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3-4

「ねぇ、リンリン。リベルが、苦しそう」

 うなされているリベルを揃って見つめる。額の上の濡れていたはずのタオルは乾いている。

「そうだ、そのバァバって人がどんな人なのか知らないが早くリベルを診せてやってくれないか? どこに行けばその人に会えるんだ?」

「タオル濡らしてきます」

 クラッセが池に向かう。

「医者かなにかなのか?」

 俺が続けて聞くと、

「バァバ? ううん、お医者さんじゃなくてすごく偉い魔法使いなの。いろんなことを知ってるし、怒ると怖いけどとても優しいんだー。だけどね、ちょっとこの頃は気になることがあるんだって言ってあたしに森の様子を見てくるように言ったの。ほんとは自分で見たいんだけど、ヨウツウがひどいんだって。

 そしたらディールたちを見つけてさ、なんか怖いのに追いかけられているじゃない? あたしもずっとこの森にいるけど、あんなの見たことないしさ、ほんとびっくりしちゃった」

 リンリンはなおも「それでさ、それでさ」と関をきったように話し始めた。

 妖精だといってもやはり女の子だということなのか、よくしゃべる。

 俺は適度に相槌を打ちながらリンリンの話に合わせる。これでリベルの目が覚めたならいいコンビになるかもしれない。

「あー、うっせー! 結局そのババアはどこにいんだよ!」

 堪えきれずにジンがリンリンの話に割って入る。

 いつの間にかクラッセが戻ってきていてリベルの額に濡れタオルをセットしなおしていた。

「そうですよ、いつまでもこんな状態のリベルさんを放っておけません。そろそろ案内してくれませんか?」

「いっけない、あたしったらすぐ長話をはじめちゃって。てへっ」

 うっかり、といった感じでリンリンは舌をペロッと出す。

「ほら、あそこに小屋があるでしょ? あそこからバァバのところに行けるの」

 池を挟んで反対側には木でできた小屋があった。見るからに相当年季が入っており、今にも崩れ落ちそうなくらいだ。

 池もそんなに大きくないので、ぐるっと回りこんでいけそうだが、人が住んでいるような気配は遠目で見ている限りでは感じられない。

「なかなか、その……趣のある家ですね」

「うすうす予想はしてたけどよ、あのぼれぇ小屋かよ」

 不安そうなクラッセとうんざり顔のジンが言う。

 すでに小屋があることに気付いていたらしいジンは「やれやれ」と肩をすくめていた。

「とにかく、行こう」

 レミが促す。

「そうだな、ここで話し込んでいてもリベルの具合が良くなるわけじゃない。まずは行動を起こしてみよう。考えるのはそれからだ」

 そう言うと俺はリベルをそっと背負う。体はかなり熱を持っているようで背負った背中が熱い。

「ところで、ひとつ気になることがあるんですが」

 歩きながらクラッセがおずおずと言う。

「ん、なに?」

 リンリンは軽い返事でクラッセを見る。

「あそこから行ける、って言いましたよね? それはどういう」

 ジンと俺も「ん?」と言いながらクラッセの話を聞いていた。

 だがクラッセが言い終える前に、突然俺たちの前へ現れたものによって彼の言葉は遮られた。

 高く積み上げられた岩のひとつが振動したかと思うと、生命を吹き込まれたかのように瞬く間にそれは四肢を伸ばし、きちんと頭までも形成し人の形になったのだ。

 その傍らには黒い蝶がひらりと舞う。

「うわぁ! なんで岩が動きだすんですか!」

「あの手この手を使ってきやがって。つーか、なんでそんなに俺らをつけ狙うんだよ!」

「やー! 早くバァバのところへいこうよー」

 岩人形は俺たちの行く手を阻むように立ちはだかる。

「さっきのやつか?! くそっ、今はこんなのと戦ってる場合じゃないというのに」

 反射的にソードを鞘から引き抜こうとするがリベルを背負っていたことに気付く。

「ジン、リベルを頼む」

「お、おう」

 リベルをジンに預けると鞘からソードを抜き放つ。

「俺がやつを引き付ける。その間にリベルを連れていくんだ」

 言うなり俺は岩人形に突撃する。

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 岩人形に向かっていくが、狙いは黒い蝶だ。

 見た目がごつく、強そうに見える岩人形だが、黒い蝶こそがそれを操っているのではないか。ただの憶測に過ぎないがそう思えた。

 岩人形の手前で方向を急転換させて黒い蝶にソードを振る。

 ぱすっ、と案外簡単に黒い蝶は2つに裂けると、揺らめいてからその場で消滅する。

(よしっ)

 黒い蝶を片付けると、次は岩人形にソードを向ける。

 ジンたちが横を通りすぎるのがちらりと見えた。

 ひとつ残念だったのは黒い蝶を倒しても岩人形の動きが止まらなかったことだ。黒い蝶が操っているわけではないのか。

 さてどうしたものか。岩人形を睨みつつ思案する。

 岩でできているということはソードでの攻撃は当然効かないだろう。

 だから今一番有効なのは、こいつを引きつけられるだけ引きつけてから逃げるのが良さそうだ。見た目から判断すると動きは鈍そうだ。

 そう思ったのだが甘かった。

 岩人形は思いがけない速さで殴りかかってくる。

 それを避ける余裕はなく、俺は咄嗟にソードで岩の拳を受けた。

 ソードが悲鳴を上げる。

 俺は岩人形の殴る力の強さに吹っ飛ばされた。

「ぐっ!」

 俺が後ろに倒れこむと、

「ディール!」

 振り返ったリンリンが叫んだ。

 岩人形が俺に迫る。

(やばい!)

 俺を吹っ飛ばすほどの力だ。まともに喰らってしまってはただでは済まない。

 岩人形が腕を振り上げる。俺は固く目をつむった。


 パァァァァァァァァァァァ


 瞼ごしの光に俺は目を見開いた。

 背後からの眩い光を感じ振り返ると池が光り輝いていた。

 岩人形の動きが止まる。

「いそいでっ、ディール!」

 遠くからリンリンが急かす。

 俺は立ち上がって手招きするリンリンの方へ走った。

 動きを止めた岩人形を尻目に小屋へと辿りつくと、池の周りで1本の光の筋が立ち昇る。その光は弧を描いて走り、大きな円になると一層輝きを強めた。

「きっとバァバよ」

 リンリンが言った。

「偉い魔法使いねぇ……。まんざら嘘でもなさそうだがよ、おっと! さっきのやつが崩れていくぜ!」

 ジンの声に俺も岩人形を見る。

 ボロボロと崩れていった岩人形はついに人の形を留めることができずにただの岩の塊へと変わっていった。




「着いたのはいいけどよ、こんの中のどこにその魔法使いのババアがいんだよ」

 小屋の中に入るなりジンがリンリンを睨んだ。

 外から見ても人の気配がないとわかるように、小屋の中には誰もいなかった。

 人が生活していればそれなりに生活するのに必要なものがあるはずだが、どう見てもただの廃墟だ。

「冗談はよしてくださいよ、こんなの困ります!」

 クラッセも抗議の声を上げる。

「ジンジンも坊主くんも想像力が貧困だなぁ。ちょっと見ててって」

 再びレミの頭の上を陣取ったリンリンが言う。

 どうやら彼女の上が気に入ったようだ。レミは何も言わない。

 ───リーン

 どこからか取り出したのかリンリンは鈴をひとつ鳴らした。

「鈴を持ってっからリンリンってかチビスケ。どっちが貧困なん……うぉお!」

 軽口を開きかけたジンがよろめく。

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