あたしの大学生活
幾日かが経っていた。わたしの顔は安定せず、体重の変動も酷かった。一度など、面白かった。わたしは映画に出てくるようなすごい美女に変貌を遂げたのだ。スタイルは抜群だったし、歯並びも綺麗だった。とはいえ、いつまた変身の時がやってくるともしれない、マスクを付けて外へは出ていた。大発見だった。自分が美女であればある程、妙な話だったが、口が臭いのだ。多分、とわたしはこの事をこう分析した。美人は絶えず外から視線に悩まされているから、ストレスで胃の汁が逆流してくるのだ。絶対にそうだ、とわたしは思った。一方、ブスの時は、といえばこれもあまり変わらなかった。ブスの時がゴミ箱のような匂いだとすると、美人のそれは便所のような匂いがした。普通の可奈子だった時はあまり臭わなかったから、わたしはきっとすごい満ち足りた人生を送っていたのだ、と思った。
大学へは通ったり通わなくなったり。遠藤くんは相変わらず寡黙で、佳子は意地が悪かった。彼女はすごい美人の可奈子に嫉妬していたというのに、それを表に出さなかった。わたしは悔しかった。彼女をなんとかヤキモキさせたかったが、佳子がヤキモキするのはわたしと二人きりの時だけで、皆と一緒にいる時はなんでもない風を装った。
美人の時、わたしは大学にいって、みんなに自分の顔を見せびらかした。皆は最初、疑ったが、わたしがわたししか知らない事実を突きつけると、信じた。信じたか、あるいは信じたフリだったが、顔を突かせたり、スタイル抜群の時に胸を触らせたりしている内に、いつもの可奈子として扱うようになった。
例えば、それはこんな具合だった。
「可奈子! 今日の鼻は調子が良さそうね」
そう言われると、まんざらでもない気分を味わった。眉を褒められる時や、「昨日のほうが目は好きだった」と言われたりしても、それほど嫌な気分にはならなかった。
それに朗報があった。わたしはブスの時も美人の時もあったが、ブスの時でも誰かが話しかけてきたし、美人の時でも同じだった。ブスの時、皆は口々にこういって、わたしをおちょくるのだった。
「可奈子、今日のあんたが永遠に続くことを祈っているわ」
とはいえ、わたしはブスの時の可奈子は好きではなかったし、ひと目に晒すようなものでも無かったので、大抵は部屋の中でじっとしていた。一端寝て起きると、大抵は治っていたし、別のブスになる時もあったが、落ち込んだりはしなかった。
そして、ある日の事だった。
わたしは道を歩いていると、見慣れない服装をした老婆に話しかけられた。
彼女がゆっくりとわたしを指差して、こういうのだった。
「見つけたよ! とうとう見つけたよ! あんた可奈子だね?」
それっきり老婆は去っていってしまった。
とても薄汚い老婆だった。自分の将来の姿がああであるならば、丁度いいところで首を吊ってしまったほうがまだしもましだ、と思った。目はぎらぎらと猛っていて、可愛げもあったものではなかった。
だが、わたしから去っていくとき、老婆は酷く満足した眼差しに変わったではないか。
瞬間、わたしはこう思った。老婆は誰かに操られていたのだ。