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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第6章 アスティリアス貿易編
75/75

第62話「魔王様、模擬演習を行なう」

エスパーニャ暦5543年 9月5日 14時50分

魔王国首都ヴァルドロード 大会議室


「というわけで、第4回魔王評議会をこれより始めたいと思います~」


パチパチパチパチ!


 ずいぶんと久しぶりな感じで、俺は首都で魔王評議会を開催した。ここらでそろそろ魔王国の総まとめが必要だと思ったからだ。来年戦が始るのなら、こういうノンビリした会議を開く時間は取れないかも知れないからな。


「さて、早いもので今年も残すところ後4ヶ月となりました。来年以降いつアルコンが動き出してもおかしくは無いので、今のうちに魔王国の現状を整理しておこうと思います。では、各局の方は順番に報告してください」


「開拓局のアベルです。まず私から魔王国全体の状況に関して説明します。まずレムノス島の人口ですが、現在首都に1304名が住んでおり、軍人は948名、12の村に1960名がおります。全員を合わせるとレムノス島総人口は4212名に増加しています。ただし軍人は魔王船の乗ることもあるので±500程度の増減はあります」



 ほほう。

 わずか2年でも結構人口が増えたな。魔王船は最初約6千人でレムノスにやってきたが、レオンに帰還した人が150名、レムノスに移住した人が800名いるので、現在の魔王船の人口は約5千人に減っている。それと合わせると魔王国の総人口は9212名ほどになるか。世の中の小国には人口3万人の国なんかもザラにあるから、2年で3千人増加なら、孤島のわりには結構な増加ペースじゃないか。


 まあ、それと比較すると軍事力だけは異常なレベルだけどな。たしかバルバドスで人口80万人で、竜騎母艦艦隊2、砲撃艦隊1、竜騎300だったか。それと比較するとうちの軍事力は、竜騎母艦艦隊相当1、魔王船、竜騎200で人口60万人ぐらいじゃないと釣り合いが取れないレベルなんだよな、まだ2年しか経ってないのに。これも魔王と魔王船のチートのおかげと言えるか。続けてイレーネが食糧自給率に関して説明する。


「食糧に関してですが、農業のみですと自給率は50%、これに迷宮のドロップ品と魔王船の余剰食糧を加えると70%、さらに現在の漁獲量を加えると140%となります。今は人口も少なく食糧の備蓄もかなりあるので、しばらくは安泰でしょう」


「食糧的には、あと何人受け入れられますか?」


「2~3千人といったところかしら。年平均千人ずつなら増えても支障はないと思う。3万人まではね。それ以上なら土地を開拓する必要が出てくる」


「冒険者、探索者のほうは?」


「冒険者11パーティー。探索者29パーティー 見習い冒険者1パーティーよ。今のところすべての迷宮をカバーできてるけど、迷宮に入る頻度がまだ少ない。探索者は今の倍は欲しいところね。冒険者は間に合ってる」



 自給率は問題無いのだが、ここに戦争が関わるとどう変化するか分からんな。あるいは移民が爆発的に増えるかも知れない。まあ今はそんなことを考えてもしかたがないか。なるようにしかならん。それから各局の状況を聞いていったが、開拓局、財務局、貿易局、福祉局とも局員は50名となり、組織は上手く回っている様子だ。


福祉局局長を務めるマリベルは、オペレーター業務もあるので副局長に降格させ、代わりに今まで副局長だったペネロペさんを局長とすることに決定した。次は軍関連局。


「陸軍局マリオです。陸軍局の人員は全部で245名となります。保有竜騎は25騎。そのうち戦闘可能なのは120名ほどで、90名が訓練中です」


「海軍局エンリケ。海軍局の人員は現状486名。保有竜騎は106騎。保有艦艇は巡洋艦1、B2巡洋艦1、駆逐艦9、B2駆逐艦2、強襲揚陸艦1、鉄甲竜騎母艦1、補給艦2となります。全艦運用可能ですが、竜騎母艦と搭載竜騎はしばらく訓練が必要でしょう」


「空軍局シャルルです。局の人数は217名。保有竜騎は37騎、60名のドラゴンドライバーがおります。現在教育中のドライバーが70名おりまして、あと1年ほどで実戦投入が可能と考えます」



 うーん。各軍の規模は必要な度合いによって決まってくるな。一番規模が大きいのがやはり海軍となるか。もう少し陸軍のテコ入れが必要だし、空軍にも補充のことを考えると、あと20騎ほどは竜騎を追加する必要があるか。


 俺の直下である魔王軍近衛局は、人員が615名に膨れており、保有竜騎は65騎となっている。内訳は、レムノスを守る警備課にリッチのディータ、ヴァルター、スケルトンファイター50名、スケルトンアーチャー30名、スケルトンヘビーアーチャー20名。


 魔王船警備にバトラメイド50名。軍事基地、首都警備にバトラメイド50名。魔王軍海兵隊にバトラメイド100名。新たに新設した魔王軍直援部隊にシーリッチのゼルギウス、エッケハルト、アンデッド竜騎隊20騎、その他竜騎が45騎となっている。陸軍の戦力が不足しているので、魔王軍海兵隊の戦力をもう少し増強するかな。食糧の余裕もあるし大丈夫だろう。



 8日。グスタフから主砲となる10インチ砲と12インチ砲塔が完成したと連絡あり、さっそくサーシャ軍事基地に見に行く。倉庫にはデカイ連装砲塔が2基並んでいた。これまでにない大きさの艦砲であり、抜群の破壊力があるのだそうだが、この砲には大きな欠点があった。


 問題は魔導モーターで、頻繁に仰角を変化させるとモーターが過熱して動かなくなるのだ。原因は単純に砲身が巨大だからであり、冷やせばまたモーターは問題なく動く。グスタフは、この弱点を克服しようと頑張ったが、冷却装置がなかなか上手く作れなかったらしい。だから斉射するとモーターを冷やす時間がかかるために、次弾発射にかなりの時間を要する、そのため照準を絞るのに時間がかかりすぎることになる。


 というわけで、この砲は連装砲塔にもかかわらず、斉射せずに交互撃ち方を行い、モーターを片側ずつ冷やしながら撃つ使い方しかできないのだ。敵に確実に当たる距離でなければ斉射は出来ないだろう。まあ今はあまり悠長に開発している間が無いので、俺はこれを魔王船主砲に採用することに決めた。冷却装置は後で開発すれば良い。



 次に魔王船に設置する主砲の数だが、これについては答えは出ている。ほら、あれだ。地球の戦艦の戦記物の読み物に出てくる「挟叉きょうさ」というやつな。


 敵艦に挟み込むように砲弾が落下すれば、砲の散布界内に敵艦がいることが確定となり測距確定となる。これが挟叉きょうさ。後は同じ測距で撃ち続ければ、いずれ砲弾が敵艦に命中する。まあここまでは、俺の前世のうろ憶えの知識があるから分かる。


 分からんのは具体的な砲の数と撃ち方だった。だがこの問題はあっさり解決した。この世界の軍艦は昔ながらの戦列砲で回転砲塔などは無いが、海岸砲に関しては回転砲塔に近い装備があるのだ。とはいえ、旋回角度は90度とか180度くらいのものらしいが。で、エンリケ局長がレオン軍の教本から、海岸砲の撃ち方の本を渡してくれた。その本には「挟叉」の概念があったのだ。


 本の内容には測距を行なう計算式と、もっとも最適な挟叉の砲門数も書かれてあった。大量に蓄積された散布界のデータから算出された最適な砲門数は「6門」だ。


 つまり測距が完了したら敵艦に向けて、6門同時に砲弾を発射する、最初は外れるが何度も測距修正しながら撃つと、そのうち命中率の高い挟叉が出る。


 挟叉の判定方法は、敵艦を挟み込むように砲弾が落ちること。6発の砲弾の内、敵艦の手前に至近弾2発、後方遠くに4発。つまり「近弾2・遠弾4」で挟叉と判定され、測距確定となる。この砲門数6門を使用しての挟叉判定法が命中率がもっとも高くなる砲撃のやり方らしい。つまり魔王船の主砲は連装でも1発ずつしか撃てないので、6発同時に撃つなら、最低でも主砲は6基なくてはならない。ということになるわけだ。



 俺はさっそく10インチ砲と12インチ砲を召喚宝典に登録して魔王船への設置作業を行なう。まずは艦首側ガンデッキへの主砲の設置。主砲は3列3基で全部で9基設置することにする。左右サイドの3基2列は10インチ砲で、中心は1列3基の12インチ砲を設置する。


 これで敵艦を攻撃する時は、10インチ砲6基で交互撃ち方を実行し、敵艦に近弾2・遠弾4の挟叉が決まれば、10インチ砲と12インチ砲で、連装砲塔9基の片側の大砲9門で同時に攻撃を行う「交互斉射」を実行し、9発の砲弾を撃って敵艦に高い命中率での砲撃を行なうことができるわけだ。


 次は艦尾側ガンデッキへの主砲の設置。ここは艦首側と違いスペースが小さいので、主砲は3列2基で全部で6基設置することにした。両サイド10インチ砲2基ずつ。中心列に12インチ砲2基だ。まあこちらはギリギリの砲数なので、10インチ砲と12インチ砲の交互撃ち方で挟叉を狙うしかないな。


 俺は1つずつ慎重に巨大な砲を召喚していったので、設置完了に9月8日から14日までの1週間の時間がかかった。マギアランチに乗ってレムノスに渡る時に魔王船の外観を眺めてみたが、船体に15基の大型砲塔を装備した魔王船は、まさに「戦艦」という名称に相応しい威容を誇っていた。実にカッコイイ。地球で言うなら、この戦艦は超重戦艦? あるいは超弩級超重戦艦ヒューガと呼べばいいのかな?





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第6章 アスティリアス貿易編





エスパーニャ暦5543年 9月18日 10時00分

魔王船 司令の間


 主砲も設置したので、さっそく司令の間で仮想プログラムを走らせて、対艦戦の模擬演習を行なうことにした。オペレーターに婚約者たち、キャプテン・キッド、寄生魔獣はブレイン、ベルゼビュートで演習を行なう。見学にはエンリケ局長、シャルル局長が来ていた。


「では対艦演習を行なう。ブレイン、対艦演習プログラム2番をスタートだ」


「ハッ」


 プレインが事前に作ったプログラムをさっそく起動させる。ディスプレイの情報は刻々と変化をし始めた。対艦演習プログラム2番は、10隻で構成される敵艦隊2群が魔王船周辺に現れ、遠距離から敵竜騎母艦の竜騎が少数攻めてくるというシナリオである。俺は演習シナリオのスタートを宣言する。


「よし、演習スタートだ。ソフィア、全デッキ戦闘態勢」


「了解。船内管制、警報音」


 ソフィアの宣言と同時に、マリベルが首から下げている笛を口で吹いた。


ぴー、ぴー、ぴー、ぴー


 マリベルの間抜けな笛の音が、司令の間に響いた。

 マルガリータが、接近する敵艦隊の位置を知らせる。


「航法管制、本船真北に8ノットで移動中。敵艦隊2群を発見。第1群、針路2―6―0方面、第2群針路0―6―0方面、第1群コルベット5、フリゲート5。針路北、風上にタッキング中。第2群フリゲート5、60門艦5、針路南西、艦首前を横切るコースです。双方速度8ノット。以下、敵艦隊第1群をプラテアド、第2群をドラドと呼称する」


 敵艦隊の呼称は、レオン海軍では色で区分することが一般的なので、魔王軍でもそれを踏襲している。



「航法管制、敵艦隊第1群、プラテアドとの距離8千メートル、第2群、ドラドとの距離6千メートル」


「よし、キャプテンキッド、6ノットに減速、取り舵だ。ターゲットドラドに対し同航戦を挑む」


「御意、両舷前進半速、取り舵20」


「両舷前進半速!」


「戦闘管制、前部ガンデッキ、後部ガンデッキ、射撃準備完了」


「竜騎管制、3時方向、距離8千メートル、高度500に爆撃騎6騎を確認、こちらに接近中。砲撃戦準備のため迎撃騎発艦不能」


「戦闘管制、右舷ガンデッキ、左舷ガンデッキ、射撃準備完了」


「航法管制、敵艦隊第2群、ドラドとの距離約5千メートル、2列の複縦陣を維持、敵艦隊針路修正、真西に向かいます」


「竜騎管制、爆撃騎6騎、3時方向、距離6千メートルに接近。以降爆撃騎6騎は(エセ)群と呼称する」


「航法管制、敵艦隊第2群、ドラドとの距離約4千500メートル」


「戦闘管制、敵艦隊12インチ砲、10インチ砲射程内に入りました、ターゲット、ドラド、1番艦、4番艦に対し交互撃ち方開始します」


「竜騎管制、(エセ)群、距離5千メートルに接近」


「戦闘管制、前部ガンデッキ、交互撃ち方」


「「ドドーン!」」


 どういうわけだか、砲を担当する寄生魔獣のハンマーヘッドやマーダラーなどが、大砲の効果音を担当しているようだ。



「戦闘管制、後部ガンデッキ、交互撃ち方」


「「ドドーン!」」


「戦闘管制、砲撃に有効弾なし、照準不調につき、交互撃ち方継続」


「竜騎管制、(エセ)群、距離3千メートルに接近」


「戦闘管制、目標(エセ)群、スパルヴィエロ6、多連射サルボー


「「シュバババ!」」


「距離2千、千、500…… 全弾命中。(エセ)群、全騎撃墜(ショットダウン)


「航法管制、敵艦隊第2群、ドラドとの距離約4千メートル、敵艦隊第1群、プラテアド、距離9千メートルで左転回開始」


「戦闘管制、前部ガンデッキ、交互撃ち方」


「「ドドーン!」」


「戦闘管制、ドラド1番艦に対し挟叉、近弾2、遠弾4を確認。照準良好につき、前部ガンデッキは交互斉射に切り替え」


「航法管制、敵艦隊第1群、プラテアド、針路変更南西、こちらの頭を抑える可能性が高い」


「戦闘管制、後部ガンデッキ、交互撃ち方」


「「ドドーン!」」


「戦闘管制、前部ガンデッキ、交互斉射」


「「ドドーン!」」


ドラド1番艦に命中、損害大破以上…… 撃沈です。12インチ砲命中した模様。あっ、ドラド発砲、敵艦隊攻撃開始」


「航法管制、敵艦隊第1群、プラテアドとの距離7千メートル、ドラドとの距離3千500メートル」


「戦闘管制、右舷ガンデッキ、砲撃開始」


「「ドドン、ドドン!」」


「船内管制、これまでに敵砲弾6発の着弾を確認。被害軽ちょう」


「戦闘管制、右舷ガンデッキの砲撃により、敵2番艦に小破、3番艦に火災発生」



 まあそんなこんなで、魔王船右舷の敵艦隊第2群、ドラドと殴り合っている間に、敵艦隊第1群、プラテアドが、前方から魔王船左舷に突っ込んできた。挟み撃ちだな。俺は右舷で同航戦を維持しつつ、左舷での反航戦を命じた。


「よしスローター、プラテアドに対し砲撃を開始、反航戦を行なえ」


「ハッ。ドドン、ドドン!」


「戦闘管制、左舷ガンデッキ、プラテアドに対し砲撃を開始」



 うーん。ここだなぁ。現在魔王船は前部、後部ガンデッキと右舷ガンデッキでドラドを攻撃。左舷ガンデッキのみでプラテアドを攻撃している。いわゆる「分化射撃」の状態だ。今回は成り行きでこの形になったが、できれば前部ガンデッキと右舷ガンデッキでドラドを、後部ガンデッキと左舷ガンデッキで、プラテアドを叩いたほうが、より効率的な攻撃が行なえた気がする。


 だが、この分化射撃を行なうには、もう少し有機的でスムーズに、各寄生魔獣の砲撃管制を切り替える必要があるのか。そうすれば、全体の統制を行なう俺の負担が軽くなるか? いやいや、全体の統制はベルゼビュートにやらせればいい、そんで各ガンデッキに対し、最適な目標を割り振れば効率的に砲撃が行なえるはず。俺は全体の目標だけ指し示せば良いのだ。


 ともかくも、シュミレーションの回数がまだ全然足りないや。これから何度も模擬演習をやって問題点を洗い出す必要がある。それから魔王海軍の駆逐艦や巡洋艦の艦隊を敵艦隊に見立てての、実際の機動訓練も必要だろう。そして少なくとも半年後には、充分に戦える錬度にしないといけない。今回の模擬演習は2時間で終了、その後ブレインを魔王室に呼んだ。


「ブレイン、以前頼んでいた件だが、竜騎戦での限界飽和点はどれくらいか分かったか?」


「はい。シミュレーションと実戦データから考え、魔王船は竜騎を同時に30騎まで捕捉でき、そのうち9騎に対して武器の照準、誘導が可能と判断しました」


「それくらいか。駆逐艦と巡洋艦は?」


「駆逐艦は6騎捕捉、2騎に対し照準誘導が可能です。巡洋艦は、10騎捕捉、4騎に対し照準誘導が可能と判断します。しかし、巡洋艦や駆逐艦は艦隊での運用を前提としておりますので、艦隊総合で考えるべきだと思います」


 まあそんなもんだろうな。予想より優秀と言えるか。さすがに100機以上を同時捕捉、攻撃できるイージス艦のようにはいかない。しかし射程はともかくとして、1970年代の護衛艦ぐらいの能力はありそうだ。問題はこれでアルコンの物量に耐えられるか。それに対空ミサイルがどれくらい揃えられるかも考えなくてはいけない。やれやれ、戦争するのも簡単ではないな。寡兵で大軍と戦うのならなおさらね。





エスパーニャ暦5543年 9月23日 16時00分

魔王船 召喚の間


 久々に召喚の間にやってきた。今回は近衛軍海兵隊の強化のために、男の方のオーガ・ウォーロードを202名召喚するつもりだ。バトラメイド達は女のみでこれまで近衛軍を支えてくれたが、種の安定した存続は不可能なので、男も召喚して子孫を残せるようにしておく。これはメイドナイトやバトラメイドに対する褒美という意味もある。


 さて、まずリーダーとなる2人を呼ぼう。職業はオーガ・ナイトとなっているが、これは馬に乗るのでは無く、リントヴルムという翼の無い竜、騎獣に乗るための職業らしい。リントヴルムは空を飛べない竜だが、海も泳げ、2本の脚で地上も走ることが出来る騎獣らしいので、強襲揚陸艦に搭載すれば海兵隊として充分に役立つと思う。さっそく俺は召喚を開始。数分の強い発光の後、2人の男が魔界から呼び出された。


「魔王様。召喚して頂き、ありがとうございます!」


 2人の男は膝をつき、俺に挨拶した。オーガ・ウォーロードの男性の外見は、湾曲した角が1本、額らへんに生えているが、これは女性と変わらない。しかし頭髪は一切存在せず、体格は立派で身長が高く、全身筋肉の鎧を付けているような筋肉ダルマ具合だ。イカツイな。その鋼のような筋肉の上に鎧とブロードソード、3メートルはあろうかという長い槍を持っている。この槍は騎獣時の装備だろう。


「うむ。よく来てくれた。では名前を授ける。右の君はザ・ジーバ、左の君はズ・クーガと名乗るが良い」


「はは、ありがたき幸せ!」


 しかし2人ともスポーツ選手みたいに体格が立派だな。ザ・ジーバは身長2メートルの大男だし、普通ぽいズ・クーガですら180以上ありそうだ。さすがはオーガと名前が付くだけはある。鑑定。



■オーガナイト


名前 ザ・ジーバ

種族 オーガ・ウォーロード

職業 オーガナイト


レベル25

ヴァイタル 251/251

スキルポイント 0P

種族スキル 超修復


スキル(7/9)

【槍術レベル4】【剣術レベル3】

【格闘レベル3】【身体強化レベル4】

【岩砂魔法レベル3】

【騎獣術レベル3】

【指揮レベル3】


――――――――――――


■オーガナイト


名前 ズ・クーガ

種族 オーガ・ウォーロード

職業 オーガナイト


レベル25

ヴァイタル 246/246

スキルポイント 0P

種族スキル 超修復


スキル(7/9)

【槍術レベル4】【剣術レベル3】

【格闘レベル3】【身体強化レベル4】

【光闇魔法レベル3】

【騎獣術レベル3】

【指揮レベル3】



 かなり強いね。ただ基本スペックはメイドナイトとそう変わらない。スキルに馬術のかわりに騎獣術があるのが相違点か。次に俺は部下となるオーガライダーを200名順番に呼び出す。オーガライダーはオーガナイトの下位職業で、基本能力はオーガナイトと同じだが、魔法が使えずレベルが低いという特徴がある。



■オーガライダー


名前 オーガライダー1号

種族 オーガ・ウォーロード

職業 オーガライダー


レベル14

ヴァイタル 141/141

スキルポイント 0P

種族スキル 超修復


スキル(6/9)

【槍術レベル3】【剣術レベル2】

【格闘レベル2】【身体強化レベル2】

【騎獣術レベル3】



 さらに俺は騎獣であるリントヴルムを、損害補充、予備含め300体召喚した。リントヴルムは緑色の体色と鱗で、姿形は確かに翼のない竜騎といえる。だが大きさは竜騎程ではなく、全長は5メートル、高さは馬ぐらいだと思う。とはいえ騎獣はそこそこの大きさがあったので、魔王船で飼育するのはやめにして、普段はサーシャ軍事基地で待機、出動時は強襲揚陸艦に搭載することに決めた。そのためリントヴルムを魔王船からレムノス島に移動させたのだが、数が300体もいるので輸送だけで1週間もかかった。



 さて、次はリントヴルムの輸送と平行して、前部ガンデッキ、後部ガンデッキの主砲を操作する20トンの寄生魔獣2体を育成室から呼び出した。まずは前部デッキの管制塔に寄生魔獣を配置した。管制塔には高い塔と低い塔があり、低い塔にはハンマーヘッドが入っているので、高い塔に新たな寄生魔獣を入れる。


「よし、お前には主砲の操作を任せる。今日からお前の名前は壊し屋(スマッシャー)だ」


「ハッ、10インチ砲と12インチ砲の威力、アルコンにたっぷり味合わせてみせましょう!」


 スマッシャーは張り切って返事をする。スマッシャーの外見は胴体に大きな目が6つ付いているスタイルだ。こいつで測距と着弾観測をするらしい。また各砲塔の両サイドにも小さな眼球がついているので、個別の照準も可能だ。これで万一スマッシャーが直撃弾を受けて吹っ飛んでも、攻撃は維持できるそうだ。なお、このシステムは魔王船全体の砲塔も持っている。


 これで前部ガンデッキは良し。次は後部ガンデッキだな。ここの管制塔の高い塔側にも新たな20トンの寄生魔獣を配置。こいつの外見は胴体全周にぐるりとワッカのように大きな目を並べている。なんか目玉で出来た王冠みたいだ。連コラを連想させるので、ちょいとキモイな。


「うん、お前の名前は破壊者ブレイカーだ。主砲を頼む」


「魔王船の後ろの守りは、お任せください!」


 うんうん。これで魔王船の砲コントロールを行なう寄生魔獣はすべて揃った。前部ガンデッキの主砲・副砲はスマッシャー。後部の主砲・副砲はブレイカー。右舷側砲はマーダラー。左舷側砲はスローター。前部対空砲とミサイルはハンマーヘッド。後部対空砲とミサイルはカオスヘッド。以下、6体の大型寄生魔獣がベルゼビュートの統制の元、主武器をコントロールする体制を整えた。後は演習を繰り返し、練度を上げることが重要になる。





エスパーニャ暦5543年 9月29日 9時20分

イチカ司令部 地下会議室


 ここは総司令部がある地下フロア。この一角にある会議室に、マリオ局長、エンリケ局長、シャルル局長の魔王軍首脳と魔王が集っていた。今回は軍事機密情報を扱うので、会議室の扉前に警備のメイドナイト2名が立っている他は、他に人は居なかった。


「さて、以前エンリケ局長がアルコン湾に潜入した時の情報収集から、様々な状況が判明しましたので、この情報を元に今後の魔王軍の方針を検討したいと思います。こいつが重要な情報だけをまとめた報告書となります」


 そういうと魔王は、迷宮産の綺麗な上質紙に複製された書類を3局長に渡し、状況の説明を行なう。


「まずアルコンの動向ですが、現在のところアルコン湾ドックに多数の大型艦が入っており、改装を行なっているようです。警備が厳しく、うちの空中魔獣もなかなか接近できないので、どんな改装を行なっているか不明ですが、アルコン海軍が動き出すのは当面先になる見込みです」


「ということは、以前魔王様が言っていたように、来年アスティリアスとの開戦が起きるということですか?」


 シャルル局長の質問に、海軍局長エンリケが答える。


「確信的なことは言えんが、アルコン海軍の作戦行動が可能になる時期は、来年の4月~6月以降になると思う。こちらには有力な諜報組織が無いので断定はできないが、来年開戦の可能性は高いだろう。無論、この予測が外れる可能性もあるし、アスティリアスでは無くレオンに攻め込む場合もあるかも知れない」


「なるほど、ではそのつもりで準備が必要ですね。しかし来年4月まで後半年しか時間がありません。完璧な準備はできませんね。とりわけ弾薬は不足しています」


 シャルル局長の話の後に、マリオ局長が続ける。


「まあ海軍、空軍はそれでもいいでしょうが、陸軍は兵力が少なすぎるのが問題です。頑張っても200名、これでは支援部隊も作れない。魔王様、来年戦争が始るなら、陸軍は準備が間に合わないと思います」


「それに関しては考えがあります。バレンシアの情報を見ていただけますか? はい。現在バレンシアはアルコンの占領下ですが、全土が統治されているわけではありません。ルシタニアからの補給のし易さのため、アルコン軍主力は領都バレンシア、エリン、ラス、アルマンサ、ロルカと北方に集中しており、少数の分隊がプリアナ、ネルピオにいるようです。リリア、エルチェは廃墟のまま放置されています。無論、時折パトロール艦隊や部隊が通過することもあるようですが、リリア周辺は思ったより手薄です」


「魔王様、まさか……」


「ええ、狙いはバレンシア中央部、モン・ペリエ山脈に潜伏していると思われる領陸軍の生き残りです。空中魔獣の偵察によれば、800~千名ほどが山脈の洞穴や小さな村などに潜伏しているとの偵察情報があります。ロルカを押さえられている為に、バレンシアから脱出できないのでしょう」


「それはよく知っています。領陸軍では拠点が崩壊した場合、残存兵力はモン・ペリエ山脈に集結する手筈でした。あそこの中腹の洞穴には補給物資があり、周辺には魔族や人間族の村、迷宮もあります。千名とはいえ、半分は領軍の支援要員だと思いますが、魔王様は彼らを引っ張るつもりですか?」


「ええ、闇夜に乗じてリリアに艦隊と魔王船で接近し、全員を回収したいと思います。幸いアルコンは兵力が不足しているのか、押さえているのは街道付近のみで内陸には関心を示してはいない。今のうちに救助し、魔王陸軍に組み込むべきだと思います」


「彼らは2年間もモン・ペリエ山脈に立て篭もっています。となれば、全員を引っ張るリーダーがいるのでしょう。説得が必要です。おそらくはエル=シドがリーダーをやっている可能性が高いです」


「エル=シドとは何者です?」


「領陸軍に所属する一角魔族の男ですよ。私の知り合いで、フルネームはエル=シド・マリスカル・マッソといいます」


「へ? マリスカル・マッソ? というとひょっとして……」


「ええ、冒険者をやっているフローリカの兄です。奴は一時レオン陸軍にいました。陸戦ゴーレムを利用した機動ゴーレム戦の優秀な指揮官です。6年ほどレオン陸軍に在籍し領都に戻ってきましたが、そこへアルコンが襲撃してきました。奴なら優秀ですから、生き残ってリーダーをやっていても不思議ではありません」


「そうだったんですか。では皆さん、内陸の旧バレンシア領軍を救出する方向で会議を進めますがよろしいですね?」


 というわけで、この秘密会議で魔王軍の次の作戦の方針が決定した。協議の結果、救助作戦は魔王海軍が主導、魔王船がバックアップを行なうことにより充分に可能と結論が出た。その際、リーダーへの説得は事情をよく知るマリオ局長が行なうこととした。それと共に、レムノス島と魔王船に軍需動員をかけ、補給品や弾薬の増産を行なうと共に、建造艦艇も戦時量産型に切り替え、戦争に備えることになった。いよいよ戦争の影に魔王国も覆われる。魔王にとっては久々の里帰りとなるか。





エスパーニャ暦5543年 10月6日 10時20分

サーシャ軍事基地 アリサ空港


 完成したばかりの魔王軍新鋭機であるライデンの初期量産型2号機が、爆音を響かせつつアリサ空港を飛び立った。現在ライデンは試作機と量産型を合わせて3機生産された。いかなライデンの構造が単純で、精密操作を寄生魔獣が担当し、チート人材であるスプリガンが量産を行なっているとはいえ、現在の量産量は1ヶ月に1機がせいぜいだ。加えて魔力結晶もバカ食いするので、それほどの機数は作れないだろう。


 ペペが新たに開発した機体への試乗を行なうため、魔王と婚約者達はアリサ空港に来訪。格納庫にある大型航空機を視察した。


「ひぇ~。すっごく大きい飛行機ね。こんな鉄の塊が空を飛べちゃうんだ」


「……なんだかよく分からないけど、凄そうな機械。さすがはソールお兄様」



 初めて見るライデンや新型航空機を見て、ソフィアは驚き、マルガリータは呆然と機体を眺めた。ソールヴァルドが航空機製造の本命と考えるこの大型輸送機、外見は自衛隊のジェット戦術輸送機、C―1に非常に類似したデザインになっていた。これも魔王の前世の記憶からぺぺ・アドローバーが機体を再現したものである。ただし所々違うところもあり、翼下に吊り下がった大型エンジン2基は胴体横に配置され、全長30メートルの機体も18メートルほどの大きさになっており、全体的にはC―1の半分程度の大きさになっている。


 まだ試作機の段階だが、この新型輸送機は低圧与圧室を装備しており、実用高度は竜騎が10分間しか活動できない高度5千メートルまで可能だ。搭載可能な貨物は3トンまでで、通常人員なら30名まで、完全武装の兵士なら20名まで輸送可能である。パイロットは機首の寄生魔獣が担当し、気圧室操作に人員が1名必要である。魔王はこれを諜報活動や偵察活動をメインに使用するつもりなのだ。



 さっそく試験飛行をするため、C―1輸送機もどきは格納庫から滑走路に出た。後部ハッチが開かれ、魔王と婚約者たちと与圧調整のためにペペが乗り込んだ。機体は滑走を開始し、レムノス島の上空へと飛び立った。小さな丸窓から外を覗いていたソフィアとパッツィも大いに騒ぐ。


「凄い凄い。本当に私達が空飛んでるよパッツィ。信じらんない!」


「ほんと凄いわね~! 開発に金と手間がかかりすぎるから、何してるんだろって思ってたけど、これなら人も物も空から運べるから納得だわ。でも魔力結晶をバカみたいに消耗するのはやめて欲しいけどね」



 C―1輸送機もどきは胴体内に厚い隔壁を設け、そこを与圧室としている。ようは卵形の大きな空気ボンベの中に座席があるような構造だ。空気はエンジン内の小さな弁から与圧室に送り込む仕組みだが、開発したばかりの気圧計だと精密な数値は測定できないので、与圧調整員1名が体に受ける「感覚」で、空気の出し入れを決定している。また気圧が高すぎると機体の破裂の可能性もあるため、低与圧による高度5千メートルまでの飛行が今のところ限界である。


 今回の飛行で、魔王は試しに高度6千メートルまで登ってみたが、やはり10分を経過したあたりで頭痛がしてきたので、高度を下げ、ゆっくり降下しながらアリサ空港に戻ってきた。魔王はこの輸送機をたいそう気に入り、手直しの後の量産を命じた。


 なお魔王はこのC―1輸送機もどきに、晴嵐セーランという名前を付けた。パッツィからセーランの意味を聞かれた魔王は「うん。セーランというのは古代ルーン語で、晴れた日に吹く山風のことだ」と適当に答えた。



 10月3日。鉄甲竜騎母艦2番艦が完成。続けて補給艦3番艦の製造を開始。


 10月15日。魔王海軍はバレンシア救出艦隊を編成。魔王船も出港準備を開始。10月25日。バレンシア救出艦隊がヴァルドロード港から出港。魔王船とともに超海流を抜け東に向かう。目標はバレンシア。内陸の領軍兵の救出作戦が開始されたのだ。




    第62話 「魔王様、模擬演習を行なう」

   ⇒第63話 「魔王様、バレンシアに向かう」


それにしても寒い。

あと残り4話。第66話で第6章終了の予定。

次も2話更新でいく予定です。年末までに更新できればいいが。


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