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4.幻影と目覚める太陽

 パチパチと薪のはぜる音が聞こえる。すでに春先とはいえ疲れた体に暖炉の暖かさは嬉しい。なんとも気の休まる思いだ。

「なるほどね、だいたいの話はわかったよ」

 目を閉じて聞いていたゼンさんが静かに頷く。

 まずは俺たちの話を聞きたいというゼンさんに俺たちが今日体験したことを話していたのだ。

 巨大なサボテンみたいなモンスターに遭遇したことに始まり、ウォーラーと戦ったこと、そのウォーラーとの戦いをブレスが現れたことでなんとか乗り切ることができたということ。

 そして黒い蝶がいつの間にか集まってきたかと思うと無機質な声と共に強烈な悪意に心を蝕まれていったこと。池に突如として現れた岩人形の傍らにはその黒い蝶がいたこと。

 よくしゃべるジンとリベルがいないので、ほとんどは俺が話し、たまにクラッセが相槌を打った。レミはゼンさんと同じように黙って話しを聞いていた。

「ところでリベルは本当に大丈夫なんでしょうか。一体さっきの魔法はなんなんです? ジンが魔法でできたドラゴンに追いかけられることとどんな関係があるんですか?」

 話し終えるとゼンさんに聞いてみる。

 この森でなにが起こっているのかはさっぱりわからないが、俺たちにとってはリベルの事の方が気がかりだ。レミも「どう、なの?」と催促するように聞いた。

「あのお嬢ちゃんは問題ないさ。じきに良くなるよ。あんたたちの話を聞いて合点がいったね。精神に直接攻撃をされて、それに抵抗するために眠っていた魔力が目覚めたんだね。だけど、あの子はまだ魔力をうまく制御できないんだろう? 眠っていたところを無理矢理起こされた魔力が張り裂けんばかりに内に篭っているんだからね、体調を崩すのも無理ないね」

 ゼンさんは淡々と言った。

「もう少し細かいことを言えばちょっと違うけどねぇ。知っていてもそうでなくても問題ないけど、魔力というものについて聞きたいかい?」

 俺たちは揃って頷く。とくにレミは興味深げに視線を向けていた。

「そもそも魔力というのはね」

 俺たちを見渡しながらゼンさんは説明を続けた。

 彼女が言うには魔力というものは持っているかどうか、ということではないのだそうだ。よく「魔法使いの素養がある」と言われるのは魔力を受け入れる器の大小のことを指して言っているらしい。

 少し難しい話になるのだが、この世界には魔力が絶えず流れ漂っていて、浮いたり沈んだり循環していて、"沈んでいる状態"では俺たちの目には見えず辺りを漂っている場合で、"浮いている状態"というのがリベルやゼンさんたちの体に入っている状態らしい。

 その魔力を受け入れる器が大きい者ほど魔力が強いということになる。

 器に注ぎ込まれた魔力を水だと例えると、その器から魔力をくみ上げて魔法を使うのだが、魔法を使わずに留めておくといずれ溢れてしまう。それが今のリベルの状態だ。

 ただ、今までリベルがそうならなかったのは、魔力を受け入れる器の蓋が閉じていたのだという。蓋を開いたままでは魔力が溢れてしまうので、今のリベルのようになりたくなければ、時折魔力を発散させてやらなければならない。それが魔力をコントロールするということだ。

 ゼンさんが言うには、大きな器を持ちながらもそれを知らずに生涯を終える者も少なくないということだった。

 俺たちのように冒険者の登録をした人たちは適正検査の中で魔法の素養があるということが判明したりする。だからこそリベルはメイジになれたのだ。

 ここでリベルのクラスであるメイジというものを説明することにするが、メイジというのは至って簡単、魔法を扱える者がなれるクラスだ。もちろんリベルのように魔法の素養を持ちながらも冒険者登録の時点では扱えない者もメイジになることができる。

 メイジについて俺はあまり詳しくないのだが、魔法を使うにはちょっとした道具が必要で、だからリベルはメイジでありながらも魔法が使えない。それに魔法を使うにはある程度の修練が必要とのことだった。

 まずは道具がなければ魔法を使えないので、リベルは魔力をコントロールする練習などもしていない。ギルドの講習を受けるにしてもお金がかかるので、そのうち、ということになったのだ。

 魔法を使えないことに彼女は負い目を感じていたけれど、俺はそんなの気にする必要はないと思う。

 経験を積んでいけばいずれは魔法を使えるようになるだろうし、それまでは俺たち4人でフォローしていけばいいだけの話だ。たとえパーティを組んだばかりだろうと俺たち5人は仲間なのだから。

 話を戻すが、魔法の素養があるかどうかは、魔力を受け入れる器が大きければ素養があるということになる。

 ゼンさんの話を聞いていて俺が思ったのは、その器が大きいのがリベルだとして、それなら俺たちにも僅かながらでも素養があるのだろうか、ということだ。

 その質問に彼女は、

「あるよ」

 と、あっさり答えた。

「でも魔法を使えるほどの魔力を受け入れるにはそれなりのものがないとね。だから断言しておくと、あんたたちが魔法を使うというのはほとんど有り得ないことさ」

 少し期待していただけに俺は肩を落とした。

「とにかくリベルさんの具合は良くなるんですね?」

 念を押すようにクラッセが尋ねる。頭を抱えているところを見ると、ゼンさんの説明をよく理解できなかったようだ。

 どちらにしろ彼にとって重要なのはリベルの無事だけだろう。それは俺も同じだ。

「かいつまんで言うとそうだね。内に篭っていた魔力をお嬢ちゃんに代わってあたしが解放したからね、しばらく魔力を消費していればすぐに良くなるさ。あとはさっきの生意気な坊やに頑張ってもらうだけだよ」

 そう言うとゼンさんはにやりと笑った。

「ドラゴンが消える頃にはジンジンもきっと疲れて倒れちゃうね。あははっ、リベルも少し休んでいたほうがいいし、今日は泊まっていったら?」

 リンリンが俺の頭の上に腰を下ろして言った。

「うーん、そうさせてもらおうか?」

 レミとクラッセに問いかける。

「そうしましょうか? でも泊まっていってもいいんですか?」

 クラッセが遠慮がちに聞く。

「ああ、いいよ。部屋なんていくらでもあるからね。あとでリンリンに案内してもらうといいさ」

 ゼンさんが言った。

 それならそうさせてもらおう。実際かなりの疲労が溜まっているのだ。

 依頼の品を早く届けたいところだが、酒場のマスターはあまり急がなくてもいいだろうと言っていたのを思い出す。

「では、お言葉に甘えさせていただきます。じゃ、あとで案内頼むよリンリン」

「おっけ〜」

 リンリンは親指と人差し指で輪を作った。

「リベルの魔力、すごい、たくさんある、の?」

 顔を上げたレミが聞く。リベルの魔力を蓄える器がかなり大きいものならば、やはり魔力を消費するまでには時間がかかるのだろう。

 レミの言葉に俺とクラッセも興味を持ってゼンさんを見た。

「……それなりにね。でもそんなにかからないだろうさ。そろそろ頃合じゃないかねぇ?」


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