第7話「扇風機開発」
少し前にフィギュア製作で、魔力切れに悩まされながらも、四苦八苦で作った甲斐があったのか。
いつのまにやら、レベルが1つ上がっていた。
ヴァイタルが大分増加したが、おそらく魔力が伸びているのだろう。
体力と魔力が分けて表示されないので、
どうにも能力の伸びが分かりづらいな。
スキルポイントは残り10Pになっていたが、
レベルが1つ上がったので、10P加算で計20Pになっている。
現在のステータスはこんなもん。
レベル4
ヴァイタル 62/62
スキルポイント 20P
特殊種族スキル 【魔王レベル3】
特殊種族魔法 【封印中】
スキル(2/20)
【特殊剣術レベル2】
【鍛冶魔法レベル3】
と、1階から母イレーネの呼び声が聞こえる。
降りてみると荷物を渡された。
俺の誕生日プレゼントが着いたのだ。
以前、俺の誕生日の時に母におねだりしておいた、魔法陣作成入門セットだ。
領都ヴァレンシアの魔術ギルドに、3週間前に注文をだして、
今ようやく届いたのだ。
「もう、ソール。誕生日ぐらい子供らしいもの欲しがればいいのに……」
と母は愚痴っていたが、俺にとっては最高の「おもちゃ」なんだけどな。
さっそく2階に持って上がり、開封してみる。
なんかゲーム機を開封するのに似たワクワク感があるな。
中身を取り出すと以下のものが入っていた。
テキスト
・魔法陣作成手順の説明
・基礎魔法陣の手引き
・応用魔法陣辞典
ミスリル溶剤5本
筆3本
陶器パレット
筆洗
木製テンプレート
ミスリル薄板
厚さ1センチの鉄板
ミスリル小魔導線10メートル
スイッチボックス2個
魔力結晶ボックス2個
2つ星魔力結晶2個
1つ星魔力結晶4個
送風生活杖 1本
値段が金貨5枚。日本円で5万円相当もしたので、中身はかなり充実している。
このセットで、中級レベルまでの魔法陣作成スキルを勉強できるのだ。
初日は作業を思い浮かべながら、本を熟読した。
2日目、初歩的な魔法陣をさっそく作ってみる。
最初は簡単な奴で、スイッチを入れると光魔法が発動する魔法陣だ。
球形の魔力結晶を手に取る。
こいつには等級があって、1~10個星まである。
星が多いほど中に溜め込んでいる魔力が大きく。サイズも大きくなる。
1つ星魔力結晶はビー球くらいの大きさ。
2つ星魔力結晶はゴルフボールぐらいだ。
庶民が使うのは3つ星まで、それ以上は高すぎて買わない。
魔力結晶が貯めている魔力は無属性のもので、
まずは属性変換魔法陣に無属性魔力を通して、+か-の属性にする必要がある。
というわけで、まずはその属性変換魔法陣を作る。
魔法陣を描く板は、ミスリル薄板。その上に3重の円がくり貫かれた木製テンプレートを置く。
次にミスリル溶剤をパレットに落として、筆にとってテンプレに沿って円を描いていく。
属性変換魔法陣は1重円だけ書けばいい。
ミスリル溶剤は、特殊な薬剤とミスリルの粉を混ぜたもので、見た目は水銀みたい。
乾燥すると固まるので、手早く円を描く。
次に送風生活杖で風を送り描いた円を乾燥させてから、中に魔法文字を書き込む。
今回は+属性に変換する。魔法文字は8文字で良い。
魔力結晶ボックスを取り出す。この箱は魔力結晶を入れる箱であり、周囲にミスリルで出来た金具がついてる。
地球的に言うと電池ボックスだな。このボックスに1つ星魔力結晶をはめ込む。
次にミスリル魔導線を取り出す。これは魔力を伝えるコードで、4本の細いミスリルコードが結ってあり、
ゴム被覆みたいなもので覆ってる。まんま見た目は電線だ。
ミスリル魔導線を短く切って、片方を魔力結晶ボックスに繋ぎ、もう片方を属性変換魔法陣の入力部につなげる。
魔導線を入力部に押し当て、ミスリル溶剤をかけて乾燥させれば、コードはくっつく。
で、属性変換魔法陣の出力部にもコードを繋げて、そのコードの先にスイッチボックスをつければ、スイッチのオン、オフで+属性の魔力が流れるようになる。
最後に光る魔法が発動する魔法陣を作る。魔法陣の3重円の一番外側に宣言文を記入。
宣言文は「この魔法陣は+属性」「魔法を発動する魔法陣です」みたいな魔法文字を描く。
2番目の円には、発動する魔法の種類、強さを記述。今回は光玉にした。
中心円に制御言語。発動時間、発動座標などを記述。
普通の言語ではなく、使い馴れない魔法文字なので、応用魔法陣辞典と睨めっこしながら文字を書いていく。
出来た魔法陣を、スイッチボックスに繋げれば完成だ。
『魔力結晶ボックス』ー『属性変換魔法陣』ー『スイッチボックス』ー『光玉魔法陣』
さて、いよいよ発動させる。スイッチボックスをオフからオンにする。
すると魔力が伝達され、数秒で魔法陣の10センチ上に小さな光玉が出現した。
よし、成功だ。
なんか魔法陣てプログラムというかマイコンみたいな感じだなぁ。
基礎は分かったので、次はいよいよ本格的に扇風機を開発する。
夏に台風が来る前は、ほんと蒸し暑くて寝苦しくて眠れない時があるからな。
扇風機を作って、涼しい快適な生活を手に入れるのだ。
超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ
⇒第1章 転生、目指せマタドール編
日曜日。俺は教会前の広場に来ていた。
広場には、日曜学校が終わった子供達が沢山遊んでる。
俺は扇風機の設計を行なっていたのだが、
気分転換に、ここで遊ぶことにした。
精神的にはどうあれ、俺は11歳の子供だからな。
たまには子供らしい遊びもしてみる。
「おう、ソールじゃないか。ルチャしねーか?」
一角魔族の子供、ルシオ君が俺を誘う。
この子は俺の家の隣に住んでる魔族の子だ。
たまに遊ぶ友達である。
了解した俺はルチャをやってる子供達の所へ向かう。
ルチャというのは簡単にいうと相撲だな。
丸い土俵を作って、組んだ状態から相撲をとり、
足の裏以外が地面に着いたら負けだ。
日本の相撲と違い、張り手・突っ張りがない。
最初から腕を組んだ所から始まる。
正式名称は、ルチャ・カナリアといい、カナリア相撲となる。
どういうわけだか、この異世界にも場所、形が全然違うが、
カナリア諸島が存在するのだ。
ルシオ君や他の子と20回ほど相撲をして、
飽きたのでルシオ君と一緒にサッカーに向かう。
さすがにスペイン風異世界だけあって、サッカーは人気だ。
子供も大人も、ヒマや機会があればやっている印象がある。
まあ、地球でもサッカー自体は大昔からあるし、
ボールが無い頃は頭蓋骨を蹴ってたらしいので、
この世界にあってもなんら不思議は無いわけだ。
しかしファンタジー系の人達がサッカーをやってるのは、
俺的にはバリバリ違和感があるわけだが。
サッカーボールは、茶色い蹴りやすい大きさのボールを使う。
10人チームで、前衛、中衛、後衛に3人ずつとキーパー。
場外に出た場合はオールスローインとなっている。
大体地球と同じルールだな。
俺は中衛に入り、ルシオ君は相手チームの後衛に入る。
試合開始。獣魔人族がドリブルで切り込んでくるがカット。
前衛にボールを送る。
獣魔人族は猫やら虎やらの種類がある。
外見は頭に耳やら尻尾がついてるが、
それ以外は人間と変わらない。
一般的に言うところの獣人というやつだが、この世界では魔族の一種と分類される。
身体能力に優れているので、大抵サッカーでは前衛で、ストライカー役が多い。
こうしてみると、種族ごとの特性がサッカーでも出ているのが面白い。
獣魔人族は前衛で積極的に攻め、
中衛はエルフが多く、ちまちま前線にボールを送ってる。
ドワーフは後衛でディフェンダー役。
その他角魔族等は、後衛かキーパーが多い。
人間族はどのポジションでもそつなくこなす感じ。
再びボールが飛んできたので、キャッチする。
前方が手薄なので、俺がドリブルで突入。
人間族2人、エルフ1人を突破。
ゴール前まで切り込んでシュート。
が、二角魔族のキーパーにパンチングでクリアされる。
広場には隅に花壇が多いので、
等間隔に置かれた花壇をゴールポストに見立てている。
弾かれたボールを獣魔馬頭族が拾い、
猛スピードでドリブル突破。
俺は追いかけるも引き離される。
やはり馬頭だけに、走りが早いか。
獣魔頭人族は、動物の頭がそのまま乗ってる獣人だ。
獣魔人族に比べると種類や数は少ない。
見た目がいろいろ強烈なので、
馬、蛇、トカゲタイプしか町には住んでないらしい。
「「「ちゃお~」」」
夕方になり、別れの挨拶をして、
子供達は親と一緒に帰っていく。
俺もルシオ君と家路についた。
1週間ほど構想と設計を考えて、大きな木材を準備。
鍛冶魔法で見た目扇風機の形を作っていく。
まずは台座を作り、縦棒をつけて、その上に長い横筒をつけた。
台座に魔力結晶ボックス、属性変換魔法陣、スイッチボックスを埋め込む。
スイッチボックスからミスリル魔導線を伸ばして、縦棒の内部を這わせて、上に出す。
後はあらかじめ作っておいた「送風」の魔法陣につなげ、送風魔法陣を保護用の鉄の箱に入れる。
魔法陣は曲がったり穴が開くと使えなくなるので、保護は必須だ。
その送風魔法陣を横筒に組み込み、縦棒につなげて扇風機が完成した。
2つ星魔力結晶を入れて、スイッチを入れると送風魔法陣が発動。
記述どおり、筒の後ろの穴から空気を取り込み、前の穴から風が噴出した。
うむ、素晴らしい。
見た目は○イソンの羽根の無い扇風機みたいだ。
あれ、これって送風機じゃね?
まあいいや、扇風機と呼称しておこう。
扇風機を眺めていると、俺の頭にいきなり膨大な情報が流れた。
おおっと、「ひらめき」が来た。さっそくステータスを確認。
【魔法陣作成レベル1】を無事に取得した。
よし、飯の種2つ目を獲得だ。
スイッチを入れっぱなしにして、連続稼動実験を行なったが、2つ星魔力結晶で6時間使用できたので、十分実用的な出来だった。
さっそく家族用に5台分を作って、みんなに配った。
ちょうど夏になり暑くなる所だったので家族には大好評だ。
父アベルが扇風機の風に当たりながら感心する。
「はあ~。凄い涼しいなこれ。ソール、お前天才じゃないのか?」
「ソールにこんな才能があるなんてね。あっ、お父さん。使いすぎないでよ。魔力がもったいないでしょ。」
「お兄ちゃんすごい。」
フフフ、そうだろうそうだろう。もっと褒めてくれていいよ。
なんてな… こんな単純な構造の魔道具だから、いくらなんでも発明されてないことは無いだろう。
リリアでは売ってないが、王都ぐらいなら扇風機が売ってても不思議じゃない。
もっとも値段が高いかもしれないが。
4台は家族で使用することにし、残り1台は鍛冶魔法習得でお世話になった礼として、ガルデルさんに渡した。
父には扇風機の礼として土木魔法を教えてもらうことにした。
魔力を薄く広く地面に流して、地中を探るのが習得のコツらしいが、これがなかなか難しい。
毎日練習してたが、習得までには2ヶ月もかかった。
それでも父が言うには、かなり早い習得なのだそうだ。
【土木魔法レベル1】を習得。
スキルポイントが20Pしかないので、
レベルアップは保留しておく。
包丁研ぎのため、久々にガルデルさんの店に行く。
俺が以前送った扇風機があったが、黒ツヤ塗装されていて見た目が立派になっていた。
「おお、坊主。いいところに来たな。この扇風機が欲しいって言う客がいるんだ。悪いが5台作ってくれないか」
「いいですけど半月ほどかかりますよ」
「それぐらいならいい。この扇風機の制作費はいくらだ?」
「銀貨6枚ってとこですね。金貨1枚くらいで売るんですか?」
「いやいやー。俺が原価銀貨2枚で黒ツヤ塗装して金貨5枚で売るんだよ。分け前は俺金貨2枚。坊主が金貨3枚でどうだ」
「それでいいですけど。高くないですか?」
「いいや。こんなもんだ。基本魔道具は高いもんだからな」
なるほど。しかし扇風機が日本円で5万円か。
ぼったくりに思えるが、この世界では問題では無いのだろう。
売ってないしな。
ちなみにこの世界の貨幣は、銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。
金貨10枚で大金貨1枚。大金貨10枚で金板1枚となる。
価値は日本円におおざっぱに直すと、銅貨1枚=100円、銀貨1枚=千円、金貨1枚=1万円、ぐらいだ。
俺は扇風機5台を作って売り、金貨15枚を手に入れた。
それから2年後、俺はようやく13歳となった。
色々と忙しく動いていたが、肉体が若いせいか時間の進み方は遅く感じる。忙しいけど退屈。
前世の記憶を持ってると、人生を充実して過ごすというのは難しいな。
だが、やっと13歳だ。いよいよ念願の迷宮に挑めるわけだ。
「ソール。あなたは魔道具も作れるスキルもあるし、将来の収入を得る手段も手に入ったと思う、闘牛士を目指してもいいわよ。まずは迷宮で体を鍛えましょ」
「はい。やっと迷宮に入れますね」
イレーネ母様の許可も出た。
というわけで二人で連れたって総合ギルドに向かう。
この町の人口は少ないので、冒険者ギルド、探索者ギルド、傭兵ギルドが1つになった総合ギルドがあるのだ。
職員は3名しかいない小さな所だが。
ギルドで書類を書き、水晶に手を当てて魔力を流すと、右手の甲に探索者の刻印が刻まれる。
探索者の仮登録はこれで終了。
これで保護者と一緒なら迷宮に入れる。
あくまで仮登録なので、ギルドカードは発行されない。
ドロップ品の引き取りは保護者でないとできないのだ。
「じゃあ1週間後から雑貨迷宮に入るわよ。週に2日くらいのペースで潜りましょう。当面3階層までね」
俺達はしばらく2人で、リリアの町から、南に徒歩40分ほど行ったところにある雑貨迷宮に潜ることになった。
第7話「扇風機開発」
⇒第8話「雑貨迷宮への挑戦」