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5-2

「でもリベルさんが聞いた声って、一体なんだったんでしょうね」

 "5番"の部屋に向かうための通路を歩いていると、ふいにクラッセが言った。

「そういう杖、だってことなんですかね?」

 そういうクラッセに、俺はジンと顔を見合わせた。

「ゼンさんが師匠のメイローズって人からもらった杖らしいから、きっとそうなんじゃないか? これだけの要塞を作れる人だ、言葉を話す杖くらい作れてもおかしくないと思うけど」

「まー、そーゆーこったろ。呪文が浮かんでくるとかなんとか言ってたけどよ、年寄りの記憶なんざあてになんねーしな」

 2人に言われてクラッセは「そうですね」と軽く返事をする。当の杖をもっているリベル本人は少しだけ考えるような表情だったが、

「もうすぐ5番の部屋につくよ〜」

 リンリンが言い、俺たちが足早になったのを見て、気をとりなおすように「急ぎましょ」とだけ答えた。

 部屋に入ると小さな魔法陣が床に描かれていた。リンリンが取り出した鈴をひとつ鳴らすと、ふっ、と体が浮き上がるような感覚になった。そして、次の瞬間には辺りが一変していた。




 目の前には石碑がぽつんと立っていた。文字が何行か刻まれていたが読むことはできない。魔法の呪文かなにかなのだろう。俺たちは森の少し開けた小高い丘のような場所に立っていて、木々の隙間からは遠目に街が見えた。急げばそんなに時間はかからないだろう。

「ここからじゃ状況がわからねーな。さっさと行こうぜ」

 きびすを返しながらジンが言った。彼の方を見ると山道がなだらかな傾斜を描いて街へと続いているようだった。

「なんだか今日は走ってばかりね、あたしたち」

 街を目指して走っていると、隣を走るリベルが言った。肩をすくめて苦笑を浮かべている。

「ほんとにな。冒険者ってのは実に大変な稼業だよ」

 同じく笑い返しながらリベルを見るとジンが叫んだ。

「おいっ、見ろよ! 黒い蝶だぜ!」

 瞬間に緊張が走る。リベルと頷き合うと俺はブロードソードの柄にそっと右手をかけた。

 木々が開けると、そこには外壁に囲まれたブュッフェの街と、その上空を覆い尽かさんばかりの黒い蝶の大群が群がっていた。




 外壁をたどって門へと急ぐと、普段は両脇に立っているはずの兵士たちはそこにいなかった。その代わりとでもいうように、門から覗く街の中からはいつもと違った異様な雰囲気が漂っていた。

 人々がざわめきながら天を仰いでいる。異常なほどの数の飛来してきた黒い蝶に不穏なものを感じずにはいられないのだろう。

「ど、どうすればいいんですかね僕たち」

 街へ着いたものの事態を解決する方法がわからずクラッセが言った。

「どうって……"闇に憑かれた者(パラサイトイビル)"ってやつを見つけ出してやっつけりゃーいいんだろーがよ」

 小さく舌打ちしながらジンが言う。そういう彼もどうやって"闇に憑かれた者"を探し出せばいいのか見当もつかないのだろう。森にいたときには向こうから襲ってきたが、これだけ大勢の人がいる中でわざわざ俺たちを狙って襲ってくるとはわからない。なにしろ、俺たちを襲ったことに理由が見つけられないのだ、たまたま近くにいた俺たちを狙っただけかもしれない。

「あ、あんたたちっ、冒険者ギルドの人たちかい? なんだいありゃ、ちょっと前から見かけるようになったと思ったら、いつの間にか空を埋め尽くしてねぇ……。気味が悪いったらないよ!」

「おばちゃん、ちょっと前ってこたぁ、まだ誰も怪我とか襲われたりしてねーのかよ?」

 俺たちの姿を見かけたのか、不安げな様子で話しかけられて、ジンは聞き返す。

「怪我なんて誰もしてないよ。あれはモンスターなのかいやっぱり」

「大丈夫、たとえモンスターでも冒険者の俺たちがなんとかしますから」

 胸を張って言えるほどの自信もないが、余計に心配させないように言う。

「そうかい。門番の人たちは見回りするって他の人たちとどこかへ行ったよ」

 俺は空を見上げる。黒い蝶が埋め尽くしているが、一向にそれが降りてくることはない。まるで様子でも窺っているかのようだ。嵐の前の静けさとはこのことを言うのだろうか。

 大通りを進むと、やはりどこもかしこも人々は空を眺めていた。

「その"闇に憑かれた者"ってやつの魔力を探り当てることってできねーのか?」

「ちょっと! 魔法が使えるようになったばかりなのに、そんなことできるわけないじゃないのよ! ……熟練のメイジならできるかもしれないけど、あたしには無理よ」

 悔しそうにリベルが言った。彼女もできることならそうしたいだろう。それができず一番はがゆい思いをしているのはリベル本人だ。

「これ、どう、思う……?」

 背後の小さな声に思わず振り向く。

「どう思うって……杖が光ってますね。なんですかそれは?」

 クラッセがまじまじとレミの持つ杖を見つめる。杖の先端が淡く光っていて、それをレミは俺たちに見せる。

「魔法の武器だから、強い魔力に反応しているのかしら?」

 レミから杖を受け取りながらリベルが言った。その途端、杖は大きく輝きだした。

「きゃっ、なに?!」

 いきなり輝きだした杖の先端を眩しそうに遠ざけるリベル。

「なんだ、光が収まったな」

「一瞬よぉ、魔力を持っているリベルが持ったから光ったと思ったけど、なんか意味……アッ」

「どうしたんだジン」

 何を思いついたのかリベルから杖をひったくるようにして奪ったジンが、杖を掲げながら一回しする。俺とクラッセ、リベルは何事だろうとその様子を見ていたが、レミは「そういう、こと」と納得したように言った。

「つまり、ほれ」

 ジンが大通りのななめ向こうへと向けた。

「あ、光ってます。それってどういうことですか?」

「にぶいやつだな。これってきっとよぉ、敵さんのいる場所を指してんじゃねーかってこと」

「ジン、その敵っていうのは……」

「"闇に憑かれた者"……かも、ね」

 そう言ってレミが続ける。

「ゼンさんは、時代の節目、に"闇に憑かれた者"が現れると、言ったよね。そして、それは"小さな太陽(ティダリア)"が、目覚める、とき。つまり、その時のために、用意、していたのが、宝物庫に、あった……」

「魔法の武器ってことか」

 ジンにレミは頷く。

「じゃあ、僕たちの武器にもなにかの能力があるんですか?」

 俺はブロードソードを見てみる。だが、うんともすんとも言わない。初めて手を触れたときの熱した鉄の棒に触れたときのような激痛は一体なんだったというのだろう。

「そう、かもしれない、し、そうじゃない、かもしれない」

 クラッセは俺を見る。もちろん俺にもわからないので首を振ると、

「それより敵さんはあっちにいるってこった。話なら後でしようぜ、平和を取り戻した後でよ!」

 大声で言ってジンがニヤリと笑う。平和を取り戻す、とは少し大げさだと今までなら思うだろう。だが、リベルのふと呟いた声に俺たちは何かを感じずにはいられなかった。

「時代の節目って……なにかしら」

 レミの持つ杖が光る方へと走る。先頭をジンが走り、続いて俺とクラッセ、リベルとレミが最後尾を走った。

 道を曲がると、ふいにジンが俺の前から横っ飛びでよけた。どうしたのかとジンを見ると、

「前! まっえっ!」

 ジンの声で振り返ると目の前になにかが吹っ飛んできた。

「うおっ」

 とっさに受け止める。ずっしりとした重量がある。受け止めた手の平に冷たい感触があった。よろけながらもしっかりと後ろ足でふんばると、それは人間だった。

「わっ、兵士の方じゃないですか?!」

 冷たい感触は兵士の着る鎧のものだった。

「こらっ、ジン。避けるなよ! 大丈夫ですか?」

 ジンに毒づいてから兵士に声をかける。その時、悲鳴が辺りに響いた。


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