイラスは。


「アルドも来るか?」


「……へ?」


 この調子である。別にサイラスは鈍感なわけではない。だがサイラスは詰まる所、シャリアを妹や娘のようにしか見ていなかった。理由としては、若さやシャリアが妹に似ている……等諸々だ。不憫である。


「い、いや……俺は」


「……」


「ひ……」


 後にアルドは語った。そこには真紅のオーガが居た、と。


「キョウハヨウシガアルカラエンリョシトキマス」


「……なんか具合悪そうだな」


「イエ、モンダイアリマセン」


「そうか。じゃあ2人で行くか。シャリア」


「そ、そうね。2人でデー……探索に行くわよ!」


 これで、シャリアの邪魔をする者はいない。2人で冒険に出かけて、親密になりあわよくば……今日は勝負下着であった。ちなみに勝利の赤だ。最低でも今日はサイラスに意識をさせる。意気込むシャリア。


 だがーー恋と云うのは往々として困難が付き物だ。


「……ん? 何だか入口が騒がしいな」


「……ま、まさか」


 酒場の外が何だか騒がしい。とてつもなく嫌な予感がシャリアを襲った。思わず酒場の外へ駆け出す。この気配は……そう、あいつだ。サイラスに付きまとうーークソダンジョンだ。


「……っ」


 外に出ると、酒場のすぐ目の前に洞窟が出来ていた。地面が盛り上がり、地下へ続く洞穴がぽっかりと穴を開けている。


《サイラスのダンジョン》である。


 シャリアが酒場に訪れた時にこんな物はなかった。この洞窟はつい先程できたのである。


「はぁ……なんでまた」


 後から追いついたサイラスがこの光景を見て溜息を吐く。サイラスにとってこのダンジョンに付きまとわれるのはいつもの事だが、慣れるものではない。


「3日前潜ったばっかじゃねぇのかよ?」


「知らん俺に聞くな……」


《サイラスのダンジョン》はサイラスがクリアしない限り消える事はない。酒場の目の前にダンジョンに居座られたら大迷惑だーーつまりサイラスは潜ってあげるしかないのだ。


すまんシャリア。探索はまた次回に……?!」


 サイラスは驚愕した。シャリアの方を見ると見たこともない形相をしていたのだ。怒りに顔が歪み……少なくともとても年頃の娘がして良い顔ではないだろう。


「クソダンジョンが……いつもいつも私の邪魔しやがって……」


 シャリアにとって《サイラスのダンジョン》は大きな障害の1つである。今回の様に事がある毎に邪魔をしてくる。シャリアにとっては恋敵と言っても過言では無い。


「……おい、クソダンジョン」


 殺意の篭った低い声でシャリアはダンジョンに語りかける。もう我慢の限界であった。


「私をダンジョンに入れろ。カタをつけよう」


「へ? いや、それは無理だと思うが」


 基本的に《サイラスのダンジョン》にはサイラスしか入る事が出来ない。更には《サイラスのダンジョン》で手に入れた装備しかつけられない等の制約があるのだ。制約を守らない場合は出口の障壁に弾かれてしまう。詰まる所、サイラス以外は入れないのだがーーーー。


「し、障壁が消えた?」


 シャリアの言葉に呼応するかの様に、入口の障壁が消えた。滅多にあることでは無いのでサイラスも驚愕する。


「ふん。望むところと言うわけね」


 シャリアは装備を身につけてダンジョンに潜ろうとする。


「お、おい……」


「カタを付けてくるわ」


 そう言って、シャリアはダンジョンに入っていった。何が何だかよく分からないサイラスである。


「一体何なんだ……」


「女の戦いってやつだ。モテモテだなサイラス」


「は?」


「全く羨ましくは無いがな。……疲れた。帰って寝るわ……」


 そう吐くアルドは酷く憔悴した様子であった。


 



 


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