6-7
俺はジンたちに言った。
少しでも人間の心が残っているならば、少しでも奴に俺たちの心が届けば……。
するとジンはなにか言いかけて、ぐっ、と言葉の飲み込んだ。
「そうなったらそうでもいいだなんて、そんなこと言わないでください! これ以上、目の前で人が死ぬのなんて……。兄さんが死んで、その上、大切な仲間まで失うなんて僕はいやだよ!」
「クラッセ……すまん。そうだったな、俺は死ぬ気なんてないさ」
見るとクラッセは乱れた髪のままでうつむいていた。自分の命を軽々しく考えるなんて、我ながらバカなことを口走ってしまったものだ。バツの悪い気持ちでクラッセに歩み寄り肩に手を置く。
そこで黙ったままだったジンが口を開く。
「おい、奴に背中向けてんじゃねー! ……俺ぁ、ディールみてーに紫の巨人が改心するよーなタマだなんて思っちゃいねーけどよ。正直、まともに戦って倒せるとは思えねー。だからよ、ディールが奴を説得するってんなら、それに賭けてやってもいいぜ。それでダメなら戦うしかねぇんだからな」
ジンは「試すだけならタダだからな」と付け足して唇の端を上げる。
乾いた笑い声が聞こえてきたのはその時だった。
「ギャッギャッギャッ、オモシロソウナハナシヲシテイルジャナイカ。ダレガダレヲセットクスルンダッテ?! モウココハ、モヌケノカラダトイウノニナァ!」
紫の巨人は俺たちの話を聞いていたのか、さも可笑しそうに腹を抱えてひとしきり笑った後に、自分の胸に親指を突き立てた。
「もぬけの殻だと? どういう意味だ?」
言っていることがわからずに顔を見合わせる俺たちを見て、満足そうに紫の巨人は口の端を吊り上げる。
「ソノマンマノ意味ダヨ。バカナマドウシドモハ、チカラヲモトメルアマリ、コノオレサマニ心ヲムシバマレテイクノニキヅカナカッタッテワケサ。ダカラセットクナンテ無駄、無駄。オトナシクシタホウガリコウッテモンサァ」
暗黒の空が怪しく光った。巨人と同じ色の紫色に光る魔法陣だ。今にもこの街を飲み込んでしまいそうなほどの禍々しさを感じて、俺は思わず身震いをした。
「てめぇ、なにもんだよ! 魔道師連中の心を蝕んでいったって? あれが闇に憑かれた者の正体ってことなのかよ。おい、あてがはずれたなディール。ありゃぁ説得なんてできるようなやつじゃないぜ」
ジンの言葉に俺は苦々しく頷く。悔しいが確かにそのようだ。あれの言ったことが本当なら、すでに人間ではない相手に説得など通じるものだろうか。
「悪意と、憎悪を糧にして、誰にも気付かれない、うちに、心に侵入、していったって、こと?」
レミのつぶやきを聞き取ったのか、紫の巨人はいかにも上機嫌そうな笑みを貼り付けて口を開く。
「ギャハ! オレサマハアノカタノチュウジツナルシモベ、黄昏ノ王ケイオス。ナカナカ時間ガカカッタガ、ヨウヤクコノ世界ニデテクルコトガデキタッテワケサァ。負ノ感情ヲモツニンゲンハカンタンデイイネェ、闇ノチカラヲワケテヤレバ、堕チルトコマデ堕チテクレルンダカラサァ」