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綾瀬さんと青春部

 「で、綾瀬さんには会えたのか?」

 次の日の朝、始業までの空き時間に高岡が聞いてきた。

 「うん、会えたよ」

 短く返事をする。昨日の帰りにあったことは高岡には秘密にしておこう。

 そう心に決めたときだった。

 「あ、いたいた。おーい桐ケ谷くーん!」

 鈴の鳴るような声で名前を呼ばれる。この声は綾瀬さんだ。教室の出入り口の方を見ると綾瀬さんがこちらに向かって手招きをしていた。

 朝の喧騒から一転、教室が静まりかえる。それもそのはずだ、学年でも有名な綾瀬さんが全くの無名で冴えない僕のことを呼んでいるのだ。誰もがなにが起こっているか理解するために聞き耳をたてている。

 「お、おい、桐ケ谷。あれはどういうことだ?」

 高岡も周りのみんな同様にわけがわからないという感じで聞いてきた。

 「あー、えーと、ごめん、あとで説明するから」

 僕はそう言い残し、教室の出入り口で待つ綾瀬さんのもとへ向かった。

 「桐ケ谷君のクラスって結構静かなんだね」

 静寂を作った張本人がクラスについて感想を述べた。それはあなたが僕のことを呼んだからですよ。そう言いたかったが今は呼ばれたことについて聞くことが先だ。

 「朝からなにか用事?」

 「うん、昨日の青春しようって話なんだけど」

 ああ、そういえばそんな話になっていたな。昨日のことは別れ際のこと以外ほとんど記憶になかった。というか別れ際のアレが強烈すぎて他の記憶が色あせてしまった。

 「それでね、部活を作ろうと思うの」

 「部活?」

 「うん、部活。やっぱり青春といえば部活だよね、さあ、一緒に青春の汗を流そう!」

 高々と宣言する綾瀬さん。なんだろうやけにテンションが高い。

 「それは別にいいけど、なんで作るの? 既存の部に入ればいいんじゃないの?」

 「この学校の部活って文化部以外は男女で別れてるじゃない? それだと桐ケ谷君と一緒に青春できないじゃない。だから新しく部活を作って一緒に活動しようかなって」

 「水泳部なら男女混合だけど?」

 「今の時期水泳部は陸練ばっかでしょ? それじゃあ陸上部と変わらないわ、だから水泳部は候補から外れているの」

 高岡、残念だったな。綾瀬さんは水泳部に入ってくれないみたいだ。

 心の中で水泳部の高岡選手に黙とうをささげる。

 「青春の汗っていうけど、文化部の活動だって青春になるんじゃない?」

 このままだと文化部が青春してないみたいに聞こえるので文化部の名誉のためにそう返答する。

 「それは盲点だったわ、さすが桐ケ谷君ね」

 綾瀬さんって確か頭は良かったはずだよね? もしかしたら青春については勉強不足なのかもしれない。青春の勉強ってなんだ?

 「文化部に関しては追々考えるとして。とにかく! 一から部活を作るのって青春って感じがするでしょ? だから作るの」

 やはり今日の綾瀬さんはテンションが高い気がする。といっても昨日会ったばかりの僕ではどちらが素の綾瀬さんかわからない。今はこれが正常な綾瀬さんだと思って話を続けよう。

 「うん、いいよ。僕も部活には入ってないから何部を作るのかはともかくとして、部活づくりに協力するよ」

 幸い部活には無所属の僕。綾瀬さんが青春したいというのであればそれを手伝おうと思った。

 「ほんと? ありがとう桐ケ谷君!」

 僕の快諾を得て笑顔になる綾瀬さん。ああ、やっぱり彼女には笑顔が一番似合う。

 「それで何部を作るの?」

 「青春部!」

 「はい?」

 「青春部よ」

 なんというかド直球なネーミングできたな。青春部って……、青春するために作る部活だから間違ってないけどね。

 「それで青春部についてなんだけど……」

 青春部についての説明が始まるところで予鈴が鳴る。

 「っと、授業が始まっちゃうわ。それじゃあ桐ケ谷君、また昼休みに!」

 そう言い残し綾瀬さんは自分の教室に戻っていった。僕も教室に戻らなくては。

 教室に入ると大勢の視線に出迎えられる。そうだった、自分がある意味で注目の的であることを忘れていた。

 視線から逃げるようにそそくさと自分の席に戻り、授業の支度をするのであった。

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