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2-3

 俺たちの前で肩を揺らす4匹のウォーラーからは、うっすらと黒色の湯気が立ち昇っているかのように見えた。

 もちろんそれは目の錯覚なのだが、そう見えてしまうほど俺たちにとって目の前の4匹のモンスターは脅威だった。

 肩を大きく揺らしているところからすると遠くから走ってきたのだろうか。まったくもってご苦労なことだ。

 やつらは俺たちが倒した仲間に近づく。

 さきほどのウォーラーが1匹だけでいたということは、さながら"はぐれウォーラー"とでもいったところか。

 やつらにしてみれば、弔い合戦ということになるのかもしれない。

「俺とジンとで足止めをする。3人はその間に逃げろ」

 短く言ってソードを構える。

「げぇ、俺も足止め役に入ってんのかよ」

 ジンが嫌そうな顔をする。

「やつらとまともにやりあえそうなのは俺とおまえしかいないんだ。当たり前だろう」

 俺はやつらを見据えたままでジンに言った。

「仕方ねぇな。やるだけやってみっか。おい、聞いたろおめーら。俺らが仕掛けっから、その間にとっとと安全なとこまで逃げるんだぜ」

 ジンは鼻の下を指で軽く撫でて言った。

 もう一方の手はダガーを固く握り締めている。

「シーフって戦闘要員じゃないんだぜ本来」

 ひとりごちると目つきを厳しくして口を閉ざす。さすがのジンでもこれ以上は軽口を叩く余裕がないといった様子だった。

「あたしが」

「あん?」

「あたしが魔法を使えたら……こんなとき。役に立てなくてごめん」

 きっと唇をかみ締めているのだろう。リベルの悔しい気持ちが背を向けていても伝わってくる。

「ないものねだり言ってもしゃーねーだろが。ほれ行った行った。……とと」

 しっしっ、と手を振るついでにクラッセに貸していたダガーをぶん取る。

「なにかあったらおめーがリベルとレミを守んだぜ坊主」

 相変わらずの"坊主"扱いだが、クラッセは「はい」とだけ言った。

「よし、行くぞジン!」

 俺が突撃しかけたとき、

「ちょいと待て! いい手っつーのもおこがましいが、逃げ切れるかもしれねぇ策ならあったぜ」

 そう言ってジンはリュックサックの中身をクラッセに投げつける。

「ディールと2人で誘導すっからよ。うまくやれよ」

 ジンが言い終えてクラッセが返事する間もなく1匹のウォーラーがゆらりと揺れる。

「やられてくれるなよジン」

「誰に言ってんだ、おめーこそなっ!」

 俺たち2人と4匹のウォーラーが動いたのはほぼ同時だった。

 背後ではクラッセたちが走り出す音が聞こえた。

 ガキィ!

 跳躍してきた先頭のウォーラーの鋭い爪をソードで受ける。

 すかさず続く2匹目を横っとびでかわす。

 どうやら俺たち2人に対して2匹ずつのコンビで攻撃を仕掛けてくる腹のようだ。

「まともにやりあおうとするな! 少しの間だけ凌いだら俺たちも後に続くぞ!」

 声をかけるとジンも別の2匹の攻撃をかわして体勢を整えるところだった。

「わーってら! くそっ、服が重くてきちーぜ!」

 言ってびしょ濡れの上着を脱ぐ。

「こんなもん、くれてやらぁ!」

 それを目の前のやつの顔めがけて投げつける。

 顔にまとわりつくジンの上着のせいで方向を失ったウォーラーが暴れるが、おかまいなしに牙を抜くもう1匹にジンは「うおっと!」すんでのところでかわす。

 俺は容赦なしに爪を奮う2匹のウォーラーの攻撃を、ギリギリのところでソードで受け流した。

「よっしゃ、逃げっか!」

 しばしウォーラーたちの猛攻が続いた後、ウォーラーにダガーを投げつけたジンが叫んだ。

「そうだな……もう、これ以上は無理だ」

 俺たちは頷き合う。

 さすがに1人で2匹も相手にするのは無謀だった。

 倒そうとするのではなく、攻撃を避けることに専念したからこそなんとか凌げただけだ。

「しつこい!」

 なおも俺へ向かって攻撃の手を加えようとする2匹に思いっきりソードを薙ぎ払う。

 全くといっていいほど危なげなく後ろへ跳んで俺の攻撃をかわす2匹のウォーラー。

 だが、これでいい。

 距離を取ってくれればそれだけ逃げ出す隙もできるというものだ。

「おらぁ! 喰らいやがれ!」

 リュックサックを手に持ったジンが残りの林檎を投げつける。

「急げジン!」

「おう!」

 ウォーラーたちが怯んだ隙を縫って俺たちは走り出した。

 向かうはクラッセたちの逃げた方向だ。

 不幸中の幸いとは今回の場合では、ウォーラーというモンスターがさほど足の速いモンスターではないことだろう。

 本来の四足獣が持ちうる素早さを犠牲にして、やつらは牙と2本の爪を自在に操って攻撃してくるのだ。

 戦闘においてはそれが脅威となるのだが、こと獲物を追いかけることに関しては俺たちとさほど足の速さは変わらない。

 といっても、やつらは獣が持つ並外れた体力で執拗に追いかけてくる。

 すぐに距離は縮まらないにしても、息も絶え絶えな俺たちとウォーラーとでは、いつかは追いつかれてしまうのは目に見えている。

「あいつら、どこに、いやがんだ!」

 短く息を吐きながらジンが怒鳴る。

「3人を信じて走ろう!」

 俺はジンを励ますように叫び返した。きっとクラッセたちが待っていてくれるはずだ。

 だが、いよいよウォーラーたちと俺たちとの距離はいくらもないほどになっていった。

「こっちよ! ディール! ジン!」

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