グリード
女、金、名誉、地位、全てが欲しい――
「グリード様。朝ごはんのお時間です」
背が小さく鼻も低く、お世辞にもカッコイイとは言えない男がグリードと呼ばれている男におどおどしながら話した。
「おい、三流。ちゃんとした飯なんだろうな?」
背が低い男は三流と呼ばれているらしい。三流ははいと心なしか、小さい声で返事をした。するとグリードは自分の前にあるテーブルを強く蹴り、三流にぶつけた。
「テメェ、自信ねぇのか? あぁ?」
グリードがそう言うと三流は涙目になりながらうめき声に近い声で謝った。
「申し訳ありません――。直ぐに取り替えてまいります! この飯は処分で構いませんか?」
しかしそれを聞いたグリードは顔を真っ赤にして激怒した。
「俺は待つのが嫌いなんだよ! 処分だぁあ? 調子に乗るな! 俺のものを勝手に処分するな! おい二流! 入って来い!」
グリードがドアの方を怒鳴ると男が入ってきた。
「お呼びでしょうかグリード様」
二流と呼ばれた男は頭を下げながら尋ねた。
「このド三流を教育しなおせ」
グリードはそう言うと三流に向き直り唾を飛ばした。三流は下を向いたまま何も言わない。
「三流。早く立て! 来い! グリード様。失礼します」
二流、三流が頭を下げて部屋を出た。しばらく三流は二流の肩を借りながら歩いていたが、少し歩いた所で自分で歩きはじめた。
三流は記憶が無い。この洞窟の外に倒れていた所を発見され、助けられ、ここで働いている。しかし何故か三流が外に出ることをグリードを始めここにいる皆が禁止している。
「グリード様は大変だろ? まぁ座れ」
二流の部屋に入った二人はソファーに座った。
「あの人の名前の由来を知ってるか?」
二流は三流に尋ねた。しかし三流は首を振って分からないとアピールした。
「グリードっていうのは強欲って意味なんだ。うちの組織はかなり小さくてメンバーはグリード様を含めて五人だが今のグリード様の代が一番良い代だ」
すると三流はビックリしたような顔をして二流に尋ねた。
「代って――。何代もあるんですか? しかも今のって事は今までもグリード様っていたんですか?」
三流の問いを聞いた二流は大笑いをした。
「あぁ、いるよ。今のグリード様が6代目だ。俺は先代のグリード様からいるんだが未だに二流のままだ。まぁ、今のグリード様の傍に居られれば関係ないけどな」
「あの――。あの人のどこが良いんですか? 仲間を仲間と思っていませんよあの人は」
すると二流は真顔になり三流に言って聞かせるように話した。
「いいや。あの人は常に仲間を想っている。今はお前に強く当たっているがあの人は本当にいい人なんだ。だから俺は今ここに居るし、一流様も続けているんだ。まぁ、お前はこれから色々勉強しろ」
二流はそう言ったが三流は納得していない様子だった。
「お待たせいたしました。今日のメニューは秋刀魚のたたきの揚げ団子と牛の特上ステーキです」
三流は夕ご飯をグリードに渡していた。
「おい、テメェ。持ってくるのが遅いんだよ。今日はいらねぇ。テメェの顔を見て気分が悪くなった。帰れ」
グリードはそう言ってソファーに寝転んでしまった。三流はどうすれば良いか分からずオドオドして食べ物を落としてしまった。
「おい!!! テメェ死にてぇのか! さっさと拭け!」
三流は慌てて床を拭くが、ステーキのタレをのばしているだけであった。
「テメェ本気で死にてぇのか! うせろ!」
グリードはそう言うと三流を蹴飛ばしてしまった。三流は部屋を出ると小声で悪態をついた。
「クソったれ!」
グリードの部屋のドアを見ながら言ってその場を離れた。
『カンカンカンカンカン――』
日がやっと顔を出した頃に鐘の音が洞窟内に響き渡った。この鐘は敵対する組織が攻めてきた時などに鳴らされるものだ。
「三流! 起きろ! 戦闘が始まるぞ!」
二流が三流を起こしに、物置のような部屋に入ってきた。三流は飛び上がり、辺りをキョロキョロ見回して、やっと二流に焦点が合った。
「どういう事ですか?」
三流は驚いた顔で二流に聞いた。
「どうもこうもねぇ! 敵が攻めてきたんだよ! 起きろ!」
二流はそう言うと三流を部屋から出し、グリードの元に走っていった。
「グリード様! ご指示を!」
グリードの部屋に着くと一流がグリードに尋ねていた。
「あぁ、出来るだけ中に引き寄せろ。ほとんどが入ったら爆破だ。準備しろ」
グリードはそう言うと自分の机の中から色々な荷物を取り出した。特別一流、一流、二流、三流の四人は爆破装置の起動に向けて一斉に散っていった。
「あぁ~、ショウタイムだ――」
グリードはそう呟き、舌を出しながら笑った。
三流は自分の持ち場の爆弾を起爆するために東の部屋に向かっていた。
「全くあの人は! こんな時に自分の荷物を大事に保管しているなんて! 強欲なんてごめんだ!」
三流はそう呟きながら走っていると部屋に着いた。部屋の床下から爆弾を取り出し、壁に付け、床に付け、廊下の天井にも付けた。そしてタイマーをセットしてその場を離れた。
「よっしゃ! これで俺の仕事は終わりだ! こんな所出て行ってやる!」
三流は今しかないと思って裏の出口に向かっていた。――が、そこには多数の敵が待っていた。三流は固まっていた。その者達は人間ではなかった。この世の物とは思えない物だった。三流は恐怖でおののき、尻餅をついてしまった。その物達は三流の行動を見るなり一斉に襲ってきた。
死ぬ――
三流は目を瞑り、死を待った――が痛みがない。恐る恐る目を開けるとそこには刀を持ったグリードが奴らを止めていた。
「テメェ! 何座ってやがる! さっさと立って逃げろ!」
三流はこのグリードが本当のグリードなのか分からなかった。いや、それより奴らが何なのかが気になっていたがグリードの言うとおり走ってその場を離れた。
「三流! やっと来た! グリード様も! 行きましょう!」
一流がそう言うと地下に繋がるような、床にある扉に皆入った。そして真っ直ぐ進み、ずっとずっと進んだ。しばらくすると後方で大きな爆発音が聞こえた。
「あの、何が起こっているんですか?」
三流は耐え切れずにその疑問を口にした。驚いた事にグリードが口を開いた。
「今は黙って進んでろ。後で話してやる」
三流は了承し、そのままずっと進んだ。
やっと暗い道を出ると、そこは木々が生い茂っていた。
「ここなら取りあえず平気だ。それで何が聞きたいんだ?」
グリードがそう言って地面に座った。皆もそれに倣い、座った。
「何もかもです。あの連中は何なのか、僕は誰なのか、あなた方は誰なのかです」
三流は目を伏せながら尋ねた。グリードは大きく息を吸い、そして吐いた。
「まずお前は誰なのか。それは分からん。本当にお前が洞窟の前で倒れている所を見つけて助けた。そんで俺らは誰か、まず俺はグリード。強欲のグリードだ。そして特別一流、一流、二流、そしてお前、三流。これはな――いや、ここは3年前に核戦争で朽ち果てた日本だ。生存者は少ない。俺らの組織は昔から、と言ってもそんなに昔ではないが、代々強欲だった。核戦争が勃発したときも俺らは変わらず活動していた。女、金、地位、名誉、これらを全て手に入れるためにな。それで、あいつらは誰なのか。簡単だ。核の汚染で頭、体をやられちまった元人間だ。その当時の記憶が無い。人間であることも忘れ、まだ普通に生きている人間を襲うために生きている奴らだ。お前に何も話さず、外に出すのを禁止したのはな、お前がショックを受けるからだ」
グリードはそう話し、皆ため息をついた。
「何故あの時助けてくれたんですか?」
三流がそう言うとグリードは少し笑って答えた。
「俺は強欲のグリードだ。お前の命は俺のもの。お前の体も俺のもの。お前が死ぬ事は許さない。お前が死ぬときは俺が死ぬときだ」
強欲も悪くない――
三流はこの時そう思った。
そしてこの人に一生ついて行くと――
強欲――何かを欲しいと思うことやそう感じている状態。この世の全てを望む事を七つの大罪からグリードと呼ぶ。
しかしこの男は全てを望む事で、仲間を想い、助け、この世を生きている。
全ての人間が持っている欲を埋めるために今も欲を求めてどこかを歩いている。四人の仲間と共に――
文学というのか分かりませんが――
強欲とは醜いもの・・・
しかし真の強欲は全てを欲したいと思うことで仲間を想い、仲間を助け、共に生きるのである――




