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第3話

 その後、自分がどうなったのかは分からない。

 だが少なくとも死んだということなのだろう。

 今こうしているが、少なくとも今に至るまでの二度目・・・の出生の記憶があるのが良い証拠だ。

 ただ分かったことはナイトメアが言っていた事が事実だあると分かった。

 この世界では死んだら記憶を引き継ぎ転生する。

 記憶の引き継ぐということは魂、もしくは心とでもいうのだろうか。

 それが残るということだ。

 つまりは死がない(・・・)。

 肉体的には死が存在するのに精神が死ぬことのない世界。

 それがこの世界、夢の中ということなのだろう。

 ナイトメアが言うには現実では肉体がまだ生きているという証拠なのだろう。

 そして記憶が残っていない理由はおそらく自己防衛のような事が起きているのだろうと思う。

 仮に死の体験、殺人を思い出していたら狂っていただろう。

 それだけ強烈な出来事のはずだ。

 他にもいろいろあるだろうが、青年はここで止めた。

 これ以上考えても仕方ない。

 今は2回目の人生、オズワルドとして生きている。

 仲間からはオズと呼ばれている。

 他の連れて来られた人達もおそらく現実ではなくこの世界でつけられた名前で生活しているだろう。

 他の人がどう考えているか分からないが少なくともオズは現実の世界に帰りたいのだ。

 自分の体がどうなっているのか、家族はどうしているのだろうか。

 考えだしたらいくらでも出てきそうだ。

 まだまだ向こうに心配することが多い。

 だから最終的な目的はナイトメアを探し出すこと。

 この世界に留まりたくはない。

 それに現在の記憶も失いたくはない。

 だが、この世界は広い。

 何一つ手がかりはない。

 だからその手掛りが入るようにすればいい。

 その為のギルドなのだが……。

 いろいろと問題|(?)を抱えていて、絡まれることがある。

 今も本拠地ホームに向かっているのだが大男が通路を塞ぐように立ちふさがっている。

 オズとしては避けて通りたいところだ。


「おい、ちょっといいか?」


 おそらくオズの顔に面倒だとありありと出ている。

 ギルドの問題はメンバーで取り掛かるべき案件だろう。

 だがこれはどうしようもないことだ。

 本人たちの問題であってオズにはどうしようもないことだった。

 それでも諦めが悪いのか、気に入らないからかオズの所に来ることが多いのだ。


「今、急いでいるのですが」


 冷や汗を掻きながら拒絶の意思を示す。


「そういうわけにはいかねぇな。こっちにもお前に用事があるわけだからな」


 後ろに振り向いてみると、ごつい男がいた。

 他にも複数人いてそいつの背後にいる。

 その全員がオズを侮蔑か、もしくは嘲笑の顔で見ていた。

 だがそんな様子なのだが逃がしてくれるわけがなかった。


「ソフィリアとユウをしっているな?」

「・・・知っているもなにもうちは小さい所ですから。人数も少ないですし」


 知っていて当然なのだ。

 自分も含めてたったの5人しかいない少数のギルドだ。

 もし知らないと答えたりしたら失礼だろう。

 それにもし言ってあとでばれたとなったら大変な事になってしまう。


「お前からも言ってくれよ。『自分の所よりよそのギルドの方が良いですよ』ってな‼」


 周りの男たちからもゲラゲラと笑い声を上げる。

 大男達がそういう態度でくるのであればこちらも相応の態度をとるまでだ。


「そういうのは自分達からあの2人に言えば?それとも言う度胸もないのか?」

「てめぇ……‼」


 目の前の男たちから怒気が溢れている。


「別にうちのギルドが強制しているわけでもない。本人たちの引き抜きをしたかったら自分達で交渉して来てもらうことだ。別に禁止しているわけでもないからな」

「できりゃとうの昔にやっている‼だがなあの2人は全くの聞く耳を持たねぇ!」

「つまりそっちよりこっちの方が良いということじゃないのか?」


 あの2人ははっきりと決断する。

 断られたのであればそれが答えなのだろう。これ以上、すがりついてもおそらく答えは変わらない。

 それならば諦めればいいのにと思う。

 それなりにソフィもユウも知れ渡っている。それならば断られたら引かないといけない。

 あまりにもしつこすぎるとそれこそ叩き出すことになるだろう。


「てめぇが縛りつけているだろうがっ‼」

「そうだ‼どうせ脅迫しているのだろう!」

「他人の弱みを握って脅迫している奴がっ!」

「人として恥ずかしいぜ‼」


 こいつらはいつもこうだった。

 自分より弱ければ何を言おうがお構いなしだ。

 相手が少数ならなおさらなのだろう。


「…お前ら、自分が失礼な事を言っている自覚があるのか?」


 ため息まじりに言う。


「そんな事だからユウやソフィに断られるだろ。何を言おうが自由だが口先だけで終わっているのが現状なのだろう?意外に伝わっていることが多いよ」


 ギルドが請負った依頼は基本的に途中で破棄することはない。

 信用問題にもなったりしている。

 そうなればなかなか依頼が入ってこなくなってしまい、ギルドの存続にもつながってしまうだろう。


「何を根拠に」

「斡旋所でそれなりの情報は入って来るものだ。それにまだ昼間からこんな勧誘ができるのは暇を持て余しているということだろうからな」


 そもそもオズの所に来れる時点でおかしいのだ。

 本来、この時間帯なら依頼を受けて仕事をしていてもおかしくない。

 フリーならともかくこいつらが勧誘で動いているのは間違いない。

 少し考えてみれば分かる事だった。


「俺でも気がついたことだ。そういうことは」


 知られていることだぞと伝える。


「そう何度も来られても困る。俺にもいろいろとあるからな」

「……っ!それはお前の所も一緒だろうがっ‼」


 オズには悔し紛れの言葉にしか聞こえなかった。


「そうかもしれないが、少なくともお前らの所よりマシだろ。あの2人を使って信用を取り戻そうと躍起になっているお前らより、な」


 こいつらはおそらくそれが目的なのだろう。

 オズはともかくユウとソフィはかなりの信用がある。

 それを利用しようという魂胆が見えているのだ。


「確かに一番の出稼ぎ頭はあの2人だが、別に強制しているわけでもない。もう一度言う。引き抜きたかったら自分達で説得して見せろ‼」


 もう二度と来るなと伝える。

 ユウ達に抜けられるのは痛手ではあるが、別にギルドが傾くということにはならない。

 別にオズとしての問題はないのだ。ただ本人たちの意思さえ尊重することが出来ればの話だが。

 こいつらのように屈折したやり方は気に入らない。

 ここに本人たちがいれば別かもしれないがオズから辞めるように言わせるような事を認められない。同じギルドメンバーとして、だ。


「いつでも来いよ。あの2人が居れば別に構わない。それとも説得すら出来ないのか?お前らは」


 おそらくこいつらはアピールすらしていないのだろう。

 それで勧誘しているつもりならば爆笑ものだ。


「まっ、聞いている話では穴だらけで本当に引き抜くつもりなのか?と疑いたくもなるだろうな。そういうことだ」



 自分達と組んだ方が絶対に良い!

 間違ってもあんな奴と組んでいては君たちが腐ってしまう!

 自分の身の丈にあった所で働くべきだ!



 どれもこれも自分ことであってギルドに関することを言わない。

 それではユウもソフィも入りたがらないだろう。

 本気で考えているのならどういうギルドなのかを説明しなければ無理だろう。


「お前らは中途半端なのだ。本気ならもう少し考えろ。そもそも何をやりたくてギルドに入っているのかが分からない。もっと目的を」

「ふざけんな‼」


 目の前の男が吠えた。

 顔を見てみると憤怒が見えた。

 実は話始めた時から冷や汗が流れていた。

 最終的にこうなるだろうと思えたからだ。

 ただオズは言いたいこと言ったのだ。

 それに貶してきたのも向うだ。

 本来はお互い様で終わらせてもおかしくない。

 だが……。


「言いたい放題言いやがって‼」

「魔力も何も持っていないくせに‼」

「魔法も何も使えない奴が‼」

「そもそも言い出したのはそっちだったろ。今さら何をいっているのやら」


 ため息をつく。


「ハイハイ。魔力を持っていて魔法が使えるエリート・・・・・がその全く使えない俺に構っている時間がないと思いますが?」


 嫌味たっぷりに言った。

 こちらとしてもここでいつまでも足止めを食らいたくはない。


「覚悟はできているのだろうな⁉」

「覚悟って何の?」


 理解しているのにとぼけているオズにたいして取り囲んでいた人たちは次々と武器を構える。

 それを見ていて顔に真剣みが出てくる。


「俺の決めた事は……これだ‼」

「はぁ⁉」


 後ろに振り向いて逃げた。

 オズが逃げ出した事が予想外だったのか男たちはあっけにとられていた。


「……オズが逃げ出したぞ‼」


 その声でどうやら我に返ったようだ。

 急いで追いかけ始めた。


「卑怯だぞ‼」

「なんで卑怯なんだ⁉勝てないなら逃げるだろ!普通!」


 元々能力が他人より低いのだ。

 だったらどうなるかと聞かれたら逃げ足が速くなる。

 今まで散々逃げて来たのだ。

 それにこの町ことは知っている方だ。

 何とか撒くことができるだろう。


「待ちやがれ!」

「なんか嫌な予感がするな」


 揉めに揉めてこれほどの騒動を起こしたのだが何か忘れているような気がする。

 裏路地や道路だけでは回り込まれてお終いになるだろうから適当な建物から階段を上り屋上に上がる。

 そして建物から建物へ跳んで囲まれないように逃げる。


「これでなんとかなるだろう」


 建物から建物へ移動したおかげなのか結構距離を離せていた。

 ここまで逃げれたらおそらく大丈夫だろう。


「くそっ!このままでは逃げられるぞ!」


 男たちはかなり焦り始めた。

 だからなのか、本来この街中で使うべきではない物を使おうとする。

 それを使えばもはや喧嘩で治まらず、周りを巻き込んだ事態になるとは分かっているはずだろう。


「くらえっ!」

「っ‼」


 突然地上から飛んできた火炎弾に驚きつつ、体を捻って躱す。だが完全に躱せなかった。

 右足を掠り、火傷になっていた。

 当然、跳び移っていた最中だ。そんな足で着地など出来るはずがなかった。


「くっ‼」


 着地が出来ず、襲い掛かって来た痛みに耐える。

 なんとか受け身をとれたがそれでも足がこんな状態では走れないだろう。

 だからといって待ってくれるような連中でもないだろう。

 こんな街中で放つよう連中なのだ。

 オズに向かって放たれた火炎弾の何発かは建物に当たっていて、そのままにしていればいずれ火事になるだろう。

 けが人もでているかもしれない。

 オズの責任ではないのだが無関係でもない。


「アイツを呼ぶしかない、か……」


 壁にもたれながらため息をつく。

 知り合いの警備員に連絡を取りたくはなかった。

 知り合いでそれなりの便宜を図ってはくれるのだ。

 だがちょっと面倒な性格なのだ。

 頼めるのだがあまり頼みたくはなかった。だがこの状況では仕方ないのだ。


「もう上がって来たか」


 予想より早く上がって来ている。

 落ちた建物がどれか分かるのに時間がかかると考えていたのだがどうも勘は働く方みたいだ。

 もはや迷っている暇はなかった。

 腰につけた袋から銃を出す。

 これに込められた弾丸はこの前知り合いのところにお世話になったときくすねておいた信号弾だ。

 これをオズが使うといろいろと面倒で大変な事になってしまう。

 これほどの事態になったらどの道大変な目に合う事は分かりきっている。それなら悩む必要などないのだが……。

 パンっ‼

 意を決しって撃つ。

 これであいつは間違いなく飛んでくるだろう。

 それは物凄い速さで……。


「はぁ、はぁ、はぁ、やっと追いついたぞ!」

「……そりゃ、ご苦労な事で。」


 あれだけの事をやっておいて追いついたとは言えないだろう。

 魔法が使えない奴に使ったのだ。それで捕まえられなかったらはっきり言って無能だろう。


「言いたい放題言いやがったのだ!覚悟が出来ているのだろうな!」

「いや、全く。」


 顔を横に振る。

 全く覚悟なんてしていない。

 ここでくたばるつもりが全くない。

 だからといって危機的状況ではあるのだが打てる手はすでに打っているのだ。

 あとは出来るだけの時間稼ぎをするだけだ。


「こいつっ‼さっき何か合図を出していたぞ!」

「ふんっ!どうせソフィとユウを呼んだのだろう!こいつはどうせ他人にすがるしか出来ない奴だからな!」


 その前にやれば良いといっている顔だ。


「いやいやいや。あの2人は来ないよ。来るはずがない」

「なに」


 他をソフィ達ではないことに驚く。

 では一体誰か。全く分からないと顔が言っている。


「いやなに、ちょっと前に警備隊にお世話になったときに拝借しておいたのだ」

「なんだとっ!」

「こいつ、やりやがったな!」


 オズが一体何をやったのか理解した連中の顔に焦りが出てくる。

 中には逃げようとする者も出てきている。


「なら!てめぇをさっさとぶちのめして逃げるだけだ!」

「いやいやいや、それはたぶん遅いと思うぞ。」


 空を見上げながら答える。

 耳を澄ませてみれば音が鳴っているのが聞える。

 苦笑いを浮かべる。

 目の前でリーダー格の大男が剣を振り上げて突進してきている。

 その剣がオズに振り下ろされる!


「もしかして狙っていた?ソニア」

「そんなわけないでしょ」


 その間に黒い影が割り込み剣を受け止める。


「オズ、後で聞くことがあるわ。良いわよね?」


 問答無用と言っているように聞こえる。

 顔がこちらを向いていないが言葉からかなりご立腹であるみたいだ。

 当然だろうと思う。

 なんたって自分のギルドの救難信号を使われたのだ。それも勝手にギルドから持っていかれた物を使って、だ。

 おそらくマスターも出てくるだろう。

 こってり絞られるであろうと予想が簡単に出来てしまう。


「……だから使いたくなかったけど、仕方ないよな。街中で住民にまで被害が出るような事をやられたのであればなおさらだよな。」

「義務を守ってくれたという意味では正しいのだろうけど、通報する方法に問題があるのだけど」


 ため息混じりで言った言葉に律儀に返してくる。

 仲間を大事にするからこそ飛んできたとわかる。

 だがオズはギルドメンバーではない。

 そんな奴がメンバーの信号について知られていることが問題なのだ。

 たぶん後でそれをどこで知ったのか聞かれるだろう。


「なんでこんな奴をかばうのだ‼」

「……これだけの騒ぎになっていて警備が動かないとでも思っていた?」

「そういうことではない‼なんで魔法が使えない奴をかばう理由があるんだと言っているのだ!そんな百害あって一利なしの奴なのにっ……‼」


 ソニアが剣を喉元に突きつける。

 連中にはその一連の動作が全く見えなかった。

 顔が青くなっているのが見える。


「……オズとは個人的な付き合いがあるだけ。別に特別視はしていないわ」


 ソニアが淡々と言う。


「今回問題にしているのは私的魔法の使用による一般市民への攻撃。それが一番の理由よ。だからこそ双方から事情を聞く必要がある。ただ全くの無傷のあなた方が足に火傷を負っていて動けそうにないオズに剣を振り下ろそうとしたように見えた。つまりあなた方はオズを殺そうとした。それだったからこそ守った。それだけよ」

「ついでに言うと俺が魔法を使えないって分かっている以上、家に引火したこともそっちが原因。それに逃げれない奴が数の暴力にやられているというのも見られていたと思うよ。まぁ、俺が気に入らなくて喋らないのであれば別かもしれないけど、それはそれで濡れ衣を着せられたことになって大変な事になるだろうから。」


 言い逃れが出来ないように言う。

 その火炎弾が当たった民家はというと別のメンバーによって鎮火されたようだった。

 その様子が見えていた以上すでにこの建物を取り囲んでいてもおかしくないだろう。

 べつにオズが言わなくてもこの状況の一部始終をソニアが見ていたはずだ。


「オズから手を出してきたのだ!だから……」

「だから応戦した。これは正当防衛だとでもいうつもりか」


 低い声でソニアが言う。


「もしそうであるのであれば過剰防衛だろうな。それに魔法が使えない奴ごときにこれだけの人数で応戦したとなれば防衛といっていいのだろうな?」


 元々実力で劣る人間に魔法による攻撃と集団で襲うとなれば防衛とは言えないだろう。


「プライドがないから出来ることなんだろうな。」

「オズ、挑発をしたのであればお前も厳罰ものだぞ?」

「それなら大丈夫」


 そう言いつつポケットから結晶石を出す。


「これには今回の一連騒動の原因が録音されていますから」

「なっ!!!」


 連中が驚いているが構わず言う。


「まっ、準備しておいて損はないっていうことだな」

「……それが証拠になりうる物だという確証は?」


 ソニアが疑うように言う。

 警備所から信号弾を勝手に拝借していた奴が出した物だ。

 そんな奴が出した物を簡単に信用しろと言われてもできないだろう。


「それなりの設備で調べても問題ないよ。入れた時間も少し前だからはっきりと分かるだろう。それがどんな物かも、な」


 悪い顔を浮かべて言うことではない。

 それを聞いて言い逃れが出来ない上に逃げられないと分かったのだろう。

 持っていた武器が手から落ちる。

 中には座り込む物いる。


「……一体いつから」

「最初から」


 呆然と呟く大男にたいしてオズははっきりと言う。


「お前らが俺の前に立ちふさがった時点で何かあると思ったのだ。だからこれを使っておいた。ちなみにこれには映像と音声両方が入っている。それもできる限りの人数を撮っておいた。」


 いつもこんな連中に絡まれたらそれなりの準備をしておく。

 そしてこういう時のために録画しておくのだ。


「はい」

「だからと言ってあれについての言及がなくなると思わないでよ」


 睨むようにソニアが言っているがオズとしては仕方ないと考えている。

 使った時点で話さざるをえないと覚悟を決めていたのだから。


「まぁ、別に俺の問題ないしね。」


 はっはっはっと、笑って言うが内心では冷や汗がダラダラと流れていた。

 その情報元の人物を言うのは簡単だ。

 簡単ではあるのだがその人物に問題がある。


「それならここで言っても問題ないのよね?」

「……多分」


 この連中の目の前で言いたくはない。

 だがソニアにここで言及された以上仕方ない。


「うちのギルドマスターです。」

「……シュヴァルベのマスターか」


 呆れた様子を見せる。

 周りにいた連中もその事に驚く。

 なんたって他のギルドの内情を知っていたのだ。

 一体どこから仕入れたのか気になるだろう。


「ちなみにその情報は一体どこから?」

「知りません」


 即答した瞬間ソニアが剣を突き付けて来た。


「本当に?」

「いや本当に知らないだよっ!いつもあの人が一体どこから情報を仕入れて来ているのか全く分からないのだ!」


 両手を上げて必死に弁明する。


「自分のギルドマスターなのに?」

「……一つ聞くがあの人が運営をしていると思っているのか?」


 遠い目をしながら答える。

 少なくともオズはマスターが働いているところを見たことがなかった。

 けっこう大変なのだ。ギルドの運営は。


「少なくとも聞いたことないわね。定例会ですら見たことがない」


 はははっと乾いた笑みを浮かべるしかなかった。


「……この際聞くけど、誰も見たことがないあなたの所マスターってどんな人?」


 いつの間にかソニアのギルド、紅の聖十字のメンバーも興味津々らしく集まっていた。


「ここで言うのか?」


 周りが当然という顔で見てくる。


「いや、ここで言うのも問題になると思うのだけど」


 出来れば話したくはない話題なのだ。

 それもこれだけの人数の中だ。

 少しでも話せば必ず来るだろう。請求書が。

 あの人は情報を大切にする。そんな人の事を離せばどうなるか分かってしまう。

 メンバーにすら売り買いするような人だ。

 出来れば話したくはない内容なのだ。


「……仕方ない。この続きはうちのホームで取り調べの際に聞くとするわ」


 ため息混じりでソニアが言う。

 周りは不満げな声が上がるがソニアの睨みで黙らせてしまう。

 オズもその目を見ていたのでわずかに震える。

 これだけの人数を黙殺できるソニアの力量を窺える。


「それよりもソニアたちのギルドもうちと同じって聞いたことがあるのだけど」


 オズの言葉に反応したソニアが睨んでくる。

 ビクッと反応してしまう。

 目が語っていた。

 それには触れるなと語っている。

 肩を貸してもらってオズは事情聴取のために在中所に向かう。

 まだ周りの目があるからか、ソニアの一撃は来ない。

 だが確実にくるだろう。

 いつも迷惑をかけているのだから。


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