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3-3

 こ、こんなことがあっていいのか?!

 ジンの行動はあまりに突然で予想もしていなくて、俺は絶句してしまった。

 呆然とする俺たちの前でジンは、してやったりな顔をしている。

 ばかな!

 妖精だぞ妖精、ジンはそれがなんなのかわかっていないのか?!

 妖精といえば世界各地の民話や伝承に頻繁に登場し、今も歴史に残る勇者たちの伝記を綴った大冒険の代名詞といえばドラゴンか魔法使いか妖精と相場は決まっている。

 自警戦士団以前でいうと、かの有名なデュランドー・シギルもまたお供に妖精を連れていたという話だ。

 彼が豪華な全身鎧や大剣も持たず、突如として街に現れた強大で邪悪なドラゴンと互角に渡り合ったというのは、冒険者であらずとも皆が知っている話であるが、それを陰で支えていたと言われているのが供に旅をしていた妖精だというくらいだ。

 妖精たちの持つ不思議な力がデュランドー・シギルや他の話にも登場する勇者たちを支えていたという。

 それが本当のことなのかどうかは誰にも確かめることはできないし、俺だって話半分に聞いていたが、俺たちの目の前に現れたリンリンと名乗った妖精を見ればその存在を信じざるを得ない。

 それが、その妖精をこともあろうにバカシーフのジンが叩き潰してしまったのだ!

 それも頭の上のうるさい蝿でも片付けるかのように!

「な、な、な……なんてことしているんですかジンさん!」

 クラッセがジンに詰め寄る。

「よよよよ妖精ですよ?! 僕たちが一生かけても出会えないような伝説の生き物ですよ?! どうしてそんなすごい生き物をあなたって人は▽○×◎□△ー!」

 ものすごい形相でジンに詰め寄ったクラッセの言葉はもはや言葉になっていない。その上、半泣きである。

「この……人で、なし!」

 いつもは物静かなレミでさえジンの胸をポカポカ叩いている。

「だってよぉ〜」

 なおもヘラヘラと笑っているジンに俺もさすがにカチンときた。

 この男は、この期に及んでまだ笑って済まそうと考えているのか!

「おっまっえー! 自分がなにをしたのかわかっているのか?! 滅多に出会えない妖精だからってことだけじゃない、おまえはひとつの命を殺したんだぞ!」

 俺はジンの胸倉を掴む。

 いきなり掴まれたジンは「うげっ」と声を詰まらせるが、そんなこと構っていられるか!

「うぐぐっ、ちょっ待っ……まずは話をしようげっ、ディ……ディール! あ、あれっ!」

 ジタバタともがいて腕を動かすジンには取り合わずに右拳を後ろに引く。

「黙れ! 見苦しいぞ!」

 俺は拳に力を込めた。思いっきりぶん殴ってやるつもりだ。

 だが、

「ぅおい! リンリンっつったかおめー! んなとこに浮いてねーで早くこいつをなだめすかしてくれよ! わわっ、ディール! 悪かったって、後ろを見ろって!」

 反射的にジンが話しかけた方を見る。

 そこにはジンに潰されたかと思われた妖精の女の子が羽もないのにふわりと浮かんでいた。

「よ、よかったぁ〜」

 クラッセがへなへなと座り込む。

「いきなり手で潰そうとするなんて、もっとしぼられていればよかったのに」

 さっきとは打って変わってご機嫌ナナメな妖精の女の子リンリンは言った。

「悪かったっつの。でもほら、無事そうでなによりじゃねーか」

 まったく悪びれた様子もなく言うジンに、

「こ、の!」

「いでぇ!」

 レミがジンの脛を蹴飛ばす。

 ジンが悲鳴を上げた。

「きゃはっ、いい気味!」

 リンリンが手を叩いて喜ぶ。

「潰した手ごたえがなかったから大丈夫だって知ってたんだよっ」

 ぴょんぴょんと脛を抱えて跳ね回るジンに俺は怒る気も失せる。

「はぁ。身から出た錆だぞジン。それにしてもリンリンと言ったね。きみは本当に"あの"妖精なのか? 信じるもなにも目の前にきみがいるからそうなんだろうが。めまぐるしく色んなことがありすぎて……なにがなんだか」

 森に入るなりジンのいらぬイタズラのせいで"巨大サボテン"に追いかけられ、次はウォーラー、ブレスときて、極めつけは何者かわからない無機質な声に心を侵される恐怖。

 気を失って目が覚めたら知らない場所にいて妖精に出会うという。

 ハラハラドキドキの連続で俺は相当まいっているようだ。

「ほんとにほんと。ほらっ」

 そう言ってリンリンは俺たちの周りをクルッと一周する。

 きらきらとした粉の光がリンリンを追いかける。

「納得した?」

 ひとしきり回ってからレミの頭の上に腰を落ち着けたリンリンが聞く。

「あ、ああ」

 やはり妖精なのか!

 なんて奇跡なんだ、こんなところで本物の妖精に出会えるとは!

「こんなところに俺らが移動させられたのもおめーの仕業かよチビスケ」

 俺が妖精との出会いに感動していると、脛の痛みから立ち直ったジンが懲りもせずに憎まれ口を叩く。

 少しは懲りてくれ。

「チビスケじゃなくてリンリン! そうそう、あたしったらよく迷子になるからバァバが戻ってこれるように空間移動のアイテムをくれたの。でもあたしがいてよかったよねぇ〜、あのまんまじゃディールたち危なかったし」

 リンリンがしみじみと言う。確かに危なかった。

 もしかしなくともリンリンが助けてくれなければ俺たちはあの場でどうにかなっていただろう。

「その、"バァバ"って誰なんですか?」

 ようやく落ち着いたクラッセが尋ねる。

 そうだ、それは俺も聞きたかった。

 リンリンはその人がリベルを診てくれると言ったが、一体どんな人なのだろう。

 空間移動ができるアイテム? そんなとんでもない物を持っているなんて。

「つーかチビスケ、おめー一体いつから俺らのそばにいたんだよ」

「そんなことより"バァバ"って人のことを先に聞くべきだろ」

 話に割り込むジンに言う。

 今はその人がリベルを救ってくれるのかどうかをはっきり確認するほうが先決だろう。

 俺はそう思ったのだがジンはそんな俺を制する。

「いんや、その空間移動とやらが早くできてりゃ俺らは被害に遭わなくてすんだろ。それにおめー、さっきの黒い蝶の群れのこととかもなんか知ってんじゃねーのかチビスケ」

 疑いの眼差しでリンリンを見るジン。

 さきほどまでのふざけた様子はすでにない。

「なにさ、そんなのあたしだって知らないし。ジンジンったらあたしがやったって思ってるわけ? 空間移動だって何回も使えるわけじゃないし、あんなチョウチョだって見たのは初めてなんだからあたしだってびっくりしたもん!」

 あらぬ疑いをかけられて心外そうな顔でリンリンが反論する。

「それとチビスケじゃないってば、ばかジンジン!」

「けっ、そうかよ。チビスケ」

 腑に落ちないようだが一応は納得したように吐き捨てる。

「ディールたちが森に入ってきたときから木陰に隠れてみていたんだぁ。なんか面白そうな人たちがいるなぁ〜って。でも初対面でもジンジンって口悪いんだね、リベルがかわいそう〜。ジンジンにいじめられてばっかだし」

 リンリンは同情するようにリベルを見下ろす。

 するとそのリンリンが腰をかけている頭の持ち主、それまで黙って話を聞いていたレミが口を開く。

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