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桐ケ谷くんと謎の少女

 「やっぱりこの時期は暗くなるのが早いなー」

 目的地に到着したところで空を見上げて思う。

 今日は千里さんも茅野さんも用事があるというので天文部の活動はなく、放課後は自由時間となった。もっとも部室に居ても談笑するか読書くらいしかすることはないけどね。天文部なのだから星の勉強をしろと言われそうだがそれはまあ追々ね。

 今僕がいる場所は小高い丘の上。周辺住民から丘の上公園と呼ばれている場所だ。公園といっても遊具などはなく開けた空間が広がっているだけの場所だ。さらに上っていけば見晴台になっている場所にでる。今回はそこまでいかずに途中の芝生が生い茂り広場になっている場所で足を止める。特にやることのなかった僕は今度天体観測を行う場所の下見に来たのだった。

 前に来たのはいつだっただろう。小さい頃に両親に連れてきたもらったのが最後だっただろうか? 曖昧な記憶をたどるが来たことがあるのを思い出せるだけでそれ以外のことは靄がかかったようにはっきりとしない。

 「まあ、昔のことだしな」

 言いながら奥にあるベンチに向かって歩き出す。見晴台ほどではないがあそこからの眺めもなかなかにいいはずだ。

 「眺めがいいって言っても街が見えるだけだけどね」

 眼下に広がるのは僕たちが住んでいる街並み。すでに太陽が沈んでいるためちらほらと灯りのともった家がある。こういう風景を見るとこの街が生きていることを実感できる。そんな人の営みを見ながら最近の出来事を思い返す。

 思い浮かんだのは千里さんと過ごした日々のことだ。別に今までの生活に不満があったわけではない。友達がいて幼馴染がいてそれだけでも僕の人生はとても充実したものだった。最近ではそこに千里さんも加わり今まで以上に賑やかな日々を送っていた。だからだろうか、こうして一人でいることに寂しさを覚えてしまうのは。

 『今が幸福なほど未来に待っている喪失が怖くなる』昔誰かに言われた言葉だ。今の僕はまさにそれなのかもしれない。今が充実しているからこそ怖いのだ。明日突然世界が終わってしまうかもしれない、実はこの世界に僕以外の人間はおらず今の幸せな日常はすべて幻なのではないか、そんなことを考えてしまう。考えていて笑えてくる、そんなことあるはずないのに。明日もきっといつも通りの日常が始まり何事もなく終わり、そして次の日が訪れる。そうして世界は廻っている。

 だから大丈夫。この不安は一時的なもので眠ってしまえば忘れてしまうだろう。今日はもう帰ろう、そう思いベンチから立ち上がった時だった。

 「こんばんわ」

 不意に後ろから声をかけられた。驚きつつ振り返るとそこには少女が一人立っていた。

 「えっと、こ、こんばんわ」

 とりあえず挨拶を返す。綺麗な子だ。年は僕より下くらいかな、低めの身長のせいか幼く見える。顔も可愛いが、なにより目を引くのが透き通るような銀色の髪だ。ハーフの子だろうか?

 おっと、見とれている場合じゃなかった。僕になにか用事だろうか? とりあえず会話してみよう。

 「僕になにか用かな?」

 とりあえず何気ない質問から。これでなにもなければただ挨拶をされただけで終わるからそれもいいだろう。

 「用事…そうですねえ」

 女の子は首を少し傾けて考えている。

 「用事というほどではないですけど質問をしてもいいですか?」

 「質問ってアンケートかなにか? 僕でいいなら協力するけど」

 「アンケート…そうですね、アンケートです。思ったことを答えてくれると嬉しいです」

 そう言って女の子は笑う。

 「わかった、どんな質問かわからないけど僕なりの答えを出すよ」

 「ありがとうございます。それでは__」

 その質問は多数の人間に向けたものではなく、僕個人に対してのものだった。少なくともその時の僕にはそう思えた。

 「えーっとそれはどういう意味かな?」

 「言葉通りの意味です。私はただ、今のあなたの答えがほしいと思っただけです」

 今の僕の答え? そんなものは持ち合わせていなかった。あまりに非現実的だし、なによりもそれに答えることで質問の内容が現実になってしまいそうで怖かった。

 「ごめん、その質問に答えることはできない」

 だからそう答えた。正直な気持ちだったし、精いっぱいの強がりでもあった。

 「…そうですか。それが今のあなたなのですね」

 どこか寂しそうに女の子が言う。

 「ありがとうございました。ですがその時が来た時のためにもう一度考えておいてください。次に会う時には答えをもっていてくれると嬉しいです」

 そう言い、女の子は踵を返す。腰まで伸びた銀色の髪がふわりと揺れる。

 「待って! 君は何者なの?」

 女の子はもう一度こちらに振り返り答える。

 「私は何者でもありませんよ。幽霊だと思ってくれて構いません。ただ、そうですね。呼び名に困っているならユイとお呼びください」

 今度こそ女の子は、ユイは歩き出す。引き留めようとして腕に手を伸ばす、しかし僕の手はユイを捕まえることはできずに虚空を掴む。はじめからその場に誰もいなかったかのようにユイの姿はなかった。

 「まさか本当に幽霊…?」

 そうとしか思えないほど忽然と姿を消したユイ。ただ、彼女は『次に会う時には答えをもっていてくれると嬉しいです』と言っていた。もしかしたらもう一度彼女に会うときが来るかもしれない。その時までに自分なりの答えをもっておこうと思った。

 「寒いし僕も帰ろう」

 ゆっくりと丘を下っていく。家に帰るまでの道中、ユイの質問を思い返す。あの質問は一体なんだったのだろうか? 考えても答えはわからなかった。次に会う時に聞いたら答えてくれるだろうか。


 


 『あなたは大切な人のために死ねますか?』 

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