第二話 『ingress』
『春風高校の中庭にある桜の木の下で告白してキスをすると一生結ばれるんだって』
誰がそんな噂を流したのか、この学校にはそんな噂が昔から伝えられているという。
そして私、八木京子はその桜の木の下でクラスメイトの牛田くんに呼び出されていた。
「あなたのことが好きです!僕と付き合ってください!」
牛田くんは私にそういった、まぁこのイベントの時点で予想はしていた。
「い、いいよ…実は私も牛田くんのこと…ずっと好きだったんだ」
私はOKした、正直私は牛田くんのことが好きじゃないけど、というか嫌い!正直デートしているときもキモイとしか思わなかった。しかし実際こうしないとクリアできないからOKした。
やっとこの苦痛から解放される嬉しさから少し笑みがこぼれた。
「まったく良くやるな…京子は、私にはこういう恋愛シミュレーションというゲームはまったくわからん。」
校舎の影から京子を見守る褐色肌の少女マリア・オブライエンは腕組をしながらそうつぶやいた。
「まぁ人には得意不得意があるしね、マリアさんがFPSの天才であるように京子ちゃんは恋愛シミュレーションが得意分野なんだよ」
その隣で同じく京子を見守っていた長髪黒髪の少女千田朱里はマリアのつぶやきに答えるようにそう言った。
「確かにそうだが…私も京介のようにパスをすればよかった」
心底後悔している様子のマリアに朱里は「もうすぐ終わるから」と諭した。
「京子ちゃん!いや、京子って呼んでもいいかな。ほ、本当にOKならそ…その…き、キスしよう!」
私の答えに対し調子に乗る牛田くん、ムリムリ!き、キスとか無理だから!
「そ、それはいきなりすぎないかな?ほ、ほらまだ付き合ってから10分もたってないし」
なんで終わらないのよ!もうクリアしたはずでしょ!
終わらないことに戸惑っている私にイヤホンからのんびりとした声が聞こえた。
「京子さ~ん、キスしないとクリアじゃないと思いますよ~?」
『creator』の中に入る装置『ingress』の開発班代表として活躍した天才高校生プログラマーであり『creator』特別対策課攻略第3班司令塔若月リンネは無慈悲にもそう言った。
「な…リンネぇ!他人事だと思って!好きでもないやつとキスできるわけないでしょ!」
「別にいいじゃないですか~、実際にキスするわけじゃないんですから」
確かにそうだけど、現に私の本体は『ingress』の中にあり意識だけが『creator』内に存在する。
「こ…こうなったらやけだ…、わかった、すればいいんでしょすれば!」
そういうと私は牛田くんにキスをした。
その瞬間プロローグに入ったのか場面が季節ごと代わりそのままエンドロールに切り替わっていった。
どうやらこれでこのゲームをクリアしたことになったらしい。
プシュゥゥゥゥゥ
大きな機械音と共に『ingress』が開く
「お疲れ様ねーちゃん、最高に笑わせてもらったよ」
そんなことをいいながら弟の八木京介がニヤニヤしながら私に近づいてきた。
「あんたねぇ…私がどれだけ我慢して頑張ったと思ってんのよ、第一あんたは何パスしてんのよ、しっかり働きなさい」
私が文句を言うもまだ京介はニヤニヤしていた。
「仕方ないだろ、今回の『creator』内の意識は男、設定は恋愛とシミュレーション、要するにギャルゲーだったんだ、男の俺が入ったところで良くて主人公の親友ポジションさ、危険な内容でもなかったし俺はパスさせてもらったんだよ」
京介の言い訳に少し納得いかないものの私は「まぁいいわ」と許してやった。
「ところで今日新しい奴が来るんだろ?作戦室に戻った方がいいんじゃないか」
マリアがそう切り出す、そう、今日はなんでも私たちの班にもう1人新しい奴がくるそうだ。
「もしかしたらもう来ているかもしれないね、早く行こ!」
朱里がそういうとさっさと部屋を出て行ってしまった。
作戦室に入るとそこには『creator』特別対策課室長補佐の遠藤美波とその横に見知らぬ男が立っていた。
「来たみたいね、城間君、紹介するわ、彼女らがあなたの配属される第3班の面々よ、司令塔の若月さんはまだ来てないみたいだけど」
そう紹介されると城間と呼ばれた男は不敵に笑いこう言った。
「俺は城間類17歳、高2だ、天才ゲーマーとして主にアクションを一番得意としているが基本的にはどれも全部得意だ!」
17ってことは私やマリア、リンネと同じ年か…何かすごく偉そうだけど。
「よろしくお願いします!私は千田朱里といいます、特に得意分野はありませんがしいて言うならリズムゲームです。年は16で高校一年生です、類さんよりは一つ下なので先輩ってお呼びしてもいいですか?」
朱里が明るくそう答えるとみんなも自己紹介を始める。
「マリア・オブライエンだ、出身はアメリカ、FPSが得意だがシューティング系全般はもちろんパズルやクイズゲームも得意だ、年齢はお前と同じ17だ、これから共に頑張ろうじゃないか」
マリアはそういい拳を突き立てた。
「俺は八木京介、朱里と同じ16歳、そこの頭悪そうなのの弟、得意分野はRPGとかアクション、ギャルゲーとかは苦手かな、あぁ言うのよくわかんないし字ばっか読んでるとすぐ飽きるし。」
続いて京介が自分の紹介をした、というか姉にむかって頭悪そうってなによ!これは後でお仕置きね。
「私は八木京子、そこの生意気なガキの姉であなたと同じ17よ。得意分野はシミュレーションとアドベンチャー全般。苦手はないかな」
「またまたぁホラーゲーム怖くてできないくせに」
京介が横から割り込んでくる。
「あ…あれはやらないだけで別に怖くなんかないわよ!所詮ゲームなんだし!」
全員の自己紹介が終わったころ遅れてリンネが部屋に入ってきた。
「あれれぇ、もう来てたんですかぁ、確か城間君でしたね~、私は『creator』特別対策課攻略第3班司令塔若月リンネです、年はあなたと同じ17歳で~す、よろしくお願いしますねぇ」
リンネが自己紹介をするとに城間類はデレデレしていた。
なによ、確かにリンネは可愛くて体が弱そうだから守ってあげたくなるけど。
「じゃあみんなそろったところで次の『creator』の説明を始めるわ、リンネお願い」
美波さんの指示にしたがいリンネが手に持っていた液晶端末をを近くに置き説明を始めた。
「は~い、次の『creator』の中の意識は男の人です~、ジャンルは恋愛アクションRPGですねぇ、クリア条件は魔王の討伐ですぅ、どうやらこのゲーム機の持ち主の意識は魔王になっているみたいですね~」
リンネがのんびりと説明をする。というかまた恋愛!?さっき地獄を見たばっかなのに!
まぁアクションRPGだからさっきみたいなことはないでしょうけど…
「なんだ俺の得意分野じゃんか、ここはいっちょ初陣で大活躍してリンネさんにアピールすっか」
城間類はどうやらやる気満々のようだ。
「今回はさっきの恋愛シミュレーションよりちょ~っと危険なので全員参加ですよ~京介くん」
リンネに釘を刺される京介。
「わ、わかってますよ…、それにアクションRPGっていったら俺の十八番ですよ!恋愛のぞいて」
どうやら今回は京介も少しやる気らしい。
「それで城間君、今から『creator』の中に入るのだけど向こうでの体感時間が違うのはさっき車の中で説明したからわかってと思うけどもしもの時のために両親にちゃんと連絡しといた方がいいわ」
美波さんがそういうと城間類は一瞬表情を曇らせたように見えたがすぐに返事をした。
「大丈夫ですよ、うち親父いないしお袋パートとかで帰ってくるの夜中だし」
美波さんはしまったという表情をしながら「そう…わかったわ」と言った。
「じゃあさっそく行くのですよ~、みなさん第3作戦実行室に向かってくださ~い」
そういわれるとみんな実行室に向かって歩いて行った。
「これが『ingress』かぁ!しかし確か『creator』って他のハードと同じくらいの大きさじゃなかったか?それに入るための機会がなんでこんな大がかりな装置になるんだ?」
城間類がそんな疑問をつぶやくと朱里がそれに答えた。
「どうやら『creator』の技術は今の人類の技術を遥かに超えていて『ingress』自体リンネ先輩がいなきゃ作れたかどうかのレベルだったんですよ」
朱里の答えに納得したのかすぐに切り替え『ingress』の中に入っていく。
私たちも続いて入っていく。
「それでは皆さんいってらっしゃ~い」
リンネの掛け声と共に目の前が真っ白になる。
目を開けると、そこは朽ち果てた村だった。




