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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第6章 アスティリアス貿易編
73/75

第60話「魔王様、海賊を退治する」

エスパーニャ暦5543年 7月4日 16時20分

ドルレオン島東沖535キロ

偽装海賊艦隊上空


 まもなく夕方、太陽が西に傾き始め、海は黄昏の時に入り、海に薄暮のオレンジが差す。


 そんな穏やかな海とは対照的に、アルコン偽装海賊艦隊と魔王軍との死闘は続いていた。死神飛行隊デス・スコードロンの攻撃により、海賊艦隊は、竜騎母艦中破炎上、コルベット2隻が小破炎上、2隻が大破炎上の被害を受け、対空戦能力が大幅に低下していた。そんな海賊艦隊に、ドルレオンの傭兵ドライバーで構成されたドルレオン飛行連隊が襲い掛かる。


 まず初めに攻撃を行なったのは、第1急降下攻撃騎隊9騎だ。第1小隊は3騎は、炎上中で速力の落ちたベート級竜騎母艦に3発の鉄甲炸裂弾を投下した。1発は艦首至近弾で命中しなかったが、後続の1発が艦尾に命中、船内で爆発して竜騎格納デッキを滅茶苦茶に切り裂いた。次の1発がデッキを突き破り艦底付近で大爆発を起こし、破口から大量の海水が流れ込む。これで2千トン級ベート級竜騎母艦の運命は決した。竜騎母艦は前のめりに沈んでいく。撃沈だ。



 急降下攻撃隊第2小隊は、1000トン級ドラゴン・クルーザー1番艦に鉄甲炸裂弾3発を投下。ドラゴン・クルーザーの懸命の回避により、2発はかわしたものの、1発が艦中央部に命中、中破の被害を与え魔導リフトを吹き飛ばした。


 悲惨だったのはドラゴン・クルーザー2番艦で、急降下攻撃隊第3小隊の投弾3発が全弾命中。1発がマスト1本を倒し、2発が艦底爆発。大破口から大量の海水が流れ込み、船体が傾斜して一気に転覆、沈没した。



 1拍の間をおいて、今度は西南方向低空から、爆撃騎隊9騎が突入。まばらな対空攻撃を抜けてドラゴン・クルーザーを狙う。爆撃隊第1小隊は、ドラゴン・クルーザー3番艦に竜爆弾3発を投下。うち2発が甲板に命中し大火災が発生。戦闘能力を奪った。


 第2小隊は、ドラゴン・クルーザー5番艦に竜爆弾を投下。うち1発が甲板に、1発が硬翼帆に命中。小破の被害を与えると共にスピードが低下した。爆撃隊第1、第2小隊は、爆撃後の経路に敵船がいなかった為、そのまま高度を上げて離脱した。


 第3小隊は、ドラゴン・クルーザー4番艦に竜爆弾を3発とも当てることに成功。甲板と硬翼帆が紅蓮の炎に包まれた。第3小隊はそのままドラゴン・クルーザー1番艦上空へ向かい、行きかけの駄賃とばかりにブレスを6発発射、うち3発が命中し、1番艦に火災が発生した。この攻撃でドラゴン・クルーザー5隻は全滅だ。



 だが攻撃はまだ終わらない。最後に第2急降下攻撃騎隊9騎が突入。まず第1小隊が先頭を走っていた、海賊船2番艦に鉄甲炸裂弾3発を投弾。1発目はブリッジに命中し、瞬時に指揮能力を奪う。2発目は艦尾に命中、3層のデッキを破って艦底付近で爆発。キールが破壊されサラゴサ王国製の海賊船2番艦は、浸水によりゆっくり沈んでいく。


「あばばばばっ!」


 旗艦トルトゥーガ号に乗って、その様子を見ていた海賊頭領ダンカンは、撃沈された僚艦を間近で見て顔面蒼白になった。


 次は第2小隊、彼らは速度が落ちたコルベット1番艦に狙いをつけて、鉄甲炸裂弾3発を投下。うち2発が中央部と艦尾に命中。コルベットは大破浸水して沈没した。最後の第3小隊は、1騎ずつバラバラになって最後尾の補給艦を狙う。1発は外れたものの、2発はそれぞれ命中し、補給艦2隻を撃沈する戦果を上げた。


 攻撃が終了した魔王軍攻撃隊は、すばやく撤収を行なう。あまり帰るのが遅くなると、太陽が沈んで魔王船への着艦が困難になるためだ。


 アルコンの偽装海賊艦隊は、この戦闘で竜騎搭載船のすべてを喪失。18隻の艦隊は6隻に激減していた。残ったのは海賊船旗艦トルトゥーガ号と海賊船3番艦。アルコン旗艦バッカニア号。コルベット1隻、補給艦2隻のみであった。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第6章 アスティリアス貿易編





「リュタン(ツー)(ワン)、ランスワン!」


 アルコン側戦闘騎隊、リュタン1番騎は必殺の魔法弾マギアパレットを発射、見事に魔王側デスグライダー、棺桶小隊2番騎に命中、爆散した。これで棺桶小隊は全滅だ。


 戦闘騎隊長のバルトロメは自軍の艦隊を確認。魔王軍攻撃隊の攻撃が終了し、艦隊上空から全騎引き返しているのを視認。バルトロメは撤退を決意した。


「こちらデュランダル、全騎空戦中止、退却せ…… 危ない! 後ろだリュタン(ツー)(ワン)!」


 リュタン1番騎の後方からデスグライダー2騎が猛スピードで迫ってきた。リュタン1番騎は、警告に弾かれるように左旋回を行い、デスグライダー墓石小隊1番騎が放った魔法弾マギアパレットを回避、しかし、リュタン1番騎は疲労のためか、いつもより動きに精彩を欠いていた。そこに墓石小隊2番騎の放った魔法弾マギアパレットが迫る。リュタン1番騎は、回避することもできず魔法弾マギアパレットと正面から激突、そのまま後方に吹き飛ばされ墜落した。


 しまった、そういうことか! 


 バルトロメは悟った。相手はアンデッドなのだ、つまり生身の相手では無い。ということはどれだけ長時間戦闘を行なっても疲れることが無いのだ。すでに空戦時間は20分を超過している。こちらは生身なので、疲労して集中力が極端に低下してる。技量はこちらが優勢だったので最初こそ有利に戦えていたが、こちらが疲労すれば、疲れずに常に一定の能力を維持しているアンデッド竜騎のほうが相対的に有利になるのだ。すなわちアンデッド竜騎とは長期戦をやってはいけなかった。


 バルトロメは後悔するも今更どうにもならない。ともかく、今は逃げるのが肝要だ。バルトロメは残った戦闘騎2騎とともに後退を始める。しかし安易な退却はできなかった。


 逃げるアンクー隊2番騎に、逆落としで急降下してきた葬式小隊1番騎が体当たりを敢行。双方は激突して海面に落ちていく。この体当たりでアンクー隊、葬式小隊ともに消滅。続けて墓石小隊3騎の猛攻に、あえなくリュタン隊2番騎が捕まり、魔法弾マギアパレット2発が竜体に命中し、燃えながら落ちていく。これでリュタン隊は全滅。残りはバルトロメ騎1騎のみとなっていた。



 バルトロメ騎に墓石小隊3騎が追いすがる。バルトロメは後方を確認、背後より猛スピードで例の大型竜が追ってきたのを確認。


「チッ!」


 バルトロメ騎は、マッキ・ヴェルトロ種の鱗型自動空戦フラップの助けを借り、急激な5・5G右旋回を決め急降下。真下の雲を突き破り、高度千まで一気に降下した。後方を確認し、そのままワイバーン機動マニューバ、スラストターンを決め反転急上昇に転ずる。多分、大丈夫のはず! この急上昇を読まれていれば、速度が低下したバルトロメ騎は狙い撃ちにされる。しかし雲が上手く自分の身を隠してくれるはずだ。


 いきなり上空の雲が突き破られ、真ッ逆さまに急降下していくデスグライダー種が2マイル先に見えた。予想通りこちらを捉えてはいなかったようだ。バルトロメ騎は再び雲に突入、突き破って上空に出る。そのまま母艦方向に逃げるも、運悪く上空を旋回していたデスグライダー種2騎に見つかり追撃を受ける。


 バルトロメは急降下して突撃してくる1騎をかわし、もう1騎と巴戦に入る。お互い後ろを取ろうと旋回を重ねる。1回転、2回転、3回転。高度はどんどん下がり、800メートルに到達。鱗型自動空戦フラップのおかげで、デスグライダー種に比べ旋回性能の有利なバルトロメ騎は、敵の背後につくことに成功した。


 危険と判断したデスグライダー種は、いきなり急上昇をかける。バルトロメは、飛行イメージをわずかに修正して、敵騎に対して一直線に突き進み、左手を差し出した。


「デュランダル、ランスワン!」


 発射された魔法弾マギアパレットは、バルトロメの視線誘導によりデスグライダー種頭部付近を直撃。アンデッド竜騎は前半分を粉砕されて海面に直行した。墓石小隊3番騎の撃墜に成功。


「デュランダル、スプラッシュ、ツー!」


 宣言しつつも、バルトロメは即座に垂直旋回を敢行、きわどい所で後方のデスグライダー種が放つ魔法弾マギアパレットを回避。間髪を居れずに竜体右の鱗型自動空戦フラップを最大展開し、高速5・7G旋回をかける。すでに空戦時間は25分を超過、疲労がたまり、立て続けにオーバーGを受けるバルトロメは、ジェット戦闘機のいわゆる「G―LOC」のような重力加速度の限界を越えた気絶「ブラックアウト」こそ起きないものの、脳に血流が少なくなり次第に視野が狭くなる「グレーアウト」の症状が出始めた。


「フック、フック、フック!」


 集中力が落ちたことを感じたバルトロメは、旋回を行ないつつ「フック呼吸法」を実行。このフック呼吸法は、フック! と高い声で叫ぶことにより、体幹を締め付けて体内血流が下半身に流れるのを防止する技術だ。


 竜騎ドライバー達は経験則として、旋回を繰り返すと頭の血が下がって頭がぼんやりするという現象を知っていた。これによって数秒のシンクロ切れが起きる場合もある。ほんの数秒であっても戦闘中なら極めて危険で、命取りになる可能性もある。なので、竜座鎧のハーネスはきつく結んで、できるだけ血が下がらないような対策をすると共にフック呼吸法が開発されたのだ。これらの対策はどの国の竜騎ドライバー訓練にも採用されている。



 急旋回をかけ、敵機の後方についたバルトロメだったが、デスグライダー種は上昇、下降、左右旋回を必死に繰り出し、なかなか射撃タイミングが掴めない。そこへ横合いからもう1騎のデスグライダー種が突入。バルトロメは咄嗟に片側の鱗型自動空戦フラップを全開にして左旋回を実行、デスグライダー種のウイングカッターをギリギリで回避した。そして3騎の竜騎はほぼ同時に急上昇をかける。


 もっとも上昇するタイミングが早く、上昇力に優れていたバルトロメ騎が、追跡してくるデスグライダー種2騎の頭を抑える格好になった。そこからバルトロメ騎は宙返りで反転、背面飛行でデスグライダー種1騎に狙いをつけて突っ込む。お互いの竜体がすれ違う時に、バルトロメはワイバーンにウイング・カッターの命令を出し、針路誘導イメージを消し、細かいコントロールをワイバーンに任せた。


 高速でのウイング・カッターは人間の処理が追いつかないので、竜の野生のカンに頼ることにしたのだ。この選択は功を奏し、バルトロメ騎のウイング・カッター攻撃は見事に決まり、デスグライダー種の片翼を切断した。墓石小隊1番騎は、きりもみ回転しながら落下する。これで魔王軍は残り2騎。


「デュランダル、スプラッシュ、スリー!」


 だがバルトロメは休む間もなく竜体を右に横滑りさせて、後方から追いかけてくる墓石小隊2番騎の攻撃タイミングをかわす。バルトロメは防衛機動を行ないつつ後方を確認。すると…… 奴がいた。


 あの大型竜だ。


 奴は雲の隙間から現れて、猛スピードでバルトロメ騎に迫ってくる。距離は3マイル。

 かかってこいよ。決着をつけてやる!


 バルトロメは、大型竜を迎え撃って撃墜するつもりだった。どのみちアレを倒さなければ逃げ切ることなど出来はしない。

 バルトロメ騎は時速380キロで逃走。ゼルギウス騎は時速440キロで追跡。

 距離はみるみる縮まる、バルトロメは息を詰める。

 3マイル、2マイル、1マイル……

 

 今っ!!


 抜群のタイミングで、バルトロメ騎は片側の鱗型自動空戦フラップを全開にして、これまでにない高速5・8Gの右急旋回をかける。先ほどバルトロメ騎がいた空間に、魔法弾マギア・パレットが通り過ぎる。


 ゼルギウスの乗るキメラワイバーンは直進でのスピードは驚異的だが、旋回性能は悪い。その性質に気がついたバルトロメは賭けに出たのだ。


「フック、フック、フック!」


 その賭けに成功して、今、バルトロメ騎の目の前に大型竜がいる。

 頑張れ、頑張れ!

 朦朧としそうな意識を叱咤し、バルトロメは左手から魔法弾マギア・パレットを放つ。

 この距離では回避は間に合わない、必殺の一撃。

 バルトロメは視線誘導のため、キメラワイバーンを凝視する。


 しかし、間もなく命中するという時に予想外の出来事が起きた。


 ゼルギウス騎とバルトロメ騎の間に、突如として煙幕のような煙が発生したのだ。その煙のためにゼルギウス騎が見えなくなりバルトロメの視線が防がれ、視線誘導が出来なって渾身の攻撃がかわされてしまう。わけも分からず、バルトロメ騎は勢い余って煙の中に突っ込んでしまった。


「な、なんだこれは!? グッ! おお!」


 煙を突き破ったバルトロメは激痛を感じる。

 自分の体を見れば、竜座鎧が煙を出して溶けていた。

 マッキ・ヴェルトロ種も体全体から煙を出して苦しそうだ。


「ウウッ、こいつは…… 強酸か!?」


 バルトロメ騎の賭けに対して、ゼルギウス騎は切り札を切った。

 キメラワイバーンはドラゴンでもないのに、1日に1度だけ強酸ブレスを吐くことが出来るのだ。ただし強酸は口から拡散するように放たれる為、射程が短く使いどころが難しいが、今回の強酸ブレス発射は、防御と攻撃の両方が成功した形になった。


「早く体勢を…… うおっ!」


 バルトロメは何とか体勢を立て直そうとするが、竜が激痛を感じ、竜座のシンクロが切れてしまった。そのためマッキ・ヴェルトロ種はパニックを起こし、逃げようと羽が溶けてスピードが落ちているにもかかわらず、強引に低速での旋回を開始。そのため騎は失速、そのまま操縦領域逸脱デパーチャーを起こして竜体がスピンを開始、その勢いでバルトロメは気を失ってしまう。


 その上空に悠々とゼルギウス騎は飛来、スピンしたバルトロメ騎を追いかけた。

 

「敵隊長騎ながらその戦いは見事! こちらは壊滅だ。その戦いに私からの最大限の賛辞を送ろう、アディオス。竜飛魔法――――強魔法弾!」


 ゼルギウスはスピンして落下するバルトロメ騎に、竜飛魔法レベル5の強魔法弾を放つ。

 強魔法弾はマッキ・ヴェルトロ種の竜体に命中、大爆発を起こし四散した。



 翼を翻し、骸骨飛行隊スカル・スコードロンは魔王船へ帰還する。敵戦闘騎隊を全滅させ、敵艦隊への攻撃を成功に導いたものの、全10騎のうち生き残った竜騎はわずかに2騎。ゼルギウスのキメラワイバーンと墓石小隊2番騎のみ、部隊は事実上壊滅の結果となった。





エスパーニャ暦5543年 7月4日 16時40分

ドルレオン島東沖155キロ

魔王船 司令の間


 空がオレンジ色に染まる中、魔王船は最大戦速を維持しつつ、東北東へ海原を突き進んでいた。魔王城4階のCICより、次々と戦況が司令の間にもたらされる。


「海賊艦隊への攻撃結果。竜騎母艦1、ドラゴン・クルーザー1撃沈確実。ドラゴン・クルーザー4大破炎上」


「攻撃隊の被害、デスボンバー種2騎のみ。現在退却中」


「やった、大勝利よ!」


「勝ったわね、ソール!」


 報告を聞いて興奮したパッツィとソフィアが、魔王ソールヴァルドに声をかける。

 横で聞いていたエンリケ局長も頷き、作戦を評価する。


「やりましたな魔王様。最初にアンデッド部隊を突っ込ませ、敵艦隊のコルベットを攻撃し被害を吸収。直後に攻撃部隊で攻撃し、被害を最小限に抑えるという作戦が上手く行きました。貴重な小型騎は1騎も欠けずに済みました」


「ええ、今回は運も良かったです。敵竜騎が少ないのも助かった」



 と魔王は笑顔で答えるが内心は複雑だ。日本人的な感覚が残っているソールヴァルドは、素直に勝利を喜べなかった。この世界に馴れきった魔王だが、初めての戦争を指揮し、結果的に沢山の人を殺したのだ。覚悟はしていたが馴れることは簡単には出来ないだろう。もっとも、立場の問題もあるので、そのことを表面に現すことは一切無かったが。それにまだ戦闘は終わっていない。不意にマルガリータが報告を送る。


「……喜ぶのはまだ早い。航法管制。11時方向、高度千、距離1万メートルに国籍不明竜騎確認。こちらに接近中……」


 報告を聞いた婚約者達は、すぐさま席に戻りオペレートを再開する。

 マリベルの緊張感のある声が響く。


「戦闘管制。ベルゼビュートが海賊艦隊艦載機と断定。」


「竜騎管制。直掩4騎が迎撃行動中。直掩2騎が発進準備中」


「戦闘管制。接近中の敵勢力は、戦闘騎マッキ・フォルゴーレ種2騎、爆撃騎マッキ・サエッタ種12騎。高度700、距離8千」


「竜騎管制。敵戦闘騎2騎と直掩4騎が交戦開始。敵爆撃騎なおも接近中。インターセプトコース。発着ポートより直掩2騎が発進、今」


「よし、キャプテン・キッド。針路北北東に変更、相手に横腹を見せろ。対空兵器の性能を充分に引き出したい」


「御意」


 魔王船は針路を北北東に変更し、敵竜騎を待ち受けた。

 敵艦載騎の出現に司令の間の緊張が高まる。しかし魔王は不敵な笑みを浮かべた。


「来たな。やはり交代を含めると直掩9騎は少ないか、簡単に突破される。だがそれでいい。ハンマーヘッド、カオスヘッド、お前達の出番だ。対空戦闘用意!」


 魔王の命令を聞き、艦首側管制塔の寄生魔獣ハンマーヘッド、艦尾側管制塔の寄生魔獣カオスヘッドが壁を叩いて、喜悦の雄たけびを上げる。


「おおおおっ、ついに、ついにこの時がやって来た。魔王様見ていてください。必ずや敵を撃滅してみせましょうぞ! いくぞカオスヘッド!」


「オウッ、勿論だ! クククク…… ついに我々の真の実力を見せるときが来たようだな! 高射砲とミサイルの威力、存分に見せつけてくれるわ!」


 興奮したやかましい声が、魔導伝声管を通して司令の間に流れる。

 少し驚いた顔をした魔王が、周りに聞かれないように、隣のブレインに小声で質問した。


「あの…… ブレイン? なんか厨二病っていうか、寄生魔獣ってあんな性格だっけ?」


「ハッ、武器をコントロールする能力を向上させるため、交感神経を太くするとともに、魔王様の記憶を参考に、人間や魔族が親しみを感じやすい性格にしてみました」


「あ~。親しみっていうか、それ…… いいや。そういう仕様ということだな」



 魔王は呆れつつも、微妙な表情で平静を装った。

 

 寄生魔獣ハンマーヘッドとカオスヘッドは、前部、後部対空ガンデッキに6基ずつ配置してある6インチ単装高射砲の旋回を開始。すべての砲口を右舷に向けた。続けてスパルヴィエロの連装ランチャー4基と、シーダーツの連装ランチャー8基を右舷へ旋回させて対空戦準備は完了した。マリベルが魔王に報告する。


「戦闘管制、対空戦闘準備完了。敵部隊12騎は戦闘展開隊形コンバット・スプレッドを取りつつあり3騎4群に分かれる。それぞれМ(エメ)群、(エフェ)群、(ホタ)群、LI(エジェ)群と呼称する」





「右上方、敵戦闘騎来ます!」


「頑張れ、魔王船までもう少しだ!」


 一方アルコン海賊側の爆撃騎隊隊長、フランツ・ベル率いる魔王船攻撃部隊は、敵直掩騎を護衛戦闘騎アルマッス隊に任せ、自身は魔王船へ突入していった。爆撃騎隊の編成は3騎ずつで、隊長を含むシエル隊とフィデール隊、アルディ隊、アロンジェ隊の4隊に別れる。魔王船への距離が6千を切った時に、新たな敵戦闘騎2騎が突っ込んで来て魔法弾マギア・パレットを2発撃ち込んでくる。


 魔王船攻撃部隊は回避を行い、1発はかわしたものの、もう1発がアロンジェ隊3番騎に命中。翼をもぎ取られた3番騎は回転しながら落下する。攻撃してきたワイバーンは急降下のまま編隊の下方に抜けた。また追撃を仕掛けてくるかと思ったが、敵戦闘騎は上昇しながらこちらから離れていく。まだもう1度攻撃する時間があるにもかかわらず攻撃を諦める敵騎を、フランツは不審に思いつつ魔王船に目を向ける。すると魔王城を挟んで艦首と艦尾の甲板に設置してある大砲が、こちらを向いていることに気付いた。



「戦闘管制。敵部隊との距離4800。高射砲の攻撃範囲に入りました」


 6インチ単装高射砲12基は、鎌首を持ち上げ敵竜騎に照準を合わせる。高射砲の有効射程は4千メートルだが、魔法の砲弾スクリューパレットにより、射程は5千メートルに伸びているのだ。寄生魔獣ハンマーヘッドは、シュモクザメのような両側に飛び出した顔の両端の多数の目で、カオスヘッドは頭の耳の部分から伸びた長い触手先の眼球で測距を行なう。


「目標、爆撃騎LI(エジェ)群3番騎。照準完了。グハハハッ、食らうがいいわ! 撃ち方~始め!!」


 ハンマーヘッドの号令と共に、高射砲12基が大音響と閃光を発し、スクリューパレットが発射された。しかし気合が入った発射にもかかわらず、発射された12発の弾丸は全弾外れてしまった。外れた弾は、魔法陣の時限設定で5千メートル以上の飛翔で自爆する。


「むう、1発も当たらんとは!! もう1度だカオスヘッド。次弾装填!」


「魔王様の前で無様は許されんぞ! 照準修正、撃ち方、始め!」


 再びハンマーヘッドと、カオスヘッドは同じ目標に向けて12発の弾丸を放つ。チェンバー内の爆発と共に、スクリューパレット尾部のスイッチが入り、飛び出した弾丸に螺旋状の風魔法が起こり高速回転がかかる。それと同時に、弾頭周辺3メートルにレムノスの魔力探知結界が発生し、その中に竜騎が入れば、竜体が発する魔力を感知して砲弾が自動爆発する。



 魔王船に接近中の爆撃騎アロンジェ隊3番騎に12発の弾丸が殺到したものの10発は外れた。しかし残り2発が見事に竜騎を捉え爆発した。至近距離の2回の爆発に、首と翼が見事に吹っ飛んだ3番騎は、燃えながら海面に突っ込んだ。


「戦闘管制。砲弾命中! LI(エジェ)群1騎、撃墜ショットダウン!」


 マリベルの弾けた声が、魔王船の初の対空射撃による成果を知らせてくれる。


「ええい、もう1発!」


 ハンマーヘッドは叫び、再び6インチ高射砲が火を噴く。今度はアロンジェ隊1番騎に狙いをつけて砲弾を発射、が全弾外れ。しかし大きく外れた砲弾が運良く隣の2番騎に1発命中。片翼が吹き飛ばされ回転して落ちていく。この尋常ではない攻撃に、さすがに爆撃騎隊は焦ったようで、編隊ごとに大きく間をとって進行してきた。高射砲の第4射目、先ほどの対策が功を奏したのか命中弾なし。魔王船との距離をかなり詰められた。


「戦闘管制。敵編隊との距離3600。高度400。スパルヴィエロ射程内」


 ハンマーヘッドはミサイルランチャーの仰角を上げ、対空生体ミサイル、スパルヴィエロの発射体勢を整える。


「くっ、4射48発を消耗して2騎しか落とせんか! まだまだ訓練が足らん、スパルヴィエロ発射準備よし、今度はこいつで歓迎してやる。発射!」


 ハンマーヘッドが陣取る管制塔の左右にあるランチャーから、同時に4発のスパルヴィエロが発射された。


「戦闘管制。スパルヴィエロ4、多連射サルボー!」


 マリベルの興奮した声が司令の間に響いた。ミサイル発射時の符丁は魔王が決めたもので、単射は「ファイア」、2連射は「ダブルタップ」と呼ぶ。ダブルタップとは射撃用語で、魔王の前世の記憶によれば、拳銃やライフルの二連射のバースト射撃のことを言う。2発以上のミサイルを発射する時は「サルボー」と呼び、魔王の前世で見た深夜アニメの影響でこの符丁に決めた。ミサイル発射時にオペレーターまで叫ぶ必要は無いのだが「こっちのほうが士気が上がるしカッコイイ」という魔王の意見で、発射時にオペレーターが宣言することになっている。



「戦闘管制。スパルヴィエロ飛翔中。敵編隊との距離、2千、千、500、200…… 全弾命中! (エフェ)群2騎、(ホタ)群2騎、撃墜ショットダウン! 敵部隊残り6騎、なおも接近中」


 ミサイル命中を確認したハンマーヘッド達は、直後に高射砲を発射、狙い済ました攻撃によりアロンジェ隊2番騎を撃ち抜く。これでアロンジェ隊、LI(エジェ)群は消滅した。だがこれで攻撃は終わらない。敵機と魔王船の距離2千を切った所で、カオスヘッドがランチャーからシーダーツ2発を発射する。


「戦闘管制。シーダーツ、2連射(ダブルタップ)! 飛翔中…… 全弾命中! (エフェ)群、(ホタ)群、消滅! 敵部隊残り3騎」


 ハンマーヘッド達はわざとミサイル発射数を絞って攻撃している。理由は2つあり、1つは魔王船のすべての対空兵器の実戦での性能テスト。もう1つは寄生魔獣の計算能力の判定のためだ。ハンマーヘッド達は、測距を行い竜騎を追跡しつつ未来予想位置に攻撃を行なうが、攻撃、追跡可能騎数の限界飽和点がまだ分からないのだ。というわけで今回の攻撃でデータを取り、計算能力の見極めに使用するつもりだ。


 このままいけば、次は魔王城対空ガンデッキの対空臼砲、投射機の出番になるはずだった、しかし予想外のことが起きる。


「戦闘管制。М(エメ)群、竜爆弾投棄! 全騎逃げるようです!」


 この動きにハンマーヘッドは激高。


「コラァ、逃げるな。シーダーツ発射! 高射砲発射!」


 ハンマーヘッドは慌ててシーダーツ1発を発射、続けて照準の合った、仰角を最大近くまで上げた高射砲6基でも射撃を行なう。敵竜騎は旋回中で速度が落ちていたのが災いし、砲弾5発のうち1発が下から命中、シエル隊3番騎は、爆発で尻尾が吹き飛ばされ墜落した。だがその瞬間、またしても予想外のことが起きた。砲弾を発射した途端、高射砲の1基が激しい音響を轟かせ大爆発したのだ。


「あれ?」


 ハンマーヘッドはキョトンとした声を出し、突如爆発した高射砲を眺める。

 一方、司令の間のマリベルは驚いた。


「えっ? せっ、戦闘管制。6番高射砲爆発、爆発! 吹き飛んだみたいです!」


「な、なんだと!? 何が起きた?」


 マリベルの報告に魔王は泡を食って立ち上がる。


「分かんないよお兄ちゃん。攻撃は受けてないのに爆発しちゃった。高射砲大破!」


「大破って…… ブレイン、原因はなんだ?」


「詳細は不明です。しかし先ほどの爆発で、砲塔内で作業していたスケルトン6体が爆発四散しました。復旧は絶望的」


「なんてこった……」



 司令の間が混乱している間にも戦闘は続く。

 ハンマーヘッドが放ったシーダーツ1発は背後から見事に標的を捉え、シエル隊2番騎の撃墜に成功した。あと残すは隊長騎のみだ。高射砲の突然の爆発で動きが止まったハンマーヘッドに代わり、カオスヘッドが隊長騎に対してシーダーツ1発を発射してカバーした。しかし……


「戦闘管制。シーダーツ、単射ファイア! 飛翔…… あれ? マギアエンジン停止! 海に落下します。コントロール不能の模様!」


「おい……」


 またしても発生したトラブルに魔王ソールヴァルドは二の句が継げない。

 ハンマーヘッドは立て続けに起きた原因不明の事故に、頭から湯気を出して怒る。


「おのれぇ、1度ならず2度までも、魔王様の前で恥をかかせるとは、全部お前のせいだ!」


 ハンマーヘッドは敵隊長騎にすべての責任をなすりつけ、再びシーダーツを発射、しかし相手は逃走を開始している。追いつけるかギリギリの距離だ。




 爆撃騎隊隊長フランツ・ベルは混乱していた。恐怖に身を震わせつつ、懸命に魔王船と反対方向に逃げる。

 フランツが聞いた話では、以前リュック提督が仕掛けた戦闘では魔王船は非武装だったのを確認している。しかし、その戦いからすでに2年が経過。間者の情報によればバルバドスの軍事支援も受けているようなので、必要最低限の対空兵器や竜騎等を装備しているだろうと予測はしていた。だがそれでも、たかが2年である。充分な戦力を保有するには、まだまだ時間が必要なはずだった。


 しかし蓋を開けて見てみれば、魔王船は竜騎を大量に保有し、対空兵器も見たことがない強力なものを揃えていた。フランツの予想を超え、余りにも兵器を装備する速度が早すぎたのだ。魔王は一体どんな魔法を使って、このような強力な装備を手に入れたというのか?


 最初、甲板上の大砲がこちらを向いた時は何かの冗談だと思っていた。大砲の弾が高速で移動する竜騎に当たるはずは無い。だが、その固定観念は覆される。最初の砲撃で、竜騎が立て続けに2騎落とされたのだ。慌てたフランツは編隊の間隔を大きく取ったが、続けて飛んできた謎の鉄の塊に、なすすべもなく4騎の竜騎が落とされた。


 そんな理不尽な攻撃にも関わらず、フランツは爆撃のために魔王船に接近した。だが至近距離で魔王城を見た途端フランツの戦意は萎えた。

 魔王城周辺の甲板には、大量の対空臼砲、対空投射機が設置されていたのだ。ざっと数えるだけで50基以上はあるか。いくらなんでも、あんな中に飛び込めば、蜂の巣になる未来しか見えなかった。そこからフランツの決断は早かった。


「全騎攻撃中止、反転! 竜爆弾投棄、逃げるぞ! この数では、あんな化け物みたいな艦とは戦えん!」


 その判断は正しい。だが逃げ切るには認識が遅かったといわざる得ない。残存するシエル隊3騎が退却のために旋回している間に、2番騎と3番騎は次々に叩き落された。その際、突如敵の大砲が爆発したように見えたが、逃げるのに必死で確認は取れなかった。もはや生き残ったのは隊長である自分だけ、フランツは緩降下をしつつ加速し、魔王船から逃げるため全力で空を飛ぶ。


「マテー」


 その時、背後からとても小さな声で、誰かが呼んでいる様なありえない音をフランツは聞いた。恐る恐る振りかえって見ると、遠くから例の鉄の塊が飛んできた。よく見るとその塊には目が3つに口が1つ付いていて、ゲタゲタ笑いながら、こちらを追いかけて来るではないか。


「ギャハハハッ、オマエヲクワセロー!」


 先ほどより大きな声で、後ろから魔獣の声が聞こえた。追いかけてくるのは空飛ぶ魔獣だ。流線型でまるで大砲の弾のような体を持っている。名前を付けるとすれば魔獣弾とも呼べそうな飛行魔獣だ。必死に逃げるフランツ騎に、その飛行魔獣はジワジワと追いついてくる。


 地球のミサイルのように、撃たれたことも分からないほどの速さのミサイルで爆死するか、それとも低速の、喋るミサイルにじわじわ追い詰められて爆死するほうがいいか。どちらがより良心的かは悩む所だが、フランツ騎には最早考える時間は残されていなかった。


 追跡してきたシーダーツは、フランツ騎より高度を100メートル高く飛び、そのまま急降下突撃。直後に推進用の魔力が切れ、マギアエンジンが停止するものの、そのまま猛スピードで滑空しフランツ騎の至近距離で大爆発する。後に残ったのは落ちていく竜騎の残骸のみ。

 フランツ騎は、魔王船からシーダーツ射程ギリギリの距離2千メートルで捕捉され撃墜された。




「戦闘管制。目標М(エメ)群、最後の1騎を撃墜。敵爆撃騎部隊、全滅を確認。残りの敵戦闘騎1、偵察騎1、東北方面に遁走」


「船内管制。現在6番高射砲、消火活動を実施中。まもなく消化完了の模様」


 とりあえず敵部隊を撃退できたので、司令の間の雰囲気は弛緩した。

 だが混乱はまだ続いている。魔王は次々に指令を出す。


「キャプテン・キッド。速度を8ノットに落とせ。シーダーツ落下ポイントに針路変更」


「御意」


「ブレイン。途中で落ちたシーダーツ弾頭の寄生魔獣は生きてるか?」


「はい。無事です」


「なら魚の形になって、泳いでこっちに戻るように言ってくれ。シーダーツ墜落の原因を知りたい」


「ハッ、テレパシーで命令を送りました」


「それで高射砲のほうだが、原因は何か分かったか?」


「詳細は不明ですが、6番高射砲の最後の攻撃では弾が撃ち出されていません。状況から砲塔内での砲弾の暴発の可能性が高いです」


「自爆か…… ハンマーヘッド、カオスヘッド。暴発の原因が究明されるまで、高射砲の使用を禁止する」


「申し訳ない!」「了解です!」


「ソール。あと30分で出撃した竜騎が帰還するわ」


「分かったパッツィ、着艦用意の指令をCICに伝えてくれ、それから……」



 こうして魔王船初の本格戦闘は幕を閉じた。始めは迎撃戦も上手く行っていたが、予期せぬトラブルの連続に、魔王船クルーの混乱は長引いた。夕闇が深くなる頃に竜騎は無事全騎着艦。だが数的優位な戦闘での、骸骨飛行隊スカル・スコードロン壊滅の報に、魔王は眩暈がしそうだった。それから日の沈む短い間に、魔王はスプリガンと共に自爆した高射砲を視察。敵アルコン偽装艦隊の撤退も確認したため、19時に魔王船は戦闘体制を解除。


 日没前に西へ飛ばした偵察機の報告により、ドルレオン島とこちらの戦闘海域に、アスティリアスの竜騎母艦を含むパトロール艦隊が接近中との報告を聞いた魔王は、面倒な事態になることを回避するため、船長キャプテン・キッドにレムノス島への帰還を命令。


 魔王船は北西方向に針路を取り、日の沈んだ真っ暗な海を、超海流に向けて急進した。




    第60話 「魔王様、海賊を退治する」

   ⇒第61話 「魔王様、航空機を製造する」



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