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4-9

「おっ、このダガーなんていいじゃねーか」

 ジンにとっては俺たちが呆れて見ていることなど気にもならないことのようだ。さっそく並んでいる武器の中を物色しはじめる。

「僕たちも武器を探しましょうよディールさん。ディールさんはやっぱり剣を探すんですか?」

 呆れていても仕方がないとわかったのか、クラッセもジンに続く。

「そうだな。槍の扱いはわからないし、慣れている剣の方がいい。クラッセはどうするんだ? やっぱり斧にするのか?」

 クラッセといえば森に出てすぐにお兄さんの形見であるという戦斧をなくしたまま、今の今まで丸腰だったわけだが、せっかくこれだけ武器を選べるのだから使いやすいものを選んだほうがいいのではないかと、ついお節介ながら思ってしまう。あとで斧を取りにいくにしても彼にはあの重量のある戦斧は扱えないだろう。今まではなんとか無事でこられたが、これから先もそうであるとはいえない。ずっと守っていてあげれればいいが、彼1人でなんとかしなければならない局面もいつか必ずくる。その時に使えない武器を持っていては……。

「安心してください。このショートソードなんか良さそうですよね、うん。いつまでも皆さんのお荷物になっていたら天国にいる兄さんに叱られちゃいますから」

 照れくさそうに頭をかきながらクラッセが言った。

「あら、装飾が凝っているわね。ちょっと素振りしてみたら?」

 ショートソードを手にしたクラッセに気づいたリベルが声をかける。彼女自身はゼンさんから杖をもらったので、特にすることがないらしい。ジンのリュックサックを取り上げたようで、大量に盗まれる心配がなくなったので、のほほんとクラッセを見ている。

「いいじゃない。クラッセはそれにしたら?」

「ええ、僕もこれが気に入りましたよ。これで皆さんにはもう迷惑をかけませんよ」

 クラッセがリベルと笑顔で笑い合う。そんな彼を見て、俺は自分の心配が杞憂に終わったと知り安心した。見た目はただの弱弱しい少年だが、芯はしっかりと強く持っているのだ。中には亡き肉親を想うがゆえに形見に似た品物を持つことにこだわる者もいるだろう。だが、クラッセは思い出の中に逃げこまずに、ちゃんと現在(いま)を見て、大事な道を選べる。外見だけでは計れない強さを持っているのだと。

 笑顔の2人を見ていると、自分もしっかりしなくてはと決意を新たにする。あの笑顔を生かすも殺すも、その一端を自分が担っているのだ。ずらりと並べられている剣に視線を移すと、1本の剣に目が留まる。

 何の変哲もないただの剣だった。年季の入ったような薄汚れた黒色の鞘に収まった剣の握りの端には、小さな赤い宝石の玉がついていた。なんとはなしに拾い上げようと、剣に手を伸ばす。

「っつ!」

 柄に指先が触れた瞬間、激しい痛みに手を引っ込める。まるで火で焼いた鉄の棒に触れたときのようだ。そこでやめにして別の剣を選べばいいようなものだったが、その剣がなぜか妙に気になり今度はおそるおそる鞘に触れてみる。

「なんともないな」

 鞘を持って拾い上げると、意を決して柄に指先を当てる。……特に熱くはない。鞘から刀身を一気に引き抜くと、銀色の刃が灯りを受けてキラリと光った。その広い刃は分類するならブロードソードに当たるだろうか。

 そういえば不思議なことだが、鎧の兵士たちが襲ってきた9つに分かれた通路がなくなってからというもの、ほのかな灯りが通路を照らしはじめたのだった。宝物庫に入ると、外の昼間と大差ない灯りが俺たちを出迎えた。お役御免となったロウソクたちはどことなく元気がなくなり、今は宝物庫の隅でしょんぼりとしていた。

「よう、どうかしたのかよ?」

 掲げたブロードソードをまじまじと見ている俺にジンが意気揚々と声をかける。お気に入りのダガーが見つかったようで、彼はホクホク顔だ。見れば手に持っているのとは別に、ベルトにも2本のダガーが差されている。

「いやなに、なんでもないさ。ジンもいいダガーが見つかったのか?」

 問われてジンは唇の端を上げる。

「まーな。つっても使えるのはこの3本てとこだな。こいつはリベルには秘密だぜ? ほら、これなんてでっけー宝石がついてんだろ? きっと高く売れるぜぇ」

 そういってジンは懐に忍ばせたダガーをこっそりと見せた。金銀をちりばめたような豪華な鞘に収まっているそのダガーにはジンの言うように大きな宝石がついており、戦いに使う武器というよりは儀礼用の品物といった風だ。

「おまえなぁ」

 リベルにリュックサックを取り上げられてもめげない男だ。転んでもただでは起きないとはこの男のためにある言葉だろう。

「その台詞は本人に直接言ったらどうだ?」

「へっ?」

 俺の言葉にジンはおそるおそる後ろを振り返る。そこには仁王立ちのリベルがいた。

「この……ばかジン!」

「待てって! こんくらいいいだろ?! あのバーサンだって勝手にもってけって言ってたじゃねーかよ」

 慌てて逃げようとするジンの顔にリュックサックが飛んできた。続いてリンリンがどこから見つけてきたのか小さなハンマーでジンを殴りはじめる。

「よく飽きませんね」

 もはや達観したようにクラッセが言う。

「まったくだ」

 誰かお茶でも煎れてきてくれるのならば、2人してすすっていられるような気分である。

「リンリンが一緒になってからというもの、ジンはリベルに頭が上がらなくなってきているなぁ」

「やっぱり1対2じゃ分が悪いんじゃないですかね」

 2人してしみじみしていると、ふいに皮鎧の背中をトンと叩かれ俺は振り向く。

「これ、かな」

 レミが5つ指輪を乗せた手の平を俺に見せる。

「ああ、ゼンさんの言ってた魔法の効果を強くする指輪ってやつか?」

 俺が聞くとレミは頷く。

「あー、それそれ。確かそれだったよ!」

 俺たちに気付いたリンリンがふわりと飛んでくる。

「こいつがありゃぁ、俺らでもなんとかなんのか?」

 リベルとリンリンの攻めからようやく解放されたジンが言った。すでに疲れ果てたような顔だ。

「どうだろうな。とにかくすぐにでもゼンさんの所へ戻った方がいいんじゃないか?」

 俺もジンもクラッセも戦うための武器は見つけることができた。レミはレミで護身用なのか、小振りの杖のようなものを手にしていた。言いながら指輪を中指にはめてみる。その瞬間、体に精気がみなぎってくるような感じがした。

『どうやら指輪を見つけたようだね』

 するとすぐに頭の中で声が響いた。

「ゼンさん?!」

「バァバ?! どうしてたの、心配したんだから!」

 リンリンが声を大にして叫ぶ。

『相手は思っていたよりも強い魔力のようでねぇ、さっきまでこっちの魔力を遮断されていたのさ。だけどねぇ、まさかこんなお嬢ちゃんがねぇ……』

 ゼンさんの声は言いよどむように小さくなった。

「お嬢ちゃんって、リベルのことか?」

 キョトンとした顔でジンがリベルを見る。

「えっ。な、なによ?!」

 全員の視線が集まったリベルは両手で体を庇うように一歩後ろに下がる。

「リベルがどうかしたんですか?」

 俺は姿の見えない老婆に向かって問いかける。もしかしたらリベルが聞いたという声となにか関係があるのかもしれない。数拍おいてゼンさんの声が響いた。

『もう何十年も前に眠りについてしまった魔道機構をそこのお嬢ちゃんが起こしたのさ』


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