プロローグ 『creator』
「いやー、最近のゲームと言うのは進化しすぎていて怖いですねぇ、ゲームの中に自分の世界を作り出して好きなように遊べるのでしょう?しかしこういった事件が起こってしまったからには制作会社の方で何らかの対策を練ってもらわないと困りますね。技術は素晴らしいのですからこういった問題を起こして無駄にしてしまったらもったいないですからねぇ」
正午の情報番組で専門家が今日の未明に起きた最新ハード『creator』が原因で起きた事件に関しての感想をしゃべっていた。
事件の内容はあまりにも熱中してしまいあたかも自分がゲームの世界の住人だと思い込んでしまったためゲームを中断することをせずにそのまま続けてしまい餓死に至ってしまったのではないかと説明されていたが詳しい原因はまだわかってないようだ。
しっかしこう言う事件起こすのやめてくれよ、やっと明日の給料日にはこのハードを買うことができるんだから。なんだよ熱中しすぎて餓死って、4時間ごとにしっかり警告されるように作ってあるし体に影響を及ぼすまでの長時間プレーは体につけてある安全装置が即座に探知して強制中断させらるように作られてるっつーの。それに1時間が1年に感じるようになってるということだ。どれだけやり込んだんだよ
会社の小さな食堂で三月渡は昼食を取りながらまだ買ってもいない最新ハードに対して事前に仕入れた情報を元に心の中でそうぼやいた。
『creator』は『進化を3段階飛ばした次世代ハード』というコンセプトで売り出されており正直値段もなかなかのものだ。売れ行きも怪しいみたいでどんどん値下げをされているがまだまだ一般層が手を出せるほどの値段にまでは落ちてきていない。
製作陣によるとまだまだ進化を続けるハードであり今は先行販売のようなものらしい。しかし今回の事件で販売中止にでもなったらたまったもんじゃない。
俺はそんなことを考えながらお世辞にも美味しいとは思えない会社支給の弁当を食べ終えた。
「こういうのゲーマーって言うんだろ?こういう人まったく理解できへんわ」
会社の先輩がそうそう言った。俺は会社の人にはあまり自分の趣味を話していなかった、もちろんゲーマーってこともだ
俺は心の中でこう言うニュースになるような奴と健全なゲーマーを一緒にするなと反論をしながら
「本当ですよね、それにこのゲーム機たまにCMで見ますけどまだまだ値段も高いみたいですし、売れ行きも怪しいみたいですね、わざわざ大金を出して買うほどのものではなさそうですよね」
と心にもないことを言った。
そんな話をしているといつの間にかお昼の休憩は残りわずかしかなかった。
「よし、そろそろ戻るか」
そういいながら先輩は食堂を出て行った。
俺は高卒で今の会社に入社して今年で2年目、来年の1月には成人式を迎える。
と言っても遅生まれということもあり3月までは19だ。
会社はどこにでもあるような小さな会社で従業員は30人程度。
給料も高卒なら平均的な額だ。実家暮らしということもあり貯金はかなり貯めこんでいた。そう『creator』を買うために他の趣味を我慢して貯めたんだ。
去年の3月『進化を3段階飛ばした次世代ハード』のコンセプトを元に今年の春発売が発表された『creator』は俺の想像を超える値段での発売が行われくしくも発売日に購入することはできなかった。
しかしついに明日だ。
明日の給料日がこればついに『creator』を買うことができる。
午後の仕事は明日への期待感からいつもより少し長く感じた。
次の日、また『creator』が原因と思われる餓死事件が起こったことが正午の情報番組で報道されていた。
被害者は前の事件よりも数日前には死んでいたていたらしく、死体の一部がすでに白骨化していたという。
「こりゃ販売中止になるな、売れてない時点であんま需要無いのにこんな事件立て続けに起こしたらもうどうしようもないだろ」
昨日に続き先輩がそんなことを言っていた。
確かにこう何べんも事件を起こしてしまうとさすがに先輩の言う通り販売中止は免れないかもしれない。
しかし今日会社が終わればそのまま家の近くの電気屋に直行して買えばいい。
そんなことを思いながら昨日同様先輩の意見に同意するような意見を話しながら昼休みを終えた。
ついに『creator』を買った!買ったんだ!
俺は会社終わりに電気屋に直行してついに念願の最新ハードを手に入れた。
家に帰ると大きな箱をもってる俺に母親が気づいた。
「渡、お帰りなさい、なに買ってきたの?」
そう声をかけられた俺は少し嘘をついた。『creator』の事件はどこのニュースでも騒がれており正直に話すと下手したらすぐに返品してこいと言われるかもしれなかったからだ。
「あ、あぁ…ただいま、母さん、これは新しいゲーム機だよ、最近発売されたんだ」
そう聞くと母は予想通りの答えを返してきた。
「まさか今ニュースでやってるクラなんとかじゃないでしょうね?」
「違うよ、第一あんなの高すぎて買えないよ」
「そう、ならいいけどそのゲーム機は安全なんでしょうね?」
「うん、大丈夫だよ、これは、それにあの事件もゲーム機の警告無視したりするやつが勝手に起こしてるだけだと思うよ」
そういいさっさと自分の部屋へ行きゲーム機を設置し、夕飯後にはすぐにプレーできる準備を整えた。
夕飯を食べ終えた俺は一目散に自分の部屋にこもりゲーム機を起動させた。
・まずは自分の創造する世界のベースとなるものを選択してください
A、現代とにた世界 B、ファンタジー世界 C、未来の世界 D、過去の世界
「なるほど…まずはベースを作るのか、どれにしようか迷うなぁ…」
悩んだ挙句なんだかんだで好き勝手できそうなファンタジーを俺は選んだ。
まぁ飽きたらリセットとかもできるだろうしとりあえずはこれでいいだろう
・次にどのようなジャンルをプレーしたいのか選んでください
するとさまざまなジャンルが表記された。
最大3つまで選ぶことができるらしい。
「いきなりホラーとはなんか嫌だし…まぁ最初はだしアクションとRPGと恋愛だな」
・プレイヤーの名前を入力してください
ここはワタルでいいだろう、別にオンラインじゃないんだし。
・最後の項目です、あなたが望むものは
A、光 B、闇
なんだこの項目?と言うかこれで終わりなのか、意外と少ないんだな。
要するに主人公の特性みたいなものか?光の勇者もかっこいいけどなんか王道すぎるかなぁ
ここは闇の勇者とかのほうが俺は好きだな。よし闇だ!
そう入力した途端。目の前が真っ暗になり意識を失った。
目を開けると俺は暗い部屋の玉座に座っていた…。
すると俺の目前に赤毛が良く似合う長髪の美しい女性が時代劇とかでよく見る忠誠のポーズをしていた。
「あなたが我々の新しい創造神であり魔王ワタル様ですね」
「ま、魔王…?何を言ってるんだ、創造神ではあるけど魔王なんて望んでないぞ」
「いいえ、あなたは最後の質問で闇を選びました、光は勇者、闇は魔王を指しているのです。闇モードはかなりの難易度を要しますが光モードよりもはるかに能力が高い仕様になったいます。」
そ、そうだったのか…というか完璧に説明不足だろ!わかんないよ光が勇者で闇が魔王なんて!
「というかさっきからゲームのシステムを永遠と話してるけど君はサポートキャラかなにかなの?」
そうだ、せっかくのファンタジー世界でこんな世界観ぶち壊しの話をしてるんだ、そうに違いない。
「私は今この子の体を借りてあなたの創造した世界の説明をしているだけです。このゲームに明確な目的はありません、魔王であるあなたは何万年もの年月を生きることができますが敵対する勇者たちには一般の人間たちと同じほどの寿命しかありません、しかし勇者というものは次々と現れてきます。くれぐれも倒されないようお気を付けを」
「ちょっと待って、倒されたらどうかなるの?」
「ゲームオーバとなり。あなたのデータをすべて削除させていただきます」
データを削除?強制終了ってことか?
「そうなんだ、ならどうやってセーブすればいいの?」
「セーブ?何のことでしょう」
あたりまえのことを聞いたはずなのに何故かキョトンとされた。
「あなたの意識はもうすでにゲーム機の中に取り込まれています。その意識があなたの体に戻る方法はありません」
なっ…なんだと!?
ということはセーブできないってことか!?
もしかして『creator』が原因で被害が続出してるってのはこういうことだったのか!?
あれは熱中しすぎてやり込んでいたわけではなくゲームの中に取り込まれてしまったってことなのか!?
「要するに、もうあなたが現実の世界に帰ることは不可能なのです。別にいいじゃないですか、勇者に敗れなければ魔王であるあなたは何万年もの歳月生き続けることができるのですから」
そ…そんなこと…そんなことあるわけないじゃないか!
「な、なぁ何かの演出かなにかか?そうなんだろ!?本当はどうやってセーブすればいいんだ!?」
しかし俺の問いに対して帰ってきた答えはまったく変わらなかった。
「ですから、あなたの意識はすでに肉体を離れているのです、では、存分にこの世界をお楽しみください」
それだけ言い残すと彼女はその場に倒れ込んでしまった。
そ…そんな馬鹿な!そんな馬鹿な!そんな馬鹿なあああああああああ!!!
あ、ありえない…ありえないんだぁ…
本日未明、〇県〇市の会社員、三上渡さん19歳が市内の病院で死亡したことが確認されました
三上さんは世界各地で問題となっている最新ハード『creator』の原因により先月から意識不明の状態にあり本日未明、死亡したことが発表されました。
このことにより『creator』の販売中止を呼びかける声がより一層強まっていますが、制作会社は一切販売を中止することは考えていないという考えを明らかにしました。




