桐ケ谷柊の選択
桐ケ谷柊は誰もいない世界を見下ろしている。
「これでいい。綾瀬さんは俺といたから死んだ。だったらこの世界の俺を殺すことで代償になり、そして俺といたという事実がなくなり彼女が死ぬことはなくなる」
「それであなたは満足なのですか?」
声をかけられ振り向く。そこには銀色の髪をした少女がいた。
「ああ、満足だ。これで俺の目的は完遂だ」
「以前、あなたにした質問を覚えていますか?」
「『あなたは大切な人のために死ねますか?』ってやつか? 覚えてるぜ、答えもあの時と変わってない」
「あなたは『大切な人のためなら自分を犠牲にしたってかまわない』と答えていましたね」
「そうだ。だから俺はこの世界の俺を犠牲にした」
銀髪の少女は残念そうに溜息をついた。
「私はあなた自身が犠牲になるのだと思っていました。しかし実際は違ったようですね」
「俺が犠牲になっても意味がない。死ぬべきなのはあくまでこの世界の俺だ。俺が死んでしまってはあいつを殺すことができなくなってしまう」
「そうですか。それが今のあなたの答えなのですね。それで、これからどうするのです?」
「どうするも何も綾瀬さんが生きているこの世界で彼女を見守っていくだけだよ」
「それができるとお思いですか?」
「どういう意味だ?」
桐ケ谷柊は疑問を投げかける。
「この世界を作ったときのあなたの目的、綾瀬千里を生き残らせるという目的は、あなたが彼を殺すことで成功しました。だというのにこの世界に桐ケ谷柊がいては不都合です」
「お前まさか!」
桐ケ谷柊は後ずさる。これからやってくる危機から逃げるように。
「目覚めのときです。あなたはあなたの世界に帰るのですよ」
少女が手をかざす。
「や、やめろ!」
桐ケ谷柊は逃げ出す。しかし逃げ出した先には少女がいた。
「さようなら、桐ケ谷さん」
少女に触れられた桐ケ谷柊の姿ははじめからいなかったかのように消えていた。
「さて、あとは彼の答え次第ですね」
少女は屋上を去っていった。




