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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第1章 転生、目指せマタドール編
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第8話「雑貨迷宮への挑戦」

 迷宮挑戦前日。

 俺は町の広場にて、総合ギルドに出入りする冒険者や探索者の様子を見物していた。

 明日は迷宮初挑戦なので、騒ぐ心を静めるため、あるいは心の準備のために、広場のベンチに座って観察を続ける。


 まじめに冒険者らを観察するのは久しぶりなので、なかなか面白い。

 リリアの町は小さいので、ここの総合ギルドを拠点にしているのは、

 冒険者で6パーティ。探索者は12パーティのみだそうだ。傭兵はいない。


 冒険者と探索者は見た目で判別できる。

 まず武器の大きさが違う。冒険者の武器や盾はやたらにデカく、槍は自身の身長の倍はあるようなものを装備する。

 逆に探索者の武器は小さく、弓や槍も小さい、室内戦闘を前提としているためだ。


 冒険者は商隊護衛や討伐で長距離移動を行なう。

 そのためか女性が少ない。6人パーティで1人いるかいないかだ。


 逆に探索者は町を拠点として、迷宮探索するのでほとんど動かない。

 女性の比率がかなり高く、女だけのパーティも結構ある。


 職業的には、探索者は剣士、弓士、戦闘魔法師バトラ・マギア神聖魔法師セディオス・マギア、が大半だが、冒険者ではその他に、戦士、槍士、賞金稼ぎ、猟師、斥候なんてのもあるようだ。


 格好として面白いのは戦闘魔法師バトラ・マギアかな。

 男はジェントルマンな黒いタキシード風の服で、頭にシルクハット、マント、ステッキみたいな魔法の杖を持ってる。

 女はデカイ帽子に、戦闘魔法師服バトラ・ドレス、魔法の杖。


 戦闘魔法師バトラ・マギアの男女が一緒に歩いていると、冒険や探索に向かうのではなく、どこかのダンスパーティに行くのではないかと思える。

 あきらかに中世ヨーロッパ風では無い。

 もうちょい時代が進んだ感じだな。

 見物して気分を落ち着けた俺は、家に帰って少しトレーニングすることにした。




 迷宮挑戦の初日。

 俺は朝食後、出発のために装備を整える。


 黒い鉄の鎧とモヒカンタイプの兜。

 手甲剣セスタ・エスパーダ、サブに湾曲短剣ファルカタを装備。

 背中には投擲短槍ショート・ランザー2本。

 今回、盾は普通の木の盾とした。


 準備を終えたらしい母イレーネも中庭に出てきた。

 笑顔がまぶしい金髪美人だ。最近少しふっくらしてるか。


 イレーネはこの世界の標準的な剣士の格好をしている。

 エンジ色の大きな帽子、白いシャツにエンジ色の頑丈なチョッキとマント。

 剣帯の左にレイピア。右に湾曲短剣ファルカタ

 左手に赤盾レッド・エスクードを持っている。

 背中には小型のバックパックを背負う。


 なんというか、三銃士みたいな格好だ。

 たしかあの時代は、鋼鉄が発明されて、フルプレートメイルをレイピアで貫通できるようになって、鎧が軽装になったんだったけか。

 こっちは魔獣がいるから、そのまま地球と比較はできんけどね。

 イレーネを鑑定で見てみる。



名前 イレーネ・カリオン・チャルコス

種族 人間族

職業 踊り子


レベル15


ヴァイタル 142/142


スキルポイント 5P


種族スキル 頑丈



スキル(6/9)

【剣術レベル2】【盾術レベル1】【短剣術レベル1】


【料理レベル1】【裁縫レベル1】


【踊り子レベル3】



 なかなかの使い手。

 職業の踊り子っていうのは、イレーネがフラメンコの先生マエストロだからだ。

 剣士は一旦やめて18歳からフラメンコの教師をやっていたらしい。

 育児も手がかからなくなったので、最近は再び教師業を再開、

 迷宮も週1日は入っているそうだ。


 それにともない、メイドのナタリアさんもお役御免となった。

 もう俺もマリベルも手がかからなくなったしな。

 ナタリアさんは、次の仕事先で働いている。



 さっそく南門から出発。

 海を右手に見ながら街道沿いに南下する。

 ふと上空を見ると、人が乗った海竜が飛行しているのが見える。

 ヴァレンシア領海軍の竜騎だ。

 リリアの港に小さな竜騎の基地があるので、そこから飛んできたのだろう。


 40分ほど歩くと雑貨迷宮と古代遺跡が隣り合って見えた。

 古代遺跡はなんというか、ストーンヘンジみたいだな。

 俺達は、その古代遺跡の付近で休憩する。

 

「ここから砂浜が見えるでしょ、あそこにソールが漂着していたのよ」


「そうなんだ。よく辿り着けたよなぁ」


 俺はまぶしい日差しに目を細めながら海を見る。

 あの海のどこかから、俺は流されて来たのか。


 


    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第1章 転生、目指せマタドール編




「さあ、ここから迷宮よ。覚悟はいい?」


「うん。行こう」


 休憩を終えた俺達は、雑貨迷宮の扉を開けて中に入る。

 階段を下りると、そこには石畳の通路と壁があった。

 等間隔で灯が点いているので、思ったより暗くない。

 うう、緊張する。


「剣を抜いて。この迷宮は1層から10層まで同じ構造だから迷うことは無いわ。私に着いてきて」


 俺達はソロソロと回廊の大きな通路を進んでいく。

 と、向こうからゴブリン4体が出現した。

 いきなりエンカウントだ。

 ゴブリンは棍棒を振り回しながら突っ込んでくる。


「ソール。迎撃するわよ。緊張しすぎないでね」


「分かった……」


 俺は思わず頼りない返事をした。

 だって初めての戦闘だから怖いんだもん。


 走ってきたゴブリン4体のうち3体は吸い寄せられるようにイレーネに向かう。

 なんでだろう?

 よく見るとイレーネは赤盾レッド・エスクードをヒラヒラさせたり突き出したりしている。

 なるほど、魔牛と同じか。あれで挑発しているんだ。


 イレーネはレイピアで突きを繰り出す。速い!

 一瞬でゴブリンの頭部を打ち抜いて、バックステップ。

 隣のゴブリンの棍棒攻撃をかわす。


 と思ったら再び突きを繰り出し、ゴブリンの右腕を打ち抜く。

 ゴブリンはたまらず棍棒を落とす。

 

「シャッ!」


 イレーネは短いシャウトを出すと、レイピアで2連続でゴブリンの胸を貫く。

 貫かれたゴブリンは、ドウッ、と前のめりに倒れ絶命する。


 イレーネは素早くバックジャンプ。レイピアを打ち下ろす。

 突進してきた3匹目の額にレイピアの切り落としが命中。

 ゴブリンはたたらを踏む。


 すげーぜ母ちゃん!

 流れるような剣術に思わず見とれる。

 と、見とれてる場合じゃない。

 ゴブリン1体が俺に向かって突進してくる。

 ようし、俺だって。


 と意気込んだはいいんだが、剣の間合いがとれず、先制攻撃を許してしまった。

 ゴブリンは棍棒で殴りかかる。俺は盾ではじく。

 だが、父アベルの訓練での攻撃に比べれば、威力、速度ともはるかに劣る。

 

「このっ!」


 俺は手甲剣セスタ・エスパーダを突き出す。

 この剣は突きに優れており、あっさりとゴブリンの顔面を潰す。

 追撃でもう1発。

 胸を貫かれたゴブリンは、そのまま倒れ黒い煙に包まれ、ドロップ品を残す。

 イレーネはすでにゴブリンを全滅させていた。


「ソール。最初にしては悪くないわ。ドロップ品を拾っといて」


 俺は言われたとおりドロップ品を拾う。

 床にはトンカチが転がっていた。

 イレーネはミニのこぎり、爪きり、ハンガーを拾っていた。

 さすが雑貨迷宮。

 ドロップ品は全部雑貨で出てくるのか。


 イレーネは腰からリングのようなものを取り出し、スイッチを入れる。

 と、ブーンと音がしてリングに光の膜が形成される。

 そこにポイポイとドロップ品を放りこむ。


 おお、こいつはファンタジー定番の、アイテムボックスとか空間ストレージとかいう奴か。

 イレーネは空間魔法とか使えるのか?


「空間魔法? ああ、この移送リングのことね。ほら、リリアに貸倉庫屋があるでしょ。このリングはそこと繋がっているのよ」


「えっ、貸倉庫屋。たしかにあるけど…」


「あそこで倉庫を借りると、この移送リングと鍵を借りれるの。借りた倉庫の大きさの分だけ、アイテムを送ったり、こちらに引き出せるのよ」


 な、なるほど。

 貸倉庫ってそういう機能があるんだな。

 魔道具だから金さえあれば誰でもできるのか。

 ある意味魔法より便利だ。

 有効距離は500キロとのことだから、かなり遠くでも利用できる。

 これも魔道具迷宮で手に入るらしい。 


「さっそく次が来たわ。回廊のゴブリンは全部潰すわよ。後ろからも来る可能性があるから気をつけて。」


 回廊の曲がり角から、ゴブリン6匹が現れた。

 当然のごとく突進してくる。


「殺りながら後退するわよ!」


「はい!」


 イレーネが挑発して4匹を引きつける。2匹は俺の所だ。

 イレーネは構えながら一瞬静止、剣の間合いへ来た所で突きを放つ


「スァッ!」


 イレーネは突きを2回放ち、先頭のゴブリンの右肩と胸を打ち抜く。

 先頭のゴブリンは即死するも、左側から新手のゴブリンが来る。


 イレーネは素早く右足を引き、ゴブリンにシールドバッシュの打撃を与え、バックステップ。

 後退しながら右水平に剣を払う。


 そして後続の右からやって来たゴブリンの顔を引き裂く。

 ほんの数秒で1匹即死、1匹転倒、1匹を戦闘不能にした。

 すげー。母ちゃん強すぎだわ。

 剣術レベルが低くても経験でここまでやれるのか。


 俺は接近してくる右側のゴブリンに剣を突き出し、顔面を潰す。

 続けて左側のゴブリンに、シールドバッシュ。

 棍棒を振り上げた腕にぶつけて、振り下ろしを防ぐ。

 バックして剣を構え間合いを整える。 


 と、ゴブリン4匹を倒し終わったイレーネが、全力疾走で俺の横を通り過ぎ、後ろに走っていった。

 一瞬混乱しながら、前の1匹を倒すことに集中する。


 ゴブリンの棍棒を受け止めて、意表をついて足に剣を突き入れる。

 ゴブリンはもんどりうって倒れる。

 俺はゴブリンの後頭部を剣で打ち抜く。


 急いで後ろを振り返ると、イレーネが2匹のゴブリンを倒し終わっていた。

 やべー、後ろから来てたのか。全然気づかなかった。


「まだ慣れてないからいいけど、後ろから来ることもあるから、戦闘中も注意が必要よ」


「はい。分かりましたお母様」


 思わず敬語で返事をする俺。

 二人でドロップ品を拾う。

 トンカチ、釘、釘抜き、ハサミ、S字フック、ハンガー、スリッパ……

 百円ショップで売ってそうな品物ばっかりだな。

 むう、この鉄の棒は。

 鑑定してみると「バールのようなもの」だった。

 これは最強の武器ではないのか?


 イレーネは特に気にせず、ドロップ品を移送リングに放り込む。

 「バールのようなもの」はたいした物では無いらしい。



 その後、4匹と5匹のゴブリンを撃破し、回廊のゴブリンは全滅した。

 数時間は再ポップしないそうだ。

 今のうちにボスを倒す。ボス部屋に行くには、4つの部屋を抜けないといけないらしい。

 

「最初に回廊の敵を全滅させるのが、迷宮攻略のセオリーよ。」


「どうして先に回廊を制圧するの?」


「部屋の魔獣は動かないけど、回廊の魔獣は部屋でも通路でも自由に動けるの。回廊の魔獣を潰さずに部屋で戦ってると、後ろから攻撃を受ける可能性があるわ。」


「なるほど、ソロだと必須になりますね」


「ええ、初心者は先に部屋の魔獣と戦ってしまって、背後から来る魔獣に挟まれて命を落とすことが多いのよ。これを『生き埋め』て探索者は呼んでるわ」


「迷宮探索は、できれば2人以上が安全ですね」


「そうね。パーティを組むのが一番よ。ソールも初心者を見かけたら、教えてあげてね」


 

 俺達は部屋に侵入。4つの部屋にいたゴブリン19匹をかたずけ、ボス部屋の前に到着した。

 この階のボスはハンマーゴブリンで、やや耐久力が高いゴブリンらしい。

 俺は覚悟を決めて突入。

 部屋の中心に黒いもやが出現。

 大きなハンマーを持った、体格のいいゴブリンが出現した。


 俺とイレーネはサイドから挟み撃つ。

 イレーネが赤盾レッド・エスクードで挑発。

 ゴブリンはハンマーを振るうも、イレーネは回避する。


 その隙をついて、俺が背中に斬撃を放つ。

 が、1発だけでは仕留められない。

 こんどはこっちにハンマーが振るわれる。

 しかしハンマーを振るモーションが大きいので、簡単にかわせる。


「シャッ!」


 今度はイレーネが突きを3連撃で繰り出す。

 背中に1突き、右肩に2突きで打ち抜く。

 これでゴブリンはハンマーを振るえなくなった。


「フッ!」


 俺は渾身の力を込め、手甲剣セスタ・エスパーダで突き入れ、ゴブリンの後頭部を打ち抜いた。

 ゴブリンが倒れ黒いもやに変わる。

 やった、第1層クリアだ。


「オーレィ!」


 イレーネが歓声をあげる。「オーレ!」というのは「いいぞ!」「うまい!」みたいな賞嘆の掛け声だ。

 なるほど、戦闘までラテン系のノリなんだ。


「やったわね。ソール。今度から掛け声をかけながらやりましょう。探索者や冒険者のゲン担ぎみたいなもんよ」


「はい。お母様」


 ハンマーゴブリンのドロップ品は、バールのようなもの、と釘100本だった。

 いらねぇー。いや、回収したけどさ。


 その後、迷宮初挑戦は意外に疲れる。ということで2階層には進まず、ボス部屋の扉を使って地上に戻った。

 外に出てステータスチェックをする。

 おお、3時間ぐらいしか迷宮にいなかったのに、レベルが4つ上がっている。

 おまけに【身体強化レベル1】も獲得している。


 スキルポイントは60Pあるので、さっそく使用。

 特殊剣術レベルを3に、身体強化をレベル2に上昇させた。

 スキルポイント残は20P。

 さすが魔王スキル、成長が早いな。



レベル8


ヴァイタル 112/112


スキルポイント 20P


特殊種族スキル 【魔王レベル3】

特殊種族魔法  【封印中】


スキル(5/20)

【特殊剣術レベル3】【身体強化レベル2】


【鍛冶魔法レベル3】【土木魔法レベル1】


【魔法陣作成レベル1】




 隣のイレーネもステータスチェックしていたが、驚いて声をあげる。


「んん? あれぇ。もうレベルが上がっている。それにスキルポイントが13P。上がり幅が8Pになってる!」


「へ? レベルアップの上がり幅のこと」


「そうそう。普通レベルアップしたら、スキルポイントが5P貰えるよね。それが8Pになってる」


 えっ、普通は5Pなのか、俺は10Pなんだが、魔王ってチートだなぁ。

 ていうか、そうか!

 特殊種族スキルの「魔王軍団」がイレーネにも効いているんだ。

 そういえば俺の保護者だから、パーティを編成したと解釈しているのか。

 やべー、いつのまにか魔王の配下扱いかよ。


「そ、そうなんだ。良かったね。きっと神様からのプレゼントだよ」


「フフッ、そうなのかしら。まあスキルポイントが多くて困ることはないから、別にいいよね」


 本当は魔王からのプレゼントなんだけどね。

 ふう、なんとか誤魔化したが、いつかバレるよな。




    第8話「雑貨迷宮への挑戦」

   ⇒第9話「闘牛ギルド」


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