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綾瀬さんとお弁当

 「桐ケ谷、今朝のアレはなんだ?」

 「あれってなに?」

 「お前が綾瀬さんと一緒に登校してたことだよ!」

 高岡が机を叩きながら言う。そんなに自己主張しなくても聞こえてるよ。

 「たまたま一緒になっただけだよ」

 嘘は言ってない。今日に関しては千里さんが待っていただけで待ち合わせはしていないからだ。明日からも一緒に登校することは今は伏せておこう。

 「本当にそれだけか? てか綾瀬さんとの昼飯に俺も参加する件はどうなってる?!」

 ああ、そういえばそんなこともあったなー。最近いろいろありすぎてすっかり忘れていた。

 「ごめん忘れてた」

 「なんだと?! てことはなにか俺の期待は無駄だったってことか!」

 高岡が憤慨する。約束を放っておかれたんだ無理もない。

 「今日聞いてみるよ」 

 「かーっ! 今日も一緒に食べるってことかよ、羨ましすぎる!」

 ごめんよ高岡。今日はなんと千里さんお手製のお弁当付きなんだ。心の中で再び謝る僕なのであった。

  


 昼休みになった。待ちに待った昼休みだ。中庭へと急ぐ僕を高岡が止める。

 「桐ケ谷、ちゃんと聞いて来いよな」

 ああ、今朝の件か。

 「わかったよ、ちゃんと聞いてくるって」

 「絶対だからな」

 「約束するって、じゃあな」

 高岡に返事をしつつ僕は教室を後にした。

 中庭につくと先に千里さんが来ていた。

 千里さんお待たせ」

 「あ、柊君」

 千里さんの手にはお弁当らしき包みが二つあった。

 「はいこれ柊君の分よ」

 お弁当を受け取る。千里さんの持ってる包みよりも少し大きい。

 「量が多かったら言ってね。次から調整するから」

 「わかったよ」

 そう答えたがどんなに量があろうと完食するつもりだった。せっかく千里さんが作ってきてくれたんだ、残すわけにはいかない。

 「それじゃあ食べましょうか」

 ベンチに座り、お弁当箱を開く。おかずは卵焼き、たこさんウインナー、唐揚げ、ミニトマト、ほうれん草のおひたしといった感じで彩り豊かな感じだ。

 「どうかしら? 人にお弁当作るのって初めてだからべたなものばかりになっちゃって、それに唐揚げは昨日の晩御飯のあまりだし……」

 千里さんが申し訳なさそうに言う。謙遜しなくてもいいのに。千里さんが作ってきてくれたものなら、昨日の晩御飯のあまりだろうがなんだろうがおいしく食べられる自信がある。

 「そんなことないよ! すごく嬉しい、作ってきてくれてありがとう千里さん」

 「いえいえ。じゃあ、その、召し上がれ?」

 「いただきます!」

 さて、どれから食べようかな。うーん、迷うなー。でも迷い箸はマナー違反だ、ここは卵焼きから食べるようにしよう。卵焼きを口の中に入れる。ほんのりと甘い味付けだった。へえ、千里さんの家の卵焼きは甘口なのか。

 「お口に合うかしら?」

 「うん、すごくおいしいよ! これなら毎日でも食べたいくらい」

 「ふふっ、大げさね。なら卵焼きはこれからもおかずに入れようかしら」

 千里さんが嬉しそうに笑う。彼女お手製のお弁当と、笑顔を同時に味わえることがこんなにも幸せなことだとは思わなかった。それを体感している幸運が自分でも怖いくらいだ、もしかしたら明日にでも死んでしまうんじゃないかな僕は。そう思えるくらい今の僕は幸福に満たされていた。

 「ごちそうさま」

 手を合わせて千里さんに言う。どのおかずもおいしかった。

 「お粗末様でした、ふふっ」

 千里さんがお辞儀をした後に笑う。

 「どうかした?」

 「柊君がおいしそうに食べてくれたのが嬉しくてね」

 「おいしかったよ。図々しいかもだけど、これからも作ってきてくれる?」

 「ええ、もちろん。明日からも作るつもりよ」

 やった! これからも千里さんの手料理が食べられる! 嬉しくて飛び上がりそうになるのを抑える。そうだった、高岡との約束を果たさねば。

 「千里さん聞きたいことがあるんだけど」

 「何かしら?」

 「千里さんと一緒にお昼を食べたいってやつがいるんだけど、明日から一緒にいいかな?」

 「うーん、そうねー」

 千里さんが思案する。しばらく考えた後に答えを告げた。

 「ごめんなさい、その人には悪いけど遠慮してもらって」

 意外な言葉が返ってきた。てっきり千里さんならOKすると思ってたのに。

 「えっと、理由を聞いていいかな?」

 「それは……その人に伝えないって言うなら教えるわ」

 人に教えられない理由ってなんだろう? 千里さんがそう言うなら高岡には悪いが了承しよう。

 「わかった、そいつには伝えない」

 「えっとね、それじゃあ……」

 千里さんが身を寄せてくる。いつかの帰り道を彷彿とさせる。そして耳元で囁いた。

 「柊君と二人きりで食べたいからよ」

 そう言って千里さんは体を離した。

 「えっと、それは……」

 「そ、そのほうが恋人っぽいからよ」

 千里さんが慌てて付け加える。ああ、なるほどね。そうだった仮の恋人として青春を謳歌するって決めたじゃないか。それがわかると慌ててる彼女が可愛く見えてきた。いつも可愛いけどそういう可愛さじゃなくて、なんというか意外に照れ屋なんだなってことがわかって容姿としてではなく人として可愛いなって思えた。そう言えばお弁当を作るって言った時も顔が赤かった気がするな。

  

 「高岡、ダメだったよ」

 「なん、だと。何故だー!」

 泣きそうにな顔の高岡。

 「理由は本人から口止めされてるから言えないけど、そのドンマイ」

 「うるせー、この勝ち組がー!」

 高岡の悲痛な叫びが教室に木霊するのだった。

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