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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第1章 転生、目指せマタドール編
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第6話「鍛冶魔法のひらめき」

 最近、リリアの町に小さな図書館を発見したので、そこに入り浸ることが多い。

 なんか普通のアパートの1室に本がたくさん置いてあるだけだ。

 俺も10年近く町にいるが、ここは私設の図書館らしく、まるで気づかなかった。


 今日の午前中は迷宮関連の本を読み込んでいる。

 この世界の識字率の低さか、蔵書の少なさが幸いしたのか、

 ここはいつ来てもガラガラなので、絶好の読書スポットになっている。


 本を読んで分かったことだが、この世界の文明は迷宮にかなり依存している。

 迷宮は一定期間ごとにランダムに地上に出現するらしく、

 魔獣を地上に供給し、地上に被害をもたらすとともに、

 貴重な素材や黄金などの供給源としても役立っている。


 一番価値の高い宝石、黄金、オリハルコン、大魔力結晶が取れる迷宮は資源系迷宮と言われ、貴重なものが産出されるので国家管理されており、一般の冒険者や探索者は入ることが出来ない。


 次に資材系迷宮というのがあり、ここは石炭、火薬、木材、石材、鉄などが取れる。

 一般にも開放されているが、確実に儲かるので入るには入場料が必要らしい。


 最後は一般迷宮で、食料、雑貨、小石、小道具、砂糖などが取れ、

 庶民の生活に直結し、儲けも薄いので無料で誰でも入れる。


 迷宮には魔獣がいるのだが、どこからか召喚されて来るらしい。

 有力な説では地下世界の「魔界」から召喚されていると言われる。


 この世界では有名な伝説「原初年代記」によれば6千年前、

 このエスパーニャ大陸の海洋探検隊が、北方の魔海域を調査し、

 たどり着いた大きな島から地下世界へ行き、

 魔界の様子をおおざっぱに記している。

 そこは魔獣の楽園らしく、そこから迷宮に魔獣を送っているという説が成り立つ。

 

 この「原初年代記」で面白いのは、海洋探検隊がとある魔海域の島に上陸すると。

 そこにバーキング族という魔族が住んでいて、食料や水を分けてもらったらしい事。 

 バーキング族=ヴァイキング族……か?

 聞き間違いか記し違いか?

 

 俺と同族の可能性があり、あるいは故郷の可能性も考えられるが、

 このヴァレンシアからだと、おそらく1万キロ以上離れているだろう。

 とてもじゃないが、そこからカプセルを流すと、ここにたどり着けない。

 ヴァレンシアに着く前に、俺は確実に餓死するな。

 まあ今は興味ないけど。

 

 



    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第1章 転生、目指せマタドール編





 読書がひと段落したので、俺は昼飯を食べに家に戻る。

 居間には珍しく家族全員が揃っていた。

 

「ただいまー。今日は珍しく父様もいるんですね」


「よお、ソール。仕事が予定より早く終わってな。まあ午後も仕事に出かけるんだが」


 メイドのナタリアさんが昼食を配膳する。

 今日はご飯。貝のパエリアだ。

 アサリがご飯に縦にたくさん突き刺さって開いている。

 後は野菜スープとソーセージ。

  

 ほんと食事に関しては、中世ヨーロッパ的な異世界に生まれなくてよかったわ。

 近代スペイン的な世界に生まれたおかげで、ご飯や新鮮な魚介類が食べられる。

 もっとも日本の米とは大分違うけどね。


 俺もパエリアを食べる。上手い。

 今年で7歳になるマリベルも美味しそうに食べてる。

 そして母と尽きることの無い会話を楽しんでる。

 基本的にこの二人はテンションが高いよな。


「ソール。すまんがそこに立てかけてるトライデントと包丁2本。研ぎに出しといてくれるか」


「分かりました父様。今から行けばよいですね?」


「ああ、頼む」


 簡易的な刃の研ぎは家でやっているものの、本格的な研ぎと整備は数ヶ月に一度、専門店で行なっている。

 俺は槍と包丁を包んで持ち、家を出た。

 向かう先は「闘牛武具専門店マタドーラ」

 闘牛武具が専門だが、刃物の研ぎもやってくれる。


 道すがら物思いにふけりながら歩く。

 俺はあと3年で迷宮に挑めるが、

 条件としてお金が稼げるスキルを最低1つは手に入れなければならない。

 それを何にするか決めていないのだ。

 

 俺としては前世になかった魔法を習得したいのだが、

 この町には教えてくれる場所が無く、

 北にある領都バレンシアしかないようなのだ。

 お金もかかるし、行くのがめんどくさいんだよなぁ。

 そんな事を考えながら店に着き、ドアを開ける


「たのもうっ」


「ん? おお、ローズブロークのとこの坊主か。ちょっと待ってな」


 カウンターの作業台に一人のドワーフがいた。

 この店の店主、ガルデル・ベラスコだ。

 背が低く筋肉質の体。茶色の髪にひげ。

 典型的なドワーフだ。

 なにやら作業中のようで、俺は興味にかられて作業を注視する。


 作業台には鍵が置いてあり、その下に小さな鉄の板が置いてある。

 ガルデルさんが手をかざすと鉄の板が、ウネウネ動いて、

 置いてある鍵と同じ形状にみるみる変形していく。


 すげぇ。こいつは鍛冶魔法だ。

 生で初めて見るな。

 合鍵を作ってるのだろう。

 作業を途中で切り上げ、ガルデルさんがやって来る。


「とりあえずこれでよし。今日はなんだ坊主?」


「はい。槍の整備と研ぎ。包丁の研ぎをお願いします」


「そいつだな。料金は銀貨3枚だ。明日の昼の受け取りでいいか?」


「はい。それで結構です」


 俺は金を払い、品物を渡し、預かり証を受け取る。

 ガルデルさんは再び作業台に向かう。

 俺はカウンターからその様子を見つめる。


「ん? なんだ坊主。鍛冶魔法に興味あるのか。見てて面白いもんでもないぞ」


「そんなことありませんよ。とっても面白いです」


「そうか、もっと近くで見てみるか」


「はい。ありがとうございます」


 俺はカウンター内に入り、ガルデルさんの作業を見る。

 俺もフィギュアを作っていたので、物作りは好きなほうだ。


 ガルデルさんはさっき作った鍵にヤスリのような魔法をかけている。

 いいなこれ。工具いらずじゃん。

 そうだ。この魔法を習得すれば、いい食い扶持になりそうだ。

 作業がひと段落してから、俺は得意のおねだりをしてみる。


「凄いですガルデルさん! ボクにも鍛冶魔法教えてくれませんかぁ?」


 俺はガルデルさんに密着して、カワイイ顔でお願いする。

 この体の容姿が良いせいか、こうやっておねだりすると大抵上手くいく。


「おお、そうかそうか、いいぜ。ちょっと待ってな」


 ガルデルさんは嬉しそうに店の奥に向かった。

 フフ、ちょろいぜ。

 帰ってきたガルデルさんは、本と鉄の金属板を持ってきた。


「とりあえず鍛冶魔法の基本的なことを話すぞ」


 ガルデルさんの説明が始まった。鍛冶魔法は金属や皮などを加工する魔法だ。

 ドワーフには必須の魔法で、ドワーフなら誰でも使えるらしい。

 鍛冶魔法を使うには、対象となる材料に自分の魔力を込めて支配下に置く。

 その支配下に置いた魔力で、材料に様々な加工を施すのだという。


「だがな坊主。俺が教えられるのは基本的な知識だけだ。一般的な習得方法というのはないんだ」


「そうなんですか?」


「ああ、魔力には個人差があるからな。魔法は極めて感覚的なものなので、言語化して説明するのが難しいんだ」


「なるほどー」


「まずやることは、この鉄の板に魔力を込めて、鍛冶魔法-属性の『切断』を練習することだ。よく考えて、あらゆる方法を試してみるんだ。そしたら『ひらめき』が来る」


「ひらめき?」


「ああ、それが来れば切断の方法が分かる。そうすれば魔法を習得だ。すぐには出来ない。根気がいるぞ」


 ふーむ。分かったような分からないような…


「とりあえず自分で研究するんだな。その板と本は貸してやる。後で返してくれればいい」


 俺は礼をいって板と本を借り、さっそく鍛冶魔法レベル1、-属性の『切断』の練習を始めた。

 しかし、言われたとおり簡単に習得はできなかった。


 1ヶ月に渡り、毎日左手で魔力の放射方向を変えたり、イメージを考えたり、考え付くあらゆる方法を試してみたが、鉄の板はビクともしない。

 が、40日を越えた辺りで鉄の板と自分の魔力に流れがあるような気がした。

 つまり鉄の魔力の流れと、自分の魔力の流れをピタリ合わせると……

 

 ピシッ

 

 おおお、鉄の板にヒビが入った!

 つまり……


 その瞬間。俺の頭に膨大な情報が流れるのを感じた。

 いや、流れてきたのは実感したんだけど、思い出せないというか。


 あらら……、この感覚は以前にも覚えがあるな……


 そうか! そうだわ、こいつは「圧縮通信」

 情報量が膨大だったから脳が情報を処理しきれない。

 こいつは例の「光の間」の時の通信と同じことだわ。

 なるほど、これが『ひらめき』か!!


 つまり俺なりにまとめると、

 この「ひらめき」は地球のものと似てるけど、微妙に違うんだ。

 まずは様々な試行錯誤をして、自分の脳から鍛冶魔法に関連する思考の波を起こす。

 そうすると、集合無意識みたいな情報の流れと繋がりができる。

 

 その繋がりが一定以上の太さになると、一気に鍛冶魔法の知識が流れ込んでくるんだ。

 おそらくだが、その集合無意識と現実をさえぎる膜のような物が、

 地球よりこの世界は薄いのだと思う。

 じゃなきゃ、こんなに一気に情報が脳に流れるとは思えない。


 ステータスを確認してみた。

 よし、【鍛冶魔法レベル1】を習得している。

 現在スキルポイントは40Pなので、

 30Pを使用して鍛冶魔法をレベル3にあげた。

 これぐらいのレベルでないと物が作れないのだ。


 これで、+属性の「精錬」「形成」「接着」と

 -属性の「切断」「研ぎ」「硬化」の6つの魔法が使える。


 魔法は+と-の属性があるので、1レベルアップするごとに、

 新しい魔法を2つずつ使えるようになる。


 1ヵ月半後、鍛冶魔法を体得した俺は、

 ガルデルさんの店に行き、鉄板と本を返した。

 その時に鉄板を変形させ鍛冶魔法をマスターしたことを伝える。


「ほほぉ、短期間でモノにしたな。大抵根気が続かなくなって投げ出す所なんだが、坊主は頑張ったな。えらいぞ」


 とガルデルさんは褒めてくれた。

 俺は銅の小さな塊をお小遣いで購入した。



****


 俺は前世で死んでから10年ぶりにフィギュアの製作を開始した。

 ガルデルさんのとこで買った銅で小さな銅像を作る。


 モデルは妹のマリベルで、アニメ調では無くリアルにしてみた。

 2週間後に妹の誕生日があるので、その贈り物にするつもりだ。

 11日間ほどで、20分の1スケール「マリベル」が完成した。


 俺のヴァイタルが低いので、数時間で魔力が切れて作業がはかどらなかったが、なんとかギリギリで完成した。

 久しぶりに夢中で作ったな。いい気持ちだ。



 妹の7歳の誕生日会。

 午前中は妹と、教会でやってる日曜学校の友達数人とで、誕生日を祝っているようだ。

 夕方には家族揃って外食予定になっている。

 

 俺はフィギュアというか銅像を妹に渡しに行く。


「マリベル、俺からのプレゼントだよ。お前の銅像を作ってみた」


「あ……、ありがとう。お兄ちゃん」


 なぜだかマリベルは頬を赤くして受け取る。

 後ろでは妹の友達が「あれがお兄さん……」「なるほど……」とかヒソヒソ話してる。

 なんか妙な雰囲気だな。


 その友達の一人が前に乗り出し、食い入るように銅像を見ている。

 金髪に赤目、ゴシックロリータみたいな服に、30センチほどの西洋人形を抱えてる。

 頭に角、背中に黒い羽が生えてる。どうやら翼魔族の少女のようだ。


「……すごい。こんな精巧な人形、みたことない……」


 翼魔族の少女が目をらんらんと光らせて呟く。


「あっ、この子はマルガリータ・アイスコレッタ。人形魔法師ドール・マギアの見習いよ。人形も作るわ」


「なるほど、それで銅像に興味があるんだね。じゃあその手に持ってる人形も自分で作ったの?」


「……はい。よろしくお願いします。……お兄様……」


 妹がマルガリータを紹介してくれた。

 しかし、この娘、口数が少なくテンションが低い。

 この世界では女性は大抵テンションが高いのだが、珍しいタイプだな。

 旧日本人の感性としては久々にホッとする娘を見た気がする。


「そうだマルガリータ。お兄ちゃんにも魔法を見せてあげて」


「……分かった」


 そう言うとマルガリータは、抱えていた西洋人形を床に置いて、

 手を胸の前で合わせて、精神統一する。

 すると、西洋人形がひょっこり立ち上がった。


「こ…、これは、凄いね……」


 西洋人形は生きてるように歩き回り、こっちに手を振る。

 いやいや。凄いんだけどさ。怖えーよ。

 夜中に暗闇からこれが出てきたら、俺泣く自信があるわ。


 そして西洋人形は、突然力を失い、床に倒れこむ。

 怖えー。動き怖えー。

 マルガリータはやり遂げた顔で呟く。


「……ふう。……魔力切れた」


 それから俺はマリベルの友達と少し話して、部屋を後にする。

 長居して気を使わせるのも悪いから。



 とりあえず、飯の種になりそうな鍛冶魔法は覚えた。

 フィギュア製作のリハビリも終了。

 だが、もう一つ覚えたい技術が出てきた。

 魔法陣作成だ。


 これと鍛冶魔法を組み合わせれば、便利な魔道具を作ることができる。

 この技術で将来大儲けすることも出来るかも知れない。


 そして最初に作る魔道具は決めてある。扇風機だ。




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