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2015年/短編まとめ

願掛けエンゼル

作者: 文崎 美生

カラコロ、と小さな箱を手の中で転がしてみる。

後少しかな、なんて考えて溜息が出た。


「なぁに食ってんの」


背後から掛けられた声の主に、手の中の小さな箱が奪われる。

顔を上げた先には意地の悪い笑みを浮かべた彼がいて、私の持っていたそれをカラコロと振っていた。


私が食べていたのはチョコボールで、持っていた小さな箱もチョコボールの入った箱。

ちなみに今食べていたのはピーナッツ。

ここ数日はお菓子と言えばこれしか食べた記憶がなかったりする。


「お前も好きだねぇ」


「……んや、別に特別好きな訳じゃないけど」


返してくれる気がないのか、彼は未だにチョコボールの箱を振っている。

仕方ないので、まだ開けていなかったチョコボールを取り出して透明の袋を剥がせば、彼は目に見えて顔を歪ませた。


今度はキャラメルだ。

ただでさえチョコボールばかりを、お菓子として食べているのだから、交互に別の味を食べないと飽きが早い。

――現時点でも大部飽きが来ているけれど。


「そう言えば、好きじゃないもんね甘いの」


キャラメルのは味が濃い。

その濃い甘さで喉が焼けるような気がして、スポーツドリンクを煽る。

彼はそんな私を見て肩を竦めた。


「好きじゃないんじゃなくて、苦手なだけ」


はい、とピーナッツの方のチョコボールを返して来る。

ピーナッツとキャラメルを交互に食べよう。

そう思いながら受け取って残りを確認。


好きじゃないってのは嫌いの違うのかな。

好きじゃないって苦手と同じじゃないのかな。

意外と人の感覚でズレることな気がして、ぼんやりと首を傾けた。


「お、懐かしいの食ってるじゃん」


彼とはまた別の手が伸びてくる。

それは私の手から二つのチョコボールを奪っていって、今度は勝手に中身を食べてしまう。

別にいいけど、いいんだけど。


「欲しかったら二つともあげるよ。まだあるし」


「マジで?サンキュー」


ケラケラと笑うソイツに持って来ている分のチョコボールを見せつければ、笑顔が消えて真顔になる。

隣の彼も同じ顔をしていた。


「お前、マジでチョコボール好きだな」


「だからそんなに好きな訳じゃないってば」


彼と同じことを言うので眉を寄せて否定すれば、じゃあ何で食べてるんだよ、と当然の質問が返ってくる。

私は私で新しいチョコボールを開けて、開け口の側面を彼らに見せた。

そこには何もいない。


また駄目だった、と溜息を吐けば、彼は私が何を言いたかったのか分かったようで緩く頷いた。

それから「エンゼル」と呟く。

私が求めているものを分かってくれて嬉しい。


「金のエンゼル探しをしているのだよ」


「あー、あれか」


チョコボールを食べながら言う。

興味なさげなのは凄く失礼だと思わないのか。

そんなことを考えていると「俺、都市伝説かなんかだと思ってたわ。あるのか」とか聞こえてくる。


確かに出現率は大部低いけど。

銀のエンゼルすら見たことない人とか、絶対に居ると思うけど。

ないものをあるとか、詐欺だろ。


「願掛け中、なんだよねぇ」


新しいチョコボールを食べながら言えば、二人が揃って「はぁ?」と声を上げた。

疑問符はいいんだけれど、その何言ってんだお前、みたいな顔は頂けない。


私は手帳に挟んでいた銀のエンゼルを二つ取り出して、二人の方へ向けた。

食べ始めて早数日。

そろそろ普通に食べ飽きてくるレベルで、合計でもう三十はチョコボールの空き箱を積み上げている状態なのだ。


「何の願掛け?」


生きてる間に一度は見たいなぁ、なんて小さく思っていた金のエンゼル。

出る確率なんてビックリするくらい低いんだろう。

絶対に食べ飽きて辞めてしまうんだ、と皆が言うんだろう。

それでも私は今日も明日も金のエンゼルを探す。


「秘密だよ」


不思議そうな顔をしている彼に、ニッコリと笑って答えれば首を傾けられた。

金のエンゼルが早く出ることを願うばかり。

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