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4-5

 深い霧ごしにみんなを見る。

 クラッセは「どうしましょう」とうろたえながら足元のロウソクたちと右往左往している。

「これだけの霧だ、はぐれてしまうと大変なことになるぞ」

俺が言うとクラッセはぴたりと止まって「は、はい」と姿勢を正した。

「それにしても、どうしたものだろうな。リンリンもこんなことは初めてだと言うし。なぁ、どの通路に進んだほうがいいと思う?」

 誰にともなく尋ねる。

「やいチビスケ、おめー妖精だろうが。なんかすげー能力とかってねーのかよ」

 口論をやめたジンが言った。デュランドー・シギルの伝記などでは妖精は不思議な力を持っているとされているのだ。俺もそこに淡い期待を抱いたのだが、

「そんなのないって。人間て勝手にそんなでたらめをお話にしちゃうんだもん、困っちゃう」

 リンリンの憤慨した声が聞こえた。

「でもそーゆーもんだって色んな話に出てくんぜ? なんだよ、全部嘘なのかよ」

「僕たち嘘を聞かされて育ってきたんですね」

 騙されたような口調のジンとうなだれるクラッセが口を揃える。

「あたしにできるのは姿を消すのと、空を飛ぶくらいかなぁ。だから期待しないでよね」

 困ったように言うリンリン。少し期待していただけに残念ではある。だが、そんなことを言っても何も事態は好転するわけもない。さて、どうするべきかと俺たちは霧でよく見えない互いの顔を見合わせたる。

「これってやっぱ、やつの仕業なのか?」

 ジンの言う、やつ、とは黒い蝶を操っていたであろう魔法使いのことだ。

「多分そうだろう。しかしおかしいな。ゼンさんが結界かなにか知らないけど、魔法を使って守ってくれているんじゃなかったのだろうか」

 後半は独白に近い形で呟く。

「あの時の、あれだね」

 レミが相槌を打つ。

 リンリンにここへ案内してもらったとき、俺たちの前に現れて行く手を遮ったゴーレム。そのゴーレムを打ち滅ぼした巨大な魔法陣を思い出す。あれには破魔の力でもあるかと思っていたのだ。

「きっとおばあちゃんが言っていたよりも強い魔法使いかもしれないわ。だから魔法陣も効かないんじゃないかしら」

 リベルは不安げに言った。そんなに強い魔法使い相手に俺たちはどうにかできるのだろうか、リベルでなくても不安を感じずにはいられない。するとリンリンが首を左右に振ってからリベルの言葉を否定した。

「ううん、バァバが前に言ってた。ここもそう長くないだろう、って。本来の持ち主がいなくなってから少しずつホウカイが始まっているって。長くないっていってもまだバァバがいるうちは大丈夫だって言ってたけど、ケッカイの力が弱くなってきているんだって」

「本来の持ち主? ゼンさんじゃないのか?」

 疑問を顔に浮かべてリンリンを見る。

「そういや遺産だとかなんとか言ってたよな。ふーん、廃れていくようなもんもらっても嬉しくもなんともないやな、あのバーサンがつまらなさそうにしてんのもそのせいかもな」

 なるほど、と俺は納得したが、だとすると安全に思えたこの場所も安全ではないということだ。ソードが折れて心もとないが、思わず柄に手を伸ばしてしまう。

「これの意図がみえねぇ。とにかくどれでもいいから進もうぜ。悩んでたっていいことなんかありゃしねーんだからよ」

 口の前に手をやってじっと考えこんでいたジンが言った。

「意図?」

 思わずオウム返しに聞き返す。

「ああ、なんのための霧と九差路なんだ? 霧なんてあっても邪魔なだけじゃねーか」

「邪魔って……そりゃそうですよ。きっとその魔法使いは僕たちの邪魔をしたいんじゃないですか? ジンさんでもたまに変なこと言うんですね」

 クラッセの呆れた口調が聞こえる。

「ばっか! だからなんのために邪魔すんだよ。あのな、ただでさえいきなり通路が9つに分かれた上に霧なんて立ち込めたら、誰だってどうするか悩むもんだろーが。先の見えない道ほど不安なもんなんてねーからな。だけどよ、邪魔なんてしてどーすんだよ。あの野郎はとにかく、殺したい殺したい、なんて考えてるあぶねーやつなんだよ。そんなやつがこんな回りくどいことなんてすっかっつーの!」

 ジンの言いたいことはこうだ。あんな強烈な殺意を持つ者ならば、わざわざ通路を増やしてみたり、霧で目をくらましたりしないでもっと直接的に攻撃してくるほうが納得がいくということだ。それがなぜわざわざ俺たちを足止めするような方法を取ったのか。

「それって、まるで魔法を使うまでの時間稼ぎしているみたいじゃない? あたしもよく知らないんだけど、強い魔法を使うには長い呪文を唱える時間と精神の集中が必要だって聞いたことがあるわ。もしかするとこの霧とかってそのため?!」

「それだとこのままここにいたら危ないってことじゃないですか?! 早くここから離れましょうよ!」

 霧で遮られた周囲を見渡してリベルとクラッセの2人が叫ぶ。


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