~オープニング~
ここは天界。不遇な死を遂げた人間たちが集められるところだ。
多くの善良な亡者達は、この天界でこう告げられる。
「生まれ変わるなら元の世界がいいですか?それとも、新世界がいいですか?」
天界を治める女神様にそう告げられた人々は、この質問に答えなければならない。
現世でのやり直しを求めるのか未開の地での新しい冒険を求めるのかを決めるわけだ。
こうして自分の新天地を選択した者たちはそれぞれの新しい人生へと旅立つ。
天界とはそういうところだ。
かく言う俺は亡者でもなければ女神様でもない。一介の下働きだ。
女神様と言えど、ただ一人でこの天界を仕切るのには無理がある。勿論、本気出せばそれ位やってのけるかもしれないが。
どちらにせよ、女神様に必要以上の負担を掛けるわけにはいけない。
そういうわけで天界における雑用が俺たちの仕事なのである。
しかし、じゃあお前は元々何者なのかと聞かれれば、少々返答に窮してしまう。
と言うのも俺にはこの仕事に就く前の記憶がない。
いや、厳密に言うならばそれも違うな。
実は、天界で死者に与えられる選択肢はもう一つ存在する。
即ち、「天界に残り、女神様の為に働く」という選択肢が。
俺は死後、この選択肢を選んだ。それは間違いない。
しかしこの選択肢を選ぶには、条件があった。
そう、現世における記憶の消去である。
この条件が何のために設置されているかはわからないが、これに同意をして初めて単会に就職できるわけである。
個人的に言えば、この仕事には何の不満もないし、むしろ毎日美味しい天界料理を食えてラッキーぐらいには思っている。
だから記憶を失ったことに対し、後悔も未練もない。
もし有るとするならば、それは寂しさである。時々自分の薄っぺらさに辟易してしまうのだ。
もしあの時に違う選択肢を選んでいれば。
そんな戯言を言うのは、これでおしまいにしたいものだが。