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超弩級超重ゴーレム戦艦 ヒューガ  作者: 藤 まもる
第6章 アスティリアス貿易編
69/75

第56話「魔王様、OSを開発する」

エスパーニャ暦5543年 1月23日 11時00分

レムノス島 魔王国首都ヴァルドロード東5キロ

魔王城7階 執務の間


 スクリューパレット開発をひと段落させた俺は、たまった書類仕事をこなしていた。

 するとゴシックメイドナイトのサ・ルースが、手紙を持ってきた。


「魔王様。先ほどロケット外交官とベルタ支店長から、ゴーレム鳩でお手紙が来ました」


「ああ、ありがとう」


 アスティリアスからの便りか。今あっちはどんな風になっているのか、俺は早速、受け取った手紙の封を切り読んだ。


 …………。


 あ~。

 一体何やってんだアイツ。


 今ロケット外交官達は、探索者登録をして、ラヴィアンローズ近郊の迷宮を探索しているらしい。

 きなことイチゴとバトラメイドの4人でだ。何と言う色物パーティ。


 探索は週4で入り、あとはアスティリアスとバルバドスを飛び回り、コネ作りを頑張っているようだ。外交の仕事は真面目にやっているので安心してほしいと、やたらに綺麗な文字で書いていた。あいつ字が上手いんだな、手書きなのにボールド体みたいだ。


 いやいや、そんなことより、よくロケット外交官が探索者でギルド登録出来たな。

 あいつは探索者というより、迷宮のボスっぽい容姿なんだがな。ここ半年、ロケット外交官は色々と活躍しているようだ。



 アスティリアスを飛行中に、魔獣に襲われてる馬車を見つけ救助、破壊光線で魔獣を撃退、助けた相手がダービー辺境伯の孫娘で、ダービー卿と懇意になったりとか。バルバドス南部リムリック領で、山賊にきなこが攫われそうになって、バトラメイドとロケット外交官で救出、撃退。その後報復で、ロケット形態で山賊のアジトに突撃して、山賊を壊滅。


 山賊を討伐した礼に、魔公爵キャンディスから名誉推爵の準爵位をもらったらしい。

 キャンディス?

 ああ、あの森エルフの姉ちゃんか。


 名誉推爵は1代限りで、法律区分で貴族扱い、特権は特にないが年金が小額支給されると。というか年金?

 お前ハイメタルゴーレムだろうが、老化なんかしねぇじゃねえか。

 その事件の後、ロケット外交官は、冒険者や探索者から「黄金の悪魔」という二つ名で呼ばれるようになったとか。



 まあ、あんなでも一応外交官だからな。色々と知り合いやコネを作るのも悪くないだろう。およそ外交官の業務とは、かけ離れている気もするが。


 でもなんで迷宮探索なんかしてるのか。

 金が無いなら送ってやるのに、でも活動資金で金貨500枚渡してるしな、純粋にレベルアップ目指しているのか?

 まあ、魔王の加護もあるからレベルアップは早いしな。金のほうは言ってきたら送ればいいか。



 次に俺は、ベルタさんの手紙を読む。

 どれどれ……


 ほほう。

 販売した魔道具がなかなかの好評で、引き合いが色々な所から来てるらしい。


 意外なのは、最後に売れた、魔導瞬間湯沸かし器、魔導洗濯機、工業扇、魔導冷風機などで、こいつは商人を介してアスティリアス海軍に売れたそうで、至急、50台以上供給して欲しいのだそうだ。


 なんでも軍艦に搭載するらしく、スペースが限られた船内で重宝するそうだ。基本的に各国は、魔力結晶迷宮を国家管理しており、兵隊や囚人を活用して魔力結晶を獲得。戦争などに備えてかなり備蓄している。


 外に売り出すときには、各国で協議の上で価格を決めて販売している。

 だから、5つ星魔力結晶を沢山買っても、その分供給されるので値段はそう上がらないし、逆に魔力結晶が余っても値段は下がらない。魔力結晶迷宮を沢山持っている国が優位に立ちすぎないように、こんな風にして価格を安定させているわけだ。



 というわけで、軍隊にとっては魔力結晶などタダ同然で手に入る。

 ゆえに魔力を沢山食う魔道具も、いくらでも使うことができるんだそうな。


 特に海軍に好評なのは工業扇と魔導冷風機で、夏場は船のブリッジなど甲板に近いところが暑くなるので、そこで涼むのに、これらがかなり使えるそうだ。

 なるほどー。

 魔王船は冷風が作れるので、気が付かんかったわ。


 それだったら魔王海軍にも装備させたほうがいいな。空調はあるけど冷風機は付けてないからな。まだ駆逐艦は冬しか使ってないし、間に合うかどうか分からんが、夏に向けて準備はしておこうか。 



 ベルタさんによれば、他の魔道具の注文も来ているので、生産数は3倍程度にしてくれ、とのこと。


 缶詰の方は、ダービー卿から3万個の注文。領軍の食糧に使用するとのこと。


 バルバドスの4大魔公爵から5万個ずつ。ローズ・ハイラーキーから3万個。グレナダ王国からは、転売目的の為、あるだけ売ってくれと言われてるらしい。

 

 うーん。全部で26万個+αか。

 結構多いな。

 しかし次の文を見て俺は目を剥いた。


 レオン王国からの注文、缶詰100万個!

 おい、100万個って。今すぐ欲しいとか、焦りすぎだろうが。そんなに作れるかボケッ!



 さすがに需要量が多すぎるので、ベルタさんは値段を釣り上げ、缶詰の値段を銀貨5枚から金貨1枚にしたが、それでも欲しいらしい。

 それにしても缶詰が1万円とか。


 うちの缶詰のサイズは、地球で言うと100円ショップで売っているような鯖の味噌煮缶詰ではなく、果物とかコーンとか入ってる300円くらいのサイズの缶詰なんだが、それが1万円で売れるとはね。

 凄いぼったくりな気もするが、地球でも缶詰が出始めの時は、それぐらいで売れたのかなぁ。


 俺は机の上の書類を漁る。

 たしかこの辺に、缶詰生産の報告書があったはずだが…… あっ、これだこれ。


 えーと。

 ダービー領から帰るときから生産は開始しているから、期間は7ヶ月。

 魔王船での生産量は、15万1200個。

 シーエルフ村は2つで2万5200個。

 

 総計で17万6400個だが、魔王船とレムノス島開拓局、海軍艦艇などに積んで、10万個は備蓄に回している。

 残は7万6400個…… 全然足りないわ。しかし時間はあまり無い。

 4月1日に出発する予定なので、あと2ヶ月。


 出発してから魔王船でも移動しながら作るが、それでも無理だ。しかし商機でもある。

 魔王船での生産を3倍にして、ヴァルドロード港でも缶詰工場を新たに6つほど増設するか。俺はグスタフ、パッツィ、セシリータを呼んで、協議を行なうことにした。





 翌日はレムノス島に渡り、イチカ司令部 サーシャ軍事基地の視察を行なった。首都の5キロ北に、魔王軍イチカ司令部はある。

 

 レムノスの魔王軍全体を指揮する指揮中枢にあたり、リリアの町と同じぐらいの規模だ。

 リリアの町は人口2千人だったが、この司令部は人口1500人ほどが住める。対空陣地や色々な設備があるので、人口は少なくなった。


 町の中心に「イチカ司令部」と呼ばれる2階建ての頑丈な石造りの建物があり、周辺に陸軍局、海軍局、空軍局、近衛軍の建物がある。

 魔王公邸もあり、レムノスで滞在中の時は、俺や婚約者達が住まう。


 それ以外には、住宅、兵舎、倉庫、駐車場、宿泊施設などもあり、空き店舗もいくつかあるが、今は小さな食糧店が開店した所だ。

 敷地内の四隅には空き地があるが、ここは対空陣地を設置予定であり、中心部付近の空き地には、地下シェルターを作った。将来的には、このイチカ司令部は、司令部が存在する小さな軍人の町とするつもりだ。


 イチカ司令部の構造は、地上2階と地下1階に別れ、地上は会議室、事務所、軍事裁判所、資料室などがある。地下はこの施設の心臓部で、レムノス防衛総指揮所、発令所、作戦室、備蓄倉庫などがある。ここからは、魔導伝声管が首都の各局建物に繋がり、拡声魔導伝声管で空襲警報やアナウンスも出来るようになっている。



 イチカ司令部の視察を終えた俺は、すぐ北のヴァルド川に渡された橋を馬車で渡り、サーシャ軍事基地に向かった。こちらは陸海空の総合基地になっており、実働部隊が配置されている。


 西内陸方面には、竜巣ドーム6基の竜騎基地と、竜巣ドーム5基の竜騎訓練施設があり、全部で竜騎が110騎駐屯可能だ。さらに陸軍基地と訓練施設もある。


 南には固定翼機用の2千メートル滑走路、管制塔、格納庫などがあり、将来、固定翼機の実験や運用が行なわれる予定だ。とはいえ、今は建物だけで内装はしておらず、中はスッカラカンだがね。


 北には兵器研究所と大きな倉庫がある。大きな倉庫は空だが、おそらく弾薬を作る工場になることだろう。


 東海側には大きな桟橋があり、戦闘艦が停泊でき、クレーンなどもあるので、整備や改修を行なうこともできる。兵器の試射場もあり、シャルル局長とのミサイルテストもここで行なわれた。



 見ての通り、このサーシャ軍事基地には魔王軍のすべての重要施設、重要部隊が集中している。

 本来はリスク管理の観点から分散するべきだろうが、時間があまり無いので、効率重視の為にこのような基地となった。次に予定されているバニア島要塞の建設が進めば、戦力の分散がある程度出来るだろう。



 1月25日。

 魔王船内の魔道具、缶詰の増産体制、スクリューパレットの生産体制の整備を行なう。


 現在第6デッキ右舷は、第1~3ブロックで魔道具や缶詰の生産を行なっている。

 空いている右舷第4~5、左舷第6ブロックを使って、魔道具と缶詰を増産する。


 まず第4ブロック。

 ここは魔道具7種の生産を行なう。

 手動洗濯機は除外し、12ユニットを配置。


扇風機   1ユニット

工業扇   2ユニット

冷風機   2ユニット

冷蔵庫   2ユニット

小型冷蔵庫 2ユニット

魔導洗濯機 2ユニット

魔導湯沸器 1ユニット


 各ユニットにはスプリガンを多めに入れるので、生産量は2・5倍くらいになるだろう。第5ブロックは缶詰、「魔王のご馳走 コトコト煮込みの魚肉スープ」の缶詰工房ユニットだけ12ユニット配置した。貝より魚のほうが豊富に取れるからね。


 左舷第6ブロックには缶詰新メニュー「魔王のレストラン じっくり煮込んだポークシチュー」6ユニット。

 「魔王のレストラン じっくり煮込んだチキンときのこのクリームシチュー」6ユニットを配置。

 

 こいつは時間がある時に開発した新メニューだ。ポークシチューのほうは、魔王牧場で沢山繁殖している角魔黒豚を使用。チキンときのこのクリームシチューは、前の貿易で買った食材と、魔王牧場のミルクを使って作る。



 次は弾薬だ。

 開発した各種兵器の弾薬を作る為、左舷第1~2ブロックを使う。缶詰・魔道具ユニットは1ブロックに12ユニット配置できるが、兵器工房のユニットはそれより大きく、1ブロックに7ユニットしか配置できない。

 とりあえず開発した兵器の弾薬の生産を主に、ユニットを配置していく。


■左舷第1ブロック

5インチ スクリューパレット 1ユニット

6インチ スクリューパレット 1ユニット

8インチ スクリューパレット 1ユニット

対空ミサイル シーダーツ   1ユニット

対空ミサイル スパルヴィエロ 1ユニット

連装投射機用 対空槍     1ユニット

対空臼砲   砲弾      1ユニット


■左舷第2ブロック

5インチ スクリューパレット 1ユニット

6インチ スクリューパレット 1ユニット

対空ミサイル シーダーツ   1ユニット

対空ミサイル スパルヴィエロ 1ユニット


 とりあえずこれでいいだろう。

 兵器は核心部分と検査のみスプリガンにやらせて、組み立ては一般で行なうつもりだ。

 後で10インチ、12インチの砲弾も作るので、3ユニットは空けてある。





    超弩級超重ゴーレム戦艦ヒューガ

   ⇒第6章 アスティリアス貿易編





エスパーニャ暦5543年 1月27日 13時00分

レムノス島 魔王国首都ヴァルドロード東5キロ

魔王城5階 司令の間


 今日は午前中にレムノス島で缶詰工場新設の打ち合わせを行なった。ヴァルドロード港の空いている倉庫を使用するので、短期間で缶詰生産できるだろう。

 あとは人の問題だけだが……


 俺は魔王船に戻り、昼食後、司令の間の玉座に座ってボーッとする。最近はこうやって気が抜ける時間が多い気がする。

 体はたいしたこと無いが、精神的に疲れているのかな?

 パッツィ達みたいに、たまには迷宮でストレス発散するのもいいかもね。


 傍らではブレインがステータスプレートにイメージを表示して遊んでいた。


「魔王様見てください。すばらしい尺取虫が完成しました」


 プレートを見てみると、これ以上細かくすることが出来ないような、見事なワイヤーフレームの尺取虫の3Dが表示されていた。


「はあっ、凄いな、お前は器用だわ。てかなんで尺取虫? 俺はいまだに簡単な図形しか出せないよ。結構練習したんだけどね」


「ここまでの細かい表現は自分のイメージだけではできません。半分以上は、ステータスプレート制御文字を利用しています」


「へっ? つまり魔法陣を使っているのか、一体どこで?」


「はい、自分の肉体の神経線維で制御文字を組んで、プレートに魔力を流してイメージを表示しています」


「ははぁ~、なるほど。てっ無茶苦茶じゃないか。そんなこと俺に出来るわけねーだろ! お前、本当に規格外だな。神経線維のプログラマーか……」


「魔王様の前世の高速計算機を動かす言語ですね。あれは面白いです。我々の神経内での情報処理のやり方も、似た方法でやりますので」


「そいつはプログラムという。プログラマーはそれを作る人だな」


「しかし、神経線維で制御文字を組むのは、魔王様の縮小魔法陣技術も大いに活用しています。その技術がなければ実現しなかったでしょう。魔王様も充分すごいですよ」


「そうかいそうかい。しかしそれを肉体の中でやってしまうお前は本当にチートだよ。さすがバイオコンピュータというか…… んっ、待てよ……」


 その時、脳裏に電撃が走り、俺の中で素晴らしいアイディアが浮かんだ。俺は興奮し、玉座から立ち上がった。


「なるほど。こいつは使えるぞブレイン!」



 2月1日。

 1月は瞬く間に過ぎ去った。

 本日、2千トンドックと魔王船造船所で生体駆逐艦3隻が完成。


7番艦 デモンズ

8番艦 オーメン

9番艦 ポルター・ガイスト


 2千トンドックでは、次の駆逐艦の製造を開始。しかし魔王船造船所では、特殊艇を開発するので、今回からは駆逐艦は作らない。



 5日。

 俺は司令の間の玉座の後ろにある魔王室で、ブレインと一緒に、俺が思いついたアイディアを実現させようとしていた。まずはアプリケーションを作ることから始める。俺はブレインに、スマホやパソコンのアプリケーションの簡単な説明を行い、それに類似したものを作らせたのだ。

 つまり寄生魔獣をハードとして、魔法陣でプログラムを書いたわけだ。


「それで、上手く出来たか?」


「ハッ、少し苦戦しましたが、きちんと機能するアプリを作れたと思います」


 さっそく見せてもらうことにした。

 ブレインはステータスプレートに触手をつないで魔力を流し、イメージを表示した。

 そこには電卓が表示された。


「うん、表示に問題はない。あとはちゃんと動くかだが……」


 俺は画面をタッチして計算を行なう。

 12+18 8×9 24÷2……

 おおぉー。

 ちゃんと動く動く、俺は感動した。


 やっぱブレインはチートで賢いな。

 俺の簡単な説明でこんなものを作り上げる事が出来るとは。



「よーし問題ない。では次の段階に移ろう」


 俺は昨日書いておいた羊皮紙ペラ2枚の仕様書をブレインに見せ、作って欲しい機能を説明した。


「理解しました。アプリの作り方は大体分かりましたので、すぐに製作にかかります」


「さすがブレインだな。期待してるぞ!」



 というわけで数日後、試験的にシステムを動かす実験を行なう。

 俺が目指していることはハッキリしている。「魔王船宝典」の簡略化だ。


 魔王船宝典は、魔王船のステータスプレートみたいなもので、魔王船の外部と内部の情報をリアルタイムに見ることができる。

 だがこいつには大きな欠点がある。


 情報が寄生魔獣に最適化された表示で成されており、情報量が多すぎて、人が見ると非常に分かりにくいのだ。高速並列計算みたいな芸当ができる寄生魔獣には分かりやすい表示らしいが、俺から見るとまるでクリスマスツリーみたいに見える。

 こいつをどうにか使いやすい形にしたいのだ。 



 今回はブレインにアプリを作らせ、大量の情報をいくらか分かりやすい形に分類する。

 ブレインに大きなサイズのステータスプレート4枚を接続、そこへ大まかに航法 戦闘 竜騎管制 船内情報の情報を表示させる。


 その際、ブレインに「要点をまとめて欲しい」と言っても理解できないので「意識を4つに分割して、航法 戦闘 竜騎管制 船内、の情報を関連度順に分類して表示して欲しい」と頼んだ。


 4つのディスプレイを見ると、見事に情報が4つに分割表示された。要点をまとめることができないので、ブレインのフィルターを通して、情報を限定したわけだ。


 表示される情報にはタブ100個ほどついており、切り替えで表示が可能だ。俺はタブを指で押して切り替えつつ、色々な情報を見ていった。



 ……うーん。

 以前より格段に情報は見やすくなったんだがな、それでも多いわ。

 俺一人だと確実に情報を処理しきれないな。だからといって、1つのタブ情報を1つのディスプレイで表示すれば、ディスプレイが400枚も必要になり、結果クリスマスツリー状態になる。


 結局はね、俺の国が魔王を頂点とする独裁体制なのが問題なのよね。

 様々な専門家や参謀を用意して、選択肢や情報を得ても、最終的に決断するのは素人の俺なんだ。だから素人が見ても、状況を的確に把握できる情報システムが必要だ。


 そうだ。

 いいことを思いついた。

 これなら上手くいくだろう。

 だがそれには、司令の間を改造し、魔王城4階を戦闘情報センターであるCICに改造する必要がある。





エスパーニャ暦5543年 2月14日 8時00分

レムノス島 魔王国首都ヴァルドロード東5キロ

魔王城4階


 ブレインにアプリの改良を頼み、俺はスプリガンと一緒に空室の魔王城4階の改装に取り掛かった。

 ここにすべての情報を集める戦闘情報センター、CICのようなものを作るのだ。


 まずは中心部に、ディスプレイの情報処理をする専用寄生魔獣を置くための台座を設置。周辺に、固定した頑丈な鉄の机と椅子を設置、机の上に、ディスプレイの代わりの大きなステータスプレートを動かないように固定設置。壁にはもっとも大きなサイズのディスプレイをつける。


 部屋の端には魔導通信機を大量に並べ、天井から司令の間に繋がる魔導伝声管をつける。

 そして育成室からブレイン分離体500キロを呼んで、台座に固定させて、触手を各ディスプレイに接続させて表示をコントロールしてもらう。後からアプリを改良したブレインが、知識玉で技術を伝授すれば、情報システムとして機能するだろう。

 これで戦闘情報センターは一応完成した。


「そうだな。よし、新たな寄生魔獣よ。お前の名前は。魔王軍統合戦術システム、ベルゼビュートだ。皆の作戦を補佐してくれ、頼んだぞ」


「ハハッ、極めて重要な仕事を与えていただき感激しております。お任せ下さい」



 4階の改修が終わった俺は、5階司令の間の改造に着手した。まずは玉座の右側に台座を設置、ここはブレイン専用席とする。

 玉座の正面には大型ディスプレイを設置し、玉座前の机2つにも、ディスプレイ4つを固定設置しオペレータ用の机とした。最後に魔導伝声管を4階に繋げて、司令の間の改造は終了した。



 さて、改修とアプリの改良が終わった21日。

 いよいよ試験的な運用をやってみる。

 今のところこのシステムは「魔王軍統合戦術システム、ベルゼビュートβ版」と呼称する。

 そして朝から呼んでいた婚約者達が、司令の間にやってきた。


「なにこれ、しばらく見ないうちに司令の間も随分変わったのね」


「おおぉ~。なんか凄そう。またソールの新しい発明か」


 パッツィとソフィアがはじめて見る、ディスプレイを備えたオペレーター席に近づく。


「パッツィさん。これステータスプレートじゃないですか? 色々な情報が写ってますよ」


「これは…… 凄いわね!」


 マリベルがディスプレイを覗き込む、パッツィはこいつの価値を、ある程度理解出来たようだ。

 俺は皆に声をかけた。


「あー、こいつが事前に話しておいた魔王軍統合戦術システムだ。パッツィ達にはオペレーターになって欲しいんだ」


 というわけで半日かけて皆にやりかたを教えて、ある程度の形になった。オペレーター席は4つあり、航法はマルガリータ、戦闘はマリベル、竜騎管制はパッツィ、船内管理はソフィアの分担となった。



 夕方、いよいよベルゼビュートの初運用だ。

 俺は玉座に座り、その横の台座上にはブレインが鎮座している。


 俺の目の前、足元には、床に半分埋め込んだ大きなディスプレイがある。そのディスプレイの前の両サイドにはオペレーター席が4つあり、左からマルガリータ、マリベル、パッツィ、ソフィアが座っている。


「よし皆、演習を行なうぞ。ブレイン、演習プログラム1を走らせてくれ」


「御意」


 演習プログラムは、ブレインに頼んで作ってもらっていた。シナリオに沿って統合戦術システムの情報を変化させ、魔王船内にて仮想的に演習を行なうことが出来る。


 演習プログラム1は、初心者用演習プログラムで、魔王船が仮想海の中を円を描くように航行し、その間に、他の船や竜騎が魔王船付近を通り過ぎる。10分に一度、魔王船から偵察竜騎が発進し、周囲を飛んで帰還。船内では、補給物資が常に移動する。


「演習プログラム1スタート、今」


 ブレインの声によって、演習プログラムが開始された。オペレーターを努めるパッツィ達が、ディスプレイの刻々と変化する情報を元に、次々に報告を送る。


「航法。……魔王船航行を開始、針路0―2―0。6ノット。3時方向に船影4隻を確認」


「戦闘。付近に敵影なし」


「竜騎管制。現在偵察竜騎2騎が発進スタンバイ中、右舷第1竜巣艦橋から出る予定です」


「船内管理。補給物資。第5デッキより第4デッキに移動中。船内に異常なし」



 それと同時に、パッツィ達は重要な情報を判断、次々に俺の足元のディスプレイに時系列順に表示させる。

 航法を例にとれば「針路0―2―0。6ノット。3時方向に船影4隻」をマルガリータが重要な情報と判断、その情報を指でタップして転送ボタンを押せば、指定された情報や図が俺の見ているディスプレイに送られる。


 俺が見るディスプレイは、6分割か12分割で情報を見ることが出来、時系列順にどんどんオペレーターが送る情報が流れていき、現在の状況が把握しやすくなるのだ。実際やってみると実に分かりやすいな、この表示システムは。



 ブレインに頼んで、情報を4分割して量を限定したわけだが、それでも情報が多すぎるので、さらに人のフィルターを挟みこみ、重要な情報の要点だけを俺のディスプレイに表示させるシステムを作ったのだ。


「竜騎管制。偵察竜騎2騎発進、速度100キロ、針路0―9―0。」


「戦闘。10時の方向、未確認竜騎1騎接近中。速度200キロ、距離1万メートル。ヒューガの観察により民間騎と確認」


 部隊を実際に指揮し動かすのは、4階の戦闘情報センターで行い、パッツィ達はあくまで情報をまとめて俺に伝える役だ。俺の発令は、パッツィやマリベルが伝声管で戦闘情報センターに伝えるか、伝令を走らせる。


 なお各司令部との通信は俺が担当する。

 魔導通信機は、地球の無線機とは違い味方にしか繋がらないので、各司令官と直通で俺が話すことになる。他の細かい通信やゴーレム鳩の処理は、戦闘情報センターで処理するだろう。


 いつの間にやら見学にきていた、マリオ、シャルル、エンリケの各軍局長は、さすがに軍人だけあって、このシステムの凄さを1発で理解したようだ。


「これはまた、素晴らしいシステムを作りましたな」


「戦争のやり方が根本的に変わってしまいますよコレは。魔王様にはいつも驚かされます」


「これは是非海軍にも取り入れたいですなぁ。魔王船だけでなく、他の艦との情報も共有できるでしょうか?」


 ほほう。

 エンリケ局長の頭は柔軟だな。

 まさかこの短時間でデータリンクの概念を思いつくとは、当然俺は、艦どころか展開中のすべての部隊と簡易的なデータリンクを結ぶ気でいることを皆に伝えた。


 人員の方は、戦闘情報センターも司令の間も基本的に24時間体制とするつもりなので、キンクマ種を50名ほど使って、2~3交代制を目指す。こうして俺は、ブレインの協力のもと「魔王軍統合戦術システム、ベルゼビュートβ版」のOSを開発した。


 んん?

 こいつをオペレーティングシステムと言っていいのかな?

 そういや基本システムソフトは寄生魔獣だった。

 こいつはアプリケーションか。


 しかし人が使えるような状況では無かったので、表示機能を加えて使えるようにしたのだから、OSを開発と言えなくはないだろう。

 OSを創造したと言うなら、明らかに間違いだが。





エスパーニャ暦5543年 3月3日 10時00分

レムノス島 3千トン級造船所


 俺は桟橋で、できたばかりの新造艦を眺める。新たに完成したのは、生体強襲揚陸艦サイコパス級と生体鉄甲竜騎母艦リスペリドン級だ。両方とも船型は多目的生体輸送船をそのまま使用している。


 強襲揚陸艦は、艦内部にウェルドックを搭載しているため、若干全長が長い。兵員を500名まで運び、竜騎も4騎搭載可能なので、単体で強襲揚陸作戦を展開可能である。

 


■生体強襲揚陸艦サイコパス級


排水量 満載 3800トン


全長 120メートル

全幅 16メートル

喫水 4メートル


主機関  魔導ポンプジェット2基2軸

     甲翼帆 マスト3本

最大魔走速度  18ノット

最大帆走速度  2~4ノット

最大魔帆走速度 18ノット

航続距離 魔力結晶による


最大乗員 600人(兵員500)


兵装   対艦5インチ旋回式単装砲  1基

     対空20連装投射機    15基

     対空バリスタ        2基

     シーダーツ固定ランチャー  2基(4発×2 8発)


艦載機  小型竜騎4騎


艦載艦艇 小型マギアランチ2隻 カッター艇30隻


艦載兵力 500名までの兵士・装備

     

その他  貨物用魔導リフト

     竜騎発着ポート1基

     クレーン2基

     ウェルドック


装甲種別 鋼鉄、アダマンタイト、ミスリル複合装甲


寄生魔獣重量 10トン




 鉄甲竜騎母艦は、艦橋下の格納庫に竜騎4騎、船体に12騎、計16騎の竜騎を搭載できる。

 魔王海軍の主力竜騎母艦となることだろう。



■生体鉄甲竜騎母艦リスペリドン級


排水量

満載 3800トン


全長 100メートル

全幅 16メートル

喫水 4メートル


主機関  魔導ポンプジェット2基2軸

     甲翼帆 マスト3本

最大魔走速度  18ノット

最大帆走速度  2~4ノット

最大魔帆走速度 18ノット

航続距離 魔力結晶による


最大乗員 350人


兵装   対艦5インチ旋回式単装砲  1基

     対空20連装投射機    12基

     対空バリスタ        2基

     シーダーツ固定ランチャー  2基(4発×2 8発)


艦載機  小型竜騎16騎


艦載艦艇 カッター艇20隻


その他  貨物用魔導リフト

     竜騎用魔導リフト2基

     竜騎発着ポート2基

     クレーン2基


装甲種別 鋼鉄、アダマンタイト、ミスリル複合装甲


寄生魔獣重量 10トン



 2隻が完成し、3千トンドックが空いたので、直ちに次の艦の建造を行なう。次は、巡洋艦デーモン・ロード級2隻目と多目的生体輸送船2隻目となる。


 ふと桟橋から遠くを見ると、駆逐艦が沖合いに向かって進んでいくのを目撃した。

 今日はなんだっけ?


 ああ、そうだ。

 今日は駆逐艦にバルバドスの外交官を乗せて、戦闘能力を見てもらうのだった。

 ある程度こちらの戦力を見せて、魔王国は武力も優れていると噂を皆に広めておきたい。



 3月7日。

 以前レムノスと協議していた、後宮船イルマタルの回収を行なう。

 3日ほどかけて穴の開いた船底を修理、俺の土木魔法で魔力をすべて使用して岩礁を沈め、曳船でサーシャ軍事基地の桟橋に引っ張ってきた。さっそく内部より魔導爆雷を回収、研究を行なう。


 15日には魔導爆雷の試作品が完成。まあ設計図もあるので、ただのコピー品だ。独自に改良を行なうべきか研究を継続する。


 合わせて魔導探知機の研究も開始するが、まだモノにするのに時間がかかるだろう。

 しばらくはコピーで凌いだほうが良いかも知れない。



 3月24日。

 魔王海軍が艦隊編成を行なった。

 名称は魔王海軍・外海派遣艦隊となった。

 今回の作戦のみの編成で、帰ってきたら解隊させるだろう。

 編成は以下の通り。


生体巡洋艦 デーモン・ロード級  1

生体駆逐艦 アーク・デーモン級  6

生体強襲揚陸艦 サイコパス級   1

生体鉄甲竜騎母艦 リスペリドン級 1

多目的生体輸送船 スフィア級   1


 すでに各艦はかなりの訓練を行なっている。魔王軍初の作戦に、皆も張り切っているようだ。4月1日の出港に向けて、準備は急ピッチで進んでいる。


 魔王船では、戦闘を考慮してスケルトン船員を増加、船体ダメージの回復力を上げることにした。

 これまでの3倍になる、スケルトン上級船員90名、スケルトン船員150名を配置。これで魔王船の修復はこれまでより早く出来るようになるだろう。



 3月26日。

 深夜に開拓村にて、再びスパイ鳩100羽を空に放つ。

 これで3回目だ。

 ほぼ各国をカバーできたと思うが、まだ密度が薄いと思う。それと今回、開拓村にはリッチ2名を駐屯させて、シーリッチ2名を魔王船に乗せるつもりだ。



 4月1日。

 出港の日だ。

 ヴァルドロード港より、魔王海軍・外海派遣艦隊が先行して出発。次に魔王船が、レムノス島の人々に見送られながら出発した。

 超海流を抜けてから、魔王軍の初作戦を実行する予定である。



    第56話 「魔王様、OSを開発する」

   ⇒第57話 「魔王様、作戦を開始する」


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