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第19話 不可解

 エルレシアとの話は終わったが、残念ながらロボットと神話に関する情報はあまり得られなかった。


『確かに、機械で出来た悪魔が大昔に人類を襲っていたという話が確かあったけれども……詳しくは知らないかな』


 大体はネットで知ったことと同じ情報だ。ただ、重要そうなのは。


『……けど、これってただの神話だし。まあ優者は実在するみたいだけど、悪魔とか、悪神とか、本当に居たとは思わないけどなあ』


――――


「どう思った? あの話」


 さも当然のようにマイカに聞いてみる。マイカも当然のように受け答えしてくれた。


「エルレシア氏の発言がこの国における一般的な理解だとすると。悪魔というものはあくまで、創作上の存在だと思われているようです」


「なんだそのダジャレ」


 パシンと叩かれる。なんで突っ込んだ方が叩かれなきゃいけないんだ。


「けれど、神話の中で実在しないと思われてるものでも、そういうのには大抵モデルがあるもんだろ? モーセが海を割ったって話が誇張だとしても、湿地を渡って歩いたという実話が基になってたり、みたいな」


 神話の中身に、実話だと到底信じられないような話があるのはわかる。とてもじゃないがキリストが死んで三日後に復活したとか、古代の天皇が200歳生きたとか、そういう話は信じられない。


 だが、それらにはモデルとなる話やら人物が存在するものだ。全くの無からそういった話がでっち上げられることは中々ない。


「あの話しぶりだとまるで、『機械で出来た人型ロボットの存在そのものが荒唐無稽』、みたいな扱いだったな」


「やはり、不可解ですね」


 ユニタリが隠し持っている技術と、この世界の常識の隔たり。それはいったい何によって埋められるのだろうか。


「それとも……そもそもユニタリが発達している、っていうところから勘違いなのか?」


「どういうことですか?」


「ユニタリじゃなくて、マクセン博士だけが異様に発達した技術を研究している。だからユニタリ全体には人型のロボットや高度な人工知能なんてもんは一切普及してないし、発想としても広まってない……」


 考えてみればあの博士はかなりマッドサイエンティスト的である。「ロボットであることを覚られるな」という発言も、何か裏があるような言葉に感じられる。


「可能性としては否めませんが、しかしメルドー氏の私に対する対応の例があります」


「メルドーさんか……けれどあの人をつつくのはやっぱり怖いんだよな」


 とかなんとか言っていたら電話が鳴った。発信元の名前を見て「げっ」っと声を漏らしてしまう。


「……もしもし」


『ああヤナイ様、こんにちは。その、優者就任式について少々お話が有りまして……今から、昨日と同じレストランに来ていただいても? ああ、それとマイカ殿をお連れしてください。ヴェイル・マクセン博士から仕事が完了したとの報告があったので、少々確認したいことがあります』


――――


「――就任式を、ジーハンで行うことになりそう?」


 メルドーから告げられたのは意外な言葉だった。テーブルには俺、マイカ、メルドーが座っている。俺は驚きに目を丸くしたが、マイカは微動だにしない。


「はい。既にご存知かと思いますが、我が国と大ヴェイバル帝国は、国交正常化に向け動き出すこととなりました。一か月以内に共同宣言に調印することを目指していますが、それへの弾みをつけるため、伝統に回帰しようという流れがありまして」


「ジーハンでやることが、そんなに意味を持つことなんですか?」


 俺の言葉にメルドーは頷く。


「はい。ジーハンは帝国にとっても重要な場所。その地に迎え入れ共に未来について語らうことは非常に大きなアナウンス効果を持ちますし、なにより」


 メルドーは意味深に笑う。


「帝国が何度も侵攻を繰り返した地に敢えて招くことで、こちらの度量の広さを見せることが出来ます」


 ……なるほど、それはある意味、帝国に対し許しを与えることになる。帝国側も後ろめたさから無下なことは出来なくなる、ということか。


「再びあの不毛の地へと赴くことになるかもしれません。ご不便をおかけすることとなり、申し訳ありません」


「ええ、ああ、かまいませんよ全然」


 とか言いながら内心はかなりホッとしてる。数百万人の前でパレードをやらなくて済みそうだからな。


「そうですか、それは良かった。ではこの話の続きは、固まり次第ということで。……さて、ではマイカ殿ですね」


 そう言ってメルドーは、俺の横の椅子に座るマイカをしげしげと眺める。強面のメルドーがやると、奴隷商人か何かが商品を品定めしているようにも見える。その間もマイカは、人形のように微動だにしない。


「……申し訳ありませんが、後ろ首のところを見せていただいても?」


「え、ああ、どうぞ」


 メルドーは立ち上がってマイカの後ろに回ると、首筋のあたりをしげしげと眺めていた。


「……あの?」


「ああ、説明が遅れましたね。政府を通じての依頼だったので、きちんと修復が行われているかどうかの報告の義務があったのです。見たところ、問題なく完了しているようです。この度は御無礼、真に申し訳ありませんでした」


 そう言って平謝りするメルドー。殴り飛ばしたときのことを言っているのだろう。


「いえいえ、直して貰った上に・・――でっ、直してくれたんですから、問題ないです、はい」


 途中で脚に鋭い蹴りが飛んできたので言葉に詰まった。メルドーは怪しむような顔をしたが、直ぐに気を取り直したようだ。


「――そうですか。心の広いお言葉をありがとうございます。……それでは、予定がありますのでこれで失礼します。急な御呼出しに、失礼しました。お気をつけて」


 メルドーはそのまま一礼し、帰っていった。



「……おい、蹴ることはないだろう」


 俺の文句に、ようやくマイカが動いた。


「しかし、私がこのようになったことは、あの人には内密にするようにとマクセン博士は言っていました」


「確かにそれはそうだけど」


 メルドーは政府側の人間だから面倒だし、余計な変更は覚られたくない、そのようなことをマクセン博士は言っていた。しかし今となっては、あの言葉にも何か裏があったのではないかと考えてしまう。


「……ところで首筋見られてたけど、なんかあるのか?」


「何かは、あります。しかし分かりません。マクセン博士によって埋め込まれたのは間違いないのですが、内容に関してはブラックボックス化されています」


「危ないもんじゃないだろうな」


「何も言われていませんから、そんなことはないと思いますけれども」


 マイカ本人がそう言うなら、俺もそう信じるしかないか。マイカは少々あの博士を信頼し過ぎている気もするが。言ってしまえば生みの親ではあるから、しかたないのかもしれないけれども。


――――


 レストランを出たメルドーはそのまま黒塗りの車に乗り込むと、胸元から携帯電話を取り出した。発信先は。


『……おう、何用だ。仕事はこなしたはずだぞ』


「確かに、設置されていたことは確認させて頂きました」


『なら、さっさと報酬振り込んでくれや。今月はもうカツカツなんだよ』


「あの人形に、必要以上・・・・に投資したからですか?」


 しばしの無言。


『……何のことだかわからねえな』


「歩く所作に話す言葉、全て初めて会った時とはレベルが違う。今日は小賢しくも、木偶のフリをしていましたが」


『……アイガ。あの諜報組織か、忌々しい』 


「今回のことは、報酬金の全額没収ということで手を打たさせて頂きます。こちらも共同声明締結に向け、忙しい頃合いなのでね」


 ただし、とメルドーは前置く。


「――あまり、余計な真似はしないように。あなたの身柄は、その身分と、技術があるからこそ保障されている。あなたの思想はその限りでは無い」


『……はいはい、分かったよ。大人しくさせてもらうわ』


 そう言ったのを確認し、メルドーは耳から携帯を離して通話を切った。


『……国交正常化なぞ、する気も無い癖によ』


 そんなマクセンの言葉を、聞き流しながら。

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