綾瀬さんの告白
「おじゃましまーす」
綾瀬さんと一緒に我が家に帰ってきた。まずい、部屋の掃除なんてしてないよ。綾瀬さんに不潔な男として見られたらどうしよう。というかなんで来たんだ? いや、綾瀬さんが我が家にやってくることに不満はない。むしろウェルカムである。でも、でもさあ、心の準備って必要じゃない? あれ、というかなんでこんなに動揺してるんだ、別にやましいことなんてないじゃないか。そうだ、どーんと構えてればいいじゃないか! そういうことにして開き直ることにした。
「なにもないところだけど適当にくつろいでね。今、お茶入れるから」
とりあえず僕の部屋まで案内したところで台所に逃げる。開き直ったつもりでいたがやはり部屋で二人きりなのは心臓に悪い。お茶はじっくり蒸らしてから淹れることにしよう。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとう。……温まるわー」
綾瀬さんが微笑む。やっぱり彼女の笑顔はいつ見てもいいな。こっちまで笑顔になりそうだ。
「で、急にお邪魔した理由なんだけど」
そんなことを考えていると綾瀬さんから話を振られる。そうだった、なんで来たのか聞いてなかった。
「えっと、その、急にこんなこと言われても迷惑だと思うんだけど……」
綾瀬さんは顔を俯かせてもじもじしている。こんな彼女を見るのは初めてだった。いったい何を言われるんだろう。自分の秘密を打ち明けた時でさえ堂々としていたのに。僕は静かに彼女の次の言葉を待った。
「青春って、何も部活だけじゃないと思うの」
「うん、そうだね」
「それで、恋愛も青春のうちに入るんじゃないかなって思ったの」
「うんうん、そうだね。恋愛も青春だね」
高岡もいつも彼女欲しいって言ってたもんな。青春に恋愛はつきものだよね。
「それで、えっとその、わ、私と……恋人になってください!」
「…………へ?」
今、彼女はなんて言った? 恋人になってください? 恋人ってあれだよね、男女の仲が大変睦まじい関係のことだよね。恋人かー、いいねー、僕も綾瀬さんみたいな人だったら恋人になりたいよ。いやいや待て。その綾瀬さんに恋人になってほしいって言われたんだ。
「え、あ、その……」
言葉が上手く出てこない。もちろんOKなんだけど、なんで僕なんだろう? 綾瀬さんならいくらでも相手を選べるはずなのに。
「僕でいいの?」
何言ってるんだ僕! 早くOKするんだ! こんなチャンス生きてるうちに二度とないぞ!
「桐ケ谷くんがいいというか、桐ケ谷くんじゃなきゃダメというか……。本物の恋人同士じゃなくてもいいの、私の呪いが解ける間だけでいいから!」
「呪いが解ける間?」
「そう、その間だけ恋人のフリをしてほしいの」
なるほど、どうやら恋人のフリをすることで呪いが解けるかの実験らしい。そういうことならお安い御用だ。むしろ、偽物でも綾瀬さんの恋人になれることはうれしい。
「いいよ、僕なんかでよければ」
「! ありがとう! これからよろしくね、柊君」
「え、今名前で……」
「このほうが恋人同士っぽいかなって思って」
「そういうことなら、せ、千里さん」
やばいかなり恥ずかしい。呼びなれない方で呼ぶだけでもここまで恥ずかしくなるとは思わなかった。
「えへへ、やっぱり照れるね」
「必ず呪いを解こうね、あや、千里さん」
たとえ呪いが解けるまで間だけだとしても、千里さんとの恋人の時間を大切にしよう。
瞬間、ノイズが走る。あれ、なんだ今の?
「どうかした?」
「ううん、なんでもないよ」
何だったんだろう今のは。そういえば千里さんと会ったときにもこんなことがあったっけ。でも今回は何も思い出していない。昨日、今日が楽しみすぎて眠れなかったからただの寝不足かな。そう思い納得することにした。
「ごめんね、少し寝不足で眠いかも」
「それならいいのだけれど。私はこれで帰るからゆっくり休んでね?」
「うん、ありがとう。それじゃあね」
千里さんを玄関まで送ってから僕は寝ることにした。




