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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第6章 アスティリアス貿易編
72/75

第59話「魔王様、戦闘を決意する」

エスパーニャ暦5543年 7月3日 11時30分

アスティリアス王国西沖

魔王船


 雲が多くなってきて、蒸し暑い夏の天気の中、魔王船は急きょ手に入れた竜騎部隊の訓練を行ないつつ、ドルレオン島に全力で進んでいく。

 魔王ソールヴァルドは海賊の討伐を決定。魔王船は海賊に追いつくために最大戦速で海原を突き進む。

 

 7月4日早朝。

 途中でドルレオン島へ向かう定期貨物船を抜かして 魔王船はドルレオン島近海に先に到着。

 

 ドルレオン島から南30キロの地点で魔王船は東へ針路を変更。海賊を追う。

 魔王は、エンリケ局長が作成した攻撃プランに目を通し、プランを裁可。

 しばらくしてブレインが魔王に報告する。


「魔王様、スパイ鳩のテレパシーをキャッチ。距離はギリギリ500キロ。東北東方向です」


「よし、スパイ鳩は何と言っている?」


「ハッ、ドルレオン島に海賊船と思われる3隻のフリゲートが接近し船員が上陸、村に人がいないことを確認して、フリゲートは東北東へ離脱」


「3隻だけがきたか…… 後方で竜騎母艦は待機、その3隻はやはり囮かなんかだろうな。ということは本隊は東北東だな。キャプテン・キッド」


「了解しました。針路東北東へ変更。国籍不明艦隊に向かいます」


「よしソフィア、全デッキ警戒態勢へ移行だ!」


「分かった。全デッキ警戒態勢!」


 船内管制を行なうソフィアが机の上のボタンを押すと、魔王船内全区域に警報音が鳴り響く。初期の頃は鐘を鳴らす予定だったが、レムノスの魔法陣によさげな警報音があったので、そちらに変更した。やっぱこのウーガッ!ウーガッ! て言う警報音のほうが戦艦ぽくていいよね。とは魔王ソールヴァルドの言だ。

 続けてマリベルが、オペレーター席横に工事で移動させていた拡声魔導伝声管でアナウンスを行なう。


「魔王船本営より連絡。全デッキ警戒態勢に移行、これは訓練ではない。繰り返す。全デッキ警戒態勢に移行、これは訓練ではない」


 このアナウンスを聞いて、魔王船の住民達は、訓練どおり一斉に行動に移った。

 甲板や魔王船自然区画にいた住民達は、店舗よりただちに出て魔王船内へ避難。森魔妖精ドリアードも魔王城内部に隠れる。水魔妖精メアヴァイパーは池の底に掘ってある防空壕に身を潜めた。



「船内管制。後宮及びコロシアム稼動天井起動、全閉鎖中。自然区画全店舗、避難完了。店舗格納開始」


 魔王城2階内部より稼動天井がせり出し、後宮とコロシアムの屋根を閉じていく。花魔妖精達は店舗内に避難、店長と店員ごと店舗を地下に引っ込めた。

 第5デッキの住民達は、居住区から出てヴァイタルパート内商店街への移動を開始、しかし人数が多いので時間がかかる。中には避難に不慣れな獣魔鷹族600名もいたため余計に時間がかかった。結局、全デッキ警戒態勢に移行するのに40分もかかることになった。


 全デッキ警戒態勢が発令されたと同時に、第4デッキの乗員達も動き出した。事前に計画に基づき、警報が発令されると竜騎の爆装を開始する。事前に余裕を持って竜騎を出撃させる為にだ。しかし……


「わぉ、パッツィ、第4デッキ大渋滞になってるわよ。大丈夫かしら?」


「いつもは竜騎20騎ぐらいだもんね。それがいきなり竜騎130騎くらい? 訓練も1日しか出来なかったし、そりゃ混乱するわ」


 ソフィアとパッツィはお互いのディスプレイを見ながら会話する。

 第4デッキでは、大きな混乱は発生していないものの、大量の竜騎の間を縫うように作業員が爆弾を運んだりしており、動線が整理されずにグチャグチャになっていた。そんな喧騒の中から、直掩を担当する戦闘騎と海賊を探す偵察機が、右舷竜巣ドーム直下の魔導リフトから、竜巣ドーム内に昇っていく。


「竜騎管制。直掩騎発進準備よし、今2騎が発進。偵察騎発進スタンバイ中」


「魔王様。国籍不明艦隊との距離440キロ程度と思われます。竜騎行動範囲内です」


「分かったブレイン。パッツィ、CICに連絡。偵察騎を発進させろ」


「了解」


 パッツィは横にある魔導伝声管から魔王の命令をCICに連絡。しばらくして、4騎の偵察騎が次々に魔王船を飛び立つ。偵察騎は4線1段で、60度~80度の比較的狭い範囲の索敵を行なう。大体の角度は把握しているので、国籍不明艦隊を発見するのはたやすいだろう。時間は昼の12時過ぎ、時速300キロでの巡航なので、接触は13時半くらいと推測された。


「まずいですな。追いつくのに時間がかかりすぎた。この分だと、もし攻撃できたとしても帰還は夕方になりますな」


 CICより上がってきたエンリケ局長がぼやく。

 魔王はひとまずパッツィ達やエンリケ局長と、魔王城6階のビストロ・デ・ルシファーで食事をゆっくり取り、気合を入れなおして司令の間に戻る。

 13時半、偵察騎より連絡。国籍不明艦隊発見の報が司令の間にもたらされる。


「国籍不明艦隊発見。方位東、距離410キロ。フリゲート4、コルベット4、竜騎母艦1、ドラゴンクルーザー5、輸送艦2から4。国籍不明艦隊針路西」


「偵察騎追撃を受けつつあり、遁走中。なんとか逃げ切れそうです」


 次々にCICより報告が入る。CIC中央に陣取り、指揮統制コマンドサーヴァーの役割を果たしている寄生魔獣ベルゼビュートが、最新の情報を元に、ほぼリアルタイムに敵位置の推定情報をディスプレイに更新する。魔王ソールヴァルドは宣言する。


「海賊は合流したか。よろしい、全デッキ戦闘配置につけ!」


「船内管制、全デッキ戦闘配置。警報音」


「魔王船本営より連絡。本船はこれより戦闘海域に突入する。全デッキ戦闘態勢に移行。繰り返す。全デッキ戦闘態勢に移行」


「船内管制、各デッキ隔壁閉鎖開始、魔王城外部入り口閉鎖開始」


「戦闘管制。前部、後部対空ガンデッキ、シーダーツ、ロード。スパルヴィエロ、ロード。6インチ高射砲射撃準備。完了まで5分」


「竜騎管制。骸骨飛行隊スカル・スコードロン発進準備中。死神飛行隊デス・スコードロン爆装完了。魔導リフトに移動中。第4デッキ渋滞している。思ったより時間かかるわよソール」


「戦闘管制、魔王城対空ガンデッキ射撃準備、完了まで約10分」



 玉座に座る魔王ソールヴァルドの眼前のディスプレイに、次々に要約された情報が写る。分かりやすいシステムを作れたことに魔王は満足する。しかしここまで来れば、魔王が出来ることはあまり無い。せいぜい撤退するかしないかを決断するくらいだ。


 一気に情報が様々な人間から集まってくると、人は軽度のパニックや精神的な負担を感じるものだが、こういう時は、要点のみを憶えて、細かい部分はわざと記憶させないことが重要だ。当然人の気持ちも理解はするが、共感はしないようにする。たとえば追われている偵察騎は大丈夫か? とか、果たしてこの戦いで死者が出るのか? と言ったことも一切考えないようにする。


 人の心というのは、それほど強いものではない。だからいちいち共感や心配などしていては心が持たないのだ。このような状況は、地球の会社での名ばかり管理職だった時にも、たまに経験している。今と比べるとスケールは小さなものだったが、この世界でもその経験が充分役立っているな。とふとソールヴァルドは思った。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第6章 アスティリアス貿易編





エスパーニャ暦5543年 7月4日 14時00分

ドルレオン島東沖150キロ

魔王船 司令の間


 俺は玉座に肩肘を突きながら、少しイライラしながら座っている。

 もうあれから30分経っているが、未だに竜騎の発進準備が終わらない。今回は被害を少なくするため「打って一丸」でいくつもりだが、56騎の竜騎を発着ポートに並べるのに予想以上の時間がかかっている。


 ああ、胃が痛くなってきた。あのじくじくとした感じ、胃から苦い汁が出てきそうな感じ。胃薬が飲みたいな。胃薬ポーションとかあるのかな。でもあの系統の薬はな、書類仕事とか集中できなくなるから嫌いなんだ。胃が痛いのも嫌いだがね。ネット小説に出てくるような異世界軍師が羨ましいわ。あいつら鉄の胃でも持ってるのかね。俺なら戦闘のたびに吐いてるわ。


 あ~あ~。思えばリリアにいた時は良かった。闘牛士に迷宮探索、そして恋。幸せなファンタジーライフだったのになぁ。それをアルコンの野郎め、ケツの穴に唐辛子を突っ込んでやる。などと現実逃避をしていると、パッツィは笑顔を浮かべて親指を立てながら、俺に声をかける。


「ソール。飛行隊全騎位置についたわ。いつでもいけるわよ」


「やっとか。よし、キャプテン・キッド。風上に向け45度の角度で航走せよ」


「御意」


 魔王船は取舵をとり、北から来る風に対して、艦首を45度にして進み始める。横風を受けるのは、竜騎の発進を容易にするためである。竜騎は主に魔力を使って飛ぶので、風が必ずしも必要というわけではない。しかし発進には大量の魔力を使うので、魔力節約のために、船から飛ぶときは風を受けて発進させることになっている。


「航法管制、風上に向けて45度に変針完了」


「竜騎管制、骸骨飛行隊スカル・スコードロン発進開始」


 魔王船から次々に竜騎が発進していく。やれやれ、ようやく発進に漕ぎ着けられた。

 しかし好事魔多し、マルガリータが声を出す。


「航法管制、……東方向、距離6千メートル。高度2千に未確認騎1騎。国籍不明、種別はマッキ・アエロナウティカ種」


「戦闘管制、種別と方角から国籍不明艦隊からの偵察騎である可能性が極めて高いとベルゼビュートが判断」


 同時に魔王城上階の見張りからも報告が入る


「2時の方角、未確認騎1騎発見。距離6千メートル、高度1800!」


 俺の傍らに居たエンリケ局長が言葉を漏らす。


「ふむ。すぐに偵察騎を飛ばしてきたか。なかなか手際がいい。やはり相手は海賊ではない、アルコンのようだな……」


「未確認騎遁走を開始、我が直掩騎が追跡中。直掩と偵察騎の距離4500!」


「ダメだな逃げられる。やはり直掩の数が少ない。魔王船はいい船なのですがね、大きすぎて見つかりやすいのが欠点ですな。魔王様、これでこちらの存在がバレました。攻撃部隊が来る可能性が高いでしょう」


 俺は無言でうなずく。

 魔王船には強力な対空兵器がある。たとえ攻撃部隊が来るとしても撃退できる力が充分にあるだろう。

 その間も竜騎の発進は継続していて、20分で全騎の発艦が完了した。

 出撃した部隊は以下の通り。


●スケルトン飛行隊

骸骨飛行隊スカル・スコードロン 10騎

死神飛行隊デス・スコードロン 10騎


●ドルレオン臨時飛行連隊

戦闘騎隊 9騎

爆撃騎隊 9騎

第1急降下攻撃騎隊 9騎

第2急降下攻撃騎隊 9騎


 全部で56騎、6個飛行隊(スコードロン)規模だ。

 強力な攻撃部隊だが、攻撃して帰投する頃には夕暮れになっている。

 2の矢は射てない。


 魔王船の放った初の攻撃飛行隊は、海賊艦隊撃滅のため、まっすぐ東北東方面に飛び去っていった。





エスパーニャ暦5543年 7月4日 14時10分

ドルレオン島東沖450キロ

偽装海賊艦隊 旗艦バッカニア号


「ふうむ。ドルレオン島はもぬけの殻だったと。竜騎も回収されていたわけか」


「へ、へい。くまなく見て回りやしたが誰もいませんでした。一体どこへ行ったのか」


 海賊頭領ダンカン・ヴァッツ・タイソンの報告を聞き、アルコン海軍特殊作戦艦隊司令シルヴェストル・バルサ・オベールは首をかしげる。

 アルコン側は、まったく予想外の出来事に困惑していた。ドルレオン島の100騎近い竜騎と600名の住民が忽然と姿を消してしまったのだ。


 アルコン帝国が密かに準備して活動させているこの偽装海賊艦隊は、これまでレオン王国関連の通商破壊作戦を実施してきた。

 その際、レオン王国以外を敵に回すことがないように、この海賊艦隊は、アルコン帝国とは何の関わりも無いと公式に発表している。しかし発表とは裏腹に、この海賊艦隊の乗員のほとんどは、籍を外したアルコンの軍人で占められていた。この偽装海賊艦隊総勢18隻のうち、本物の「海賊」は500トン級フリゲート3隻のみだ。



 頭領ダンカンが率いる海賊達「シーサーペント」は、カナリア諸島の無人島に隠れ住み、荷物の輸送などの仕事をしながら、年2回ほど海賊行為を行なって細々と生計を立てていた。もっと船を襲う回数を増やせば沢山儲けることもできるのだが、目立ちすぎれば軍が出てくるため、回数を抑えていたのだ。


 だが2年前、海賊シーサーペントの運命は、アルコン侵攻と共に大きく変わった。頭領ダンカンがアルコン侵攻に気がついたときには、すでに拠点がアルコン軍に包囲された後だったのだ。頭領ダンカンは戦わずに降伏。皆殺しにでもされるかと思ったが、アルコンからの提案は意外なもので、アルコン艦隊の海賊偽装化の手伝いを持ちかけられた。


 提案を了承した頭領ダンカンは、以降アルコン偽装艦隊と共に海賊行為を行い、通商破壊を実行すると共に、報酬として奪った物資は自分のものにすることを許可された。おかげでダンカンは、物資を南国に売り飛ばして大量の儲けを得ることができたのでホクホク気分だった。



 しかし数ヶ月前、偽装海賊艦隊にアルコン帝国から新たな指令が降りた。

 その内容は「アスティリアスの警備船及びパトロール艦隊を攻撃し、海上哨戒能力を低下させよ」という指令だった。この命令を受けたシルヴェストル司令は驚く。


 通商破壊作戦は、主にレオン王国との決戦に益する為に行なっていると思っていたが、ここにきてのアスティリアス王国の攻撃指令、噂で聞いたことはあったが、どうやら海軍は本気でアスティリアスと艦隊決戦をやるつもりらしい。無謀だとも思えたが、必ず勝つ見込みがあってのことと、シルヴェストル司令は納得。ともかくも、作戦指令を実行しなくてはならない。


 標的はアスティリアスの警備船やパトロール艦隊などだ。しかし、それらの部隊は沿岸パトロールを行なっており、不用意に襲えば地上の竜騎基地より反撃を受ける可能性がある。こちらが安全に攻撃するためには、敵部隊を沿岸から引き離す必要がある。

 

 そのために目をつけたのがドルレオン島だ。ここではアスティリアスやバルバドスの竜騎の養殖を行なっている。ここを攻撃すれば警備船などを引きずり出せるだろう。あとはその部隊を遠距離から竜騎で反復攻撃して沈めればいい。


 相手もこれが罠だと気付いて戦力を増強するかも知れないが、こちらが見せる戦力はあくまで頭領ダンカンが率いる海賊船3隻のみだ。増強するとしても、1個パトロール艦隊程度で、楽に制圧できると思われる。もしこちらに手が余るほどの戦力だった場合は、さっさと撤退して次のチャンスを待つ。という方針で作戦を実行した。



 ドルレオン島には、アスティリアスから1ヶ月に1度貨物船がやってくる。その貨物船がやってくる1週間前にドルレオン島を襲撃、島にある通信手段と船をすべて破壊して、海賊艦隊は東に一旦離脱。後は定期貨物船が6日後にドルレオン島に着いて状況を連絡すれば、救助のためにアスティリアスの警備艇などが出てくるだろう。バラバラに出てくるか、集結して来るのかは分からないが、状況次第で各個撃破、集中撃破を選択する。その為に日数に余裕を持たせたのだ。


 海賊艦隊より3隻の海賊船が分離、ドルレオン島を襲撃。すぐに後退して東沖に一旦離脱。ここまでは上手くいったが、アスティリアス内部に潜ませた間者からの情報を収集している時に、国籍不明騎の接近を受けるも取り逃がしてしまう。


 海賊艦隊には竜騎母艦1隻とドラゴンクルーザー5隻を率いているが、表向きアルコンとは関係ないことになっているので、当然アルコン艦載機は使用できない。なので代わりにグレナダ王国の闇商人から購入した、マッキシリーズを艦載騎としている。その都合上、直掩の数がどうしても少なくなってしまうのだ。

 


 警戒した海賊艦隊は、しばらく付近を索敵したものの、不審な船を発見できなかった。なので索敵を中止し再び西進を開始。

 そして本日の13時40分ごろ。再び国籍不明騎の接触を受けた。西方向になんらかの戦闘艦がいる可能性が高いと判断したシルヴェストル司令は、偵察騎4騎を2線2段で放った。今はその結果待ちをしている。


「しかしドルレオン島では沢山の住民と竜騎がいたはずだ。移動させたとしても余りに早すぎる」


「なにか容易ならざる事態が進展しているようですね。充分に警戒をすべきです。」


 シルヴェストル司令の発言に、戦闘騎隊長バルトロメ・ブラン・アルボガストが応じる。

 その時、伝令がブリッジに走りこんできた。


「偵察騎より連絡。情報区分はδ(デルタ)。ターゲット確認。単艦で航行。艦載騎発進中の模様。西方向に距離400キロ。針路東、速度少なくとも14ノット以上!」


δ(デルタ)だと…… 間違いないな?」


「ハッ、数度確認しました。敵戦闘騎の追撃を受けるも、なんとか振り切ったようです」


 伝令の言葉に、シルヴェストル司令とバルトロメは驚愕した表情を浮かべ、海賊頭領ダンカンはそんな2人を不安そうに見る。


「なるほど、そういうことか…… 全艦針路、東北東に変更だ! セイリングフル、最大戦速。竜騎搭載艦に通達。出撃用意、全騎爆装せよ!」


 海賊艦隊は面舵を切り、次々に針路を西から東北東に反転させる。

 突然変化した雰囲気に、頭領ダンカンは困惑し、シルヴェストルは質問する。


「な、なぁ。そのデルタってのは何なんだ。そんなに大騒ぎする必要があるのか?」


「ああ、分かりやすくダンカン君に教えておこう。情報区分δ(デルタ)は、魔王船のことだ」


「な、なにぃ。ま、魔王船だと。確か、あ、あの鉄で出来てるとんでもないデカイ船のことだろ。魔王が乗ってるとかいう」


「そう。その魔王船だ。警備船やパトロール艦隊を釣り上げるつもりが、我々はとんでもないものを釣ってしまったようだな。すでに400キロの距離に詰められている。どうやら我々は魔王船と一戦交えないといけないようだな」


「なっ、なっ、冗談じゃねぇ。魔王船と殴りあうなんて聞いちゃいねえぞ! そんな相手と戦わず早く逃げよう!!」



 大慌てする頭領ダンカンの様子を見て、シルヴェストル司令は思わず噴出す。

 戦闘騎隊長バルトロメも思わず苦笑した。


「はっはははっ…… ククッ、なかなかいいね君。すぐに逃げ出す。実に素晴らしい提案だと思うよ。で、先ほど私が下した命令はなんだったと思う?」


「えっ、それは……」


「そうだ。魔王船は西から迫っている。私達は全力で東だ。出来るなら私達も戦わずに済ましたいものだ」


 シルヴェストル司令の発言を、隣の戦闘騎隊長バルトロメが補足する。


「よいかダンカン。俺たち竜騎手は敵船の航跡ウェーキの形と長さである程度船の速度を推測する。3千トン級の船までなら割りと正確だが、30万トン以上となれば不確かだ。しかし誤差を割り引いても、魔王船は14ノット以上でこっちに向かっている」


「14ノット以上! やつは魔走なのか?」


「その通り。残念ながら我が艦隊は最新の軍艦ではない。木造の硬翼帆艦で魔走や機走はない。最大戦速で8ノットがせいぜいだ。いい風が来ても平均10ノットだろうな。つまりどうやっても引き離せない。このままだと1日で追いつかれ攻撃される。が、それは魔王船が大砲しかなければだ。竜騎の行動範囲は450キロ、竜騎があるのなら、そんな悠長なことはせず、今すぐにこっちを攻撃してくる」


 バルトロメの話の続きを、シルヴェストル司令が継ぐ。


「現在魔王船は竜騎を発艦させている。1時間程度でこちらに届くだろう。こちらが打てる手は、戦闘騎隊で攻撃を凌ぎ、爆撃騎隊で魔王船に打撃を与え時間を稼ぐことだ。幸いもうすぐ夕方、この攻撃を凌ぐことができれば闇夜に紛れてパルマ島に帰還できるだろう。ダンカン君、君は自分の船に戻って対空戦闘の準備をしておくんだ」


「畜生。分かったよ。トルトゥーガ号に戻る!」


 そう言うと頭領ダンカンは、ブリッジから慌てて出て行った。

 シルヴェストル司令は、バルトロメに向き直り指示を出す。


「さてバルトロメ、作戦を伝える。魔王船攻撃部隊は爆撃騎隊長フランツに任せる。編成は爆撃騎12騎全騎、護衛戦闘騎2騎だ。艦隊直掩の指揮は君に任せる。戦闘騎7騎で魔王船攻撃部隊を妨害してくれ。数は少ないがこれでいくしかない」


「ハッ、理解しております。それではただちに準備に入ります」


 バルトロメは敬礼してブリッジから退出する。それから約20分の慌しい準備の後、爆撃騎隊長フランツに率いられた爆撃騎12騎、戦闘騎2騎は飛び立ち、一路西へ飛んでいった。続けてバルトロメ達も竜騎を発着ポートに並べ、発進準備を行なう。


 海賊艦隊の陣形は、先頭に500トン級24門海賊船トルトゥーガ号と同型2隻。その後ろに同じく500トン級24門艦、旗艦バッカニア号。

 その次に、2千トン級第2等竜騎母艦ベート級、1千トン級ドラゴン・クルーザー5隻、その両サイドに200トン級コルベット4隻。

 最後尾に600トン級補給艦4隻の全18隻の編成である。



 15時40分。

 バルトロメ率いる戦闘騎部隊は発艦を開始。艦隊の直掩につく。バルトロメが搭乗する竜騎は、数ヶ月前に闇商人から流れてきた最新のマッキ・ヴェルトロ種だ。灰色のボディに黒い斑点があり、翼下の鱗型自動空戦フラップにより良好な格闘戦能力を有する、厚い装甲を持つ重戦闘騎だ。コールサインはデュランダル。

 あとの6騎は、マッキ・フォルゴーレ種2騎ずつでチームを組む。コールサインは、リュタン、ルペ、アンクーである。


「そろそろ来るぞ。全騎戦闘座。西方向を警戒!」


 バルトロメの命令に、戦闘騎部隊の緊張が高まる。部隊は高度4千メートルをとり、若干雲が多い雲量4の空を懸命に索敵する。

 しばらく敵を探していたバルトロメは、雲の隙間から出現した竜騎編隊を視認した。


「デュランダル、敵機視認タリー・バンディッツ。方位(ツー)30(サーティ)。距離(ワン)(シックス)マイル。高度は3千。数は…… こいつは多いぞ! 36騎、4個飛行隊(スコードロン)を確認」


 バルトロメは攻撃部隊の数の多さに驚く、たしか魔王船は2年前は非武装だったはずだ。おまけに魔王船上空にも直掩がいると思われる。たったの2年でここまで数を揃えたのか。しかも……


「デュランダル、敵種別判明、セイバー種、シーキング種、ヴァリアント種」


「こちらシルヴェストル。そいつはバルバドスの艦載騎だな。やはり魔族国に武器を供給されているようだな」


「ただちに阻止を…… いや、おかしい」


 敵攻撃部隊には戦闘騎であるセイバー種9騎がついている。こちらから見えるということは、あちらからも見えるはずで、すでにこっちに気付いているはずだ。しかし、セイバー種はこちらを見向きもせず。艦隊に向けまっすぐ突き進む。嫌な予感がしたバルトロメは、周囲を確認するも他に敵影はない。その瞬間、バルトロメの竜騎とのシンクロが一瞬切れた。


「デュランダル、スパイクされた!」


 明確な殺意に反応し、今まで見ていなかった真上を見る。するとそこに、降下してくる竜騎を発見した!

 バルトロメは、急降下して突っ込んでくる竜騎を9騎確認、叫ぶ。


「真上からくるぞ、全騎、散開ブレイク!」


 戦闘騎部隊はすぐさま防衛機動を行う。真上から襲ってきたのは、骸骨飛行隊スカル・スコードロンのデスグライダー種9騎だ。通常竜騎はドライバーの空気が不足するので、高度4千メートル以上には昇らない。しかしそのような制限は関係ないアンデット達は、高度制限をガン無視して高度5千を巡航飛行してきたのだった。戦闘騎隊を発見したスカルリーダー、ゼルギウスは直ちに隷下のデスグライダー全騎を突入させた。


 バルトロメは精神を集中。イメージで竜騎に飛ぶ方向を指示し、竜騎を小刻みに左右に旋回させつつ、周囲に首を巡らす。

周囲の空域は敵騎と味方騎で入り乱れており、こちらは敵の攻撃を必死でかわしている。バルトロメが右後ろを見ると、敵が迫ってきたので即座に高速4・8Gで左旋回を敢行。マッキ・ヴェルトロ種は翼下の鱗型自動空戦フラップを自動で半開させて旋回をサポートする。



 鱗型自動空戦フラップは竜騎の旋回能力を向上させるが、やりすぎれば速度低下をもたらすので、あまり大きくは展開できない。通常状態での比較ではせいぜいマッキ・フォルゴーレ種より旋回能力は2割増しくらいだ。ドライバーの意思でもフラップ展開を調節できるが、使うタイミングを間違えればピンチになるので、ベテランにしか使いこなせない。しかし奥の手は無いよりは有ったほうがよいので、バルトロメはこの竜騎を気に入っていた。


 続けてバルトロメは、右へのフラップを大きく開く指示を出し、右へ高速5・2G旋回をきって、撃ち込んできた魔法弾マギアパレットを回避。その際敵騎の姿を見て驚いた。その竜騎は病的な白さで完全に骨格だけの竜だったのだ。アンデッドワイバーン。そんなワイバーンをバルトロメは知らない。おまけにそのアンデッドワイバーンは、背中に竜座を乗せ、そこに竜騎手らしきスケルトンが乗っていた。前代未聞のアンデット竜騎だ。



「こちら戦闘騎隊。敵戦闘騎の襲撃を受けた! 数は8機以上、全騎防衛機動(デフェンシブ)!」


 バルトロメの竜騎は高速4・8G旋回を繰り返しつつ報告を行なう。竜騎は平均4・5~5・3Gで旋回を行なえる。人間が耐えられる限界重力加速度は9G。地球で比較するなら、ゼロ戦の高速限界機動は平均5~5・5G、最新のミサイルでモノにもよるが、38G~64G旋回が可能だ。竜騎も場合によっては7Gまで出ることもあるので、年を取ったドライバーにはなかなかにきつい。


 バルトロメは後方と周辺の竜騎の位置状況を確認。まだ味方騎はやられてはいない。だが目の前では、ルペ隊の竜騎がアンデッドに追われていた。援護のためバルトロメはアンデッド竜騎の後方へつく。その時、大きな竜騎が、銀色の鱗を光りに反射させながら、真上から逆落としに迫ってきた。バルトロメは警告を発する。


「ルペ(ツー)(ツー)、真上から敵だ。回避しろ!」


 その瞬間、大型竜のドライバーから魔法弾マギアパレットが放たれて、逃げる間もなくルペ隊2番騎の竜体の背中に命中。爆発しつつ真下に落ちていった。


「ルペ(ツー)(ツー)撃墜ショットダウン!」


 バルトロメは叫びつつ、捻りこみを行い急降下体勢に入ったが、その時にはすでに大型竜は、猛スピードで急降下し低空に離脱しつつあった。追いつけないと判断したバルトロメは、追跡を諦め急上昇する。大型竜は銀色の鱗を持った見たことの無い種だった。通常大型竜は竜座を受け付けないはずだが、何故奴は竜騎としてドライバーの命令に従っているのか。いずれにせよ、あれがアンデット部隊の隊長騎なのだろうとバルトロメは判断した。一方スカルリーダー、ゼルギウスは撃墜を仲間に宣言する。


「スカルリーダー、撃破スプラッシュ、ワン!」


 骸骨飛行隊スカル・スコードロンは全10騎で編成されており、スカルリーダー、ゼルギウスが隊長騎。3騎編成の墓石小隊。2騎編隊の棺桶小隊、墓堀小隊、葬式小隊で構成される。


 アンデッドワイバーン墓堀小隊2騎は、リュタン隊1番騎に食いつく。その墓堀小隊の背後に、アンクー隊がついた。


「リュタン(ツー)(ツー)、合図と共に左旋回だ!」


ラジャー!」


「3、2、1、ナウ!」


 合図と同時にリュタン隊1番騎は左旋回。それを追う墓堀小隊2番騎の背後に、アンクー隊1番騎がタイミングを合わせて攻撃を放つ。


「アンクー(ツー)(ワン)、ランスワン!」


 発射された魔法弾マギアパレットは、目視誘導にしたがい突進し、アンデッドワイバーン2番騎に命中。左翼がもぎ取られきりもみで落下していく。


「よし、アンクー(ツー)(ワン)撃破スプラッシュ、ワン!」


 アンクー隊1番騎が高らかに撃破をアピール。士気の上がったアンクー隊2番騎が軽口を叩く。


「やったな。このままあいつらには、生きてるか死んでるかハッキリしてもらおうじゃねえか!」


 先ほどの戦闘を見ていたバルトロメは、アンデッドワイバーンの実力を正確に把握した。あのスケルトン竜騎手の実力は2級相当だ。素人ではないものの、熟練したドライバーとは言いがたい。対してこちらは1級竜騎手が4名いる。またアンデッドワイバーンの機動力も、マッキ・フォルゴーレ種に比べれば少し劣っているように思えた よし、1騎失ったものの俺達はまだ充分に戦える。


 バルトロメ騎の後方から、棺桶小隊の2騎が食いついた。バルトロメ冷静に回避運動を行い魔法弾マギアパレット1発を回避、急降下を行い右旋回。つられてデスグライダー2騎も急降下気味に旋回。


 今だっ!


 バルトロメは竜騎に命じて、両側の鱗型空戦フラップを全開。急減速して敵機をオーバーシュート。即座に魔法弾マギアパレットで、棺桶小隊1番騎を撃墜して勝どきを上げる。


「デュランダル、スプラッスュ、ワン!」


 そう言いながら、バルトロメ騎は即座に急降下。真横からアンデッドワイバーンが迫り魔法弾マギアパレットが発射されるも、バルトロメ騎の真上5メートルを通過した。そこにリュタン隊より通信が入る。


「リュタン(ツー)(ツー)、スプラッスュ、ワン!」


 リュタン隊が墓堀小隊1番騎を撃墜。これで墓堀小隊は消滅した。立て続けにアンデッドワイバーン3騎を撃墜。しかしまだ7対6。バルトロメが下層を見れば、敵攻撃隊が悠々と海賊艦隊に迫る。こちらとの距離は8マイル以上で、今から追いかけても間に合わないだろう。


「クッ、もう少し戦闘騎の数があれば!」


 バルトロメは悔しさに歯噛みする。敵戦闘騎との戦闘に気をとられ、迎撃のタイミングを外されてしまったのだ。戦術的には優勢でも、戦略的には失敗といえる。


「デュランダル、現在敵戦闘騎と交戦中。すまん、攻撃隊を阻止できない。敵の数が多すぎる!」


「了解した。こちらは任せておけ、幸運を祈る」


 危機的な状況にもかかわらず、シルヴェストル司令は落ち着き払った返事をする。アンクー隊は急降下してくる葬式小隊を旋回で巧みに回避すると、すれ違いざまに魔法弾マギアパレットを叩き込み、葬式小隊2番騎を撃墜した。


「よし、アンクー(ツー)(ワン)、スプラッシュ、ツー!」

 

 その時、バルトロメは猛スピードでアンクー隊に迫る大型竜を発見。警告を発した。


「アンクー隊、後方から敵隊長騎だ。逃げろ!」


 スカルリーダーゼルギウスは、キメラワイバーン、トーネード種に時速460キロでの突入を命じ、自身は魔法を使用する。


「竜飛魔法――――切断翼!」


 トーネード種の大きな翼のウイングカッターが魔法により攻撃力を増した。そのままゼルギウスは、ほんの数秒でアンクー隊1番騎に体当たりをする勢いで突入。敵竜騎に斜めに斬りかかり、竜体を切断した。竜体は尻の付近で真っ二つになり、バラバラになって落下した。


「アンクー(ツー)(ワン)、やられた、落ちる!!」


 墜落するドライバーは叫び、ゼルギウスは撃墜を宣言。


「スカルリーダー、スプラッシュ、ツー!」



 バルトロメ騎の現在の高度は2500メートル。その500メートル下を敵隊長騎、スカルリーダーが通過する。バルトロメは捻りこみを加えて真下に急降下、ここで敵隊長騎を仕留める。決意に燃えたバルトロメは、タイミングを調節して突撃を敢行。ゼルギウスは急降下してくるバルトロメ騎を視認。


 振り切れないと判断したゼルギウスは奥の手を使用する。ゼルギウスが搭乗するトーネード種は、様々な生物の特徴を持つ魔法生物キメラと規定される。だが魔王が呼び出したキメラは一味違う。様々な動物の特徴と共に異世界の概念すら、このキメラワイバーンは取り込んでいるのだ。ゼルギウスは身を沈めて、一言命令を下した。


「アフターバーナー」


 するとトーネード種の竜体の翼直下で閉じられていたエア・インテークが全開し、大量の空気を吸い込み圧縮、魔力を使用し、凄まじい勢いで圧縮空気が竜体後部から噴出した。キメラワイバーンは瞬間的に時速450キロから580キロに加速する。


「デュランダル、ランス、ワン!」


 バルトロメは腕を差し出し、魔法弾マギアパレットを発射、視線誘導を行なうが、キメラワイバーンの急加速に目を見張った。敵騎は後方に猛烈な爆音を残し、圧縮空気を放出しながら驀進する。追いすがる魔法弾マギアパレットは、惜しくも敵騎の後方5メートルを抜けてしまった。キメラワイバーンはそのまま猛スピードで戦闘空域を離脱、姿が見えなくなった。バルトロメはあっけにとられる。


 ルペ1番騎は、正面から真っ直ぐに来る、棺桶小隊2番騎のデスグライダー種に対して、魔法弾マギアパレットを放つ。しかし、双方高速で接近しているため距離感が掴めず、攻撃は外れる。対してデスグライダー種はコースを微妙に修正、ルペ1番騎は驚愕に顔をゆがめる。そう、棺桶2番騎は、アンデットにしか出来ない攻撃を実行することをドライバーが悟ったのだ。すなわち自殺攻撃。


 凄まじい衝撃音が発し、ルペ1番騎と棺桶2番騎が激突、スケルトン竜騎手は同時に魔法弾マギアパレットをゼロ距離で放ち、双方が爆発、燃えながら海面に落ちていった。これで棺桶小隊とルペ隊は全騎消滅した。残りの騎数は、アルコン側4対魔王側6。


 バルトロメは、撤退すべきかどうか逡巡する。母艦に戻るとしても、すでに上空には敵戦闘騎が舞っている。脱出を強行するにしても困難だ。スケルトン竜騎は後方から先ほどの体当たり攻撃をかけてくるだろうし、あの大型竜の速度では追いつかれるだろう。どうすべきか……





エスパーニャ暦5543年 7月4日 16時10分

ドルレオン島東沖530キロ

偽装海賊艦隊 旗艦バッカニア号


 臨時編成されたドルレオン飛行連隊とアンデッド攻撃隊は、ついに海賊艦隊上空に到着。直ちに戦闘展開隊形コンバットスプレッドを取り、海賊艦隊に突入を開始した。アルコン側戦闘騎隊は骸骨飛行隊スカル・スコードロンが抑えているので攻撃に集中できる。ドルレオン戦闘騎隊9騎は翼を翻し上空に駆け上り、周辺を警戒した。偽装海賊艦隊はジクザグに動いて回避運動を行なっている。


「8時から5時、敵竜騎多数接近中! 爆撃騎19、急降下攻撃機18!」


「対空戦闘用意!」


「8時の方向、敵爆撃騎10突出。種別は……不明!」


「なんだあれは、バカな…… 大型竜!?」


「残り9騎もおかしいぞ。骨だけしかない。まさかアンデット竜!?」


「落ち着け、奴は竜爆弾を搭載している。ただの爆撃騎だ。訓練どおりに対応すれば問題は無い!」


 偽装海賊艦隊のシルヴェストル司令の一喝で、動揺していた乗員は静まった。しかし、司令の心も穏やかではなかった。望遠鏡で先行する敵爆撃部隊を観察、アンデット竜騎は3騎小隊3群に別れ、1騎だけ金色の鱗を持った大型竜が見えた。ドライバーはスケルトンのようだった。シルヴェストル司令の知識では、スケルトンはネクロマンサーが召喚するものであり、ネクロマンサー1人でせいぜいスケルトン戦士を10体を操るのが限界だと聞いている。


 だがあのようなスケルトン竜騎手やアンデット竜騎などは、見たことも聞いたこともない。ひょっとして魔王は、あのような存在を自由自在に召喚可能なのか? もし無限に召喚できるとしたら、例え魔王軍の規模が小さくともアルコン帝国に重大な脅威となるだろう。魔王の力を垣間見たシルヴェストル司令は戦慄した。



 真っ先に海賊艦隊に突っ込んでくるのは、シーリッチのエッケハルト率いる死神飛行隊デス・スコードロンだ。

 編成は先頭にキメラドラゴン・サンダーボルト種を駆る、デスリーダーのエッケハルト騎。後続にアンデッドドラゴン・デスボンバー種が3騎3小隊。それぞれ土葬小隊、火葬小隊、水葬小隊という部隊編成だ。エッケハルトは吼える。


「よいか! 我々の任務は敵対空能力の減殺である。私は先行して攻撃を仕掛ける。お前達はコルベットを狙え!」


 そう言うやいなや、エッケハルト騎は急加速して高度を200に取り突撃を開始した。サンダーボルト種は大型竜の体躯と金色の鱗を持ち、重装甲で敵の攻撃を跳ね返すキメラドラゴンだ。通常爆撃騎が爆撃を行う際は、突入速度は330キロそこそこなのだが、サンダーボルト種は時速400キロ近い速度に加速して、海賊艦隊の左列のコルベットに向かう。


「対空戦闘、撃ち方始め!」


「くっ、早い!」


 200トン級コルベットは、投射機や対空臼砲でサンダーボルト種を狙うも、相手の動きが早く捕捉しきれない。

 エッケハルト騎は、あっという間にコルベットの真上に到達した。


「食らえ!」


 エッケハルト騎は竜爆弾を2発投下した。サンダーボルト種は中型竜よりも大きな魔力出力によって飛行し、竜爆弾2発を搭載可能なのだ。竜爆弾2発は見事にコルベットの甲板に着弾し、甲板で爆発炎上。コルベット4番艦の対空戦能力を奪った。


「ガトリングブレス!」


 エッケハルトの命令により、キメラドラゴンは口からブレスを6連続発射した。サンダーボルト種は1日に6発、小型ブレスを連射できるのだ。発射されたブレスは、2千トン級ベート級竜騎母艦へ向かった。6発のブレスのうち、2発が甲板に命中、1発が硬翼帆に命中した。3発は竜騎母艦後方に流れて外れた。高速で竜騎母艦直上を通過したエッケハルト騎は、急上昇をして離脱。ベート級竜騎母艦は甲板が燃えて竜騎の離発着が不可能となり速力が半減した。



 エッケハルト騎が高速離脱し、続けてデスボンバー種9騎が残ったコルベット艦に向かう。土葬小隊がコルベット3番艦に狙いをつけ、竜爆弾3発を投下。うち2発が甲板を直撃してコルベット3番艦が爆発炎上。対空戦闘不能となる。


 火葬小隊は、ドラゴン・クルーザーの対空臼砲の攻撃で1番騎がダメージを受けスピードが低下。加えてコルベット艦による猛射により、投射機の対空槍2本が命中し、火葬1番騎は片翼を引きちぎられて海面に激突四散した。残った2騎はコルベット2番艦に2発の竜爆弾を投下、1発のみ甲板に命中。相手の対空戦能力を半減させた。


 水葬小隊はコルベット1番艦を襲撃。コルベットの懸命の攻撃により、投射機の対空槍4本が立て続けに水葬2番騎に命中。竜体を打ち抜かれバラバラになりながら海中に激突。残った2騎がコルベット1番艦に竜爆弾2発を投下。1発は硬翼帆を爆破し、1発は甲板で爆発。コルベット1番艦は速力、対空戦能力が半減した。



 デスボンバー種は、他の爆撃騎とは違いブレスが吐けないので、これで死神飛行隊デス・スコードロンの攻撃は終了だ。2騎の損失を出したものの、ベート級竜騎母艦を炎上させ、コルベット2隻を戦闘不能に、2隻の対空戦力を半減させた。狙い通り敵艦隊の対空能力を低下させ、ドルレオン飛行連隊への道を開くことに成功したのだ。


 ドルレオン飛行連隊の爆撃騎と急降下攻撃機は位置につき、偽装海賊艦隊に襲いかかった。



    第59話 「魔王様、戦闘を決意する」

   ⇒第60話 「魔王様、海賊を退治する」


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