願掛けエンゼル
カラコロ、と小さな箱を手の中で転がしてみる。
後少しかな、なんて考えて溜息が出た。
「なぁに食ってんの」
背後から掛けられた声の主に、手の中の小さな箱が奪われる。
顔を上げた先には意地の悪い笑みを浮かべた彼がいて、私の持っていたそれをカラコロと振っていた。
私が食べていたのはチョコボールで、持っていた小さな箱もチョコボールの入った箱。
ちなみに今食べていたのはピーナッツ。
ここ数日はお菓子と言えばこれしか食べた記憶がなかったりする。
「お前も好きだねぇ」
「……んや、別に特別好きな訳じゃないけど」
返してくれる気がないのか、彼は未だにチョコボールの箱を振っている。
仕方ないので、まだ開けていなかったチョコボールを取り出して透明の袋を剥がせば、彼は目に見えて顔を歪ませた。
今度はキャラメルだ。
ただでさえチョコボールばかりを、お菓子として食べているのだから、交互に別の味を食べないと飽きが早い。
――現時点でも大部飽きが来ているけれど。
「そう言えば、好きじゃないもんね甘いの」
キャラメルのは味が濃い。
その濃い甘さで喉が焼けるような気がして、スポーツドリンクを煽る。
彼はそんな私を見て肩を竦めた。
「好きじゃないんじゃなくて、苦手なだけ」
はい、とピーナッツの方のチョコボールを返して来る。
ピーナッツとキャラメルを交互に食べよう。
そう思いながら受け取って残りを確認。
好きじゃないってのは嫌いの違うのかな。
好きじゃないって苦手と同じじゃないのかな。
意外と人の感覚でズレることな気がして、ぼんやりと首を傾けた。
「お、懐かしいの食ってるじゃん」
彼とはまた別の手が伸びてくる。
それは私の手から二つのチョコボールを奪っていって、今度は勝手に中身を食べてしまう。
別にいいけど、いいんだけど。
「欲しかったら二つともあげるよ。まだあるし」
「マジで?サンキュー」
ケラケラと笑うソイツに持って来ている分のチョコボールを見せつければ、笑顔が消えて真顔になる。
隣の彼も同じ顔をしていた。
「お前、マジでチョコボール好きだな」
「だからそんなに好きな訳じゃないってば」
彼と同じことを言うので眉を寄せて否定すれば、じゃあ何で食べてるんだよ、と当然の質問が返ってくる。
私は私で新しいチョコボールを開けて、開け口の側面を彼らに見せた。
そこには何もいない。
また駄目だった、と溜息を吐けば、彼は私が何を言いたかったのか分かったようで緩く頷いた。
それから「エンゼル」と呟く。
私が求めているものを分かってくれて嬉しい。
「金のエンゼル探しをしているのだよ」
「あー、あれか」
チョコボールを食べながら言う。
興味なさげなのは凄く失礼だと思わないのか。
そんなことを考えていると「俺、都市伝説かなんかだと思ってたわ。あるのか」とか聞こえてくる。
確かに出現率は大部低いけど。
銀のエンゼルすら見たことない人とか、絶対に居ると思うけど。
ないものをあるとか、詐欺だろ。
「願掛け中、なんだよねぇ」
新しいチョコボールを食べながら言えば、二人が揃って「はぁ?」と声を上げた。
疑問符はいいんだけれど、その何言ってんだお前、みたいな顔は頂けない。
私は手帳に挟んでいた銀のエンゼルを二つ取り出して、二人の方へ向けた。
食べ始めて早数日。
そろそろ普通に食べ飽きてくるレベルで、合計でもう三十はチョコボールの空き箱を積み上げている状態なのだ。
「何の願掛け?」
生きてる間に一度は見たいなぁ、なんて小さく思っていた金のエンゼル。
出る確率なんてビックリするくらい低いんだろう。
絶対に食べ飽きて辞めてしまうんだ、と皆が言うんだろう。
それでも私は今日も明日も金のエンゼルを探す。
「秘密だよ」
不思議そうな顔をしている彼に、ニッコリと笑って答えれば首を傾けられた。
金のエンゼルが早く出ることを願うばかり。