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幻想世界  作者: 誰か
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砂漠の都市

幻想世界、好きです。心が癒されますし、何故か心を落ち着かせます。

美しい自然、荒廃した街並み。そのような壮大な風景の前に、一人の人間が小さく描かれているのがとっても好きです。

人間は、たった一人だとちっぽけな存在だな、っと深く感じるからです。

とにかく意識したことは「同じ表現を二度使わない事」です。語彙力が試されるので、難しいんですよ?


作者から読者様へ一言。 『目を閉じて、心で読め!』

 砂漠。

 見渡す限りの砂漠。

 風に運ばれた粉塵が山を形成し、それが幾重にも重なって波を作る。サラサラとしたきめ細やかな砂は、朝日に照らされて眩い。織り成す波紋は穏やかで優しい波のようで、煌めきを飛ばす砂は海のようだった。

 そんな砂漠を、『誰か』が歩いていた。それは男かも知れないし、女かもしれない。大人かもしれないし、子供かもしれない。あるいは私かもしれないし、貴方かもしれない。それは存在しているようで、していないような『誰か』。しかし、確かに『誰か』の踏みしめた後は、ここの砂に軌跡を残した。とはいえ、この美しい地球にとってはちっぽけな物には変わりなく、この美しい地球にとっては直ぐに掻き消える程の小さな物なのだが。

 砂漠に指針は無く、あいにく雲一つ無い。唯一の指針は空で爛々と輝く太陽ばかりだが、『誰か』の進む足に迷いはない。この旅の目的地は決まっていて、この旅の終点は無いのだから。

 『誰か』にとって、迷うことに意味は無い。迷うことで得る世界もまた素晴らしいものなのだから。

 進む足取りは軽やかとも、重苦しくとも無い。ただ、淡々と同じ歩幅でこの世界に足跡を残す。息は荒くなく、さりとて浅くなく、まるでこの世界に溶けるような、消え入りそうな体を、足を動かしながら、ただひたすら前へ、前へと進む。やがてその先、目的地が見えて来た。

 右も左も一面が肌色の海。北も南も西も東も、そんな概念さえも無用になってしまうような海を歩き続け、『誰か』はようやく町へ辿り着いた。

 実はつい昨日のことなのか、それとも何世紀も前のことなのか。過去、ここには大きな都市があった。名前はカタカナ八文字で書き表されていた気がする。かつての栄華は見る影も無く、長年の砂風によって巨大なビルは朽ち果て、今にも倒れそうにその大きな体を隣のビルに預けていた。『誰か』は立ち止まり、それを見上げて思う。

 人類が存在した証であるビルは人類の絶滅と共にその担うべき役割を失った。しかしながら、長き年月を経ても立ち続けるのは一重に、人類が生きた証拠を残していたいからか。


――もう、疲れたよ。

 心の折れた、ビルは言ったかもしれない。

――まだまだ大丈夫、人類の残した技術はこんなものではないはずだ。さぁ、諦めるな。安心しろ、俺が支えてやる。

 寄り添う、ビルはそう言ってるのかもしれない。


 大きなビルが立ち並ぶ大通り。風に吹かれ、砂に犯され、それでもなお立ち続ける雄姿は太陽の熱線をも耐え忍ぶ。そんな大通りの真ん中で、『誰か』は足を止めて目を閉じた。

 耳を澄ませば聞こえてくる、風の音――雨の音、足の音。この生きた証明達が教えてくれる、人類の描いた景色。沢山の話声、笑い声、叫び声、歌声。そんな音につられて歩みを進める。大通りから脇道へ、脇道から右へ、左へ。

 そこで『誰か』は足を止めた。そこには巨木のようなビルが立ち並ぶ場所から少し離れた小さな円球の家。『誰か』は吸い寄せられるようにその扉を開けて、中へと入っていく。

 小さな小屋に入ると直ぐに目に飛び込んだものは、ズラリと並んでいたモニターだったものの群れであった。薄暗い小狭な部屋で、私に背を向けるようにあった椅子が風も無いのにゆらりと揺れた。

――ギィ

 小さな金属が擦れた特有の音が鳴り、そこに座る主が露わになる。そこにはやや薄汚れ、それでも穢れを嫌う白衣に身を包む一体の骸骨であった。椅子に深く腰掛け、まるで『誰か』が来るのを待っていたかのように骸骨は『誰か』を無いはずの目で見ていた。

 『誰か』が近寄ると、椅子はひとりでにまた回転してモニターだったものの方へ向き直った。『誰か』の視線、自然にモニターだったものの前にある机に注がれる。そこには煤けた紙が何枚も散らばっていた。何かの実験のデータなのか、長々とした文字と一緒に様々な形式のグラフが添えられているが、『誰か』の目に留まったのはそんな難しいものではなかった。

 たった一文。たった一言。誰の書置きなのか、この骨の主の書置きなのか。


"人は天から雨を奪った。故に、天は人から雨を奪った。"


 『誰か』はその小さな家を後にした。

 日は傾き、夕日が肌色の海を焦がし紅に染め上げる。血に染まったかのような赤い色は直ぐになりを潜め、やがて漆黒の闇が来る。朧げな月明かりを頼りに進む『誰か』は、行く先にオアシスがあるのを見た。その右手に持った袋をギュッと握りしめた。それからオアシスまでの靴の跡は、少しだけ間隔が広がった。

 着いたオアシスに、水は泥だまりがほんの僅かにあるだけだった。『誰か』はそれを丁寧に掬い上げ、右手に持った袋の中身にかける。それが、オアシスの最後であった。

 『誰か』は少し苛立ちを覚えた。それは、遠くの昔に忘れてしまった感情なのに。それは遠くの町に置いてきた感情だったのに。『誰か』はその手でオアシスの、最後の泥だまりがあった場所を手で掘り進める。結果、得られたのは無意味で、無駄で、無情な現実だけだった。

 『誰か』はしばらくそこで呆然と立ちすくみ、やがては己の足で前へと踏み出す。


――はたして意味などあるのだろうか。


 闇に包まれた真っ暗な世界の中で、『誰か』は己に問いかけた。それは誰も答える者のいない、悲しい自問自答だった。

 『誰か』は少し進んだ所で、己の頬に手を充てた。

 こぼれる、美しい雫。これは『誰か』の目から出たものではなかった。

 咄嗟に空を見上げれば、空に瞬く月は無い。


 『誰か』は歩みを止め、振り返った。既に歩いて暫く立つから、その景色にあのオアシスは無く、ただ変わらぬ砂漠が広がるのみ。

 それでも、それでも。


 『誰か』はしばらく息を止めてその景色を見つめ続け、やがて向き直ったかと思うとまた前へ、前へと進みだした。水に濡れ、重たくなった服を引きずりながら。

「美しい自然」→「残酷な現実」→「微かな救い」の順番で書きました。

今後もたぶん、こんな感じで書くのか書かないのか←


本当は絵で表現するのがベストなんですよね、幻想世界っていうのは。

でも、作者に未だに棒人間ぐらいしか書けない程絵心無いので、別の、出来る力を使って表現しました。


さて、どうして町に骸骨が無かったのか。どうして小さな小屋にだけ骸骨があったのか。『誰か』がした行為とは何だったのか。最後の描写はいったい、何を表しているのか。

答えは、読んで、想像して頂いた読者様の数だけあると思います。そもそも、幻想世界ってそういうものだと私は思っています。

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