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5-5

 薄暗くなった街に明かりの灯ったランタンを持つ兵士が3人、槍を持つ兵士が3人、その全員の腰にはロングソードくらいの剣が差されている。

「なるほど……。確かに5人の冒険者だな」

 顎に手を当てて先頭に立つ兵士がつぶやく。

「あたしたちに何の用かしら?」

 首を傾げるリベルに俺は「さぁ?」とだけ答える。ただ、彼の発言からは俺たちのことを知っていたように取れる。

「なぁ、俺ら疲れてんだよ。手短かにしてくんねーか」

 仏頂面でジンが言った。

「それに僕たちにはやらないといけないこともありますしね」

 クラッセも続けて言うと、先頭の兵士は「ふむ」と一言だけ言ってから、「では単刀直入に言おう」と俺たちを見渡す。

「きみたちがジグザール殿の言う5人の冒険者たちだと確認した。きみたちを拘束するようにという命令が出ている。済まないがご同行願おう」

 はっきりと言った彼の口調に俺は自分の耳を疑った。わけのわからないことは今日だけで数えてもたくさんあったが、いきなり俺たちを拘束するとは何の冗談だろうか。俺たちがこのブュッフェにきて冒険者になってから、まだほんの少しだ。もちろん犯罪に手を染めるようなことなんてあるはずもない。

「ふざけてんじゃねーよ! 拘束だぁ?! 俺らがなにしたってんだよ!」

「そうよ! どうしてあたしたちが捕まらないといけないの?! あたし、何も悪いことなんてしてないわ!」

 俺が抗議の声を上げるよりジンとリベルが叫んだ。2人とも全く腑に落ちないといった剣幕で叫ぶ。当然のことだろう。

「俺も納得がいかないのですが、理由を聞かせてもらえませんか? 俺たちはついさっきこの街にきて、モンスターに襲われているのを見て撃退に加勢していただけです。俺たちのことを知っているかのような口ぶりですけど、それは一体なぜ?」

 努めて冷静に訊ねる。兵士は俺の目をまっすぐ見つめる。

「我が国おかかえ魔道師殿の命令なのだよ。男3人、女2人でパーティーを組んでいる冒険者を連れてこい、とね。そちらの黒フードは女の子なのだろう? あいにくと条件に合った冒険者たちはきみたちしかいないのだ」

 さらにその兵士は俺たちの容姿や特徴までを言った。それはピタリとはいえないが、大体俺たちに合っているものだった。

「ご同行願えないというのならば、力づくで、と言われている。どうか、手荒な真似はさせないでくれないか?」

 兵士は困ったような表情を浮かべて言った。

「そうまでして俺たちを拘束しようとする理由はなんなんです?」

 俺はそう訊ねる。すると兵士は、

「実はな、魔道師殿が神のお告げを聞いたんだそうだ」

「神のお告げ?」

「そうだ。だが、きみたちにとって良いお告げではないようだな。なにしろ連れてくるのに生死は問わず、ときている。穏やかじゃないことは確かだ」

 その言葉にクラッセがふらりと後ろに倒れそうになり、それを支える。

「そんな横暴な!」

 俺は思わず叫んだ。抵抗するなら殺してもいいだって? そんなことがまかり通っていいのか。あまりの理不尽さに言葉を失ってしまう。

「て、てめっ」

 カッとなったジンが兵士に殴りかかろうと身構える。だが、抵抗した場合は力づくでと言われている兵士たちだ。今、殴りかかるのはいたずらに寿命を縮めるだけだ。我に返ってジンを止めようとした瞬間、

「落ち着きなさいよ、ばかジン! ここでこの人を殴ったって意味のないことだわ」

 リベルがジンを右手で制して前へ出る。よく見るとレミもジンの服のすそをギュッと握っていた。

「そ、そうだジン。むやみに仕掛けたら俺たちの立場が悪くなるだけだ」

 ヒヤリとした額を拭ってジンに言う。

「ぐっ……。わーったよ。だけどよ、じゃーせめてそのお告げってのがどんなことなのかだけでも教えてくれよ。でなきゃ、はいそうですか、なんてついていけるわけねーぜ」

 自分を落ち着かせるためか、頬を軽く叩くと、ジンは腰に両手をあてて言い放つ。すると兵士は大きく首を振って、

「残念ながら、我々にはその内容は知らされていない」

 大きく息を吐き出しながら言った。

「きみたちがモンスター退治に一役買ってくれていたのは我々だって知っている、さっき見かけたからな。できることなら見逃してやりたい。しかし我々にも生活があるのだよ。ここで上に逆らっては路頭に迷いかねん。ジグザール殿は逆らう者には容赦のないお人なのだ。なに、後ろめたいことがないのならすぐに釈放されるだろうさ、ジグザール殿とは違い、陛下は話の分かる方だ。どうか穏便に我々についてきてもらえないか?」

 そうまで言われてしまってはさすがのジンも無碍(むげ)に断るわけにもいかないようだった。俺も、おそらくジンも故郷を失ったがゆえに冒険者としての道を選ばざるを得ない部分もあったのだ。帰ることのできる場所を失うということの辛さは十分すぎるほど身に染みている。何も言わないリベルやクラッセ、レミを見ると、彼らも同じような境遇にあるのかもしれない。

「わかりました。ではあなたたちについて行きます。しかし、仲間たちに危害が加えられることでもあれば、俺は黙ってはいませんよ」

 俺がそう念を押すと、

「かまわん。私とて、そこまで人道に背くようなことをするつもりはない。きみたちを連れていくまでが我々の仕事だからな」

 兵士たちが俺たちをはさむように3人ずつ前と後ろにつき、俺たちは城へと向かうこととなった。

「僕たち、どうなるんでしょうか……」

 不安げなクラッセが全員の気持ちを代弁するようにつぶやいた。


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