第三話 レジスタンス
「どうなってるんだ…?ここがスタート地点なのか?どこもボロボロじゃねーか」
俺、城間類は一瞬目の前が真っ白になったと思おうと次に目を覚ました時には朽ち果てた村が目の前に広がっていた。周りを見わたすと何かの紋章が書いてある旗が大量に建っていた。
「どうやら私たち二人しかいないみたいだけど…」
八木京子があたりを見渡しそう言う。するとイヤホンから若月リンネののんびりとした声が聞こえてきた。
「どうやらスタート地点が3つあったみたいですねぇ、類君と京子ちゃん、京介君と朱里ちゃん、マリアちゃんと3か所にバラバラになってしまいました~、それにマリアちゃんはイヤホンを毎回つけてないので連絡がとれないのですよ~困ったものです~今度注意しないといけませんね~。まぁマリアちゃんのことなので大丈夫でしょうけど。」
どうやら5人はバラバラになってしまったらしい。
「おいおい、大丈夫なのかよそれ…このゲームって下手したら命の危険があるんだろ…?というか一つ疑問なんだけど俺たちの体感時間は1時間が1年に感じるんだろ?なんで若月とこういう風に通信が取れるんだ?」
「簡単なことですよ~私は指令専用の『ingress』でゲームの中に入っているので皆さんと体感時間は一緒なので~す」
俺の疑問に即座にそう答えられよくわかんねーけど納得していると突然後ろから声をかけられた。
「あんたら何者だ!そんなところに突っ立っとると魔王の手先どもに見つかるぞ!」
そこにいたのは学校帰り会った黒服どもよりもガタイの良い40前後の男と全身を鉄の防具で固めた戦士風の男が立っていた。
「魔王の手先?あぁちょうどいいや、俺たちその魔王を倒そうと思ってんだけどどっかに武器とか手に入れられる場所ないかな?」
俺の質問に男二人は一瞬驚いていた。
「おまえ達みたいなガキにあの魔王が倒せるわけないだろ!それにそこの旗を見てみろ、ここはすでに魔王の支配下に落ちているんだ、危ないから早く俺たちについてこい」
俺はゲームの中でも子供呼ばわりされたことに少しムカッとした。
「だから武器や防具はどうやって手に入れるかって聞いてんだよ、ついてくのは装備を充実させてからでいいだろ」
そう言うと戦士風の男が呆れたように「装備ならその辺の家にあるだろう、好きにしろ」と言った。
俺と京子は言われた通り近くの家に入っていった。
「うーん、ろくな装備もないわね、武器は剣すらないじゃない、それに盾と帽子以外は今来てる服のほうがいいかも。リンネ、防御力とかわかる?」
「そうですねぇ~、防御力は二つともたいしたことありませんがつけてた方がましみたいですぅ、残念ながら細かい数値はわからりませね~」
「そう、ありがとう」
「よし、俺は準備できたぜ、そろそろ行くか?」
俺は会話を終えた京子にそう言った。
「本当にあいつらについてくの?あいつらが本当のこと言ってる証拠ないじゃない、あいつら自体が魔王の手先とかだったらどうするのよ」
京子はどうやらあの二人を警戒しているらしい。
「確かにそうかもな、でもこんな右も左もわからない世界でむやみに歩き回る方が危険だろう、今はあいつらについて行ってみよう。なーに敵だったら倒せばいいだけだろ、アクション系に関しては俺にかなうやつはいない」
俺は自信満々にそう言って外へ出て行った。
「まったく…あんなこと言ってるけど大丈夫なのかしら…」
京子は心底呆れ類の後について行った。
二人に連れられ森の中に入っていくとそこには小さな砦がひっそりと建っていた。
「ハーパーだ今帰ったぞ!」
ガタイのいい男、ハーパーがそう叫ぶとすぐに門が開いた。
「早かったのねハーパー、その人たちは?」
中から出てきたのは金髪の美少女だった。年は俺より少し下だろうか。
「おっさん、あんたの娘さんか?スッゲーかわいいな」
俺とハーパーのおっさんはここに来る途中以外にも気が合いすでに仲良くなっていた。
ハーパーは俺の問いに対して笑って答える。
「そんなわけねーだろ、俺んとこはバカ息子が2人いるだけだ、こいつはアイリーン。俺たちレジスタンスのリーダーさ。あんたら魔王を倒しとか言ってたな、どうだ、どうせなら仲間にならねーか?今の状況は最悪なんだ、いくらガキ2人でも数が多いに越したことはねぇ。」
相変わらず俺たちをガキ扱いするのだけは気に食わねーが、まぁ少なくとも俺たちよりは敵に関して詳しいだろうと思い俺は了承した。京子も少し警戒を和らげたらしくその提案に賛同した。
砦の中には予想以上にたくさんの人がいた。
「すっげーな、いったい何人いるんだ」
ざっと2、300人はいるんじゃねーか?
俺がそんなことを疑問に思っているとおっさんがそれに答えた。
「砦の中には322人いる。つっても戦えない女子供もいるから実際にレジスタンスとして戦ってるのは212人だ」
「それより聞きたいんだけど、ここ以外に人がいる場所はないの?私たちの仲間がこの世界のどこかにいるはずなのよ」
京子は心底心配そうにおっさんに対してそう問いかけた。
「俺も噂でしか聞いたことがないんだが…まだ魔王の手が及んでいない地域が北の方にあるとは聞いたことがある。それに俺たちは抵抗し続けてるが中には逆らうにも逆らえずに奴らが制圧した町で奴隷さながらの扱いを受けながら生きている奴らもいる。」
「そう…」
京子は特に手がかりもつかめずにがっかりしていた。
「おまえ達には早速だが作戦会議に参加してもらう。状況がよくわかってねぇみたいだしおまえ達にはしっかり敵のことも知ってもらわなきゃいけねーからなぁ」
おっさんはそういうと俺たちを砦の一番奥にあるテントに俺たちを案内した。
テントの中には先ほどの金髪美少女、アイリーンとさっきまで一緒にいた全身を鉄の防具で固めた戦士風の男が座っていた。おっさんの話ではこいつの素顔を見た奴は1人もいないそうだ。
「俺たち三人がレジスタンスを率いてるんだ、アイリーンがリーダー、俺とそこの男ケレンが幹部ってわけだ。ここにいる奴らも最初は千人ちょっといたんだけどな、その時のがリーダーがまた自分勝手なやつでな、大勢の犠牲を出してついには追い出されちまったんさ、その後アイリーンがリーダーになってからは1人も犠牲者を出してねーんだ。まったく最高のリーダーだぜ」
おっさんがほめるとアイリーンは照れ臭そうにしていた。
「俺は類、そんでこいつが京子、俺たちは魔王を倒すためにここに来たんだ」
俺の言葉にケレンが口を開いた。
「ところで、あなたたちは先ほどから魔王を倒すと言っていますが。奴についてはどれほどご存知なのでしょうか」
「どれほどご存知なのかって言われてもなぁ…細かいことは良くわかんねーんだ。だが魔王を倒さなきゃいけないって言う理由だけははっきりしている」
そう、このゲームのクリア条件は魔王の討伐だ。
「そうですか、では私から今わかっていることについてお教えしましょう。魔王の名はマルス、奴は数千年もの間我々人間を支配し苦しめてきたのです。しかし最近になって奴を倒す方法が判明したのです」
「倒す方法?普通に戦って倒せないの?」
京子がそう聞く。
「はい、マルスはとても強大な力を宿しています。普通に戦っては一撃で消されてしまうでしょう」
「で?その倒す方法ってのはどうやるんだ?」
「数年前、とある遺跡でマルスに関する石版が発掘されたのです。その資料によると奴には昔弱点が7つあったそうなのです。そしてその弱点は奴と恋に落ちた7人の女達の中に封印したといいます。そしてどうやらその弱点は今もその子孫の中で最も彼女たちの血を継ぐ女に宿されているようなのです。その封印を解く方法はそのものを殺すしかないそうです。つまりその血を継ぐ7人の女を探し出し殺すことができれば、我々はマルスを倒すことができるのです!」
俺はさっきまで物静かだっただけにケレンの残酷な物言いに恐怖のようなものを感じた。
京子も同じだったようですぐに反論をしだした。
「何も殺すことはないじゃない!別に弱点がなくったって倒す方法は絶対にあるわ!」
「それが無いから数千年もの間あんな奴に支配され続けているのです!たった7人の犠牲で人々が平和になるのなら彼女らも本望でしょう!それに彼女らの特徴もわかっているのです。彼女らは全員名家の家系、そして血を一番多く継いでいる者には体のどこかに魔王軍の紋章の痣があるのですから!」
「そんなの勝手すぎるわ!絶対に…絶対になにか他に方法はあるはずよ。ね!リンネ!」
京子は突然リンネに話を振った。
「ふぇっ!あ…ちゃんと聞いてましたよ~、確かに京子ちゃんの言う通りですぅ」
絶対聞いてなかったように思えるが突っ込まないでおこう。
「とにかく、このことはレジスタンスのみんなも賛成しているんだ!あとはアイリーンが承諾すればすぐにでも実行できる!ハハッ…すでに3人ほどは目星がついてんだ。だからアイリーン、早く俺たちの意見を承諾してくれよ!」
ケレンの言葉に少し不服そうにアイリーンは言った。
「ですから認めないと何回言われれば気が済むのですか!そのような…自分たちだけが助かろうなんて考えは絶対に認めません!」
アイリーンはどうやら京子と同じ考えのようだった。
京子もこれに感銘を受けアイリーンの意見に賛同した。
「ケレン、もうそのくらいにしとけ…リーダーがダメだと言っているんだ、ほかの方法を探そう」
おっさんもどうやらアイリーンの意見に従っているらしくケレンを諭した。
「もういい!俺はあんたになんと言われようが必ず7人探し出して全員殺してやる!俺が英雄になってからあとからおこぼれにすがろうなんて甘いこと絶対に考えんじゃねーぞ!フハハハハ!」
ケレンは笑いながら部屋を出て行ってしまった。
「まったく…ケレンの奴…昔はあんな奴じゃなかったのにいったいどうしちまったんだ…」
おっさんが悲しそうにそう言った。
アイリーンもおっさんと同じ表情をしていたがすぐに切り替えたみたいだった。
「ところであなたたち疲れていませんか?特別にテントを用意しましたので案内します、今日はそこでお休みください」
アイリーンはそう言い俺たちをテントまで案内した。




