綾瀬さんとの登校
知らない天井が見える。家とは違うどこか別の場所なのだろう。視界を左右に振る、右側には窓が見えて雪が降っていた。どうやら今は冬のようだ。左を見てみると点滴のようなものが置いてあるのが見えた。どの管はどうやら僕の左腕に繋がっているようだ。誰もいない。仕方ないのでしばらく天井を眺めることにした。白い天井だなー。ぼんやりとそんなことを考える。天井を見続けるのに飽きてきたところで、ノック音が聞こえた、誰か来たようだ。どうぞ、と声を発しようとしたが声が出なかった。ノックをした人物はこちらの返事を聞かずに部屋の中に入ってきた。茅野さんだった、手に花束をもっていた。茅野さんは扉を閉め、こちらに振り向くと目を丸くした。
「ひいくん!」
持っていた花束を床に落としてこちらに駆け寄ってきた。ぎゅっと手を握られる。
「よかった、目が覚めたんだね」
茅野さんの目にはうっすらを涙が浮かんでいる。どうしたんだろう、僕の身になにか起きたのかな? それを聞こうにも声が出ない。
「__が起きた__聞い__きは__ようかと_ったよ」
え、なに、聞こえないよ茅野さん。
「覚え_る? _______たんだ_」
断片的にしか聞こえない。ところどころノイズが入ってうまく聞き取れない。千里さん……、そうだ、千里さんはどこだろう。彼女に会いたいな、会っていつもみたいに笑顔を向けてほしい。そのためにもこの状態をなんとかしなくてはいけない。こんなところを見られたらきっと心配するに違いない。
「ひいく___に犠__はい____」
体を動かそうと力をいれてみる。ダメだ体が鉛のように重くてまるでいうことを聞いてくれない。これじゃあ彼女に会いに行けない、頑張るんだ僕! しかしいくら意識したところで体は動かなかった。それどころか意識がどんどん遠のいていく。ああ、こんなところにいる場合じゃないのに……早く彼女に会いたい。そういえばどうしてそんなに会いたいんだっけ? ああそうだ、彼女は僕にとって大切な人で誰よりも愛おしい存在のはずだ。…………あれ? 彼女ってだれだっけ? 意識が沈んでいく、深く深く落ちていく。
目を覚ます。天井が視界に入ってくる。うん、よく見知った我が家の天井だ。
「今のは夢だったのか」
それにしては妙にリアルに感じられた。一体あの夢はなんだったんだろう。夢の内容を思い出そうとするが、靄がかかったように思い出せない。
「まあ、夢ってこんなものだよね」
眠っているときは記憶の整理をするって聞いたことがある。夢はその記憶を見ている状態らしい。なので妙なリアルさやデジャブを感じることもあるみたいだ。
スマホで時間を確認する。まだいつもの起床時間には余裕がある。たまには早く起きてゆとりを持った登校をしようかな。
「とりあえずシャワーでも浴びよう」
いつもより少し早い時間に家をでる。通学路を歩いていると、途中で見知った顔に遭遇した。
「千里さんおはよう」
「あ。おはよう柊君」
「こんなところに立ってどうしたの? 誰か待ってるのとか?」
「柊君を待ってたのよ。一緒に登校しようと思って。その方が恋人らしいかなって思って」
「恋人……」
そうだった、昨日千里さんから告白を受けて仮の恋人関係になったんだった。惜しいことをしたな、仮じゃなくて本物の恋人同士なれたらどんなにいいことか。待てよ、そもそも僕は彼女のことを好きなのだろうか? 考えてみる。うん、一緒にいると心地いい気持ちになるし楽しい。しかしそれが恋愛感情としての好きかといわれるとどうだろう。うーん、ピンとこないや。生まれてこの方誰かを真剣に好きになったことがない僕には恋愛に対しての経験が圧倒的に不足していた。
「それなら言ってくれればよかったのに。いつもはもっと遅い時間だから待たせちちゃったかもしれないよ?」
たまたま今日は早く目が覚めただけでいつもは登校時間ぎりぎりくらいに通学している。
「私がただ思いついたことだから気にしなくていいわ。それに昨日は疲れてたみたいだから電話するのも悪いと思って」
「ああ、そういえばそうだったね。じゃあ明日からは時間を決めて一緒に登校しない?」
提案してみる。これでOKをもらえれば明日からも千里さんと一緒に登校できる。毎朝彼女の顔を見れるなんてラッキーなイベントを逃すわけにはいかない。
「そうね、じゃあ7時半にこの場所で待ち合わせでどうかしら」
「OK、明日からよろしくね」
「じゃあそろそろ行きましょうか」
千里さんと二人で学校へ向かう。途中、いつも昼食を買うコンビニの前を通った。
「あ、ごめん。少し待っててもらっていい? お昼ご飯を買いたいんだ」
断りを入れてからコンビニに向かおうとすると、制服の袖をつかまれた。
「あの、お昼ご飯なら、お弁当、作ってきたから……」
千里さんが顔を赤くしながら言う。
「本当に作ってきてくれたんだ」
そういえば呪いを解く協力のお礼にお弁当を作ってきてくれる約束だった。
「うん、だから、その、お昼は一緒に、お弁当食べよう?」
「もちろん!」
千里さんの手料理を食べられるな昨夜の晩御飯から抜いてきたっていい。それぐらい彼女の手料理には価値があると思った。




